レビュー
ノベルゲーム「KANADE」レビュー
コンパクトでも抜群の読後感。植物が増殖した世界で送るボーイミーツガールはどのようなラストを迎えるのか
2025年6月11日 00:00
- 【KANADE】
- 6月12日 発売予定
- 価格:1,980円
2025年期待のPC用ノベルゲーム「KANADE(カナデ)」が6月12日に発売される。本作は、グッドスマイルカンパニーとフロントウイングがタッグを組んで発売する初のタイトル。2024年秋に2社の業務提携の発表と共にその存在がお披露目され、ゲリラ的な発表だったため個人的にかなり驚いたことを覚えている。
ゲームとしてはオーソドックスなテキストベースのアドベンチャーゲームである。最初に伝えておきたいこととして、2社がタッグを組んで展開する重要な第1作にふさわしい完成度になっていたと断言していい。これまでノベルゲームを遊んだことがない人にも手に取ってもらえるよう、ストーリーはコンパクトに、価格は2,000円以下に押さえつつも、クオリティに関しては非常に高い水準となっていた。
ボーイミーツガールに分類されるシナリオは、「euphoria」や「リルヤとナツカの純白な嘘」を代表作に持つ浅生詠氏が執筆。キャラクターデザインは「ATRI -My Dear Moments-」や「GINKA」を手掛けるゆさの氏が担当。制作を担当するフロントウイングの手によって美しくも退廃したポストアポカリプスの世界が描き出される。
なお、ネタバレに極力配慮し基本的には序盤から中盤にかけての内容にとどめているが、後半の内容を想起させる部分もあるため注意してほしい。
力作と表現がふさわしい「KANADE」のビジュアル
ノベルゲームという性質上、ストーリーについて最初に紹介したほうが作品の全体を掴みやすいかと思うが、今回はあえて先に本作のビジュアルに関して言及していきたい。前述したように本作はノベルゲーム「GINKA」の制作スタッフが関わる作品となっており、絵の上手さに関しては非常に高いクオリティで、本作も言わずもがな美麗なCGが豊富に用意されている。「GINKA」は夏を感じさせる青いビジュアルが多かったが、本作は緑が多い。全体的に落ち着いたカラーリングになっているが、光による色の変化の描き方が巧みで、CGにおいては場面や時間に合わせてヒロインのカナデが様々な色に変化する。
プレイする前までは、メインビジュアルなどを見た際にやや地味な印象を持っていたが、CGの美しさは目を見張るものがあり、終わった頃には美しいゲームであったとまで感じさせられた。
本作ビジュアルの美しさを引き立てている理由の1つにフルHDへの対応がある。昨今、AAAタイトルは4Kに対応しているタイトルも多いが、ことノベルゲームはフルHDが浸透しつつあるものの、HD画質を採用しているタイトルも多い。フロントウイングも2023年10月発売の「GINKA」まではHDであり、その後の「リルヤとナツカの純白な嘘」にてフルHDに対応。プレーヤー目線からすると、このフルHDへの対応がビジュアルの美しさを感じさせる要因になっていたと思っている。
筆者が最初に感動したのは初回起動時まで遡るが、ヒロインによるおなじみのメーカー読み上げの後に表示されるフルHDのタイトル画面がとかく綺麗に感じた。フルHD画質に対応したタイトルはゲーム業界全体で見れば"あたりまえ"ではあるのだが、イラストの迫力が倍増しているように感じたのだ。ノベルゲームは"ここぞ"という場面を1枚絵のCGで大きく見せられる点が強みであり、それがフルHDの対応によって遺憾なく発揮。フロントウイングの強みがありありと押し出されていた。
植物が繁殖した世界で送るボーイミーツガール
ここから改めて「KANADE」のストーリーについて紹介していく。本作は植物が大繁殖した世界を舞台としており、主人公の悠登(ゆうと)は住人たちと協力し合って生活していた。物語としてはここにヒロインのカナデがやってくる場面から始まる。
元々2人は遠く離れた場所に住んでいたものの、それまでは手紙を通してやり取りをしており、本作は悠登とカナデの出会いの直前からスタートする。カナデは人間と宇宙人のハーフで、「母の代わりにラブソングを歌い世界を救う必要があり、そのために恋に落ちなければならない」と言う。ストーリーの軸としてはこの「2人の恋愛模様」と「世界を救うためのラブソング作り」を中心に物語が進んでいく。
世界を救う必要があると言っても、人類が絶滅の危機に瀕しているわけではない。一方で植物が繁殖しており、現代の日本と比べると文明のレベルは大きく退化している世界である。車は存在するものの燃料が貴重であり、重機などは使うことができず、これによって人力で植物の駆除などをしなければならない状態になっている。
悠登の元にやってきたカナデは早々に一緒に暮らすことになり、街の困り事などを手伝いつつ、その中の空いた時間に歌作りに取り組んでいく。また、2人の関係についてはかなりスムーズに進み、オープニング前にはちゅーする関係にまで発展する。
作中では手紙のやり取りの中でカナデから「恋とは何なのか」という哲学的な質問を投げかけられる場面が出てくる。かなり難しい質問だが、これに対し悠登は真摯に向き合いその答えを綴っていた。実際にそういった難しい問いに対し、誠心誠意向き合ってくれる人ならば、恋に落ちてみてもいいのかもという想いが出会う前には芽生えていたのだろう。
そんなこんなで急接近する2人だが、当然お互いの思いを言い合えない場面なんかも描かれる。そんな小恥ずかしい恋模様もしっかりと描きつつ、ラブソング作りが進んでいくのだ。
前述したカナデの宇宙人とのハーフという設定は、やや飛躍した内容にも感じるが物語上の重要な要素であり、物語の体験を損なうような設定ではないと断言する。急に宇宙人と聞くと「え?」という感想になるかもしれないが、この設定に関する部分も回収され物語は幕を閉じるので、安心していい。
それともう1点。ストーリーの魅力として、主人公の悠登が相当かっこいいと筆者は感じている。前述したように難しい疑問に対ししっかりと向き合い考えてくれる部分はもちろんのこと、第三者として2人の関係性を見ていたときにとても芯のあり、肝が座っていて頼れる主人公だと感じた。個人的に「主人公が"かっこいい"ノベルゲームに外れはない」と思っており、本作ももれなくこれに当てはまる1作だった。特に筆者は主人公の目線をベースとしつつも、第三者目線でゲームを遊ぶため、頼れる主人公がいると安心して物語に没入できる。今作では2人の恋が描かれるが、悩むことがあったとしても心の強い持ち主で、安心して恋の行方を見守ることができたのが大変良かった。
コロコロ変わるカナデの表情が可愛さを後押し
演出面について個人的に評価したいのは本作のスクリプトだ。ノベルゲームではキャラクターの表情の変化や立ち絵の配置などの演出にもこだわりが詰まっている。普通にプレイしていると見逃してしまいがちな部分だが、本作ではカナデの表情がかなり動く。
1ワード(1クリックでテキストボックスに表示される文字)で2回も表情が変化する場面がかなり存在し、眉を吊り上げ元気な顔やジト目、にこっと優しく笑う姿など、文字の情報にプラスする形で彼女の可愛さを大きく引き立てていた。この演出によりカナデが活き活きとしており、ノベルゲームである必然性を大きく高めている。
その他の部分として、キャラクターの動きを見せたい部分でSDイラストが用いられる。カナデはぷるぷるしたものが好きで、プリンを目の当たりにして思わずダンスしてしまう不思議ちゃん的な一面があるなど、宇宙人らしさが少し見え隠れしていたりもする。
また、嬉しいときには掛け声とともに悠登とハイタッチをする場面にもSDイラストが採用。一仕事終えたときなど、息ぴったりな2人のハイタッチは思わず和んでしまうワンシーンになっていた。
コンパクトながら高い抜群の読後感を感じさせる「KANADE」
物語はかなりコンパクトで、公式からも「初心者でも1日~2日でクリアできる」と紹介されているように、シナリオの長さは抑えられている。フルプライスのノベルゲームを日頃遊んでいるユーザーからするとやや物足りないように感じる人もいるかもしれないが、それ以上にシナリオ、ビジュアル、演出ともに非常に高い水準にまとめあげられており、読後感が非常に良い1作だった。ボリューム面でも遊びやすく、グッドスマイルカンパニーとフロントウイングがタッグを組む第1作目として、新たなお客さんを獲得するという狙いをしっかりと達成できるクオリティに仕上がっている。
ポストアポカリプスの世界を舞台にした作品では、どうしても自然や環境の脅威に抗えず、ややビターな終わり方になってしまう作品も少なくはないが、そんな「ポストアポカリプスものの宿命に抗えるのか?」といった点にも注目していただければと思う。
ネタバレになるため詳しくはかけないが、ストーリーテリングもかなり上手で、コンパクトな作品ならではの話の順番(構成)になっており、物語を改めて振り返るとこういった点も非常に巧みであったと感じる。ぜひ最後までクリアしてほしい1作である。
□Steamの「KANADE」のストアページ
※販売はSteam専売となる。
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