レビュー

カプコン「祇(くにつがみ)」レビュー

戦略×アクションが見事に融合! 理解後の面白さが抜群の大良作

【祇:Path of the Goddess】

7月19日 発売予定

価格:4,990円

 カプコンより7月19日に発売されるプレイステーション 5/4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC「祇(くにつがみ)」は、美しい”和”の世界観が特徴のタイトルだ。

 ゲームジャンルは「神楽戦略活劇」とされており、アクション性と戦略性を兼ね備えた独特な内容となっている。カプコンが描く”和テイスト”ゲームというだけでも興味が惹かれたが、実際にプレイすると、全体的に非常にチャレンジングなものとなっていた。

 本稿では、本作のレビューと合わせて、後半では本作のプロデューサー&ディレクターへのインタビューをお届けしたい。

【『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』 ゲームプレイ紹介映像】

美しき神秘溢れる世界観!穢れを払い巫女を導く「宗」となれ!

 本作の物語は、独創的な”和”の世界観の中で描かれる。神々が住むとされる地「禍福山」が「穢れ」に襲われ、同時に神の力を宿した十二の「面」も奪われてしまった事で、美しかった「禍福山」は危険地帯となってしまう。

 「穢れ」の影響で異界へと繋がってしまった「禍福山」は、夜になると「畏哭(いこく)」と呼ばれる化け物が現れ山々を荒らしまわり、襲われた人々が「穢れ」の影響を受け多くの村が滅亡の危機を迎える事になる。

 まさに死の山と化した「禍福山」を舞台に、プレーヤーは「穢れ」を祓う力を秘めた巫女「世代(よしろ)」の護人である「宗(そう)」を操作することとなる。「宗」は、穢れから救うことで味方となる「村人」達と協力しながら、「禍福山」の穢れを浄め、「面」と「村」を取り戻すために巫女を導き奮闘するのだ。

画像の右側が「宗」。左側が「世代」だ
物語冒頭では無情にも「禍福山」が「穢れ」に覆われていく様が描かれ、「世代」や「宗」と共に対抗していた人々も抵抗むなしく……

 本作はストーリーラインはシンプルながらも、随所で強烈な”和テイスト”と独特の”神秘的な世界観”を存分に浴びる事ができるのが魅力の1つだ。

 古の神話的日本風景を感じさせるフィールドやキャラクター設定が美しいグラフィックスで表現されており、「穢れ」を祓う「宗」の姿や共にステージを歩む事になる「世代」の神楽など、本作を体現するような要素でプレーヤーを本作の世界に惹き込んでくれる。

 各ボスの初登場時やステージクリアの際には素晴らしく力が入ったムービーが流れたり、ストーリー中は登場キャラクター達が直接会話を行う表現が”あえて”控えられていたり等、様々な手法で目が離せない没入感を演出している点が特徴的だ。

神秘的な日本古来の様式、「穢れ」を祓う舞、自然豊かな風景。”和”テイストの神秘性をこれでもかと表現している世界観だ

アクション重視か戦略重視か……! 攻略に多くの幅がある融合システム

 一方で、本作一番の見所となっているのはゲームシステムだ。プレーヤーは様々なギミックが用意された多種多様なステージに挑み、「宗」を操作して巫女である「世代」をゴールの「鳥居」まで導く事で、山の「穢れ」を祓っていく事になる。

 ステージ内では、昼と夜の2つのフェイズの中で「世代」を安全に導くために様々な行動をしていく。昼フェイズでは、ステージ内にいる「穢れ」によって封じ込められた「村人」達を「宗」の力で救出して味方にできたり、入手した「結晶」を消費して「世代」をステージのゴール「鳥居」まで導く「霊道」を引いたりなどができる。

 この攻略に必要不可欠な「結晶」は、主にはステージ内の随所に点在する「穢れ」を祓ったり、夜フェイズで「畏哭」を倒す事で入手できる。他にも、穢れに侵された動物たちを祓って回復アイテムである「食料」を確保したり、閉ざされた道や壊れたギミック等を、救助した「村人」を駆使して修理したり、フィールドごとに行える探索要素が数多く用意されている。

次々に現れるステージを攻略していくタイプのゲームシステムとなっており、山に点在する村”だった場所”を回っていくような形となる。各村で「穢れ」に囚われている人々を開放し、現地の村人達と共に村を祓うために戦うというのがゲームの大きな流れとなる
「霊導」を敷く事で「世代」は神楽を舞いながらゆっくりと「鳥居」へ向かって進み始める。過酷な夜フェイズに備えながらも、「世代」を如何に効率よく「鳥居」まで導けるように管理できるかが本作の基盤となる

 「世代」をゴールに進ませる事がメインの昼フェイズとは異なり、夜フェイズでは「世代」の進行が止まってしまうだけでなく、ステージ各所に点在する「異界の門」から敵である「畏哭」が襲来する。「畏哭」は「世代」を目標として襲ってくるため、死守しなければならない。

 「畏哭」はステージの様々な方向から「世代」を狙って進軍してくる。昼フェイズの間に、どこまで地形を理解して「畏哭」の侵入ルートを把握できるか、どのように立ち振る舞えば安全に「世代」を守り切れるかを考えるのも攻略の大事な要素となる。

 昼フェイズでは、ステージ進行・探索・戦いの準備をどの優先度で行うのか。夜フェイズを見越して「畏哭」との戦いにどうやって備えるのか、プレーヤーの立ち回り1つで体験に大きな違いが出るシステムとなっている。

夜フェイズでは「畏哭」が襲来し「世代」を狙って押し寄せてくる……! 基本的に敵は「世代」を一直線に狙うため、油断しているとあっと言う間に「世代」の元に「畏哭」が近づいてしまうのだ

「村人」を駆使するストラテジー要素が面白い

 ここで面白いのが「畏哭」と戦う際の本作のバトルシステムだ。プレーヤーが操作する「宗」は、華麗な剣舞アクションを使用できる。「宗」で敵を直接攻撃することもできるが、昼フェイズで救出した「村人」達も戦いに参戦してくれる。

 「村人」については、いわゆる“お助けキャラ”ではなく、”村人達こそが主戦力”と言えるほど、本作のバトルにおける「村人」の重要度は高い。「村人」は強力なボスを倒した際に入手できる「面」の力によって、様々な「職業」を与える事ができるのが大きな特徴だ。

 手斧による近接攻撃が得意な「杣人」、遠距離から弓矢による攻撃を行う「弓取り」、敵を拘束したり味方のサポートが行える「修験者」といった感じで、多種多様な戦い方で「宗」を援護してくれる。

 「宗」は「村人」の行動を指示できるので、指定の場所に移動させて「畏哭」の進行を防いだり、ボス戦では隙を見つけて一斉攻撃を仕掛けたり。また一時撤退して「世代」を護衛させるなどなど、「村人」には様々な指示ができる。本作ではさながら指揮官となって、如何に「村人」達を上手く活用できるかが最大のキーポイントとなっている。

ステージの様々なルートから「畏哭」は襲ってくるため、「村人」を指揮して陣を作り敵の進軍をブロックする必要がある。助した村人たちをどのような「職業」にするか、パーティー構成はどうするか、どのように配置するか。タワーディフェンスのような防衛戦を楽しむ事ができるのだ
「面」の力で「村人」に「職業」を与える際にも職に応じて「結晶」を消費するため、「霊道」と「職業」でどのようなバランスで「結晶」を割り振るかもプレーヤーの采配次第となる

 実際にプレイした感覚だと、「宗」のアクションは攻撃スタイルも華麗で、ある程度の数の敵を倒すには十分な攻撃力にはなっていたのだが、ステージの様々な方向から「世代」に襲い掛かる「畏哭」を捌ききるにはどうしても「村人」を上手く扱う必要がある。

 「村人」と上手く連携が取れた時の殲滅力は「宗」単体の比ではないため、爽快感も抜群にある。一例を挙げると、高台となる場所に「弓取り」を配置して一方的に攻撃できる局面を生み出したり、多くの敵が固まって押し寄せる場面では、敵の足止めが可能な「修験者」を多数用意し、拘束してから一気に殲滅するなど、「村人」と「宗」のコンビプレイが重要となる。

 「村人」の配置と職業をしっかり行い的確な指示を行えば、夜フェイズの襲撃も「宗」が何もしなくても防げる事があるほど、本作において村人は強力な存在となっていた。

安全かつ的確に敵を捌ける味方の陣形作成、敵や地形に合わせた「職業」チョイスやパーティー編成によって戦局は大きく変化する。キャラクターの配置はいつでも手早く行う事ができ、個別の移動指示に加え、大まかながら全体へ突撃や防衛も指示する事ができたりと、部隊の指揮官のようなプレイ感を楽しめる

 また職業システムは、他にも強いゲーム性を生み出している点がある。例えばほかの「職業」よりも体力が多く、タンクとしての役割を全うできる「角力」は、とても心強い代わりに消費する「結晶」が他の職業よりも多めに設定されていたり、味方を回復できるヒーラー職の「巫術師」は女性タイプの「村人」だけがなれるという制約がある。

 はたまた昼間フェイズでアイテム発掘ができる代わりに、夜は役に立たない「物取り」などという職業があったりと、それぞれの職業にメリット・デメリット・条件などがしっかりと決められているところがいい。

 「アイテムは全部欲しいけど物取りに結晶を回す余裕が……」「これぐらいの敵なら一番コスパが良い杣人だけで押し切れるか?」「ステージの形的に後方支援ができる弓取りや修験者は欲しい!」などなど、プレイ中はとにかく結晶のやりくりと「村人」の職業チョイスに頭をひたすら使う事になる。

 各ステージごとに、ギミックや共に戦う村人の数も異なるため、常に最善の戦略を”自分なりに”考え続けられる。その事が、本作の大きな面白味になっていると筆者は感じた。

ゲームが進み「面」を取り返していくごとに職業は徐々に追加され、プレーヤーの手札はどんどん潤沢になっていく! その分扱いが難しかったりステージの特性に合わせて使い分けるのが高度になっていくが、まさに”戦略ゲー”といった面白味を体感できるはずだ

 ステージの中には、夜フェイズに「宗」が強制的に戦闘不能状態になり、「村人」に指示だけ出して攻略を行うようなステージが用意されていたり、村人が動けなくなる暗闇ギミックや、プレーヤーの予想外のルートで攻めてくる敵が登場する等々、そうした想定外の制約も含めて、やり応えがバッチリ過ぎるほどある。

 「宗」を操作してステージを探索し直接敵と戦うといった”アクション部分”の比重も十分に高いが、それと同じぐらい、「村人」を用いた”ストラテジー要素”が本作において重要になっている。ストラテジーゲームとしての質が高いので、同ジャンルのファンという方は、ぜひチェックしていただきたいところだ。

本作の”村人”を中心とした独自のアクションシステムをフルに活かすように、あの手この手でプレーヤーに難問をぶつけてくる……!

アクションスキルも問われる攻略。ガードや回避もしっかり行う

 では本作はゴリゴリの「ストラテジーゲーム」なのかと言われれば、それも違うところが本作の特徴だ。しっかりアクション面でも、プレーヤーを魅了してくれる。

 前述した通り「宗」は、攻撃・回避・ジャンプなど、アクションゲームの基本的な動きはすべて可能となっている。攻撃アクションは多様なため、攻撃範囲や敵の位置などで使い分けを楽しめる。加えて「宗」は、装備できる「鍔」によって、霊力を消費して放つ必殺奥義も扱える。

 ド派手に相手を2度切り払う必殺奥義「朱雀」は、「宗」自らが積極的に攻めるプレーヤーに向いており、アクションゲームらしさを体感できる。逆に味方の「村人」の能力を向上させる、サポート寄りの必殺奥義もあり、この場合はアクションよりも全体の戦況の見極めが大事になるだろう。プレーヤーのスタイルによって、大幅にゲーム性が変わるところが、筆者としてはとても面白かった。

「宗」自信のアクションも非常に豊富。通常攻撃は入力によって空中・連撃・広範囲とそれぞれに適したアクションを行う事ができ、「鍔」の必殺奥義は霊力が溜まったタイミングでしか使えない分リターンも大きいので使い処を見極める必要がある

 「宗」自身のアクション以外にも、「畏哭」とのバトルの中で強いアクション性を感じる場面は多々発生する。

 例えば「畏哭」には「レジストゲージ」というゲージがあり、攻撃して削り切ると、相手を隙だらけのダウン状態にできる。

 敵との戦闘では「レジストゲージ」を削るように上手く立ち回ることでより有利になるのだが、「畏哭」側も広範囲攻撃やガード不能攻撃を織り交ぜて来るため、ガードや回避でプレーヤーの腕が求められる場面が多い。

 ボス戦などでは特にそれが顕著になり、ただ「村人」と共にガン攻めしているだけでは、簡単にゲームオーバーになってしまう。それほど、しっかりと歯ごたえのある難易度となっていたので、アクションゲームらしい立ち回りも非常に重要となるのだ。

 その上で、本作の場合だと「村人」への指示も並行して行う必要がある。ボスによっては特殊なギミックが用意されていることもあるため、”アクション”と”戦略”という2つの技能をフルに試されるようなゲーム体験となっている。

敵の頭上に「呪」と表示された際には、ガード不能の広範囲攻撃などが飛んでくる合図。自分だけがその場から逃げれば良いだけでなく、「村人」へも一時撤退の指示を出す必要があるなど、お大忙しだ……
レジストゲージを削る事で大きな隙を作ったり、ボス毎に存在する特殊なギミックを操作して弱点を露出させたり、攻略性の高いバトルを楽しめる

 このように本作はやり応えのあるアクション性を楽しめながらも、「村人」を用いた様々なギミックで、ストラテジーゲームさながらの戦略性も楽しめる作品だと言える。

 加えて、遊ぶプレーヤー次第で「宗」の立ち回りがガラッと変化するようなゲームデザインなのも好印象だ。人によっては、アグレッシブな「宗」を軸とし、サポート寄りな「村人」達で支える”アクション重視”のスタイルを好む場合もあるだろうし、逆に最前線の戦いは「村人」に全て任せて、「宗」は「世代」の護衛とサポートをメインに、的確に指示を出す”戦略重視”のスタイルを好む人もいるだろう。

 挑戦するステージによってスタイルを使い分けたり、「鍔」等のビルドや村人の「職業」チョイスを敵によって変えたり等、非常に自由度の高い遊び方ができる作品だ。

 筆者は戦略よりアクションの方が得意なゲーマーなので、今回のプレイではゴリゴリに「宗」を前線に押し出し、「村人」の「職業」は弓による遠距離攻撃や敵の拘束などのサポート役に重視して貰うパーティーで遊んでいた。プレイしていて爽快感があったので、この組み立ても1つの正解だと感じている。

 当然この戦法では上手く通じないステージも存在したが、その際にプレイ方針を変えずに「村人」や「宗」のビルドを調整するか、ガラッとスタイルと戦略を変えてみるかは、完全にプレーヤー次第。色々と、試行錯誤する事自体が楽しいと思える作品だったので、この点も素晴らしいポイントだった。

ボス「かまいたち」戦では敵が空中に漂っている事が分かっていたので、前衛キャラを1人だけにしつつ、他メンバー全員を遠距離で弓攻撃が可能な「弓取り」にした結果、ボコボコにするに成功! 戦う相手に合わせて「村人」のチョイスや自分の立ち回りを変える面白さを実感できた

一息つける「拠点」。「村人」たちのストーリーも見られる

 「宗」のカスタマイズは、各ステージの間で立ち寄れる「拠点」で行う事ができる。「鍔」による必殺奥義の変更と実質装備品のような扱いの「魔像」による強化などが主な要素だ。

 なお、共に戦う「村人」達の強化の方法は各種「職業」を強化するといった形。ステージクリアごとに入手できる「産霊」を消費する事で強化などを行える。

一般的なRPGのような、レベル概念がない事も本作の特徴と言える。「村人」の「職業」に割り振った「産霊」はいつでもリセットして振り直す事ができるため、ステージ攻略に行き詰まった際は、様々な「職業」を強化しなおして試行錯誤できる

 他にも「拠点」では「村人」たちと協力して復興作業を行いアイテムを入手できたり、犬や動物達と戯れたりなど、アクションと戦略で疲弊した頭を休ませる穏やかな時間を過ごす事ができる。

 さらに面白いのが、「宗」と戦いを共にした各「村人」達のパーソナルデータなども「拠点」では見る事ができたりする。拠点となる各村では、場所によって様々な出来事が発生している。家族・兄弟・親友間での問題事を垣間見られたり、村に嫁ぎに来た唯一の女性にドギマギしている男衆の姿などがあったり、面白味に溢れたストーリーが随所に散らばっている。ただ共に戦うだけでなく、愛着を持てるような要素が多く存在するので、お気に入りの「村人」や「村」を見つけるのも本作の楽しみ方かもしれない。

「村人」同士の繋がりは割と○○に好意を寄せている、○○を嫌っているといった下世話な感じの話題も多くて、親近感が湧きやすい

ビギナーの関門「百足女郎」の攻略に2時間かけた結果本作の沼にハマっていた男の話

 さて、本作をゴリゴリのアクション重視で進めていた筆者が最初につまずき、同時に本作の面白さを強く感じたエピソードを最後に1つ紹介したい。それがボス「百足女郎」とのバトルだ。

 比較的ゲームに慣れ始めたころに出て来るこの化物は、それまでのボスを意外と余裕で突破していた事で、ガッツリ油断したままパワープレイをしていた筆者の甘えた考えを叩き直してくれた。

 このボス戦では、広いステージの中で派手に動き回る「百足女郎」に攻め込みながらも、「百足女郎」が時折放ってくる小型の「畏哭」が多方面から「世代」を襲ってくる。そのため攻めるだけでなく、守りを強く意識しないといけないという、正に本作の基本をマスターしていないと攻略できないような設計のボスとなっている。

 「百足女郎」は攻撃範囲がかなり広いのが特徴で、危険な攻撃を表す「呪」マークが出た後の突撃攻撃は、その巨体と何回もカーブを繰り返す蛇行のような動きで一気に多くのキャラクターに大ダメージを与えてくる。しかも、これはガード不能かつ、一緒にいる味方の「村人」はどうやっても避けられない。

 最初は理不尽さを感じるくらいの高い難易度に思えた。その上でステージ内の各所に存在する「灯篭」ギミックを村人で作動させ、明かりを灯さないと弱点を晒さないため、今までにないマルチタスクを一気に味わう事になった。

「呪」マークが出た後、何をしても自分か村人の誰かしらは爆速で瀕死状態になり、そうやってマゴマゴしていると無数の咆哮から現れた小さい「畏哭」が知らぬ間に「世代」を襲ってゲームオーバーに……。本作のゲーム性をしっかり理解して、戦略を立てながら動かなければと強く感じさせる戦いだった

 ここで筆者がこのボスを倒すためだけに考えた作戦が2つある。

 1つは後衛で仕事をする職業をなくし、全員をその時使えた前衛職「杣人」にするという事だ。これは下手に後衛職を使っても、ステージが広すぎて初心者の筆者が上手く陣形を組めなかったこと、さらに後衛職は前衛職よりも体力が低いため、広範囲攻撃を受けるとすぐにやられてしまうという理由からだ。

 結果手斧を持った「杣人」だらけの山賊みたいなパーティーになったが、ある程度放っておいても全員倒れなくなったことで戦いやすさはグッと上がった。タワーディフェンスではなく、タワーオフェンスの始まりである。

それまでバランスよく色んな職業を入れる事に拘っていたが、ボスや戦略によっては、一見極端なパーティーもありというのが本作の面白い所だろう

 もう一つは「村人との分業」だ。それまでのボス戦ではボスに一斉突撃する号令「突撃」と、逆に村人を一気に「世代」の周りに集合させて守りを厚くする「防衛」を適宜使い分けていた。

 「宗」は、その動きに合わせて「村人」と共に動くような戦い方をしていたのだが、「百足女郎」戦でそれをやると、自分含めた味方全員が結局広範囲攻撃で大ダメージを受けてしまう。加えて、全員で攻めている最中に「世代」を小型の「畏哭」狙われた際は、リカバリーが果てしなく難しい。

 なので「百足女郎」が隙を見せたタイミング以外は基本的に村人には「防衛」をしてもらい、味方の陣とは離れた所で「宗」と「百足女郎」で一騎打ちする形が最終的なフォーメーションとなった。

 今から振り返ると、恐らくこの陣形よりも数千倍くらい有効な作戦はありそうだが、今回プレイしてたどり着けた答えはコレしかなかったのだ……!

1対1で向き合えば、最悪ダメージを受けても「宗」以外には被害は行かないし、味方全員を防衛に回してれば「世代」が雑魚「畏哭」にやられる事も無い。何よりやってる事主人公みたいでちょっとカッコイイ!

 この作戦で何度かトライして、最終的には計2時間かけて何とか勝利する事ができた。やり方は下手だったかもしれないが、”自分で考えた作戦で勝つ”という快感はやはり何物にも代えられない爽快感があると強く感じられた。

 筆者はこの方法で挑んだが、恐らくプレーヤーによって挑み方が十人十色になるだろう。ここが本作の醍醐味だと思うので、ぜひ自分なりの戦い方でこの最初の関門に挑戦してみて欲しい。

「村人」に込められた強い思い入れ! プロデューサー&ディレクターインタビュー

 ここからは、本作のプロデューサーである平林良章氏(以下、平林P)と、ディレクターを務めた川田脩壱氏(以下、川田D)の両名へのメールインタビューをお届けする。

「祇(くにつがみ)」プロデューサーの平林良章氏
「祇(くにつがみ)」ディレクターの川田脩壱氏

――本作のコンセプトや生まれた経緯などを教えて下さい。

川田D:戦略性を練る楽しみがありつつも、アクションの爽快感もえられる新たなゲーム体験、独特の和の世界観、これらを楽しんでいただけることをゲームとしてのコンセプトとしていました。

――アクション要素と戦略ストラテジー要素の両面を楽しめるバトルシステムが注目を集めていますが、要素としては掛け合わせが難しいこの2つを合体させた意図は何でしょうか?

川田D:私自身タワーディフェンス、戦略性を持つゲームジャンルが好きで、非常に奥が深く面白いと感じています。

 そして今作ではその采配にユーザーのアクションを加えることで、新たな駆け引きが生まれるのではないかと考えました。ステージをクリアしていく毎に村人とのチームワークが面白く感じて貰えると思います。

――日本の和の世界が美しく描かれた本作ですが、元となった神話や逸話など、参考とした文献や世界観などはあるのでしょうか?

川田D:これといったものは特に無いんです。私自身が日本の民間伝承や怪奇的な昔話が好きで、今まで読んだものや新たに知ったもの分解し、今作の「山での暮らし」を考えた上で「こんな話にすると実際に逸話としてありそうかな?」と考え積み上げていきました。

 「世代」の舞や「宗」の剣舞に関しては、本作の世界観設定をベースにアクターの方とお話させて頂いて、現代の踊りとしてのテンポ感やゲームのテンポ感を意識つつ創作して行きました。

――作中では、キャラクター達による会話シーンや思考のテキスト化などのいわゆる”文章によるキャラクター表現”がほとんど無いように見受けられました。こちらにはどのような意図がありますでしょうか?

平林P:はい。本作ではゲーム体験を主で楽しんでいただくようにストーリーラインは比較的シンプルな構成となっています。

 その上でダイアログを極力少なめにして、本作をクリアされた後の読後感として、皆さんのそれぞれの物語の解釈にゆだねさせてもらいたいという想いをもってそうしております。

 もちろん言葉が無いことで想像が膨らむとはいえ、分かり難さという点はどうしてもあると思います。想像を広げる事への邪魔となるような難解さにならないよう、カットシーンだけでなく、ゲームの中に本作の世界観への造詣を深めていただける要素を多く散りばめています。

キャラクター同士の会話等の”テキストによるキャラ表現”がほとんど無い事で逆に神秘的な雰囲気が生まれている印象がある。逆にフィールドや拠点で時折聞こえてくる「世代」や「村人」の声に注目するのも面白いかもしれない。

――本作の「村人を強化して共に戦う」というシステムはどのような経緯で生まれたのでしょうか? また固有のキャラクターを登場させるのではなく「村人」とした理由は何でしょうか。

川田D:村人たちとの共に戦うシステムは、この山で生活を営む村人達も主役であり、皆で夜を越した時に「みんなで乗り越えた!」という達成感を感じてもらいたいとの思いから生まれています。

 また固有のキャラクターでは無くなぜ「村人」なのか? と言う点についてですが、感情移入先を各ユーザーがそれぞれに持って欲しいと思ったからです。

 例えば各村人たちの名前については意図を持って付けており「半助はめちゃくちゃ世代を守ってくれて助かる」「孫市は手がかかるな~」等、結局はユーザーの配置の妙という事にはなるのですが、皆さんそれぞれの中で村人たちとの間にドラマが生まれると嬉しいなとの思いでいます。

――実際にプレイさせて頂いた際に「宗」によるゴリ押しプレーではボス戦などで歯が立たず「村人」の重要性を身に染みて理解しました。「宗」のアクションと「村人」の戦略、どちらの要素も必要となるこの絶妙なバランスは意図したものでしょうか?

川田D:そうですね。本作ではステージを進めて行くほどに村人をどう扱うかという事に向き合っていただくことになります。全体を通して村人への采配、宗(プレーヤー)の立ち回り、この2つのかけ合わせが大きな攻略のカギとなりますね。

――作り手側から見て本作の「村人」を用いたシステムで一押しな部分があればお伺いしたく思います

川田D:昼夜それぞれの村人の動きや演技はぜひ注目してもらえれば嬉しいです。夕方に近づくと気合い入れ始めたり、夜には調子が良く最初の畏哭の襲来を捌き切った際、次の襲来までのひと間に踊っていたり、状況に応じて村人の動きが変わっています。

 拠点でもそれぞれ個性を持たせているので「何故こんな行動しているのだろう?」など観察してもらうと面白いかと思います。

ステージ攻略中に夜フェイズに向けて気合を入れて踊り始める「村人」や、拠点で井戸端会議をやってる「村人」など、喋らなくてもどこか愛嬌やパーソナルデータからキャラクター性を感じ取れる要素が見受けられる。実際ボス戦で頑張ってくれたことで、愛着が湧いてしまう事が多々あった……!

――作り手側がターゲットにしたゲーマー層などはありますか?

平林P:リアルタイムに様変わりする戦局へ自身や仲間とどう挑んでいくのか、その戦略性とアクションの妙や達成感は本作特有のゲーム体験だと思います。その部分に興味を持っていただける皆さんには一度手に取って試していただきたいと思って持っています

 また、加えて独創的な和の世界に代表される、本作ならではのデザインに興味を持っていただけた場合も是非プレイしていただきたいですね。

――アクション・戦略・タワーディフェンス要素など、特徴の多い本作は様々なプレーヤーが触れる機会があるかと思われます。各プレーヤー層に対して、それぞれオススメポイント等はありますでしょうか?

平林P:先入観少な目で体験をしていただきたいと思う所もありますので、1点だけ。

 本作はアクションと戦略性(シュミレーション)そのどちらを主としていただいても攻略の糸口を見つけていただけるようにしています。2つの要素をどう攻略に利用していくかのバランスは、まさに皆さんの嗜好や得意な部分に合わせていただければと思っています。

――では、これからプレイする初心者に向けて「とりあえず序盤ここだけは押さえておけ!」といったアドバイス等があればお伺いしたく思います。

川田D:そうですね、慣れていただく順に関しては強く意識していました。慣れてもらいつつ新鮮味も保ちつつという感じで。「こういう事か!!」と皆さん自身で感じてもらえるようなテンポ感を目指して調整を最後まで行いました。

 押さえのポイントとしては「世代を守る事」、そしてやはり「村人の活用!!」となります。敵の種類や攻め方は様々なので、臨機応変に考えてもらえればと。

 いつでも単に「世代」の近くに守らせればよい……という訳でもなく、状況によっては上手くいく場合とそうでない場合もあるので、職業・村人配置などいろいろと試してもらえればと思います。

――最後に読者に一言ずつ頂ければと思います

平林P:プレイボリュームはしっかりと用意させていただいております。本作ならではのゲーム体験、独創的な世界観に興味を持っていただけた際には一度手に取っていただけますと幸いです。

川田D:本作は非常に挑戦的なゲーム体験となっていると思います。この新たなゲーム体験を皆さんにお届けできる事を本当にうれしく思っています。日本ならでは世界観、趣を新たなゲーム体験を一人でも多く興味を持っていただき、そして楽しんでいただけることをチーム一同願っています。

理解してからの面白さが抜群。とんでもないスルメゲー

 実際のプレイとインタビューを通して感じたのは、”本作がとんでもなくスルメゲーである”という事だ。やり込もうとしたら、どこまでもやり込める自由度の高いゲームだったと強く感じる事ができた。恐らくRTAにも向いていると筆者は睨んでいる。

 実際筆者も序盤では本作のポイントを掴み、理解するまでにてんやわんやで時間を要したのだが、慣れ始めた時の戦略構築の面白さとアクションギミックの掛け合わせが気持ち良すぎて仕方なかった。ハマる人は、とことんハマるタイプの作品だろう。オススメの1作だ。