インタビュー
「Vainglory」はe-Sportsの「基盤」作りも目指す!
チャット機能は「必要ないのでは」との見解
(2015/6/26 00:00)
Super Evil Megacorp(SEM)が4月8日より配信しているスマートフォン用MOBA「Vainglory」。タッチ操作を前提にしながら、「League of Legends」などに匹敵する本格的なコアゲームでもあるという特徴を持った本作について、「正式版」のリリースが7月3日に実施されることが発表された。
「正式版」の内容はニュースでも取り上げているが、最大のポイントはAndroid版がついに登場するということと、ビジネスモデルを含めた各種機能が新たに実装されるということ。今回はこの「正式版」配信について、SEMアジア太平洋ジェネラルマネージャーのTaewon Yun氏に話を聞くことができた。
なお、「Vainglory」の詳細については前回のインタビュー記事でも詳しく紹介しているので、参照にしていただきたい。
本格スタートでチュートリアルとビジネスモデルが変化
iOS版では「Vainglory」はすでに配信中となっているが、これはβ版として位置づけられている。日本での配信開始と同日に開催された発表会の時点で完成度は「10%」としており、今回の「正式版」をもって「Vainglory」が本格的にスタートするというわけだ。
Android版が新たに加わるのももちろん大きなトピックだが、では内容としてこれまでと実際に何が変わるかというと、「チュートリアル」と「ビジネスモデル」の機能の追加が大きい要素だという。
「チュートリアル」には現状でもいくつかの解説ムービーが用意されているが、さらに増やして35本のチュートリアル映像を用意し、「どういった時に何をすべきか」について細かく解説していく。
また、新たにCPUと戦う練習モードが追加され、「チームメイトと連携を確認したい」、「新しいヒーローと対戦したい」といった場合に利用できる。さらに対戦モードには現状の「ランク試合」とは別に、ランキングとは関係のない「カジュアル試合」を加え、より気軽に対戦できるようになった。チュートリアルについては、現在のバージョンは「MOBAゲーム経験者向け」だったため、プレイ初心者へのサポートを手厚くしたいという考えがあるとした。
「ビジネスモデル」には、現在購入できる「ヒーロー」と「スキン」に加え、有料アイテムの「カードパック」が新たに加わる。本作における「カード」はヒーローの見た目を変える「スキン」をアンロックするために必要で、「カードパック」にはランダムで4種類のカードが入っている。
スキンは現在Tier 1のカテゴリーが揃っているが、カードを使ってアンロックできるのはTier 2と3に分類される特殊なもの。カードはゲームをプレイすることでも入手できるが、「カードパック」はより手早くカードを増やしたい場合の購入を想定しているようだ。
「Vainglory」のポリシーとしては、お金をかけただけ強くなる「Pay to Win」という考え方はそぐわないとし、そういったアイテムの販売は行なわないという。一方でランダム性のある購入システムには魅力を感じていたため、今回スキンに特化したビジネスモデルを導入することにしたという。
「正式版」は世界規模で同時に配信されるが、今回話を伺っていく中で興味深かったのは、日本市場でも「Vainglory」に対する反応が良かったということ。他の地域ではMOBAをプレイする土壌がある程度あるものの、日本では実際のところ浸透していないという認識がSEM側でもある中で、蓋を開けてみれば配信2週間以内でTwitchでの映像配信の半分が日本ユーザーとなり、1カ月後にはプレーヤー数で日本が世界で3番目になったという。
この結果にはSEMも喜んでおり、日本のゲームのファンが多いSEMスタッフにとって自分たちが開発したゲームが日本で受け入れられたことは「エキサイティング」で、意味深いものであることを感じているという。
その理由を尋ねてみると、1つは本作が友人と協力して戦うことに重きを置いているのが良かったのではと語るとともに、本作にはチャット機能がないことで、あからさまな批判や罵倒が起こりえないことも受け入れられた要因の1つではないかと分析した。
一方で、「ユーザーからはチャット機能の搭載も要望があるのでは?」と聞くと、「ゲーム内にはチャット機能は要らないと思う」と見解を述べた。文字入力は操作の邪魔になるし、ボイスチャットは可能性があるが、入れるとしてもそれが悪口や批判に繋がる原因にもなるので難しいのでは、という意見だ。ただし、ゲーム終了後に何をすれば良かったかを振り返るような場は設けることを考えているという。
モバイルゲームこそがe-Sports向き。コミュニティの強化はさらに継続
以前のインタビューで、「Vainglory」では「コミュニティの成長」を方針の第一に掲げていたが、現在ではその方針に3つの柱ができあがっているという。
1つは、動画の配信者をよりサポートしていくこと。SEMは「Vainglory」プレーヤーに「より良い配信者(ストリーマー)」になってほしいという考えを持っており、もし良い動画があったらゲーム内のニュースフィードに掲出することもある。配信が盛り上げれば配信した本人にも金銭的なフィードバックがあるし、それによって他のユーザーがプレイ方法を学べるので、メリットだらけというわけだ。
もう1つは、将来的に攻略サイトを一元化するということ。攻略サイトは自然発生的に複数が立ち上がるのが一般的だが、SEMとしてはこれを1つにまとめることで、「ここに行けば大丈夫」というものを作りたいとした。
そして最後は、「Vainglory」がさらに成功したらという想定の上で、トッププレーヤーによるコミュニティサイトや攻略情報サイトの立ち上げ、トッププレーヤー同士が戦うe-Sports大会も開催したいという。本作が世界的に展開する中で、生活の一部として「Vainglory」が存在するようになるのが理想的だとした。
なおSEMでは、草の根レベルでの大会の開催を推奨している。e-Sports大会といえば、賞金のかかったメーカー主催の大会に参加者が集っていくというようなイメージがあるが、まずはこうした小規模な大会のサポートが優先なのだという。
理由を聞くと、Yun氏は野球に例えて回答してくれた。野球では、リトルリーグから大学リーグ、プロリーグ、さらに草野球と色々なリーグの側面があり、中継を見たり自分でプレイしたり、関わり方も様々にある。
一方でe-Sportsを見るとプロリーグだけが目立っており、野球におけるその他のリーグ、つまり人々が広くプレイする「基盤」がない。これは土台のない土地に家が建っているようなもので、構造として「このままでは持続できない」という危機感があるとした。Yun氏は「まだ夢の段階」だとしながら、「Vainglory」ではこの「基盤」を作ることも目標の1つなのだと語ってくれた。
さらには、「モバイルゲームこそがe-Sportsに向いている」とも話した。モバイルは言葉通り持ち運びができるため、PCやコンソール機に比べれば持ち寄ってのプレイが簡単になる。この気軽さもサッカーや野球とも共通する部分があり、プラットフォームとしての魅力を感じているとした。
SEMに入社する以前、Yun氏自身はモバイルゲームに悲観的だったそうだ。それはモバイルゲームが「ユーザーからいかにお金を引き出すか」に注力していて、エンタメ性はなくなり、間違った方向に進んでいるのではという懸念があったからだという。
しかしSEMに入ったことで、「Vainglory」のような「楽しいゲーム」を提供できることが嬉しいとした。Yun氏は「収益を最大化することだけがビジネスモデルではない」とし、「Vainglory」で成功を収めることで、「追随するメーカーが増えてくれれば」と語った。SEMの掲げる壮大なビジョンも含めて、正式スタートを迎えた「Vainglory」の今後にさらに注目していきたい。