インタビュー
PC/コンソールゲームの英知を集めたモバイル特化型MOBA「Vainglory」
「東京サーバー」設置の本気展開を準備中! あえてハードコアに振り切る5年後を見据えた戦略とは?
(2015/1/23 11:50)
昨年の9月、iPhone 6およびiPhone 6 Plusが発表された時、グラフィクスAPI「Metal」対応のゲームデモとして披露された「Vainglory」というタイトルを覚えているGAME Watch読者はいるだろうか?
「Super Evil Megacorp」(超邪悪な大企業)という冗談みたいな名前の開発会社より突然紹介されたこともあり、印象に残っている方もいるかもしれない。この「Vainglory」が、今回日本進出を果たすという。
「Vainglory」は、一言にすると「League of Legends」に代表される本格MOBAジャンルのモバイルゲーム。あえて「本格」と付けたのは、モバイル用のゲームであるにも関わらず、試合時間として1戦20分から30分が想定されており、「League of Legends」にも匹敵するハード寄りのゲーム内容になっているからだ。
具体的な展開時期は決まっていないというが、この度、日本進出を前にしてSuper Evil MegacorpのCOO兼執行役員を務めるKristian Segerstrale氏とCEO兼共同創立者のBo Daly氏に日本進出に向けた意気込みとタイトルの狙いを伺うことができた。またタイトルを事前にプレイすることもできたので、その内容と共にご紹介したい。
立ち回りが大事な本格MOBAゲーム「Vainglory」をプレイ!
「Vainglory」は、クォータービューで進行する3対3のMOBA。各プレーヤーは1人の「ヒーロー」を操作し、ヒーローはレベル1、アイテムも0の状態からスタートする。自動で出現する敵のミニオン(NPC)やヒーローを倒すことで経験値と資金を獲得でき、スキルを成長させたりアイテムを購入できるようになる。
ステージ内は自由に移動でき、敵を選択すれば自動で追尾、攻撃範囲内に入ればこれも自動で攻撃する。また各ヒーローによって弾幕を張ったり、スタン状態にしたり、性能が異なるスキルも発動できる。本作では全部がフラットな状態から始まるため、味方と連携しながらどう立ち回ってどう戦っていくかが非常に重要なポイントとなる。
アイテム購入によるステータスの成長も大事で、アイテムには基本攻撃力を上げるもの、スキルの攻撃力を上げるもの、体力回復をサポートするもの、移動速度を上げるものなど様々で、プレーヤーによって独自の成長プランを作り上げられる。同じヒーローでも購入パターンによって使い勝手が千差万別になるので、プレーヤーなりのセオリーを形成していくのも楽しみの1つだ。
ゲームの勝敗は互いの陣地にある拠点が倒されることで決するが、そこにたどり着くには強力な射撃を行なってくる砲台が複数あるほか、「ジャングル」と呼ばれるエリアでは占拠することで資金の獲得がより早くなる「鉱山」や、味方ミニオンが強化される「ミニオン鉱山」もある。ほかにも、開始15分後には倒すことで味方になり、敵拠点に向かって爆進していく強力なモンスター「クラーケン」が出現する。
本作では、こうした様々な状況に対して「チームにどう貢献できるか」をプレイしていくゲームとなっている。プレイ自体は簡単だが、安易に敵陣地に突っ込んで倒されれば相手に経験値を渡すだけでなく、復帰に時間がかかるので(倒された回数が多いほど復帰時間は伸びる)どんどん状況は不利になる。それゆえに、味方との連携が勝利には不可欠だ。
実は筆者はこうしたMOBAジャンルのプレイ経験は浅く、全部で11体いるヒーローの誰を選んだらいいかすらわからないといった状況からプレイをはじめることとなった。プレイ自体はタッチ操作で完結できるためすぐに慣れたのだが、これが全然勝てない。
プレイしていても倒されまくるし、チームは勝てないし、1試合に20分以上かかるし、最初はハードルの高さを感じたのだが、プレイしていく内に敵に倒されない距離感やヒーローの特性を活かした立ち回り、経験豊富そうな味方が何を考えて動いているのかなどを見て覚えていくことで、ある程度戦えるようになってきた。
こうなるとプレイが楽しくなってきて、動きは遅めだが攻撃範囲と攻撃力に強みのある「SAW」なら牽制と味方のバックアップに威力を発揮すること、ダッシュとスタン攻撃を持つ「キャサリン」なら前線や急襲に強いことなどがわかるようになってきた。ゲーム内のキャラクター紹介にも詳しく情報が書いてあることもあって理解が早く進み、そうこうしてプレイに慣れた頃、ようやく初勝利を上げることができた。
開発スタジオ「Super Evil Megacorp」とは何者か?
Kristian氏によれば、Super Evil Megacorpは、2012年に設立されたアメリカのゲームスタジオで、PCやコンソールゲームを開発していた「Super」な人たちが集まってできた会社だという。
聞けばそのメンバーは、Rockstar Games、Riot Games、Blizzard Entertainment、Insomniac Gamesなど錚々たるスタジオの出身者で、Bo氏自身もRockstar Gamesのエンジニア出身として「Red Dead」シリーズのローンチに関わっており、Kristian氏はElectronic ArtsのDigital部門上席副社長、Glu Mobileの立ち上げなどに携わっている。
Super Evil Megacorpを構成するスタッフはKristian氏が「みんな才能がある」と自賛するほどだが、それぞれが「本当に作りたいものを作れていない」という鬱屈も経験していて、「面白いゲームを自由に作りたい!」という反動、そして才能の集団という状況がSuper Evil Megacorpという名前に結びついているそうだ。
そんなPC/コンソール開発の経験が豊かな彼らがなぜモバイルゲームに着手したかというと、世界のゲーム動向を見た時に、タッチによる操作がこれまで以上に浸透してきている現状を考えて、タッチ操作を使ったチーム対戦型のゲームを作りたいと考えたからだという。
さらにモバイルにはPCにもコンソールにもない「持ち寄って遊べる」という特徴もあるため、PC/コンソールゲームと同じクオリティのコアゲームを「バスケットボールを遊ぶように」友達と集まってプレイしてもらうようなビジョンを描いているという。
それにしても、1試合に20分以上かかるゲームというのはモバイルゲームではなかなか聞いたことがない。3対3ということで5対5の「League of Legends」に比べれば多少簡略化されているものの、プレイ自体の手応えは十分すぎるほどある。あえてコアゲームに振り切った狙いは、どこにあったのだろうか?
Kristian氏はこの理由について、「確かにモバイルアプリゲームは2、3分のサイクルが主流だが、近い未来にはコアゲーマーもモバイルに流れてくる」という予測があるからだと話した。
これからどんどんタッチ操作が浸透してくることを考えると、「どこでも遊べるコアゲーム」というコンセプトは響くはず。そこには、「3、5年後経った時に、その草分けとしてトップのスタジオになっていたい」という思いがあるそうだ。
浸透に大事なのは何よりも「コミュニティの形成」。「何年もかけて」ユーザーの心を掴む
Super Evil Megacorpが考える「Vainglory」の見どころは、3つある。1つは、タッチに特化したゲーム作りをしているということ。タッチしてすぐに反応があるような作りになっているほか、本作は「E.V.I.L.エンジン」という独自開発のゲームエンジンを採用し、これによってクオリティをPC/コンソールゲーム並に引き上げることに成功しているという。
もう1つは、何がMOBAゲームにとって面白いかが研究しつくされているということ。共同創立者の1人はRiot Games出身で、元々MOBAの何たるかを把握している上で、モバイルのデザイン、タッチ、カメラアングルなどを研究した結果が「Vainglory」に活かされているという。それゆえに、心理的な駆け引きを含めたチェスのように遊べるものに仕上がった。
そして最後が、コミュニティのことを大事に考えているということ。本作ではコミュティの力を得ることが最大の目標となっており、コミュニティがプレイし、フィードバックをもらってより良いゲームにしていく……というサイクルによってプレーヤーたちと一緒に成長していきたいとしている。
「Vainglory」は海外ではすでに展開しており、現在は日本展開へと向けて準備中であるが、昔からJRPGなどの日本産ゲームで遊んできたSuper Evil Megacorpとしては、「日本には完成度が高まらないと出せない」と言うほど日本については特別な思いがあるという。
今回日本展開を前に来日したのも、日本のユーザーが何を求めているか、どうすれば喜んでくれるかを探るために自ら足を運んだということで、日本展開に際してのパートナー企業やコミュニティも探している。
ゲーム内容についてもゲーム中のテキストを単に日本語化しただけのものではなく、「日本のために作った」と思われるくらいの質まで持っていき、ゲーム内や外部に接続して閲覧できるチュートリアルやニュース、攻略情報、アップデート情報も含めて日本版を充実させた状態で届けたいということだ。
話を聞いていてその「本気」を感じたのは、日本版ローンチの際には「東京サーバー」を設置するのだということ。ヒーローによっては少しのラグが致命的にもなるということで、日本のプレーヤーに快適な環境でのプレイを届けたいという心意気を感じることができた。
しかし日本において、MOBAジャンルはイマイチ浸透しておらず、特にモバイルはカジュアルなゲームが全盛を誇っている。これについて聞くと「とにかく待つこと、またコミュニティを成長させること」が大事だとした。
先にバスケットボールの話が例として出たが、アマチュアからプロまでがそれぞれプレイしている、スポーツのような状態が「Vainglory」が目指すコミュニティなのだという。カジュアルにも遊べるし、ハードコアにも遊べる。友達同士で遊べば教え合ったりすることもできるので、「コミュニティの形成がとても重要」ということだ。どうやってコミュニティを作っていくかは、既存のコミュニティに宣伝を行なったり、ユーチューバーや実況者にβ版を遊んでもらう、ということを今のところ想定しているそうだ。
MOBAタイトルにはPCの前でヘッドフォンをして、集中して……というハードなイメージがあるが、「Vainglory」では仲間と気軽に集まってプレイしてほしいという狙いがあり、ターゲット層は広く捉えている。
Kristian氏の想定としては、「LoL」のプレーヤーというよりは、「モンスターストライク」や「クラッシュ・オブ・クラン」を現在遊んでいるようなモバイルのプレーヤーに興味を持ってもらいたいのだそうだ。とはいえ初心者には難しいという認識もあって、プレイ時の動き方やヒーローの解説をする「アカデミーセクション」というチュートリアルを充実させるのも大事だとした。
ちなみに本作は基本無料でプレイ可能で、課金ポイントもヒーローのアンロックのみとなっている。「ビジネスモデルは大丈夫?」と尋ねたところ、「収益は後から考える」というスタイルだそうだ。それよりもまずはコミュニティの形成を最優先して、プレーヤーに長く広く楽しんでもらいたいという。今後どうするかは決まっていないが、「無料で長く遊べる」という基本は変えたくないとも話してくれた。
今後の展開について両氏は、「まずはコミュニティの形成!」という言葉を何度も口にしていた。筆者はプレイして実感しているが、「Vainglory」は理解するまでが大変なものの、理解してからは相当戦略性に富んだ面白いゲームである。その面白さがモバイルゲームユーザーに浸透していくためにも、プレーヤー同士の盛り上がりが不可欠だというわけだ。
Kristian氏は「最初から完璧ではないが、何年もかけて頑張るので、一緒にコミュニティを作ってほしい」と話した。「何年もかけて」という部分にSuper Evil Megacorpの壮大な計画が伺えるので、今後やってくるであろう「Vainglory」の展開にぜひとも期待したい。