【連載第5回】開発者が語るiPhone/iPod touchゲームの最先端
■iPhone Spotlight Report■
「エースコンバット」シリーズを手がけた「Project ACES」がiPhone/iPod touch版で唯一無二の新体験を開発した理由とは?
世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。 |
キービジュアル |
株式会社バンダイナムコゲームスは、東京ゲームショウ2009に合わせて、iPhone/iPod touch用の新作フライトシューティング「ACE COMBAT Xi Skies of Incursion(仮)」を発表した。本作では、PSP用「ACE COMBAT X -Skies of Deception-」の世界観を継承し、同作に登場したオーレリア国の空軍「グリフィス隊」の別働隊である「ファルコ隊」の活躍が描かれている。
開発は「エースコンバット」シリーズを手がけた「Project ACES」チームが担当。その開発者の1人であるコンテンツ制作部本部 プロデューサーの加藤正規氏に、東京ゲームショウの会場でインタビューできたので、その内容をお届けしよう。さらに同社のNE事業本部でiPhone/iPod touchを担当している山田大輔氏にも同席していただき、今後のiPhone/iPod touch用タイトルの展開やビジネスについて伺った。
■ 移植ではない、iPhone/iPod touchならではの気持ちよさを追求
グラフィックスは細かい部分がPSP版から作り直されており、iPhone/iPod touchに合わせた美麗なものになっている |
沈みかける夕日に向かって飛んでいく光景が美しい |
機体や地上も緻密に描かれている |
――開発はいつから始めたのですか?
加藤正規氏: 正式にスタートさせたのは、今年の春からです。
――実際にiPhone/iPod touchで開発してみて、いかがでしたか?
加藤氏: ゲーム画面を見ていただくとわかると思いますが、素材はPSP用「ACE COMBAT X」から持ってきて使っています。しかしiPhone/iPod touch版では、デザイナーが細かいところを作り直しています。PSPで表示した上での綺麗な見せ方と、iPhone/iPod touchでの綺麗な見せ方は違うからです。開発当初にPSPのままのやり方でiPhone/iPod touchに表示してみた時も、結構綺麗に見えると感じたのですが、デザイナーがひと手間加えると全く違うものになりました。iPhone/iPod touch版にはビジュアルの美しさや処理の速さを稼ぐためのグラフィックスのテクニックが、ふんだんに使われています。移植をやっているだけだったら、これだけのクオリティにはならなかったと思っています。この点は自信を持って言えます。
――会場で実際に触らせていただきましたが、かなり完成度が高いですね。iPhone/iPod touch版では本体を手前や奥、左右に傾けて、飛行機を操縦していきますが、開発で苦労されたのではないですか?
加藤氏: この操作感にたどり着くまで3カ月もかかりました。iPhone/iPod touch自体を直接傾けて飛行機を操縦する際に本体を傾ければ、当然スクリーンの見える角度も変わっていき、もっと動かして本体を裏っ返しにしてしまうと画面が見えなくなってしまいます。飛行機は360度回転できるので、その感覚を再現するのが大変でした。プレーヤーによって、どの程度傾ければどれだけ反映されるのか、という感覚は違います。どの程度の傾き加減が全てのプレーヤーにとって最もいいのか、何度も試してパラメーターを調整していくのに苦労しました。
――なるほど、単純に見える傾き操作でもそんな苦労があったのですね。
加藤氏: iPhone/iPod touchの重力センサーは性能がよく、やろうと思えばもっと戦闘機をぐるんぐるん動かせるのです。ですがあまり動いてしまうと、画面を見ているプレーヤーも訳がわからなくなってしまいますので、ちょうどいい感じで上がったり下がったり、宙返りができるようにしてあります。
――最初は操作感に戸惑うものの、慣れてくるとコンシューマー機ではなかったタイプの操作感が楽しめるのがいいですね。最初から傾きでの操作を考えていたのですか?
加藤氏: 他のゲームメーカーさんがやっているように、コントローラーを全部タッチパネル上に再現すれば、PSPと同じような操作を実現するキーは作れます。ですがそれをやってしまっては、せっかく新作を作っている意味がありません。そんなものを作るくらいなら移植した方がマシだと思い、絶対に傾きで操作するんだという姿勢で開発していましたし、やってみて気持ちいいものが作れなかったら意味がないなと考えていました。
――ゲーム開始時にiPhone/iPod touch本体の水平位置を確認されますが、あれは何のためですか?
加藤氏: 本作の場合、本体をあらゆる方向に傾けて操作するので、水平位置が重要になります。iPhone/iPod touchなどのポータブルゲーム機の場合、満員電車の中で縮こまってプレイする時もあれば、寝っ転がってプレイしたい時もあると思うのです。据え置きのゲーム機と違って、いつでもベストな状態でプレイできるわけではありません。しかし正しい姿勢ができない状態の時でも気軽に遊んでいただきたいので、細かくキャリブレーションできるようにしました。
――iPhone/iPod touchでないと体感できない新感覚な操作系になっているのが素晴らしいですね。
加藤氏: ゲーム紹介のコピーにも書かせていただきましたが、「新体験、新体感」という部分を味わっていただきたいと思っています。コンシューマー版のシリーズのように、大きな画面で腰を据えてやっていただくのも「エースコンバット」シリーズの醍醐味のひとつですし、それを楽しみにしている方もいらっしゃると思いますので、今後もコンシューマー版は作っていく予定です。でもそれだけではなく、いろんな生活シーンの中で遊んでいただけるゲームとして、今回iPhone/iPod touch版を作りました。PSP版を作った時も同じようなコンセプトで臨んでいます。
【スクリーンショット】 | |
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標準が赤くなったら画面右下の「MSSL」をタッチしてミサイルを発射 | iPhone/iPod touch本体を左に傾けると、このように左方向に旋回していく |
■ 短時間で遊べて、プレーヤーを満足させる総プレイ時間を目指す
PSP版よりもマップがコンパクト化され、短時間で楽しめるようになっている |
――ゲームの進行はミッションをこなしていく形ですか?
加藤氏: はい、ミッションクリア型になります。
――1回のミッションにかかる時間はどのくらいと考えていますか?
加藤氏: コンシューマー版の「エースコンバット」では、1つのミッションを大体15~20分でクリアできます。しかしiPhone/iPod touchで本作を遊ぶ方は、ちょっとした時間の合間に遊ぶと予想されるので、そんなに長くは考えていません。3~5分程度でサクッと楽しめるような内容にしていこうと思っています。
――ミッション数はどのくらいですか?
加藤氏: 最低でも4、5ミッションは予定してますが、まだ確定していません。総プレイ時間は、そんなに何時間もかじりついて遊ぶようには考えていません。ふと気がついた時に遊んでもらえるようにしたいと考えています。コンシューマー版のように、朝から夜までずっと遊べてしまうようなゲームを作るつもりはないので、恐らく10時間もかからないと思います。しかし、それがプレーヤーにとって満足できる総プレイ時間であると思って制作しています。
――これまでのシリーズ作のように、増援が多数出てきて大変なことになったりしないのですか?
加藤氏: 今作では、飛行機の出し方やAIもいじっていて、かなりタイムリーに敵機が出て来てくれるようになっていると思います。前作までのように満を持して登場する形よりも、ユーザーがより盛り上がれるような出方にしています。
――機体の数はどのくらいを予定していますか?
加藤氏: いま考えているのは、最低でも12機くらい。あとはどこまで増やしていこうかというところです。
【スクリーンショット】 | ||
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Su-47の試作型「S-32」や、高い汎用性を持つ「XFA-24A Apalis」などが見える。PSP版「ACE COMBAT X」では26機の機体が登場したが、iPhone/iPod touch版ではどうなるのか? |
■ PSP版に登場した“ファルコ隊”の物語が描かれる
iPhone/iPod touch版のオリジナルストーリーが用意されている |
――ストーリー的にはPSP用「ACE COMBAT X」で語りきられていない話が、本作で展開されるのでしょうか?
加藤氏: そうですね。ファルコ隊は「ACE COMBAT X」の後半の方に無線でちょっと出てきましたが、今作では活躍します。PSP版の世界観を作った時に、あの中でいろんな飛行隊が活躍して話を紡いでいったという風にしてあり、当然バックストーリーも作ってはあります。PSP版はその中のメインストリームだけを紹介していったので、そこで語られなかったサイドストーリーもあります。今作ではそのサイドストーリーをゲーム化していこうかなと考えており、ファルコ隊が物語の中軸になっています。
――そうすると、今後ウケがよかった場合は、他の部隊の話などが出てくる可能性もあるのでしょうか?
加藤氏: あるかも知れないですね。
――「エースコンバット」シリーズのファンは、ストーリーも気になっていると思います。昔、出てきた話が次のシリーズに出てくるだけでテンションが上がります。
加藤氏: そういうことを期待していただいているファンの方には、少なくともご期待を裏切らないようにしていきたいと思います。とはいえ、iPhone/iPod touchでじっくりお話しを見られるといっても、ゲームに慣れてくると純粋に空中戦を楽しみたいという人も多くなってくると思います。そのため今回は、あまりストーリー的に深掘りはしていませんが、当然いままでのシリーズ作を遊んでいただいているファンを裏切るような作りにはしていないつもりです。
――サウンドもかなり大迫力で、気合いを入れて作られているように感じました。
加藤氏: 東京ゲームショウの試遊機でヘッドフォンを使って音を聴いてもらった人は、音圧というか、耳に聞こえてくる迫力が圧倒的だと感じてもらえたと思います。東京ゲームショウに出展しているバージョンでは「エースコンバットX」と同じ曲がかかっているのですが、別の曲に聞こえるほど、広いダイナミックレンジでいい音が出ています。これもiPhone/iPod touch自体が音楽プレーヤーの素地を持っているハードウェアだからだと思います。
――今回iPhone/iPod touchで開発してみて、どこに魅力を感じますか?
加藤氏: お客様の反応や評価などを随時見ながらアップデートしていったり、コンテンツを組み替えていったりできるのが、最もいいところだと思います。今回の東京ゲームショウでもいろんなご意見をいただいているのですが、それに対しても即反応できます。
――そのほかに家庭用ゲーム機などと違う魅力はありますか?
加藤氏: iPhone/iPod touch自身がゲーム専用端末ではなく、音楽プレーヤーだったり、携帯電話だったりという要素も持っています。そのため普段はゲームをやらないような幅広い層にゲームを楽しんでもらえる可能性があります。これまで「エースコンバット」シリーズに1度も触れたことがない方に、新しい体験をしてもらいたいですし、これで「エースコンバット」の面白さをわかってもらい、他のシリーズ作品も楽しんでもらえればと考えています。新たなユーザーの開拓というところにiPhone/iPod touchが一役買ってくれればと思っています。
■ 価格は話し合い中。コンテンツと市場を見て判断
もう1枚のキービジュアル。アプリ内課金で機体やミッションが追加されれば、かなり長く遊べそうだ |
――ユーザーのターゲットとして考えているのは、日本ですか? それとも北米ですか?
加藤氏: いまのところは欧米ですが、これは単純に本体の普及台数を考えてのことです。「エースコンバットX」は日本でも多くのユーザーさんに買っていただけましたし、モバイルゲームは日本で支持を受けているマーケットでもありますので、日本の多くのユーザーさんにも楽しんでいただけると思っております。
――価格はどのくらいになる予定ですか?
山田大輔氏: まだ検討中です。iPhone/iPod touchでは価格を自由に設定できますので、コンテンツのクオリティやボリューム、市場の状況などを考慮しながら価格を決めていきたいと思っています。iPhone/iPod touchビジネスにおいては価格設定がとても重要で、これほど開発スタッフと価格について深く話し合うものはないというほどです。あまりにも安い価格にしてしまうと市場を壊してしまい、我々が次のタイトルを作れない事態になりかねないので、お客様が満足できて、クオリティに見合った値段を付けていきたいと考えています。
――機体やミッションなどをアプリ内課金で有料販売していくことは考えていますか?
山田氏: 具体的なことは決まっていませんが、ゲーム内課金も検討材料の1つに入っています。iPhone/iPod touchはそういった展開ができるのも魅力のひとつだと考えています。
■ 年内は「ACE COMBAT Xi」を含め、10本近くのラインナップを用意!
今回の東京ゲームショウに出展されたiPhone/iPod touchゲームは「ACE COMBAT Xi」だけだが、他にも年内に10タイトル近く用意しているそうだ |
――御社のiPhone/iPod touch用ゲームの制作体勢はどのようになっているのですか? モバイルゲームを開発していた部署が専門的に作るわけではないようですが。
山田氏: コンテンツ・バイ・コンテンツでやっていきます。今回のようにコンシューマーゲームを作っていたチームが制作することもありますし、モバイルゲームでやっているものをiPhone/iPod touchに持ってくる場合もあります。さらに外の開発会社と組んでやることもあれば、米国で作ってしまう場合もあります。まだ1年ぐらいの市場なので、いろいろなやり方を試してみて、コンテンツごとにベストなケースを探している段階です。
――今後さらにiPhone/iPod touch用ゲームに力をいれていく予定ですか?
山田氏: 先日サンフランシスコで開催された新製品発表会の基調講演の中で発表されましたが、iPhoneとiPod touchは、5,000万台オーバーという数になっています。さらに、アプリのダウンロード総数が有料・無料あわせて18億あるとのことでした。そのようなデバイスが市場にある以上は、ゲームメーカーとして手を出さない理由はどこにもありません。我々のミッションとして、今後より一層グローバル市場への展開を推し進めていかなければならないということがあります。その点でiPhone、iPod touchは優れたデバイスであるだけでなく、優れた配信経路も持っていますので、今後も積極的にコンテンツを配信していきます。
――ちなみに今後予定されているタイトルはどのくらいありますか?
山田氏: 企画中、開発中の諸々を合わせると2桁近いタイトルを準備しております。その中には今回の「ACE COMBAT Xi」のような大作もあれば、以前GAME Watchでもご紹介させていただいた「のびのびBOY」の様な異色のタイトルもあります。楽しみにしていてください。
――今後のラインナップが楽しみですね。本日はありがとうございました。
■ TGS2009会場限定のデコレーションシールをプレゼント
東京ゲームショウ2009の会場では、「ACE COMBAT Xi Skies of Incursion(仮)」をプレイした人に、iPhone/iPod touch用のデコレーションシールを配布していた。こちらを特別に10枚いただいたので、読者の皆様にプレゼントしたい。会場へ行けなかった「エースコンバット」ファンの方は、ぜひともご応募いただきたい。
【応募方法】
応募締切 :10月12日 23:00 まで
当選発表 :発送をもってかえさせていただきます
応募方法 :下記のフォームに入力して、送信してください
※ 応募フォームの送信はSSL対応ブラウザをご利用ください。SSL非対応のブラウザではご応募できません。
※ ご回答いただいた内容(データ)は、当選者の選考および、プレゼントの発送にのみ使用し、その他の目的で使用することはありません。
ACE COMBAT Xi (C)2009 NBGI (C)GeoEye (C)JAPAN SPACE IMAGING CORPORATION.
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□バンダイナムコゲームスのホームページ
http://www.bandainamcogames.co.jp/
□「ACE COMBAT Xi Skies of Incursion(仮)」のページ
http://www.acecombat-xi.com/
(2009年 10月 2日)