インタビュー

「FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏gamescom 2016インタビュー

欧州DCの状況、中国PS4版未開始の真相、アレキ完結編難易度緩和の理由を聞く

8月17日収録

 gamescomレポートの締めくくりは、ゲームショウ恒例となっている「ファイナルファンタジーXIV」プロデューサー吉田直樹氏インタビューをお届けしたい。

 吉田氏は、gamescom会期中に実施されたファンギャザリングイベントにおいて、次期大型アップデート「パッチ3.4」の9月実装と拡張パッケージの制作について正式アナウンスしたが、内容については時期尚早ということで、gamescom出展の感想や、パッチ3.35で実装された新規コンテンツ「ディープダンジョン」の手応え、そしてパッチ3.4の基本コンセプトについて話を伺った。

 今回のインタビューで個人的に印象的だったのは、エンドコンテンツである「機工城アレキサンダー」について、パッチ3.4で実装される“完結編”では、既存の起動編、律動編より「難易度を下げる」とコメントしたことだ。理由を聞くと、純国産MMORPGならではの苦悩が感じられた。ぜひご注目いただきたい。

欧州を初めとした各市場の動向について。中国PS4版未展開の理由は「販売台数」

今年も連日インタビュールームに篭もって対応していた吉田氏。インタビュールームのテーマは「機工城アレキサンダー:律動編3層」

――まず、始めにgamescom出展の感想からきかせていただけますか。

吉田氏:一昨日の夜ケルンに着いて、昨日リハーサルと、会場設営のチェックに回っていました。「FFXIV」は丸3年前にリリースされたゲームですが、スクエニブース、タートルブース、その間をエオルゼアグリルで繋いだ、このぶち抜き感は、3年前に出たゲームとは思えないくらいの規模です。これだけの出展規模を維持できているということ自体が嬉しいですし、ドイツオフィスを中心にヨーロッパチームが非常に努力してくれました。

――ヨーロッパのサービス状況はいかがですか?

吉田氏:現在、ヨーロッパは非常に調子が良いです。ワールドの追加を検討しているほど、どのワールドも過密になっています。土地がないという声も多く悩ましいところです。その中でも特にドイツのプレーヤーの伸びが素晴らしく良いですね。

――それはなぜですか?

吉田氏:もっとも大きいのは、ヨーロッパにデータセンターを開設したことで
ネットワークレイテンシが解決したことが1つと、それに加え、地道にファンギャザリングなどを重ねて、既存のプレーヤーコミュニティの強化と、そのプレーヤーの友達をしっかりゲームに導き、コミュニティを拡大しつつ、プレイ人口を増やしてきた努力が結びついたと思います。プレーヤーはPCゲーマーが多いので、レイテンシをやっぱり凄く気にされる方が多いんだろうなと。まだデータをとってる最中ではありますが、悩ましいところです。そのてんが最も大きいのかなという感触ではありますね。

 ドイツはこれまでもフリートライアルを触ってくれる方は多かったんですけど、ただ、それと同時に「やっぱレイテンシが」という声もよく聞いていたのですが、ヨーロッパDC(データセンター)を設立してからその声が全くなくなり、ドイツプレーヤーが爆発的に伸びてるのを見て、やっぱりそこが大きかったのかなと。

【スクウェア・エニックスブース】
スクエニブースでは、「FFXIV」試遊コーナーが常設され、「極ナイツオブラウンド」などを楽しむことができた

――ヨーロッパは昔からPCゲームの牙城という印象がありますが、やはり「FFXIV」でもPC版が1番ですか?

吉田氏:そこまで一辺倒ではないです。PS4版もかなりいます。MMORPGを「FFXIV」で初めてプレイしたという方が、ヨーロッパでもすごく多いので。

――新規ユーザーはPS4から入る人が多いですか?

吉田氏:いえ、もう半々ですね。ただ、圧倒的にマウス・キーボード派が多いのは、特徴だなあとは思います。コンソールからきて、初めてMMOをやっている方は、ゲームパッドが多いです。明らかにもともとゲーマーですねっ。という人は、みんなマウス・キーボードですね。

――それは「WoW」をはじめ、他のMMORPGを経験しているから、ということですか。

吉田氏:そうですね。

――ヨーロッパDCはもうギチギチということですが、今後ワールドの追加などの計画はありますか?

吉田氏:今計画してるのは……、これは全DC(データセンター)が対象ですが、サーバー性能を一段上のものに上げようかと思っています。上げようというか、もう承認したので、上げることにしました。

――もう一段上というと?

吉田氏:ハードウェアの性能を上げるという意味です。

――上げるとユーザーにとってどのようなメリットがありますか?

吉田氏:オンラインゲームの場合、サーバーのマシン性能を上げるということは、すべてのサーバーマシンを入れ替えるということに等しいです。ただ、サーバーマシンのスペックを上げることで、1台のマシンに差せるメモリの数も増えますし、逆に今よりも少ないハードウェア数で、より多くのインスタンスやより多くのエリアがさばけるようになります。コンテンツ間に流れる、キャラクターデータの膨大な通信負荷によって増えた帯域にも耐えられるようになるので、例えば、さらにハウジングエリアを増やしたり、あと、ずっと言われている、「もっと持ち物を増やしてくれ!」という希望も叶えられるようになります。

――いつぐらいに一段上になるのですか?

吉田氏:正式発表はまだですが、時期拡張パッケージのタイミングに合わせたいなと思っています。

――ヨーロッパ市場が非常に好調ということですが、今後対応言語が増える可能性はありますか?

吉田氏:やはりリクエストが多いのは、中南米が非常に多いので、スペイン語、ポルトガル語は前向きではあります。

――まだ決定はしてない?

吉田氏:まだ決定はしてないです。単純にスタンドアロンのゲームであれば、1回外注さんを使って翻訳して、発売してしまえば仕事は終わります。しかし、「FFXIV」の場合は3カ月半に1回のメジャーアップデートで、ゲーム丸1本分ぐらいのテキストを翻訳し、それを継続しなければなりません。言語追加したことにより、それに引きずられてアップデートが遅れるのはナシだと思っています。そのためには日本の開発チーム内に、ローカライズチームをちゃんと作らないと運営できないので……それをいつから本気でやるかなあって感じです。

――現地のパートナー探しはしないんですか?

吉田氏:スペイン語、ポルトガル語など、中南米を含めた正式展開は、やるのであればグローバルでやった方がいいかなと思います。

――なるほど、そこは中国や韓国展開とはアプローチが違うんですね。

吉田氏:そうですね、理由はいくつかありますが、経験のある運営会社がそもそも多くないことも理由のひとつです。

――なるほど、運営を任せられるような経験を積んだパートナー自体がいないということですか。

吉田氏:そうですね。お金を出してくれる、というところはあるとは思うのですが、MMORPGの場合はそれだけでは成り立ちません。そう考えたらグローバルのサーバーの中に巻き込んだほうが、多分近道だと考えています。調査は地道にやっていますので、今すぐ直近で何か発表できることはないにせよ、やれる日が来ればいいなとは思っています。

スクウェア・エニックスの米国法人が、正式に香港及びシンガポール向けに「FFXIV」の販売を開始した

――最近になって香港とシンガポールでPC版をリリースしましたよね? あれはどういった内容のものなんですか?

吉田氏:あれは、今までスクウェア・エニックスIDを展開できる国と、クリスタというスクエニの仮想通貨が法律的に許される国がイコールでした。ですので、クリスタを展開できる地域じゃないと、スクウェア・エニックスIDの正式サポートができない、というレギュレーションが「旧FFXIV」の頃からスクエニ社内にあり、その当時市場調査した法律適応国しかスクエニIDが展開できませんでした。

 しかし、今Steam版もリリースしている状況で、「いい加減もうこの古いレギュレーションは、誰かまだ会社の中で、大事にしてる人いるの?」っていうのを確認したところ社長からも「特にない」という話でした。「ではもう、クリスタと完全連動するのは機会損失でもあるので辞めましょう」と、レギュレーションを変えました。これによりスクエニIDを正式展開できる地域を増やして、オフィシャルに流通を掛けることで、数千とかかもしれませんが、プレイしてくれる人が増えるのであれば、それは良いことだろうという考えです。香港とシンガポールはその第一歩です。シンガポールにはMMORPGで知り合った友達も多いので、「ようやくかよ」って言われました(笑)。

 展開国を増やす場合は、もうひとつ大きな壁があります。プレーヤーをサポートする言語や国を決めなければなりません。例えば、スクウェア・エニックスアメリカの範疇なのか、日本の範疇、アジアの範疇なのか、ヨーロッパの範疇なのかということを決めないと、せっかくオフィシャルで売っているゲームを買ってきて、GMに問い合わせようと思った時に、対応がはっきりしていないと問題になります。それらの準備をやってきて、やっと、対応できるようになったのが今回です。

――ちなみに香港とシンガポールはどこの範疇ですか?

吉田氏:いずれも英語対応可能な国でしたのでアメリカにしました。サポートはアメリカです。

――そういった形で今後、展開国を増やしていくつもりですか? 今後の予定はもう立っていますか?

吉田氏:そうですね。そこは、地道に、増やせるところは増やして行きたいですね。何カ国か今法律調査している国はあります。

――例えばタイやベトナムなど?

吉田氏:そうですね、東南アジアはオンラインゲーム発展国でもあるので、魅力的ではあります。

――新たにアジアの言語に対応することはありますか?

吉田氏:アジア言語は、台湾がもしかしたら可能性はあるかなあとは思います。繁体字は凄く希望が多いので。ただ、サーバーどうするかという問題があり、悩ましいですね。

――ちなみに香港とシンガポールは、どのデーターセンターに繋ぐ想定ですか?

吉田氏:プレーヤーは全データセンターを選択できるので、レイテンシの良い方をお好みで。おそらくヨーロッパか日本の2択だと思います。

――その場合のレイテンシはいいんですか?

吉田氏:シンガポールのプレーヤーと話をする機会がありましたが、その時は日本のサーバーでプレイしていたので「ヨーロッパに繋がないの?」と質問しました。すると「ヨーロッパも試したけど、日本の方が安定していたので、日本のデータセンターで遊んでいます」という回答でした。経路にもよると思いますが、ちょうど中間のようですね。

2015年7月に発表したPS4版。正式サービス開始は2016年を予定していたが、暗礁に乗り上げているようだ

――先月、中国でChainaJoyがありました。1年前に発表したPS4版「FFXIV」について進捗がありませんでしたが、何かハードルや克服すべき課題があるんですか?

吉田氏:ハードルは2点あって、1点目は中国でのPS4の普及台数です。1度でもサービスを始めてしまうと、僕らは責任を負わなくてはいけなくなります。SIEJAの方とビジネス面の安定性を協議中です。もうひとつは、中国側でパッチなどのアップデートメンテナンスを行なってもらう部分です。グローバル版のPS3/PS4パッチメンテナンスで僕らは手一杯なので、中国PS4版は先方にお願いする段取りなのです。その準備を並行して進めています。こちらは順調で、むしろ難関はビジネス周りですね。

――つまり、中国市場でPS4が一定数以上売れない限り、永遠にPS4版のサービスが始まらない?

吉田氏:僕たちは運営が始まれば、絶対的にランニングコストが掛かります。ビジネスの合意がされないうちは、サービスは開始できないですね。

――ちょっとまだ正式サービス開始まで距離がありそうですね……。

吉田氏:テクノロジー周りの準備ができたとしても、僕らのリスクの方が高い。だからこそ、ビジネス面はお互いフィフティフィフティになるように、という話をさせていただいている最中ですね。