素晴らしきかな魂アイテム
【魂インタビュー】メカ美少女と和風ロボが変形合体! 奇跡のユニゾンが切り開く未来!
最高のアクションフィギュアとプラモデルの融合、「HG×S.H.Figuarts」
2019年10月11日 00:00
「メタルビルド」、「S.H.Figuarts」といった完成品アクションフィギュアを展開するBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部。「HG」、「MG」といったブランドで「ガンプラ」をはじめとしたプラモデルを販売するBANDAI SPIRITSホビー事業部。ホビー業界でも大きな存在感を示す2つの事業部は、BANDAI SPIRITSという1つの会社でありながら、ライバルでもある。
ガンダムやマジンガーなど同じIPを異なるプロダクトで商品化する2つの事業部は、完成品とプラモデルというところで、ユーザー自身も比べることが多い。「両事業部は、実は仲が悪いんじゃないか?」という噂まで流れている。「こちらの方が出来がいい」、「こっちの方が遊べる」などなど、ユーザーの声に応えながら両事業部は進化しているのだ。
そのコレクターズ事業部とホビー事業部が初めてコラボ商品を展開するのだ! 最高のアクションフィギュアと最高のプラモデルの融合である。このためだけのオリジナルキャラクター、全く新しい商品、その気合いはかなりのものだ。コレクターズ事業部の美少女アクションフィギュア「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」と、ホビー事業部のロボットプラモデル「HG 蒼流丸」が、近未来型のバイクに変形合体するのである。
今回のプロジェクトの企画担当者がコレクターズ事業部の前田哲也氏と、ホビー事業部の奥野彰文氏だ。それぞれのどのような技術がこの融合を可能にしたか、そしてこのプロジェクトの先には何があるのか、注目して欲しい。
「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」と「HG 蒼流丸」、代表的な2つのブランドが合体!
「HG×S.H.Figuarts」は、「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」と「HG 蒼流丸」がそれぞれ変形し、バイク型ビークルに合体するというプロジェクトだ。コレクターズ事業部の魂ネイションのマークを思わせる赤いカラーの美少女メカと、BANDAI SPIRITSを連想させる青いカラーのロボットが変形合体する。身体全体を装甲が覆う大胆な変形で、合体形態も非常に魅力的だ。外から見てるだけではどんな変形をするかも一見わからない。メカとしての魅力も大きい商品だ。
「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」は、“装甲をまとった美少女”というコンセプトで、これまでの商品分類では「AGP」や「MS少女」に近い。手足の細い華奢な感じのフィギュアに鋭角的で大型のアーマー、そして車輪のついた大砲を持っている。これまでのコレクターズ事業部のアクション美少女フィギュアの技術を活かした関節設計、全体の女の子らしいシルエット、かわいらしい顔の造形はこれまでのS.H.Figuartsシリーズなどの蓄積も活かされているという。
デザインの根底にあるテーマは「近未来+和風」である。SFチックな、大きな装備をつけながら随所に和風テイストが光る。結った髪にはかんざしを挿し、肩や足を露出した衣装も首元や腰の帯に和服風のデザインが取り入れられている。アーマーも蝶の羽根のような、大きな帯のようにも見える。そして持っている大砲には突起がある。これは実は三味線の弦を張るための“糸巻き”をイメージしている。大砲は三味線をイメージした武器なのだ。
そしてプラモデルの「HG 蒼流丸」は、鎧武者のようなロボットだ。金色のクワガタが目立つ。基本は成型色だが、「リアリスティックデカール」でマーキングなども入る。手と足の先は濃い青が使われていたり、赤が印象的に使われていたりと、こちらも色分けが楽しい。ちなみにリアリスティックデカールには「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」にも貼ることが可能で、2体一緒に購入すると完成度がさらに上がるという。
「HG 蒼流丸」のユニークな特徴は背中の垂直に立った装甲。武者が背中に差す旗指物風だ。全体にスマートで、現代風のロボ風になっている。武器は和のテイストが多めで、タイヤのついたシールドは軍配っぽく、刀は腰の火縄銃と合体できるギミックも用意されている。実はクワガタ部分が「HG」の文字を形作ってるなど遊びの部分も入れている。
「HG」はホビー事業部のプラモデルとしては“入門用”を意識したブランドで対象年齢も8歳以上のものが多いが、「HG 蒼流丸」は、「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」と合わせて15歳以上、クワガタパーツなど細部をシャープに造形し、パーツ数もHGシリーズにしては多めである。
そして「HG 蒼流丸」はプラモデルとしてユーザーが手に入れる楽しさもセールスポイント。装甲を塗装したり、部分塗装を加えることで自分なりのプラモデル感が出せる。また各部に3mm幅の穴が空いており、ホビー事業部のプラモデルなど他の商品の武器パーツなどを組み合わせることが可能だ。
この2体は「近未来+和風」というテーマの元、全く違うデザインの女の子とロボットが1つのメカになるというユニークなアイディアを実現した。デザイン自体、変形機構を前提としたものとなっているが、その変形はコレクターズ事業部とホビー事業部、それぞれの技術が込められている。この苦労と面白さは、後で拾っていきたい。
そして合体である。2つのメカが複雑に変形、近未来のバイク型に変形するのだ。「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」は少女を装備が覆い隠す。そして「HG 蒼流丸」では足が車輪を抑えるという思いきった変形をする。これにまっすぐ伸びた手が被さり、首部分なども変形し装甲に覆われた形になる。この2つが合体するのだ。
面白いのは合体が2パターンあるところ。「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」が前になる場合、女の子がバイクに乗っているようなランディングポーズをとり、頭や腕、足などが外に出る。まるで飛行ポーズをとるかのような地上スレスレのランディングポジションのバイクに、大型の動力ユニットがついたようなシルエットだ。
「HG 蒼流丸」が前になる場合は、「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」の女の子は完全に装甲に隠れる。その装甲で強引に突破していくような戦闘メカ風の印象が強くなる。装甲自体が内部を隠す変形メカならではの楽しさがあって、「どこのパーツがどう動いて変形してるんだろう?」と想像する楽しさがある。ストーリーは設定上は用意しているが、あえて語らず、ユーザー様の想像力で描いて欲しい、とのことだ。
素材、製造工程……予想以上の困難が、様々なものをもたらす
非常にユニークで魅力的なプロジェクトである。この企画はBANDAI SPIRITSという会社が立ち上がり、ホビー事業部とコレクターズ事業部が1つになった。実はユーザー様の間では、「ホビーとコレクターズは仲が悪いんじゃないの?」という噂もあった。どちらも高年齢のハイターゲット層へのアイテムを主力とし、バンダイというなかでお互いが競うようにガンダムやマクロスといったキャラクターの商品展開を行なう。ファンの間で、「こちらの方が造形がいい」、「こちらの方が遊びやすい」と比べる土壌もあった。
しかし実際は全然そんなことはなく、親しい交流が行なわれていると前田氏は語った。前田氏自身、ホビー事業部から、コレクターズ事業部へ異動しているし、部署内での交流も行なわれている。各担当として個人的に会いモノ作りに関しての話をすることもある。その中で「せっかく同じ会社になったから、何かやりたいよね」という意見が自然に盛り上がり、そして形になったとのことだ。
「お互い得意なところで何かやりたいよね、ということで一番最初はこういう形になりました」。企画案としては今回の美少女×メカ、S.H.Figuarts×HGというコンセプト以外にも様々な組み合わせが提示されたという。その中で“スタンダード”を意識しての今回のチョイスになった。スタンダードであり、遊びやすさを重視した商品を世に出し、「2つのプロダクトが1つの合体メカになる」という楽しさを提示しようとなったのだという。
こういったプロジェクトの場合、同じコンセプトで様々な商品展開を行なっていくことがあるが、「HG×S.H.Figuarts」に関してはこの2つで展開していく。それは、ホビーとコレクターズのコラボがこれで終わらないことを示すためだ。両事業部が展開するブランド、「MG」、「PG」、「メタルビルド」、「DX超合金魂」など、今回の枠に囚われない、より大きいスケールで両者のコラボレートをユーザーに想像してもらい、要望を出して欲しいという。
「僕ら自身それぞれのプロダクトを活かしたスタンダードブランドで1つの商品を生み出してみて、『こういうことができたんだ』、『こういう所が苦労するんだ』という様々な経験ができました。やってみて初めて得ることが多かった。今回の経験を糧に、次はどんなことができるか、お客様にも考えていただき、提案していただける結果になればと思っています」と前田氏は語った。
2つのプロダクトが“合体”する、そのプロジェクトは予想を遙かに超えた大変さだったという。「2つのメカがバイク型のメカになる」というコンセプトは初期に決まったものの、デザインの提案と共に、両事業部で徹底したギミック検証が行なわれた。今回に関してはホビー事業部で設計を担当するプロダクトマイスターの大須賀敏亨氏の尽力が大きかったという。大須賀氏はかつての前田氏の上司であり、前田氏はコレクターズ側の設計のノウハウと企画の経験がある。これらを活かして設計でうまくすりあわせをしていったとのことだ。
コレクターズは随所に金属部品を使うし、部品の厚みどころか、使う合成樹脂そのものが違う。納期、工場生産の割合、各部の強度、スジ彫りの精度……お互いがそれぞれで正解を突き詰めて進化した技術は、結果として大きく違うものになっている。だからこそこのプロジェクトを進める上で学ぶことが多かったと奥野氏は語った。
プラモデルは、工場生産も含めコレクターズと比べると商品開発のスパンは早い。また、“柔軟性”も高い。コレクターズの提案に対しホビーが応え、その上で改善策を提案するという形でプロジェクトは進んでいった。ホビー事業部のフレキシブルな対応はこのプロジェクトにおいてとてもありがたかったと前田氏は語った。前田氏は、かつて在籍していたときとは異なる素材や、進化した技術にも驚かされたという。
変形、合体に関して気をつけたのは「シンプルさ」だ。装甲が覆う意外性のあるシルエット、2つのメカが合体するユニークさ、しかしジョイントは「S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI」が武器部分、「HG 蒼流丸」がお尻の所にジョイントがあり、しっかりはまる。変形そのものも手順を覚えれば手軽にできる。シンプルに遊べる楽しい商品を目指しているとのことだ。
今回のコラボで学ぶことが多かったという両担当者に特に刺激を受けたことを聞いてみた。奥野氏は「塗装が工場側でできることがうらやましいと感じた」と語った。プラモデルはユーザーに完成度をゆだねる。だからこそモデラーが素晴らしい完成度を持った作品を作り上げられるのだが、工場側で塗装すればその完成度を底上げできる。一方で自分だけのプラモデルという“自由度”を奪いかねない問題でもあり、コストも跳ね上がる。完成品ならではの手法と言える部分だ。「HG 蒼流丸」のスミ入れや、赤や金色は塗装を施すことでグッと映えるオススメのディテールアップとのこと。
前田氏は関節に使える素材KPSに驚きを感じたとのこと。以前、前田氏がホビー事業部に所属していた頃はまだ導入されていなかった素材で、ポリキャップではなくKPSを使った設計、パーツ分割は、設計の幅を広げてくれる。またユーザーが組み立てることでの変形の自由度の高さは魅力だと語った。完成品だと部品が外れたり、工場生産のための強度が求められるが、組み立て式は制約が異なるのだ。成形の精度、PSだから実現できるシャープな設計もABSとは違う部分だ。今回のコラボはお互いの商品の良いところ、そして自社製品の優れているところの再認識に繋がったという。
今回はマーケティング、プロモーションといった作り手だけではないコラボレーションも注目点だという。まさに今回のプロジェクトは、新しい扉を開いた、というのが実感できる。今後、ホビー、コレクターズ両方のイベントでも展示されるとのことだ。
前田氏はユーザーへのメッセージとして「2つの事業部、トイとプラモデルのコラボレーションが実現できました。ぜひこのプロジェクトを皮切りに、もっと意見を頂き、どういったコラボレーションを今後して欲しいか声をお聞かせ下さい。プラモデルが好きな人、アクションフィギュアが好きな人が、今回を機会に違うジャンルの商品に触れていただければと思います。新しい楽しさを知っていただける足がかりになってくれれば幸いです」。
奥野氏は「やっぱり初めてのプラモデル、初めてのフィギュアとしてもとてもいいものになっていると思います。趣味の幅を広げて、コラボレーションの面白さを楽しんで欲しいと思います」と語った。
「ホビーとコレクターズがコラボレーションを行なう」という話だけは聞いてインタビューに臨んだのだが、目の前で見せて貰ったモノは想像を大きく超える魅力的な“融合”だった。ただ組み合わせるのではなく、それぞれが独立した商品として魅力的で、組み合わさることで遊びの幅が大きく広がる。そしてこのコラボが提示する新しい商品の形までイメージが広がる。両事業部の気合いを感じさせる商品である。ユーザーの反応、今後の展開が楽しみだ。なお本商品の詳細はHG x S.H.Figuarts TAMASHII GIRL AOI スペシャルページも参考にして欲しい。
(C)BANDAI SPIRITS
※写真はフラッシュで撮影を行なっているため、各部の彩色などが実際の商品と異なります。