佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
“有力IPのVR対応”が目覚ましく進むPlayStation VR
強力タイトル、強力サードパーティがVRの真価を加速する!
(2015/11/3 12:00)
10月28日から11月1日にかけてフランス・パリで開催された大規模ゲームイベント「Paris Games Week」における最大のニュースは、「グランツーリスモ」や「鉄拳」といったPSフランチャイズの人気作が、プレイステーション 4用VRシステム、Playstaion VR(以下「PSVR」)に対応することが明らかになったことだろう。
これは、来年の上半期中に予定されているPSVRのローンチに向けて非常に明るいニュースだ。PSVRタイトルの開発に取り組んでいることが既に明らかになっている国内サードパーティ(バンダイナムコ、セガ、カプコン、コーエーテクモ、スパイク・チュンソフト、スクエニ等)の存在も含めて考えると、タイトル不足の懸念もなんのその、新ハードのローンチに向けて盤石の体制が整いつつある。
果たして、2016年上半期に予定されているPSVRの発売タイミングで、どれほどのVRゲームが集まるだろうか。VRそのものへの関心がさほどない人々にも伝わる、魅力たっぷりのゲームも登場してくれるだろうか?今回はそのあたりをジックリ見てみよう。
人気IPのVR対応で、PlayStation VRは「VR時代のキラータイトル」を手に入れる
今回のPSVR関連の発表で特に嬉しいのは、「サマーレッスン」を開発するバンダイナムコエンターテイメント・TEKKEN PROJECTチームリーダーの原田勝弘氏が事あるごとに心配していた「VRにはキラータイトルがない」、という状況について、確実に改善へ向かっていることだ。
例えば初のPS4版「グランツーリスモ」シリーズ作品としてPSVRへの対応も明かされた「GT Sport」は、これまでPS3で同シリーズをプレイしてきたレースシムファンにとって間違いなく「キラータイトル」になる。
車中視点が“実車に乗っているのとほとんど同じ感覚”にまで高められるVRは、リアル系レースシムとの相性がこれ以上ないほどに良い。また、レースシムを従来型のフラットスクリーンでプレイすることと、VRHMDを被ってプレイすることの間には、比較できないほどの違いがある。臨場感に絞って言うと、誇張なしに、VRなしが“ラジコンの操縦”だとするなら、VRありは“実車の運転”くらいの差がある。
それに続いて明らかになったところによると、PS Storeでのダウンロード販売メインで展開しているレースゲーム「DRIVECLUB」も、PSVRに対応することになるようだ。本作はリアル系レースシムではなく、どちらかというと車好き全般に向けたカジュアルなドライビングモデルを持つゲームで、継続的なアップデートでゲーム性やコンテンツ内容の改善が続けられているのが特徴だ。
どちらのタイトルもPSプラットフォームのセカンドパーティによる作品ということで、PS4エクスクルーシブであり、PSVR以外のプラットフォームではどう転んでも遊べないというのがもう1つのポイントだ。ハードコアな「GT Sports」、カジュアルな「DRIVECLUB」。それに加えて「Project Cars」等のサードパーティによるPSVR対応レースシム。レースファンやシムファンにとって、PSVRは強烈な魅力を発することになる。
また、SCEより8月に発売され、高い評価を受けたホラーアドベンチャーゲーム「Until Dawn -惨劇の山荘-」のVR対応版「Until Dawn: Rush of Blood」も発表された。本作はSUPERMASSIVE GAMESが開発し、SCEがパブリッシングを担当している、いわゆるセカンドパーティ製タイトル。位置づけとしてはポリフォニー・デジタル、SCEパブリッシュの「グランツーリスモ」シリーズに近い。VRを強力に推進するSCEWWSの影響をモロに受けるデベロッパーとしては、VR対応は必然的といえるかもしれない。
「Until Dawn」の懐中電灯で暗闇を照らしつつ進んでいくゲーム性は、PlayStation MoveとPlayStation VRを使ったプレイにうってつけだ。とはいえ「Until Dawn」本編そのものはフラットスクリーンでプレイするためにデザインされているため、そのままVRに持ってくることはできない。そこで、「Until Dawn: Rush of Blood」という別作品としてVR対応版の製作が進められているというわけだ。
“その空間に実際に居るとしか思えない臨場感”、“キャラクターが目の前に実際に存在しているとしか思えない実在感”を持つVRは、ホラー表現との相性が抜群に良いことがカプコンのVRデモ「KITCHEN」で誰の目にも明らかになっている。平らな画面でホラーゲームをやるのがアホらしくなるほどだ。これも、いろいろな意味で「キラータイトル」になることは間違いない。
そして「バンダイナムコエンターテイメント・原田勝弘氏の念願叶ったり!」と言いたい「鉄拳7」のVR対応である。Paris Games WeekのSCEによるプレスカンファレンスでは「鉄拳7」が具体的にどのようにPSVRへ対応し、どのような体験を届けるものになるかは全く明らかにされなかったものの、「サマーレッスン」を生み出したTEKKEN PROJECTチーム本家本流のタイトルがVR対応を表明したというのは、非常に大きな前進だ。
「鉄拳7」そのものは、現在アーケードで稼働しているものを見てわかるように、フラットスクリーンでプレイするために最適化された格闘ゲームであるゆえ、それがそのままPSVRで楽しめるものになるというわけではあるまい。筆者としては、VRでのキャラクタービューワーやリプレイ鑑賞モード、あるいはVRを使ったe-Sports的な試合観戦システムといった、補完的な対応を予想するが、クリエイターの胸の内はいかに。どうなるものか、本当に楽しみだ。
この他、「KILLZONE」シリーズで有名なGuerrilla Gamesが開発するVR e-Sportsタイトル「RIGS」や、「Little Big Planet」で知られるスタジオMedia Moleculeが開発するサンドボックスタイトル「DREAMS」など、PSVRエクスクルーシブが確実視されるタイトルはまだまだある。
これに加えてPSVRでは、Oculus Rift/Steam VRといったPC陣営向けのタイトルも数多くがマルチ展開する(『EVE Valkyrie』、『Battlezone』など)。2016年上半期のローンチ時点で、PSVRのユーザーは遊びきれないほどのコンテンツ攻勢を浴びることは間違いない。ゲーマーにとって魅力たっぷりのVRプラットフォームになるはずだ。
“快適”だけを追求する段階は終わり?カプコンの最新VR研究事例
ここでひとつ慎重になっておきたい。それは、既存の人気タイトルがVRに対応しても、それがそのまま本当に面白いVRゲームになるとは限らない、ということだ。フラットスクリーンで遊ぶ従来型のゲームと、VRHMDをかぶって遊ぶVRゲームとの間には、意外なほど大きな溝が存在するからだ。
このあたりの問題点については当連載でも以前触れたことがあるが(関連記事:東京ゲームショウ2015」で見えてきた国産VRコンテンツの力と課題)、端的に言うと、既存ゲームのVR版はゲーム内容的に自縄自縛に陥る恐れがあるということだ。
VRで従来型ゲームのように激しい動きするとプレーヤーがめちゃめちゃに酔って気分が悪くなってしまうため、クリエイターはそれを避けるためにカメラ移動を制限するとか、スピードを落とすとかの対応をしたくなる。その一方で、ゲーム内容が従来型のもののままに放置されていると、元のゲームから牙を抜いただけのナマクラなコンテンツが出来上がり、というわけだ。
こういう恐れがあるので、VR向けのゲームは、はじめからVRで遊ぶために全体がデザインされている必要がある。現実そのものがお手本となるシム系なら話は簡単だが、これまで第三者視点でプレイされてきた膨大なジャンル(シューティング、アクション、アドベンチャー等)については、そのおもしろさをVRに持ち込むことはかなり難しい。ものによっては根本的に不可能かもしれない。
「VRによって、逆にゲームの幅が狭まるかもしれない」。アーリーアダプター層にはこういう危惧を抱いている人も少なからずいると思うが、その点で1歩先に進んでくれている存在がある。カプコンだ。
10月17日、九州で初めて開催されたCEDEC(Kyushu CEDEC 2015)にて、このテーマについての興味深い講演が行なわれた。講演を行なったのはカブコンのテクニカルディレクター伊集院勝氏と、プログラマーの岡田和也氏だ。
カプコンといえばE3 2015やTGS 2015でホラーVRデモ「KITCHEN」を出展し、来場したVRファンを恐怖のどん底に陥れたことで世界的に高い評価を受けている。伊集院氏と岡田氏はそのカプコンでゆるく組織された“VRワーキンググループ”に属し、その成果をもとに最先端の知見を公表してくれた。
それによれば、E3 2015の「KITCHEN」ではデモ終盤にカメラを自動制御(首を掴まれて自由に動けない状態の演出)したことでプレーヤーのVR酔いを誘発してしまったため、TGS 2015版ではカメラの自動制御をしないように変更したという。こういったカメラ制御の難しさがVRゲームの難しさの筆頭だ。そこでプログラマーの岡田氏が研究しているのが「VR酔いが発生しないカメラ移動」である。
カメラが移動しない(ユーザーの動きだけに委ねられている)VRゲームは快適だが、それだけでゲームをゲームらしく面白くするというのは別の意味で相当に難しい。できるならカメラは動かしたい。しかし、カメラを動かすとユーザーは酔ってしまう。どうすればいいか。気持ちのよいVRカメラの動きを見つければいい、という攻めの姿勢である。
岡田氏はOculus VRやその他のVRクリエイターがこれまで共有してきたVR酔いについての知見をまとめつつ、さらに突っ込んだ検証結果を披露した。ポイントをまとめてみよう。
・動きの軌道が予想できると酔いにくい
・カメラ位置が地面から高いと酔いにくい
・操作キャラクターに注視すると酔いにくい
・下降時は酔いやすい/上昇時は気持ちいい
・カメラの高さが固定されていると酔わない
これらの傾向をすべて活用し、岡田氏は検証用のゲームを製作。それは「スペースハリアー」や「パンツァードラグーン」的な視点で、奥行き方向へ向かっていくゲームで、かなりスピーディ。自キャラはジャンプすることもでき、立体的に動き回れる。こういうものを何も考えずに作ると1発で酔いそうなものだが、社内で100人弱の人に試してもらったところ、酔わなかったという感想がほとんどを占めたという。
スピード感はたっぷりだが、基本的に前方のみに進んでいくため軌道が予測しやすく、操作キャラを第三者視点から眺めているために背景への注意力が下がり、悪酔いの原因となるベクション(視覚誘導性自己運動感覚)が抑えられる。かつ、キャラがジャンプするとそれに追従してカメラ位置も上昇し、気持ちが良いが、カメラ位置が元の高さに戻る制御にはたっぷり時間をかけ、気付かれないレベルの下降スピードとすることで、カメラ位置下降時の気持ち悪さを軽減する。
こういった工夫で、VRでも気持よくスピーディなアクションを楽しめ、なおかつ酔わないゲームが実現したというわけだ。ものはやりようである。
このように、PSVRへの参入を決意したサードパーティによるVRゲームへのリサーチは本格的にはじまっており、VRに求められる快適さのさらにその先を見つけ出すフェイズに入っている。PSVRがローンチする2016年上半期までには、これまで以上に様々なノウハウが明らかになってくるはずだ。それにより既存IPのVR化という方向性に、さらなる燃料が加えられていくことを期待したい。