西川善司の3Dゲームファンのための「東京ゲームショウ2009」グラフィックス講座
ホリデーシーズン必見の3Dゲームグラフィックスはこれだ!
【著者近影】 | ||
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東京ゲームショウ、自分はビジネスデー2日目に行ってきました。ソニーブースのCERO Z指定タイトル展示セクションに入場するには自分の年齢を証明するための写真入りの身分証を提示しないと駄目。認証が済むと18才以上であることを証明するプラカードを渡される。我々のような見るからにとうが立ったおっさんでも「OVER-18」カードを首から提げなければならず、ちょっとした羞恥プレイ状態に。この恥辱を耐えられてこその18才以上なのである……ということなのか? 個人ブログはこちら |
東京ゲームショウ2009(TGS2009)。今年、筆者はビジネスデーにのみ参加。新ハードが出ればそこに話題が集中するもので、今年は「PSP go」が日本では初めての一般お披露目となるわけなのだが、ビジネスデーということもあってか、来場者に対する反応は意外にクールであった。
結局、個人的にはTGS2009は「値下げ」の話題に湧いた開催だったように思う。新型の薄型PS3、これに合わせてのXbox 360の値下げ。続いてWiiの値下げ。なによりインパクトが大きかったのは、PSP-3000がニンテンドーDSよりも安い16,800円となったこと。
ソニーとしては、次世代PSP2に向けてUMDをフェードアウトしていきたい思惑があることは明白で、PSP-3000の値下げには売り切りのニュアンスが込められている可能性がある。若年層ユーザーにとっては、UMDがなくなると事実上ゲームの貸し借りができなくなってしまうPSP goよりは、値下げされてお買い得感の増すPSP-3000の方に魅力を感じるという見方が多く、年末商戦では駆け込み購入が期待される。
さて、本連載TGS編では、会場で見かけたタイトルのうち、3Dグラフィックスの側面から筆者目線で目を惹いたタイトルをピックアップして紹介していくことにする。
■ 「Forza Motorsport 3」(マイクロソフト)~表示フレームレートの6倍、“360”fpsの物理シミュレーションは“3”にも継承
「Forza Motorsport 3」3画面プレイ体験コーナー |
「Forza Motorsport 3」のコックピットビュー。内装を正確に再現。写真はAUDIのフラグシップスポーツ「R8」のもの |
マイクロソフト・プラットフォームのシミュレータ志向のレーシングゲームの最新作。3Dグラフィックス的には1080p、60fpsを実現しているが、それよりも物理シミュレーションの更新頻度を表示フレームレートの6倍である360fpsに設定している点が本シリーズの特長となっている。これは「Forza Motorsport 2」の時から開発チームがこだわっていた部分で、今作「Forza 3」でもちゃんと継承されている。
例えば300km/hで走行している車があったとして、これは1秒間に約83m進む。60fps換算すると1フレームあたり約1.4m進む。もし、物理シミュレーションを1フレーム単位でやっているとすると、なんと物理シミュレーション精度としては約1.4m単位となり、かなり大ざっぱなものとなってしまう。
Forzaシリーズでは表示フレームレートの6倍の更新頻度で物理シミュレーションを行なうことで、300km/hの超高速域であっても、わずか約23cm単位の精度で車両物理シミュレーションを行なっているのだ。360fpsの具体的なシミュレーション項目としては、路面とタイヤとのコンタクト、クラッチのエンゲージ率、サスペンション挙動、タイヤの温度変化、空気圧変化などが挙げられている。「Forza 3」ではこれらにくわえ、新たに、コーナリング時の荷重移動による四輪の「タイヤのたわみ」までがこのレートでシミュレートされるという。
【「Forza 3」の物理シミュレーション】 | |
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タイヤのたわみまでが再現される「Forza 3」 | |
超高速域でも正確な車両挙動を算出する「Forza 3」の物理シミュレーション |
車両物理というとどうしても、エンジン出力と駆動系にばかり目が行くが、もともと、四輪車の最終出力はタイヤの接地面によって路面に伝わり、さらに路面からの入力もタイヤの接地面からやってくる(他、空力などの要因もあるが)。「Forza 3」のタイヤへのシミュレーションへのこだわりは理にかなったものなのである。
「Forza」シリーズの車両物理シミュレーションの特徴としてアライニングトルク(Aligning Torque)の概念を取り入れたことも、レーシングゲームの車両物理シミュレーションを1ランク上のものに引き上げたとされている。これも「Forza 3」では継承されている。
アライニングトルクとは、走行状態が前輪を「ある方向」に整列させようとする力のこと。ショッピングカートを押したときに車輪がクルっと進行方向に従うように整列するあの現象もアライニングトルクだ。
アライニングトルクは、車体の進行方向とタイヤの摩擦係数の動的変化、そしてその時点での前輪の向きに応じて全く働き方が変わってくる。例えばアライニングトルクは、タイヤのグリップが失われると減少する。アンダーステア時には前輪のグリップが失われているのでアライニングトルクもなくなってしまう。この時アライニングトルクを取り戻すためには、ブレーキロックさせない範囲でブレーキを掛けて車速を落としてグリップを取り戻すのがセオリーとなる。
一方、最近のレーシングゲームでまじめに実装が始まっているカニ走りの「ドリフト」だが、これはグリップを失った後輪の直進フォースよりも、前輪のコーナリングフォースが上回り、車体が巻き込んでいく状態から始まる。この時、カウンターステアを切ることをドライバーは本能的に知っているが、この操作により前輪のグリップが回復し、スピンを抑制する力が生まれ出す。この時のアライニングトルクはそのカウンターステア方向に働くようになる。
「Forza 3」がステアリングコントローラーでプレイしたときにその挙動がリアルに感じられるのは、車両物理シミュレーションの結果としてアライニングトルクを算出し、これをステアリングコントローラーのフォースフィードバックに反映しているためだ。
いわゆる一般的なレーシングゲームで実装されているような「逆方向に持って行かれるだけの適当なフォースフィードバック」ではないため、自分の現実世界の運転経験がゲーム内に反映できるのだ。だから、レーシングゲームでありがちな「ステアリングコントローラーだと真っ直ぐ走れない」という現象は「Forza 3」では起こりにくいのである。もしかすると、場合によってはゲーム内で体験したことが現実世界のドライビングにフィードバックすることもできるかもしれない。
【アライニングトルク】 | |
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アライニングトルクの概念を採用しリアルな運転感覚(プレイ感覚)を再現した「Forza Motorsport 3」 |
さらに「Forza 3」では、「Forza2」で実現された派手なダメージ表現に加えて、ついに「横転」が実現されることとなった。これは、実車系レーシングゲームではCodenastersの「GRID」が実装したことで話題を呼んだが、「Forza 3」でも正式採用されている。コーナリング時の外輪側と内輪側の外向きへの力の差が大きくなりすぎた際に起こりうる現象だが、これは実はシミュレーションレベルでは「Forza2」でもその状態を算出できていた。これまでは「ゲームとしての表現上の問題」として横転を抑制していた。「Forza 3」では登場車種全車の裏面も再現した上で、横転を実現させている。ただ、シミュレーション結果として、完全に車体が裏返しになりそうなときには、「神の力」を作用させて、必ず、四輪が地面にコンタクトする姿勢に戻るという。また、車輪が外れてしまうような表現もない。
「Forza 3」は、ブースでは3ディスプレイ・プレイ環境をメインに展示していたが、製品版では最大5画面プレイにまで対応しているという(正面3画面、リアビュー、中継ビュー)。マルチディスプレイ環境でプレイするためにはディスプレイ台数分のXbox 360とソフトが必要になり、Xbox 360同士はシステムリンク(LAN接続)で繋ぐ。ちなみにマイクロソフト関係者に問い合わせたところ、マルチディスプレイ環境同士の対戦には未対応だとのこと。つまりXbox 360を6台、ディスプレイ6台、ソフト6本で3画面×2のプレイ環境同士の対戦はできないと言うこと。
登場車種400台の全てに高品位な内装表現を実現し、さらに全登場車種にダメージ表現を実装したことを謳っている。「Forza 3」は今期、最も期待して良いレーシングゲームの決定版だ。
【収録車】 | |
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日本の走り屋御用達の定番名車は一通り収録 |
■ 「Forza3」最大のライバル「グランツーリスモ5」(ポリフォニーデジタル)はどうだったか?
GT展示セクションにはメルセデスAMGのフラグシップスポーツ「SLS AMG」が展示されていた。フランクフルトモーターショーでお披露目になったばかりの車種。GT5のイメージカーはこれ? |
高い完成度を見せる「Forza 3」の一方で気になるのは、最大のライバル「グランツーリスモ」(GT)だ。ソニーブースにはPS3版「グランツーリスモ5(GT5)」も展示されていたが、ポリフォニーとしては今回、やはり力を入れているのはPSP版「グランツーリスモ」の方であり、PS3版の完成度は、まだまだといった感じだった。
グラフィックス的にもコース奥の描画境界のポッピングが目立ち、ポストプロセスは全てオフにされ、アンチエイリアスもなく、ダメージ表現は一部の車種に限定されていた。ステアリングでプレイしたときの感覚も「Forza3」のプレイ後だと、もう“ひと味”上質のリアリティが欲しいところ。
ただ、あくまで今回の展示バージョンはまだまだ予告編という位置づけであることに注意したい。「Forza3」関係者も、今回の「GT5」の状況を見て喜んでいるわけもなく、むしろ「ここで優劣を判断するのは時期尚早である。彼らの力はこんなものではないはずだ」というクールな見方をしていた。筆者もその通りだと思う。
ただ、「GT5」は、「Forza3」超えを目指してやってくることは間違いないはずで、実際、プロデューサーの山内一典氏は「登場車種950車種以上」、「車両物理シミュレーションの一新」をTGS2009プレスカンファレンスで発表。しかも、以前はあれほどやらないと言っていた「ダメージ表現の採用」にも、ついに乗り出すことを明言。950車種の全てに内装表現とダメージ表現を実装してくるには相当なマンパワーとエンジンの再設計が必要なはずだが、レーシングゲームの分野をさらに盛り上げるためにも是非やって頂きたいし、1ファンとしてもそこに期待したい。
「GT5」と「Forza3」のデッドヒートは、最終コーナーを立ち上がったところだが、今回のTGS2009では決着していない。
■ 「アンチャーテッド・黄金刀と消えた船団」(SCE)~今期PS3最高グラフィックスはこれか
「アンチャーテッド・黄金刀と消えた船団」試遊コーナー |
考古学アドベンチャーの「アンチャーテッド」シリーズは、2007年に初回作が発売されていて、隠れた名作としてPS3ファンの間では絶対的な支持を得ている。音声は日本語吹き替えもちゃんと行なわれていて、やたら多い息継ぎと抑揚の付けた台詞回しの雰囲気は、まさに洋画吹き替えといった風情。非常に力の入ったローカライズ作品だったのだが、発売当時は残念ながら鳴かず飛ばず。しかし、最近では再評価が高まってきていて、筆者も含め、2年遅れでシリーズのファンになるユーザーも多い。そんな不遇な名作の第2作が今年10月15日に登場する。
今世代ゲームグラフィックスの「三種の神器」とされる「法線マップ」、「動的影生成」、「HDRレンダリング」をそつなくそして嫌みなくさらりと使いこなし、リニア進行のゲームながら空気遠近表現を巧みに取り入れたオープンフィールドっぽいアンビエントはお見事。
モーションブラーや被写界深度の使い方もゲームプレイに邪魔にならない程度のダイナミックさがあり、アドベンチャーゲームとしての伸びしろも感じる。やはり見どころは、大局的な物理シミュレーションを演出表現として効果的に取り入れているところ。ゲーム性にはそれほど深入りしてこないが、ゲーム世界のリアリティ表現としては必要十分な効果を出している。PS3のCELLプロセッサのパワーをゲームプレイの爽快感実現に活用した好例だと言えよう。
日本では前作が「不遇」だったこともあり、意図的に「2」のナンバリングを省略しているが、ぜひとも「1」からプレイして欲しい作品。プレイが終わる頃には、きっとヘタレ気味な冒険家ネイトのファンになっているはず。
【アンチャーテッド・黄金刀と消えた船団】 | ||
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本作はファーストパーティーのNAUGHTY DOGが開発していることもあってPS3専用ソフトだ |
■ 「アバターTHE GAME」(Ubisoft)~DUNIAエンジン採用作第2弾
「アバターTHE GAME」試遊コーナー |
取材に応じてくれたUbisoftエグゼクティブ・プロデューサーのPATRICK NAUD氏 |
青い肌のパンドラの原住種族ナビ族。尾があり、身長は3メートルにもなる巨人だ |
ジェームズ・キャメロン監督の大作SF映画「アバター」の公開に合わせて発売が予定されているのがこの「アバターTHE GAME」だ。
人類が外宇宙に飛び出した遥か未来。太陽系から最も近い恒星系アルファケンタウリに到達した人類は地球環境に酷似した原始惑星パンドラを発見。豊富な資源を確認した人類は惑星侵略を開始するが、パンドラには地球にかつて存在したような恐竜型の巨大爬虫類と、これらと共生する巨大ヒューマノイドのナビ族が棲息しており、侵略の障害となる。そこで人類が考案したのが、ナビ族のクローンに、地球側の軍人の意識を転送し、“すり替わり”によって征服していこうという狡猾な計画「アバター・プログラム」だ。
「宇宙人による惑星侵略」の概念を全く逆転させて、人類が他惑星を侵略していくという設定がユニークなこのSF映画は12月18日より公開予定。なお、ゲームは映画の追体験を楽しむものではなく、映画の物語の時間軸よりも前に設定されているとのこと。プレーヤーは映画の主人公とは別人となる。
この作品に採用されているゲームエンジンは「FarCry 2」に採用された「DUNIAエンジン」だ。俗称「FarCry 2」エンジンとも言われるこのエンジンは、プロシージャル技術を先駆的に採用したことで注目を集め、この連載でも何度か紹介してきているものだ。
アバターでは、惑星パンドラの熱帯雨林ジャングルのリアルな再現が求められたため、この分野の表現に長けたDUNIAエンジンが必然的に採択されたとのこと。圧倒的な高密度で生い茂る熱帯雨林のジャングル表現は、DUNIAエンジンのプロシージャル植物生成によって実現されているもの。同種の植物であってもそれぞれが異なる形状をしているのは、アーティストデザインのモデルを複製配置しているのではなく、プロシージャル生成しているため。
太陽の浮き沈みで空の天球色が刻々と変化し、昼と夜とではジャングル内の同一シーンでも光景として全く異なってくるのが面白い。このリアルタイム昼夜表現は必見だ。ちなみに、DUNIAエンジンに対するアバター向けのモディファイについてはほとんど行なっておらず、「FarCry 2」からのマイナーチェンジしか行なわれていないという。アバターのゲーム仕様を構築する上で、DUNIAエンジンの仕様的には不満がほとんど無かったということらしい。
【アバターTHE GAME】 | ||
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植物表現はDUNIAエンジンのプロシージャル生成によるもの。枝葉に着弾すればそこから折れる |
人類の惑星侵略に立ち塞がるのはパンドラに棲息する恐竜達 |
パッシブタイプの眼鏡立体視システムで「アバターTHE GAME」を立体視プレイが楽しめた。Xbox 360ではこのシステムでのプレイに対応する予定 |
ゲームシステムそのものは「ロストプラネット」ライクな3人称視点タイプのシューティングゲームのスタイルを踏襲。1人称視点だった「FarCry 2」とは大きく異なる部分だ。また、Ubisoftエグゼクティブ・プロデューサーのPATRICK NAUD氏によれば、「FarCry 2」の時はオープンフィールド過ぎてプレーヤーに自由度がありすぎたことを反省して、「アバター」では遊びやすいリニア進行のデザインにしたとしている。
ブースではXbox 360版を用いて立体視でプレイできるデモを展示。ディスプレイにはヒュンダイ製の立体視対応液晶モニタを使用。液晶パネルの水平画素1ラインごとに左右の偏光方向が90度違う光出力を行なうタイプのモニタだ。左の目用の映像と、右目用の映像を1ラインずつ交互に光の位相を90度ずらして表示しており、これを左右で偏光位相の90度ずれたフィルタを貼った眼鏡で見ることで立体視を行なう。
このラインバイライン立体視方式では映像解像度が半分になってしまうが、フレームレートは維持でき、眼鏡側に電源が不要にできるため、ゲーム向きの立体視とされる。ただし、今回のデモで用いられたような特別仕様なディスプレイが必要となるのが弱点と言えば弱点。いずれにせよ、ジェームズキャメロン側の意向もあって(映画も立体視に対応)、Xbox 360版は立体視プレイに対応したバージョンとして発売されるという。PS3版の立体視対応については未定。DUNIAエンジンベースのアバターとしてはPC版の発売も予定されている(日本ではPC版は未定)。
機動兵器に乗り込んでモンスターに立ち向かうゲーム性は「ロストプラネット」によく似ている。惑星侵略という世界設定も類似している | ナヴィ族としてのプレイも可能 |
【「アバター THE GAME」プロモーションムービー】 |
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■ 「スプリンターセル・コンビクション」(Ubisoft)~新世代ステルスアクションはスタイリッシュに!
「スプリンターセル」シリーズ最新第5作目となる「スプリンターセル・コンビクション」も注目の作品だ。KONAMIの「メタルギア ソリッド」シリーズに並ぶステルスアクションゲームの人気シリーズだが、今作では国務機関のエージェントをクビになった主人公サムが殺された娘の敵を討つために国を敵にまわして暴れ回るというエキセントリックなシチュエーションが話題を呼んでいる。
3Dグラフィックス的にはありふれたテクニックである投射テクスチャマッピングを、ゲーム進行のオリエンテーリングメッセージをスタイリッシュに見せるために活用するという表現が印象的。これはシステム的には「ビジュアルメッセージ」という機能名が与えられた。
かつて所属していた特務機関「サードエシュロン」を敵にまわしての復讐劇が繰り広げられるシリーズ第5弾「スプリンターセル・コンビクション」 |
ゲーム内世界にオリエンテーリングメッセージが表示されるスタイリッシュなビジュアルが話題を呼んだ。尋問で自白させた内容は、脳内映像の再生という形でゲーム世界に投影される |
敵に見つかったときの箇所がアイコン映像として描かれる |
もうひとつ印象的な表現なのは「ラスト・ノウン・ポジション」(LNP)と呼ばれるもの。これは敵に自分の姿をあえて見せることで作動するシステムで、敵に自分の姿が知覚されると、その位置にイラストタッチの透明のサムが描き出されるのだ。
これまでのステルスアクションゲームで難しかったのは、敵が自分をどう認識しているかの表現。「メタルギア ソリッド」シリーズでは敵に「!」マークを表示させたりといった工夫があったが、LNPは「敵の知覚」をリアルタイム3D空間においてアイコン表現するという意味合いにおいてとてもユニークだ。
「ありそうでなかった」という意味合いにおいては前出の「ビジュアルメッセージ」とよく似ている。「スプリンターセル・コンビクション」は、奇抜な設定変更とスタイリッシュなゲームプレイでステルスアクションのさらなる進化に挑戦する。発売は2010年春。Xbox 360専用タイトルになる予定だ。
わざと敵に姿を見せて、敵に意識をそこへ集中させ、その裏をかいて背後から攻撃……といったアクションも可能。本作ならではのゲーム性 |
【「スプリンターセル・コンビクション」プロモーションムービー】 |
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■ 「HEAVY RAIN」(SCE)~PS3史上最高クラスのビジュアルはアドベンチャーゲームから
「HEAVY RAIN」は折り紙キラーの行方を追うアドベンチャーゲーム |
戦闘もあり。ただし、クイックタイムイベント的に適切なボタンを押していくことで進行する。コマンド入力は不要だが反射神経は必要 |
キャラクターやシーンへのインタラクティビティを限定する代わりに、ハイスペックな映像体験を提供することに特化しているユニークな作品。システムとしてはストーリー分岐型のアドベンチャーゲームの形を踏襲する。ゲーム内容は、殺人現場に折り紙を置いていく謎の連続殺人鬼「折り紙キラー」の行方を、4人の主人公達がそれぞれの事件捜査方法で追っていくというもの。
TGS2009の試遊デモでは、E3ではプレイできなかった退役警官で私立探偵のシェルビーでのプレイが体験できた。事前計算された大局照明によるアンビエント感溢れるライティングと、極力デフォルメを排除したリアルな人物表現が特徴的。
人肌の質感も非常にリアルで、肌のきめや産毛の毛穴なども法線マップで表現され、肌の陰影とハイライトの出方は、疑似的な皮下散乱シミュレーションを実装して行なっているように見える。また、表情アニメーションにもリアリティがあり、醜い顔、恐怖におののく顔など、多彩な感情表現をこれまたデフォルメなしで見せてくる。
ある意味、現行ゲーム機のリアルタイム3Dグラフィックスにおいて、リアル系人物表現のベンチマーク的存在になりうる作品。日本での発売も決定。発売日時は未定だが、今冬発売が約束されている。
大局照明を駆使した超リアリズム系ビジュアル |
このレベルの人面がリアルタイム3Dグラフィックスとして描かれ、しかもしゃべって動いての演技もする。必見 |
■ 「ロストプラネット2」(カプコン)~日本が世界に誇る「MTフレームワーク2.0」最新作
いわずとしれたカプコンの新世代ゲームエンジン「MTフレームワーク2.0」採用最新作。韓流スターとのコラボは今回は無しということで、キャラクター性が排除され、プレーヤーはEDN-3rdの制圧降下部隊の名もない兵士の1人として参戦することになる。一応、リニア進行するストーリーは存在するが、ミッションベースのゲーム展開となり、前作のようなヒロイック要素は薄まっている。
今作は、温暖化したEDN-3rdが部隊となったことで砂漠やジャングルのシーンなどが登場し、3Dグラフィックス表現の幅も広がっている。特にジャングルのシーンは、巨大生物×熱帯雨林植物というシチュエーションが前出のアバターによく似ている。着弾地点から植物の枝葉が折れたり、ロボットのような機動兵器“バイタルスーツ”に乗っての戦闘など、インタラクト要素までが酷似している。よくよく考えると人類の他の惑星の侵略という設定も同じだ。こういう偶然は時々ある。
さて、体験版でも楽しめるサンショウウオ型モンスターとの戦闘では、地味に凄いのが、風の表現が行なわれているところ。爆風やモンスターのアクションによって風が巻き起こり、煙が舞い、地面に生えている草木がなびくのだ。
当初予定されていた軟体表現や水面上の鏡像は現バージョンでは実装されていないようだったが、日本発の今世代機最高グラフィックスであることは間違いない。フルスペック表現版は今作でもPC版で再現されるようになるのか……。その進化のヘッドルームにも期待せずにはいられない。
今冬、先行発売となるのはXbox 360版。PS3版も今作ではそう時間を置かずに出てくるというからPS3ユーザーも期待していよう |
■ 「エンド・オブ・エタニティ」(セガ)~トライエース製新エンジンのフルスペック描画に注目
「スターオーシャン」シリーズなどを手がけてきたトライエースが開発し、セガが販売するRPG新シリーズ「エンド・オブ・エタニティ」、「スターオーシャン4」と同世代のトライエース自社開発レンダリングエンジンを採用するが、エンジン機能の活用熟練度が進んでいる関係で、印象的なビジュアル表現が目立つ。
HDRレンダリングは基本として、印象的な被写界深度表現、そしてムービーシーンではフィルムノイズの意図的な混入など、高解像度でパリリと綺麗だった「スターオーシャン4」と比べ、ビジュアルクオリティは一段上のものになっている。
ド派手なアクロバティック・ガンアクションがキービジュアルとなる今作では、まさにキーエフェクトとも言える、キャラクターの部位単位のモーションブラー表現「オブジェクト・モーション・ブラー(OMB)」が効果的に活用されているのもポイント。
PS3とXbox 360版が、ほぼ同時に今冬に発売される予定 |
■ まとめ~3Dゲームグラフィックスで見えてきた4つの方向性
wii向け「MAD WORLD」はSpikeより日本で今冬発売予定 |
この他、本文で取り上げた以外に「GOD OF WAR III」(SCE)や「アサシンクリード II」(ユービーアイソフト)などが目を惹いたが、本連載のE3編で詳しく触れているので今回は省略した。また、「人食いの大鷲トリコ」も、シアターでのプロモーションビデオ出典のみだったのでインプレッションは省略した。
この他、特記するべき事項としては、Wii向けのバイオレンスゲーム「MAD WORLD」が日本国内向けに発売が決定したということ。本連載ではE3 2008編で紹介しているが、モノクロのコミックレンダリングを基調とし、アクセント表現にのみカラーを採用したユニークなビジュアルが印象的な作品だ。担当者によれば、ゲーム本編の表現内容については欧米版との格差は無しとのこと。もちろん販売対象年齢は18才以上のCERO「Z指定」となる。
【人食いの大鷲トリコ】 | ||
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「ワンダと巨像」チームの最新作「人食いの大鷲トリコ」。来年こそは発売なるか!? |
【MAD WORLD】 | ||
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開発はPLATINUM GAMES。日本でもWii向けバイオレンスゲーム解禁となる |
さて、成熟期を迎えた今世代機の3Dゲームグラフィックス。おぼろげだが、ある傾向が見え始めてきた。PS3、Xbox 360は、共に卓越した演算能力、GPUパワーを持ったマシンではあるが、それぞれに強みと弱みががあり、当然のことながらその性能は有限だ。つまり、3Dゲームグラフィックスを構築するにあたっては、その有限なるコンピューティングパワー予算を、表現したい項目に重点的に割り振ることが必要になってくる。
ゲームごとに重視すべき表現要素のプライオリティは違うし、そこにクリエイターの好みが入ってくれば、その割り振りは人為的な偏りが出てくる。もちろんその偏りがいい意味を持つ場合もあるし、悪い方向に振られる場合もあるわけだが、そうした意味合いにおいて、各社、あるいは各プロジェクトごとに、大まかな傾向が見え始めて来たように思える。
まず、1つ目は、時間方向のスムーズな表現を重視するタイプの3Dゲームグラフィックス。これはつまりはフレームレート最重視型のゲームだ。「止め画」として見た目がリッチではなくてもいい。プレーヤーのインタラクションに対するレスポンスが時間軸方向に極めてシビアで、しかもそのフィードバックは連続的に得られなければ、ゲームプレイの楽しさが減退してしまうと考えられるデザインのゲーム。
具体的にはレースゲームが該当するだろう。例えば、「GT5」や「Forza 3」のようなレーシングゲームは、実際、60fpsを前提として開発されている。この60fpsを実現するためには他の要素のそぎ落としも辞さない。逆に展開スピードが人間の走行スピード程度に限定される3人称視点のキャラクタアクションゲームや1人称視点のシューティングゲームなどでは、フレームレートにこだわるタイトルは少数派だ。
2つ目は、ジオメトリ量を最優先するタイプの3Dゲームグラフィックス。ハイビジョンテレビでプレイされることを前提としているためか、ポリゴン数の多さに情熱を注いでおり、曲面表現の美しさに妥協を許さない。3Dモデルの形状クオリティにこだわりを持ったタイトルにこのタイプが多く、今期作品では「GT5」のカーモデルや「ファイナルファンタジー XIII」のバトルシーンなどがこのタイプに属する。
ただ、こうしたタイプの3Dゲームグラフィックスでは必然的にレンダリングコストとしてジオメトリ負荷が高くなり、ピクセル負荷に予算が割けなくなる傾向にある。このため、「GT5」では、ゲーム中の3Dグラフィックスはジオメトリ解像度は高いものの、1ピクセル毎への陰影処理は非常にシンプルになっている。また、レース中はほとんどのポストプロセスがカットされてしまっており、シェーダーヘビーなビジュアルはリプレイ時とフォトモードに限定する方策をとっている。
「ファイナルファンタジー XIII」は戦闘シーンなどでもほとんどクオリティの変化しない高品位なジオメトリ描写が行なわれているが、戦闘シーンではライティングは非常に限定的で、ポストプロセスも単純にするか、ほとんどがカットされている。その代わり、イベントシーンでは、カメラインしてくる登場キャラクターもコントロールして逆にリッチなビジュアル体験ができるように工夫している。
【グランツーリスモ5】 | ||
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残念ながらこのレベルの映像は、まだ公開されているゲームの中では再現されていない。ポストプロセス付きの高品位映像はリプレイ、もしくはフォトモード時のみ。そんな理由もあってか、ゲームプレイ時の画面素材はTGS2009では配布されていない。撮影も禁止だった |
【ファイナルファンタジー XIII】 | ||
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戦闘中の画面はジオメトリ解像度は高いがシェーダーは法線マッピング程度。エフェクトの旋光は単なるエフェクトで、光源となってオブジェクトを照らしていない。一方、イベントシーンではシェーダーリッチな画面になる。 |
3つ目はピクセルレンダリングコストに大きく予算を割いた3Dゲームグラフィックスだ。こうしたタイトルでは、フレームレート、もしくはジオメトリ解像度にある程度妥協するも、1ピクセルのレンダリングにヘビーなシェーダーを動かしたり、あるいは高度なポストプロセスを施すことを信条とする。今期作品では「HEAVY RAIN」などがそうだ。
「HEAVY RAIN」では、1キャラクタあたりのジオメトリ予算は贅沢に使っているが、そのかわり、プレーヤーに対して大胆な行動制限を行なうことで、カメラインしてくるオブジェクト数を抑制し、レンダリング負荷をコントロールしている。「HEAVY RAIN」は、映像美に特化した変わりに、ゲームとしてのインタラクティビティの自由度は制限してしまっているのだが、それをゲームデザインでプレーヤーに感じさせない工夫をしている。
4つ目は、全ての要素に対して、予算をそれなりに割り振った3Dグラフィックスだ。そのハードウェアの最大公約数的なビジュアルが楽しめるが、その代わり、アートディレクションを行なって特徴的な表現を行なわないと、似通ったビジュアルになってしまう。実際のところ、最も多くのタイトルがこのタイプに分類されると思う。
今期登場してくる多様なタイトル群は、各ハードウェアの“酸いも甘いも知り尽くした”上での3Dグラフィックスデザインとなっている。各タイトルの3Dゲームグラフィックスが、ここでカテゴライズしたどのタイプになるのか、あるいはどのタイプにも属さない全く新しいタイプなのか……。このあたりを気にしながら接すると、少し違った楽しみ方ができるかも知れない。
□東京ゲームショウ2009のホームページ
http://tgs.cesa.or.jp/
(2009年 9月 30日)