■佐藤カフジの「PCゲーミング道場」■
PCゲーマーのためのボイスチャット最新事情
完全無料でどこまでできる? クラウド型VCソリューション「Vivox」に注目!
色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプ トに、古今東西のPCゲームシーンを盛り上げてくれるデバイスや各種ソフトウェアに注目。単なる製品の紹介にとどまらず、競合製品との比較や、新たな活用法、果ては改造まで、 様々なアプローチでゲーマーの皆さんに有益な情報をご提供していきたい。 |
■ 大人数でも同時に通話できて、クリアな音質でしかもタダ。そんな美味い話について
「Ventrilo」と「TeamSpeak」の接続スロットを有料でレンタルするサービス。最近ではこういうものが珍しくなくなったのだが…… |
コンシューマーゲーム機はもとより、PCゲーマーの間でも主要なコミュニケーション手段になりつつあるボイスチャット。FPS、リアルタイムストラテジー、RPG、シミュレーションなどジャンルを問わず、仲間内でワイワイガヤガヤとプレイするゲームは楽しいものだ。
最近ではゲーム内にボイスチャット機能が実装されているのが当たり前となっており、コアユーザーならずとも簡単にボイスチャットの面白さを体感できるようにもなった。
とはいえ、ゲーム内に実装されているボイスチャット機能は、タイトルによって実装が異なるためいちいち設定が必要だったり、ネットワーク帯域を確保するために音質が犠牲になっていることも多く、贅沢なPCゲーマーを満足させる水準のものが常に提供されているとは限らないのも実情だ。
そこで多くのコアゲーマー、特にチームやクランを結成して持続的なコミュニティをもつプレーヤー達は、大人数で高品質のボイスチャットが可能な専用ソフトを活用してきたという経緯がある。よく知られているのは「TeamSpeak」や「Ventrilo」のような長い歴史をもつアプリケーションだ。
ところが頭の痛い問題がひとつ。もともとフリーソフトだった「Ventrilo」はサーバーライセンスが有料化してしまい、「TeamSpeak」も32ユーザー以上の利用ではライセンス取得が必要になるなど、人気のあるボイスチャットソフトはそれぞれのビジネスモデルでお金がかかる存在になってしまっている。さてどうしたものか。
巷でよく使われている「Skype」は、同時24人までの通話に対応しているため小グループであれば選択肢になりうる。しかし、チーム戦で敵味方に別れて会話し、試合が終わったらまとまって交流という使い方をするならば、ボイスチャット専門ソフトが持つような、行き来自由のチャンネル機能も欲しいところだ。果たして、完全無料で接続数の制限がなく音質も素晴らしい、さらにゲーマー向けというの都合のいいソリューションはあるのだろうか?
実はあるのだ。今回はそんな美味い話をお伝えすべく、PC向けボイスチャットの最新ソリューションをご紹介しよう。
※ Skypeのボイスチャット最大人数を5名と表記しておりましたが、最大24名の誤りでした。お詫びして訂正させて頂きます(編集部)。
ボイスチャットの最新トレンドは「3Dポジショナルボイス」。ボイスが相手の立ち位置から聞こえてくるという機能で、ゲームの臨場感を向上させるために非常に効果的。最近では独自実装でこの機能を実現しているゲームもあるが、「TeamSpeak 3」などの最新ボイスチャットソフトでもサポート例が増えてきている |
■ 仲間内で自前サーバーを立てるならこれ! オープンソースウェア「Mumble」
「Mumble」のプロジェクトページ |
トーク中のユーザー名がゲーム画面にオーバーレイ表示される |
まずご紹介したいのは、BSDライセンスのオープンソースソフトウェアとして開発が進められているゲーマー向けボイスチャットソフト「Mumble」だ。プロジェクトはSourceforge.jpにて公開されており、日本語にも対応している。プロジェクトページはこちら。
「Mumble」はユーザーが自前でサーバーを立てて運用するクライアント・サーバー方式のソフトで、サーバーソフト「Murmur」も同プロジェクトページ上で公開されている。最大の特徴は、極めて高機能なボイスチャットソリューションでありながら、完全無料で全機能が利用できることだ。
まず音質面では、ビットレートをクライアントソフト側で8kbpsから96kbpsまで無段階で調整可能。およそ30~60kbpsほどに設定すれば非常にクリアな音質を確保できる。しかも音声のバッファ時間をスライダーで調整でき、最小10msまで縮めることができる。体感上は全くラグなしという状態までもっていけるので、動きの激しいゲームにもバッチリだ。
機能面ではチャンネル作成・管理といった基本的なものから、プッシュ・トゥ・トーク(任意のキーを押している間のみマイク入力を有効にする機能)、ボイスアクティベーション(音声を感知してマイク入力を有効にする機能)といったボイスチャットソフトに必要な基本機能を完璧にサポート。その上で、発声中に他のアプリケーション(ゲーム等)のボリュームを任意のレベルに下げる機能、ボイスチャット参加中のプレーヤー名をゲーム画面にオーバーレイ表示する機能もあり、まさにゲーム向けにデザインされたソフトといえるだろう。
「Mumble」の画面はシンプルだが、その中身は非常に高機能。設定画面では音声の遅延から3Dポジショナルボイスの設定まで、動作を細かく制御できる |
「Mumble」のサーバーブラウザ。各地にパブリックサーバーを見つけることができる |
さらに面白いのは、ボイスチャットだけでなくIRCライクなテキストチャットもサポートする点。人前でしゃべるのが苦手なシャイな人でも大いにコミュニケーションできる。しかもテキストチャットは読み上げ機能に対応しており、ゲーム中でチャット画面が見れない人に、テキストを音声で伝えることが可能という親切設計だ。
そして極めつけは、対応する各種ゲームで3Dポジショナルボイスチャットを実現するという機能。つまり、チャンネル内の相手の声が、ゲーム内の相手の位置から聞こえてくるという機能だ。
これはプラグイン形式で各ゲームに対応する仕組みで、「Counter-Strike」から「Battlefield: Bad Company 2」まで数十タイトルに対応している。距離による減衰量などもスライダーで調整可能で、好みのサラウンド具合でボイスチャットを楽しめるあたり、まさに専用ソフトならではのものだろう。
最大接続数はデフォルトで100人となっているが、自分でサーバーを立てるなら自由に変更可能。murmur.iniというファイルをちょろっと編集するだけで各種設定を変えることができる。これまでサーバー系ソフトを運用したことがある人なら朝飯前でカスタムサーバーを立てられるはず。プレーヤーコミュニティのリーダー格をやっている方には是非おすすめしたいソリューションだ。
自分でサーバーを立てられない人は、「Mumble」のサーバーブラウザ上で各地のパブリックサーバーを見つけることができるので、どこかに安住の地を求めてみるというのもいいかもしれない。その際は各サーバーのルールに従った利用を心がけることを忘れないようお願いしたいところだ。
ゲーム中の3Dポジショナルボイスはプラグイン方式で対応している。プラグインの開発キットが公開されており、技術をもつユーザーが自分たちで対応ゲームを広げて行っているという状況だ |
■ Facebookで使える! クラウド型ボイスチャットアプリケーション「Vroom」
「Vroom」。Facebookアプリとして提供されているボイスチャットソフトだ |
専用ソフトを導入するのは面倒だという方には、Facebookアプリとして提供されている「Vroom」がオススメだ。これはボイスチャットに特化したミドルウェア企業である米Vivoxが開発しているAdobe Flashベースのソフトウェアで、PCやPS3のオンラインゲーム多数で採用されているボイスチャットシステムをWebから誰でも利用できるようにした、というものだ。もちろん完全無料で使える。
使い方は簡単。既にFacebookのユーザーになっているなら、アプリのページから「Vroom」を見付け出してクリックするだけ。必要な設定等もほとんどないので、PCに詳しくない人でも問題なく利用できる。ワンクリックで自分のボイスルームが開設され、Facebook上のフレンドをルームに招待したり、チャンネルのリンクを出してTwitterや他の手段でユーザーを招待することも可能だ。
ここまでの説明ではただの「簡単に使えるボイスチャットソフト」と思われるかもしれないが、この「Vroom」が他のボイスチャットソフトと決定的に異なる点は、いわゆるクラウド型サービスの一種であるということだ。
「Vroom」の音声データはVivoxが運営する巨大なサーバーを経由してやりとりされる仕組みで、1チャンネルあたり最大7,000人という凄まじいキャパシティを誇る。ゲーム友達が1万人以上いる人でない限り、接続数が問題になることはないというわけだ(その前に誰が誰だかわからなくなりそうだけれども)。
北米に設置されたクラウドサーバーを経由するという理由から通信には若干のラグがあるものの、筆者実測では200ミリ秒程度(光回線を使用)で、特に激しいゲームでもなければ問題はないレベル。音質は非常にクリアで、Flashベースのアプリであるということもあり難しい設定なしに満足のいくボイスチャットが楽しめる。
「Vroom」上にはいくつかのパブリックチャンネルも用意されている。ちなみに「Vuvuzela」というチャンネルに入ってみたら、Vuvuzelaという名のユーザー(BOTだと思われる)が延々ブブゼラの音を鳴らし続けており、思わず笑ってしまった |
ちなみに「Vroom」の基板となっているVivoxサーバーは、Vivoxの技術を採用した各種ゲームをはじめ、電話・携帯電話の通信網にも接続されている。つまり、「Vroom」から電話をかけることが可能なのだ。実際にそのためのインターフェイスもある。その逆も可能で、携帯電話から「Vroom」のチャットチャンネルに参加することも可能だ。ボイスチャットの利用法に全く新しい形すらみえてきそうである。
とはいえ現時点ではサーバーが北米に設置されている関係から、電話番号は国際番号1(アメリカ合衆国・カナダ)で始まる番号になっている。日本の電話から利用すると国際通話料金になってしまうので、現時点では日本から利用できる機能は自ずと限定されることになる。
日本でも抵抗なく利用できそうな機能としては、Vivoxの技術を採用した各種ゲームから「Vroom」のチャンネルに参加できるというものが将来的に計画されているようだ。これまでにないクラウド型ボイスチャットソリューションということで底が知れない「Vroom」。続いて次章ではこのアプリケーションを提供しているVivoxについてもう少し詳しく触れてみよう。
Facebook、Twitter上でチャンネルに招待する機能のほか、ダイレクトリンク、はたまた電話でチャンネルに参加する方法まで用意されている。Vivoxの関係者によれば、いずれ対応ゲーム内からの通話も可能になるようだ |
■ ゲーム開発ミドルウェアでもある「Vivox」のちょっといい話
前述の「Vroom」の基板となっているVivoxの技術、実はゲーム関連で既に広く使われている技術でもある。ミドルウェア企業であるVivoxは米マサチューセッツ州に本拠を置き、2005年に設立されてのちゲーム向けのボイスチャット技術を提供する事業で急速な成長を遂げている最中だ。
筆者は幸運にもそのVivoxのスタッフに取材を行なうことができ、その実態を詳しく聴くことができた。まず驚かされたのは、Vivoxのボイスチャットを使っているエンドユーザー数。現時点で200カ国、2,700万アカウントに達しているという。これはPlayStation Network(累計会員数5,000万以上)やXbox LIVE(アクティブ会員数2,500万以上)といった、ゲーム機向けのネットワークサービスに比肩する数字だ。
なんでこんな膨大な数にふくれあがっているのか? それもそのはず、Vivoxのボイスチャット技術は非常に幅広いゲーム関連サービスで使われているからだ。代表例として挙げられるだけでも、米Linden Labのメタバース「Second Life」、アイスランドCCP GamesのMMOG「EVE Online」、Sony Online Entertainmentの「Ever Quest」シリーズや「Star Wars Galaxies」などなど、北米系のMMO系ゲームはほとんど網羅している。今後リリースされるゲームとしてはElectronic ArtsのMMOG「All Point Bulletin(APB)」や「Battlefield 3」でも採用されており、小規模対戦型のゲームでも珍しくないものになっているようだ。
ゲームエンジン系への組み込みも進んでおり、MMOG向けエンジンである「BigWorld」をはじめ、「Multiverse」、「Monumental」、「Hero Engine」、そして「Unreal Engine」へのインテグレーションが完了している。ボイスチャットをサポートする相当数のゲームでVivoxの技術が使われていると見ていいだろう。
世の中には他にもボイスチャットのミドルウェアが存在するはずだが、どうしてVivoxにこのような勢いがあるのか。その理由は「Vroom」の解説でも触れた、クラウドサーバーの存在だ。特にMMO系のゲームにおいて、ボイスチャットをサポートする際に開発者が頭を悩ますのが音声データをやりとりする回線とサーバーの問題。Vivoxはクライアントサイドの技術だけでなくサーバーそのものも提供することでこの問題を根本から解決し、MMO系ゲームを中心にうってつけのソリューションとなっているわけだ。
それでけでなく、ボイスチャットの技術において最新のトレンドとなっている3Dポジショナルボイスにも早くから対応している。今回のVivoxへの取材では、「All Point Bulletin(APB)」の中でボイスチャットが3D空間に配置されて発声される様子を実際に見ることができた。他に3Dポジショナルボイスチャットを売りにしているボイスチャットミドルウェアとしては、Dolbyの「Dolby Axon」が挙げられるが、実際に採用例が出てきているという点を見るにVivoxに1日の長があると言えよう。
その他にも、1チャンネルで7,000人が収容可能というキャパシティ、シャイなプレーヤーのために用意されたボイスチェンジャー機能、電話網にも接続された本当の意味でのクロスプラットフォーム機能など、Vivoxのボイスチャット技術は業界の最先端を行っている。
Vivoxの設立者Monty Sharma氏は、今後この技術をPS3とPC、PCとWebというクロスプラットフォームのサービスに成長させていきたいと語っていた。また、勢いを増すソーシャルゲームの世界も重要なターゲットであり、「Farmville」のデベロッパーZyngaのような企業との協業も視野に入れているよう。Vivoxはボイスチャット技術の雄としてますます存在感を増していきそうだ。
【Vivox採用ゲームタイトル例】 | ||
---|---|---|
EA「All Points Bulletin」 | Runewarker Entertainment/アエリア「Rune of Magic」(邦題「ミスティックストーン」) | Linden Lab「Second Life」 |
■ 結論:現時点で最高のボイスチャットソリューションは?
というわけで、オープンソースソフトウェアの「Mumble」、クラウド型ソリューションの「Vroom(Vivox)」をご紹介したが、いかがだろうか? タダで使えて、高音質で、大人数でも……と、ゲーマーにとって都合のいい話が世の中にはあるんだなあと思っていただければ幸いだ。
とはいえ上記2つにはそれぞれの強みと弱点がある。「Mumble」は専用ソフトであり、音質など各種設定が自由自在なかわりに、サーバーを立てるだけのPCスキルを自分で持っているか、あるいはそういう人物が身近にいなければ手軽に使えるとは言いがたい。「Vroom」はこれ以上なく手軽であることが強みだが、細かなカスタマイズは一切できないこと、サーバーが北米にあるため日本からの利用は多少のラグが発生することなどが弱点だ。
完全に無料で使えるという条件の中で、どれが最高のソリューションとなるかは、おそらく受け手のスキルやコミュニティのありかたの問題になってくるだろう。PCゲームとはそういう、自分に合わせた選択が求められる世界で、だから面白いのだと思う。
(2010年 7月 12日)