【連載第41回】大人による大人のための洋ゲー連載

Game Dudeの「大人のための海外ゲームレポート」

俺のWiiもついにMature指定!! 日本発の脅威のバイオレンスアクションを逆輸入
「MadWorld」

  • ジャンル:サードパーソンアクション
  • デベロッパー:Platinum Games
  • パブリッシャー:SEGA of America
  • プラットフォーム:Wii
  • 価格:49.99ドル
  • レーティング:ESRB:Mature(17歳以上推奨)
  • 発売日:3月10日(北米版)

 Wiiは間違いなく現世代機では最も成功したゲームプラットフォームである。他プラットフォームが十分に取り込めていないカジュアル層から絶大な支持を集めたことで圧倒的なトップシェアを獲得するに至った。その一方で、刺激の強いハリウッドスタイルのゲーム、いわゆるMatureレーティング(17才以上推奨)タイトルのセールスが難しいプラットフォームになってしまった。事実発売されるタイトルのほとんどが家族の誰もがプレイできるようなファミリー向けタイトルで占められており、Wiiのラインナップに物足りなさを感じているコアゲーマー層は決して少なくないだろう。何を隠そう筆者もそのひとりだ。

 今回紹介する「MadWorld」はそんなWii市場に一石を投じるタイトルだ。本作の特長はいかに「殺し」を楽しむかという趣旨のアクションゲームで、バイオレンス性が極端に高く、おおよそ子供には見せたくないジャンルのものだ。開発は日本のPlatinum Gamesが行なっており、国内の新進気鋭スタジオが送るバイオレンスゲームとして高い注目を集めたタイトルだ。

【お断り】
 当連載でご紹介したゲームは日本国内で流通しているハードウェアでは動作を保証するものではありません。編集部では海外版ハードウェア・ソフトウェアを輸入して紹介しています
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■ これまで何度か試されていたコアゲーマー取り込み作戦

主人公ジャック。40オヤジには見えないカッコ良さ
エージェント・サーティンの正体とは……!?

 任天堂のプラットフォームは伝統的にカジュアル向けのゲームが多く、ユーザー層も自ずとカジュアル層が多いという傾向がある。結果としてコアゲームファンはプレイステーションやXboxといったハイスペックを前面に打ち出したゲームプラットフォームへと流れ、誰が意図したわけでもないが、綺麗な棲み分けがなされている。

 しかし、肝心の任天堂は必ずしもそうとは考えていない。わかりやすい例を挙げると、過去に任天堂自身がMatureタイトルを投入してコアゲーマー層に対するアピールを仕掛けたことがある。2005年8月に発売されたゲームキューブ用FPS「Geist」がそれだ。本作の開発は「Duke Nukem」の家庭用ゲーム機版などを手がけてきた、フロリダに拠点を置くスタジオn-Spaceが行ない、パブリッシングは任天堂自らが行なった。

 「Geist」は実体をもたない霊体の主人公が敵味方様々なキャラクターに乗り移って進めていくアイディアが秀逸なFPSで、公開当初は非常に期待されたタイトルのひとつとして、E3でもメディアから注目度の高いタイトルとして扱われていたが、実際のところは開発期間が長引き、ゲームの展開もごく平凡なものにまとまってしまい、アピール・セールス面共にコアゲーマー層に十分訴えかけられるものには結びつかなかった。

 その後、任天堂はコアゲーマー向けタイトルは「メトロイド・プライム」シリーズや「ゼルダ」シリーズを中心に展開し、任天堂自身は「Geist」以降Matureタイトルは出していない。しかし、実はサードパーティーによるMatureレーティングタイトル発売の門戸は閉ざしている訳ではないのだ。

 良い例がRockstar Gamesが2007年10月に発売した「Man Hunt 2」だ。このゲームは「MadWorld」よりも犯罪的な趣向の強いゲームで、殺人ゲームという題材は同じだが、陰惨の度合いは遥かに同作の方が強く、米国でも発売にあたっては騒ぎになった経緯もある。バイオレンスでは「GTA」も凌駕するタイトルがWii向けに発売されている点は決して任天堂がこのジャンルを好むユーザーに対して興味がない訳ではない、というあらわれではないだろうか。

 また、つい先月ニンテンドーDS向けに発売された「Grand Theft Auto: China Town Wars」も同じようにMature指定のゲームであり、当然のごとくユーザー層の拡大は常にあらゆる切り口から狙っているものと思われる。ただしこれらは米国市場の話であり、日本ではこの解釈が必ずしも通用するものではないということは予めお断りしておきたい。リージョンごとに異なる戦略があるのは当然のことで、米国で出てるから日本でも行けるという考えはレーティングの規定などを抜きにしても、必ずしも「当たり前」ではないという事は、よくよく認知しておく必要があるだろう。

 


画面全体が血まみれになるような勢い様々な殺しテクを駆使するのだ


■ 24時間で死に至る! ウィルスが蔓延する都市で開催された恐怖の殺人ゲーム

クリアしたエリア間は自由に行き来できる
ヘルガスト兵ではありません

 「MadWorld」のストーリーは「オーガナイザー」と呼ばれるテロリストが、Varriganシティーと呼ばれる島に建設された都市を占拠したことで幕を開ける、彼らは、島の全域に24時間以内に必ず死に至るというウィルスをばらまき、「助かりたいなら他人と殺し合え、殺した方にワクチンが与えられる」という声明を出し、街中のエリアが「デスウォッチ」と呼ばれる殺人ゲームの舞台として急速に変貌を遂げて行くという狂気の世界が舞台だ。

 主人公ジャック・ケイマンは40代のオッサンでありながら元海兵隊員にして右腕にチェーンソーを仕込んだ戦闘のベテラン。過去に開催された「デスウォッチ」ゲームを連覇した経歴も持っている。無法地帯と化したVarriganシティーに乗り込み、「エージェント・サーティーン」というゲームのスポンサーとマネジメントをしている謎の人物に取り入って危険極まる殺人ゲームに再び身を投じることになる。

 ゲームの舞台となるVarriganシティーは全体がいくつかのエリアにわかれ、更に各エリアがいくつかのセクションに細分化されている。各セクションにはボス格のキャラクタが待ち受けており、主人公ジャックは各セクションに設置された「殺人」ゲームをクリアしてポイントを稼ぎ、一定のポイントに達した時点でボスとの対決に望む。またボス対決前には中ボス格のキャラクタも登場するため、ゲームプレイはなかなか忙しい。

 プレイを進めて行く上で、開放されているセクション・エリアは自由に選択できるようになっており、1度クリアした場所でも更なるハイスコアを狙って何度でもチャレンジが可能になっている。ストーリーもしっかり用意されており、ゲーム内容に相応しいハードコアで重厚な内容で、ぜひとも日本語環境で楽しみたかったと感じさせてくれる。

 なぜ街にウィルスがまかれたのか、ワクチンを持つ組織の黒幕は?エージェント・サーティーンの正体は?デスウォッチゲームはなぜ行なわれるのか?様々な謎はゲームを進めて行くと明らかにされていくが、字幕が用意されていないのがちょっと厳しい。ゲームの合間に挿入されるシーンはよく見ておいたほうがゲームに対する感情移入も高まるというものだ。

 登場するキャラクターの声はハリウッド声優・俳優が担当しており、主人公ジャック役には数々の日本アニメの英語吹き替えで活躍している、スティーブ・ブラムがあてている。彼はアニメ「カウボーイ・ビバップ」の主人公スパイク・スピーゲルの声(もちろん英語版)を筆頭に様々なアニメ、ゲームのキャラクタに声を吹き込むベテラン声優で、本作でも過去を内包するジャックの声を雰囲気良く演じている。

 その他、テレビドラマの傑作「特攻野郎Aチーム(原題:The A-Team)」でクレイジーモンキー役をつとめた俳優ドワイト・シュルツ(彼は最近ゲームの声をあてる事が多い)も参加しており、ゲーム全体の世界観づくりに彼らの演技力が大きく寄与しているが、何と言っても殺伐とした世界観づくりに1番大きい効果を挙げているのは、独特なゲームのビジュアルだ。

 「MadWorld」のビジュアルは、映画版「シン・シティ」のように全体がモノクロの世界で構成されており、プレーヤーはハードコアのコミックでも読んでいるかのようにゲームを進めていく。アクションをすると効果の吹き出しが現われたりするところは、まんまコミックのノリで、モノクロの世界に鮮血だけ真っ赤に表現されるあたりは、映画「シン・シティ」を観た時と同じような強い印象をビジュアルから受けること間違い無しだ。

 操作はWiiリモコンとヌンチャクコントローラを使う。操作性はカメラまわりにややストレスを受けるものの、おおむね良好でジャックの戦闘スタイルをプレーヤーの身振り手振りで行なえる点はWiiの醍醐味を体感できるゲームと言っても良いだろう。戦闘中では両コントローラを激しく振る場合が多いので、誤ってコントローラーをすっ飛ばさないように要注意だ。


モノクロで描かれた世界がハードコア感を増すアメコミのような吹き出しがユニーク
ストーリーが進むにつれ様々なキャラクタが登場右腕の義手に仕込んだチェーンソーが唯一の味方
登場する敵はエリアによって特長がついているモノクロに鮮血の赤が映える


■ ゴア表現は当たり前、ジャック流殺しのテクニックを堪能しよう

使えるものは標識でも使え!
その場にある物を殺しに利用できる

 ゲーム本編の大まかな流れは前述の通り。「MadWorld」最大の特徴は何と言っても主人公・ジャックが繰り出す様々な殺しテクニックに尽きる。襲いかかる敵をチェーンソーや力まかせに粉砕したり、周囲にある物を使って殺すのが本作の醍醐味なのだ。ゲーム中にはプレーヤーが覚え切れないのではないか? と思われるくらいの殺し技が用意されており、敵をまとめて倒せばコンボボーナスがもらえ、凝った倒し方をすれば高得点ゲット、ステージクリアの道が早まるという次第だ。

 敵を倒す表現もそのままストレートに腕・首・胴体が吹き飛んだり串刺しになったりミンチになったりと多種多様。戦闘で敵の腕をもぎ取ったり背骨らしきものを抜いたりと、どこの究極神拳だと思わせるジャックの殺しテクは、残虐性を通り越してギャグの領域に達している。だからといってバイオレンス味が薄まるという訳ではないため、プレーヤーを選ぶゲームであることは確実だ。

 おおよそのテクニックは最初のチュートリアルで学ぶことができるが、フィニッシュがパンチとチェーンソーの2種類あること、タイヤで敵の身動きを封じた上で標識を突き刺したり、ファンやスパイクに突っ込んだりすると通常時よりもハイスコアがもらえたり、トイレやクルマといった物を使うとユニークな倒し方が展開されるといったことを覚えておけば、細かい事は考えなくても問題ない。

 Wiiリモコンとヌンチャクによる戦闘は直感的で、例えば敵の首の骨をねじって折る行為はWiiリモコンとヌンチャクをグッと左右に引いたり、何かを突き刺す時はリモコンを上から下に振りかざしたり、チェーンソーで斬る場合は横に払ったりと、Wiiならではのプレイ感覚を楽しむことができる。

 ボス戦などでは「Gears of War」や「God of War」などで見られるつばぜり合いのようなシーンに突入することもある。これは単純に両タイトルで採用されているタイミングによって正しいボタンを押すことで自分の攻撃が成功し敵に大ダメージを与えるというアクションをWiiリモコンで再現したもので、リモコンとヌンチャクを激しく振ったり、左右に引いたり、払ったりという動作に差し変わったものと考えれば良い。必死に戦っている雰囲気が出ている。

 何気に重要なのがヌンチャクを振ることで発動する回避運動だ。(単なるバク転とも言うが)回避中は実攻撃からは無敵になるので、敵の弾をよけたりする際に多用する。これをきちんと使う場所で使えるか否かが重要なところだ。ゲームは残機制で0になるとゲームオーバーになる。

 各エリア攻略中はクリアするまで一切セーブができないため、ボス戦などでゲームオーバーになると、最初からやり直しになってしまう。この設定は非常によくない。ストレス解消のアクションゲームなのに無駄なストレスをためる大きな原因になってしまっている。

 各ステージ中に用意されているチャレンジゲームは、どれもユニークで面白い。なおかつクリアのために必要なポイントを稼ぐために避けては通れない要素だ。いかに効率よく敵をまとめて倒すかという点に焦点が置かれているものと、素早く狙いを定めて得点をゲットするものにチャレンジの系統が分かれているように思える。

 前者は例えば、稼働中の飛行機エンジンへいかに大量の人間を放り込んで巻き込むかとか、走ってくる列車に放り込むといったものであり、後者は的に敵を投げ飛ばして当たった場所によってポイントが得られるといったものだ。どちらも自分が死なない限り低スコアでもペナルティはないが、頑張らないと先に進めないので、チャレンジでつまらないミスをして残機を減らさないよう、ハイスコアゲットに勤しまなければならない。

 全般的には、序盤のエリアではザコ敵もほどほどの抵抗しかしてこないが、エリアが変わってゲームの展開が進むとザコ敵でもあなどれない。体力が減った場合はアイテムで回復できるほか、武器なども用意されているため適宜ゲットしてボス戦に持ち込まなければならない。ボス戦は登場するゴングを叩くことでスタートするため、体力が減った状態などで慌ててボス戦に突入せず、不足しているものがあればステージをまわって調子を整えてからボス戦に挑むことができる。

 ボスはどのエリアにも1人おり、どいつもこいつも非常に個性的な存在だ。倒し方にもそれぞれ工夫が必要で、とりあえず突っ込んで殴るだけではまず倒せない。この辺、日本のデベロッパーが開発したゲームらしいデザインで、手強い敵でも対戦を続ければ倒すためのパターンが何となく、プレーヤー側が理解できるようにつくられているようだ。何度かゲームオーバーになったが、落ち着いて動きを読めば、あっけなく倒せたことが多かった。


あわれミンチに……よく狙って撃つべし
エンジンに敵を放り込め!リモコンを振りすぎて飛ばさないよう注意
列車に何人放り込めるかな?ゴングを叩けばボス戦のスタートだ


■ 上っ面ではなくゲームの本質を体験して欲しい1本だがハードルは未だ高し

様々な敵は行く手に待ち受けている
バイクを駆るステージも用意されている

 「MadWorld」はストーリーがしっかり備わったアクションゲームではあるものの、デザインの基本は「Smash TV」のような昔からある残酷無差別攻撃系のアーケードゲームを現代に相応しいゲーム内容に仕立てたものと言っても差し支えない。大昔はただ方向を定めてひたすら撃つだけだったが、テクノロジーが進歩して攻撃方法に様々なバリエーションを持たせ、より高い表現力でプレーヤーを高揚させてくれる。

 従って色々なシチュエーションで人を殺して楽しむ残酷非道ゲームのように見えるが、それはどちらかというと同じWiiで発売されている「Man Hunt 2」のようなゲームの方が深く掘り下げている題材であり、本作の神髄はあくまで敵をプレーヤーがバッタバッタと料理していく様を楽しむことにある。「北斗の拳」のケンシロウが悪漢を木っ端みじんに叩く人間離れした爽快な戦いと、スティーブン・セガール出演作品のようなハリウッド映画的アクションをまとめて楽しめるお買い得作、それが「MadWorld」の世界なのだ。

 本作は「ありえないだろ」的な殺し技を次々に発動してスコアを稼ぐ「ゲームっぽさ」を追求しているが、アーケードスタイルを追求しすぎたせいか、前述のセーブのタイミングなどプレーヤー側の負担をおざなりにしているのではないかという点は気になった。また特徴的なビジュアルがアダとなって、大きな敵とジャックが重なると何をやっているのかがわかりにくく、攻撃をしても当たっているのか外れているのか見当がつかなくなる場合が多々あった。もう少し敵にリアクションを持たせたりすることで視認性を増大してくれると、一層楽しくプレイできたはず。

 また、ストーリーを追っていくにあたり、様々な展開がプレーヤーを待ち受けているのだが、どうやらステージ中に登場する様々なボスキャラは、あれだけ個性的な面子でありながらゲームのバックグラウンドには一切かんでいないようで、ちょっと拍子抜けしてしまったところがある。プレイ中の見落としかもしれないが、会話っぽいシーンもないため、あれだけ人間離れした連中が黒幕と繋がってないのであれば、ストーリー的にちょっとおかしい…というか舞台となる街自体が、もともと怪物みたいなヤツらが住んでいることになり、ちょっとおかしい気がしたのは細かい指摘だろうか。

 Platinum Gamesは同社第1弾となる「MadWorld」で国内のスタジオが海外の著名なスタジオに負けないセンスと力を持っていることを証明してくれた。しかし惜しいかな、日本のWiiユーザーが本作をプレイできる機会はほぼないと思われる。ゴア表現と大量出血はプラットフォーマーの判断以前にCEROの定めた基準に合いそうにない。それら表現を削るとゲーム自体が成り立たないため、残念ながら日本の市場には投入できないタイトルだ。

 EAの「Dead Space」に引き続き良質なアクションゲームが登場したため、機会があればゲームファンにはぜひ1度プレイしてもらいたい1本なだけにとても残念。レーティングという規定が何のために存在するのか、バイオレンスゲームをプレイすると本当にプレーヤーへ悪影響をもたらすものなのか、市場性に適応するか否か、売れるか売れないかはさておき、そろそろじっくりと考えてみる時期に来ているのではないだろうか。

 「MadWorld」の欧米におけるセールスが成功することで、Wiiプラットフォームにおけるコアゲーマー向けタイトルが増えることを願うばかりだ。


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