コメディアンBJ Foxの脱サラゲームブログ

連載第24弾

ゲームブック好きの日本人の皆さんヤッホー! イギリス人の僕が「ファイティングファンタジー」シリーズの傑作「火吹山の魔法使い」を語るよ

 近年、任天堂のバーチャルコンソールやインディーズのピクセルスタイルゲームが人気で、ゲーム業界の中「懐かしいなぁ」という声を出さざるを得ないシーンが多くなってきた。

 でも、このイギリス人にとっては、今年の5月には、その懐かしさの度合いが新記録を達成した。これはもう今までゲームで体験したことのないようなレベルだ! 「Stardew Valley」のレトログラフィックを見たときより、最近のNintendo Switch Onlineへ追加された「ダブルドラゴンII」の音楽を久しぶりに聞いた瞬間よりも、はるかに懐かしいタイトル!しかも、厳密に言うと、ゲームでもないんだ!

 なんと「火吹山の魔法使い」が、Nintendo Switchに登場したんだ!

【火吹山の魔法使い】

 僕は全然知らなかったのだけど、ちょっと調べてみると、そしてゲームの日本語版の発表のネット上のリアクションからみると、ゲームブック、その代表格としての「ファイティングファンタジー」シリーズは、日本でもかなり人気だったみたいだね。

 でも、本家本元のイギリスにおいて、僕の子供時代にこのシリーズがどこまで重要な存在だったか、なかなか説明できないほどだね! 1980年代のイギリスでは、このシリーズが爆発的に人気だった。そこからビデオゲームやテーブルトークRPGにでもはまっていった僕はもちろん大好きだったが、僕だけじゃなくて現代のアラフォーのイギリス人のおっさんたちは誰でも懐かしい思いを持っているだろう。

【火吹山の魔法使い】
まあ、厳密にいうと、「火吹山の魔法使い」はゲームでもなくて、ゲームブックだ。原本は「ファイティング・ファンタジー」のChoose Your Own Adventure (直訳:「自分の冒険を選ぼう。」、正式訳は「きみならどうする?」らしい)のゲームシリーズだ

 僕の小学校の図書館にもこのシリーズはもちろん取り扱っていたが、ずっと貸し出しっぱなしだった。あまりにも人気だから学校側は、「一晩のみ」と言う制限を設置したくらいだ。そして6年生の誰かがパズルの解き方や成功のルートを本に鉛筆で書き込んでしまうというスキャンダラスな事件が発生したせいで、最終的に学校内では“禁書”として扱われることになってしまった。なんか、このようなゲームブックが有害図書モノとして指定されるなんて、素直な時代だったね、と思うしかない。

 「ファイティングファンタジー」シリーズは、よく漫画やアメコミと比較されるが、私が子供の頃、あまりアメコミがそんなに人気がなかった。専門店に行かないと購入できないし、イギリスコミックスは全然別だった。キャプテン翼的なサッカー物語「Roy of The Rovers」もあったし、2回ほど映画化された「ジャッジ・ドレッド」があった。だから、80年代若いとき男の小学生が誰でも読んでいたモノとしては、「ファイティングファンタジー」シリーズは、イギリスの「ドラゴンボール」のような存在と言えるかもしれないと思うよね。

【ビジュアルはGames Workshop風?】
一応イギリスのレジェンドゲームクリエイターのイアン・リビングストン氏、スティーブ・ジャクソン氏の「ファイティング・ファンタジー」シリーズの再現と名乗っているが、ビジュアルは、その名人たちのもう一個の代表作であるGames Workshopに近い

 ご存知の通り、当時の「ファイティングファンタジー」シリーズを牽引した無名、若手小説家はイアン・リビングストンとスティーブ・ジャクソンの2人だった。そこから、まるでChoose Your Own Adventureシリーズのタイトル通り、自分たちの趣味を生かして好き放題なキャリアを選んだかのように、伝統的な経歴を描いてきた。すなわちWarhammer、Games Workshop、Eidos、Lionhead Studioだよね。彼らにとっての原点がようやくゲームとなったことは素敵だね。

【当時を再現したイラスト】
原本のページから飛び出してきたかのようなイラストでゲームプレイのビジュアルが補強される

 「火吹山の魔法使い」をゲーム化する上で、ディベロッパーTin Man Gamesはかなり「ゲームブック」の役割をルーズに解釈している。

 火吹山のダンジョンの中でお化けや厳しい罠に遭遇するにつれて、もともとのブックに出てきそうなイラストなどが出てくるし、原本と同じくどんどん自分のコースを選択していく。そのほかのゲームプレイの様子、特にグラフィックは、どちらかというと、リビングストン氏やジャクソン氏の別の代表作のGames Workshopに近い存在だ。

 キャラクターはミニフィギュアとなり、動きまでもまるでボードゲームを操っている感覚だ。攻撃もごく簡単なストラテジーでもあり、本当のGames Workshopや他なストラテジーゲームに比べ物とならないが、もともとのゲームブックシリーズと同じく、RPGへの入門バージョンのような存在だ。

【キャラクター】
最初に選択できる4人のキャラクターだ! それぞれのストーリーやバックグラウンドも持っているし、それぞれのクリア条件もあるため、繰り返し楽しめる

 1回のプレイセッションも割と短め。ゲームブックと同じように、必ず毎回毎回クリアできるもんじゃない! プレイして、選択して、選択肢を誤ってたまに即死、たまに最後の近くまで行って強いヤツに倒されてしまう!

 今までにプレイした回数で学んだ知識を今回こそ生かしてもう少し深くあのダンジョンに下がっていけるようなフロー。もちろんゲームだから、解き方を鉛筆で軽く書き込むことはNGかつ不可能だ。プレイセッションの短さ、そして毎回毎回もう少し深く解けて行くゲームプレイでは、原作のエッセンスがよく再現されているなと思った。即死プレイへ超アンチな僕でも、この作品、そのシリーズなら返ってウェルカムだね。懐かしい!

 スタートからミニフィギュア4個、つまりキャラクター4人からチョイスできるし、割とすぐに新しい4人もアンロックできる。各キャラクターは別々のバックグラウンドを持っているし、嬉しいことにそれぞれの火吹山に挑戦する動機もクリア条件も持っている!さらに、やり込みコンテンツやもう一度プレイする楽しさが上がった。半分嬉しくて半分残念! 場合によっては、例の魔法使いに出会わずにもクリアすることもあるんだよね!

【Your Quest Is Over】
さすがゲームブックの再現だけあって文章が多いんだけど、「Your Quest Is Over(あなたのクエストは終わりを迎えました)」は一番見たくない画面だろう。ほぼダークソウルの「YOU DIED」の祖先と言っていいくらいだね。一番下の画面は、魔法使いと会わずにプレイしていたキャラクターのクリア条件を達成してしまった、成功の画面だ! ありがた迷惑!?

 なお、最後の最後に、追伸としてもう一つを紹介したいんだ。一応ゲームでななくテレビドラマのことで、「名探偵ピカチュウ」の記事の次に「またゲームじゃないの?僕らのメディアはゲームだよ!」と編集長に怒鳴られないように、こっそりと最後に入れ込む。(知っての通り、中村編集長は「火吹山の魔法使い」よりもよっぽど恐いんだ!)。

【『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』予告編 - Netflix [HD]】

 どうしてついでに紹介したいと思うのは「バンダースナッチ」という作品だ。「君ならどうする?」や「ファイティングファンタジー」シリーズのもう一つの素晴らしオマージュだ。

 「ブラック・ミラー」というSF連載シリーズの長編版・映画版のようなもので、舞台は80年代のイギリス、主人公は自分のビデオゲームを発売できるように心がけている若手ゲームデザイナーなんだ。主人公はそうと言っても、視聴者もそうだ。なぜかというと、画面い表示されてくるボタンを通じて「君ならどうする」シリーズと同じく全てを決めるんだ。映画なのに、10個以上のエンディングがある。超おすすめだ!しかも脚本家は、イギリス人のチャリー・ブルッカー氏であり、もともとPCゲームのライターさんだった! 観てみてください!