モバイルゲームレビュー

驚きの完全フルボイスで名作RPGが復活!
「天外魔境ZIRIA Premium Edition」

  • ジャンル:RPG
  • 配信・開発元:ハドソン
  • 利用料金:各章300ポイント(315円相当、第1章は無料)
  • プラットフォーム:iモード
  • 対応機種:FOMA 903i/703iシリーズ以降
  • 配信日:6月16日(配信中)
  • アクセス方法:iMenu → メニューリスト → ゲーム → ミニゲーム → ハドソン★プレミアム



 6月16日より、モバイル用RPG「天外魔境ZIRIA Premium Edition」(以下、本作)がiモードで配信開始された。今回配信されたのは全12章のうちの第1章と第2章で、以降の章は毎月8日に順次配信される予定だ。

 「天外魔境」シリーズは、第1作のPCエンジン CD-ROM2用RPG「天外魔境ZIRIA」(以下、PCエンジン版)が1989年に発売され、以降「天外魔境2 卍MARU」や「オリエンタルブルー 青の天外」など続編や外伝、移植作がさまざまなプラットフォームで発売された人気シリーズだ。

 2004年に携帯アプリとして移植された時は、PCエンジン版をベースにしていたが、本作は2006年に発売されたXbox 360用「天外魔境ZIRIA~遥かなるジパング~」(以下、Xbox 360版)をリメイクしている。Xbox 360版は、PCエンジン版の物語を元に、設定を大きく掘り下げて、ストーリーを再構築。グラフィックスやシステムも一新し、オリジナルのよさを保ちながら新しい要素を盛り込んで見事にリメイクしたとファンからの評価も高い作品になっている。

 本作は、そのXbox 360版をベースにして、携帯端末向けに操作方法やグラフィックス等をアレンジ。しかも、オリジナルやXbox 360版でも成しえなかった“偉業”を達成しているのだ。


【スクリーンショット】
ムービーシーンもXbox 360版を元にしてあり、ボリュームはかなりのもの
クラシカルなスタイルのRPGで、馴染みやすいゲーム内容



■ モバイルゲームの常識を覆す完全フルボイスで、あらゆるキャラクターがしゃべりまくる!

 本作の偉業とは「完全フルボイス」。すべてのセリフに音声をつけたのだ。元々、PCエンジン版は「キャラクターがしゃべる」RPGとして話題になった作品でもあった。家庭用ゲーム機としては世界初のCD-ROM媒体を使用したPCエンジン CD-ROM2の大容量を生かし、オープニングやムービーシーンでキャラクターたちが声優の声でしゃべり、プレーヤーに衝撃を与えたのだ。

 若い読者の方々にも、少しばかり昔話に付き合っていただきたい。当時の家庭用ゲーム機はROMカセットが一般的な媒体で、キャラクターが音声でしゃべることはまだまだ珍しかった。ファミコン用ソフト「燃えろ!!プロ野球」で、審判が「アウト」、「セーフ」とコールしたり、「水戸黄門」で有名な「この紋所が~」のキメゼリフを音声合成でしゃべったりしただけで、当時の少年たちは「すごい!」と感心したのだ。

 ところがCD-ROM媒体の登場で状況は大きく変わる。PCエンジン版や同CD-ROM2用「うる星やつら STAY WITH YOU」等で、キャラクターがTVアニメのように長いセリフを話すさまを見て、技術の進歩に胸を震わせた時代が確かにあったのだ。

 話を「天外魔境」に戻すが、Xbox 360版ではムービーシーンやボイスシーンがさらに追加されたほか、戦闘シーンにも音声が付けられ、ボイス面でも更なる強化が施されたリメイク作となった。

 そしてiモード版となった本作は、さらにその上をいくアレンジを加えている。「完全フルボイス」として、あらゆるキャラクターのセリフに音声を付けているのだ。主人公や重要キャラクターのみならず、町や村の人々全員、果ては猫や犬までである。キャラクターのセリフに音声が付けられるのは、近年のゲームではもはや当たり前の事だが、ここまで徹底したフルボイスのRPGというのは、ハードや年代の区別なく見ても筆者の記憶にはない。ましてや本作はモバイルゲームなのだから、さらに凄さも増すというもの。本作をプレイすれば、あらゆる世代のプレーヤーが「こんなにしゃべるのか!」という驚くことだろう。30代以降のゲームファンなら、感動もひとしおだ。

 音声がもたらす演出面での効果も見逃せない。声の持つ情報量は極めて多く、キャラクターの性別や年齢、性格までもプレーヤーに想像させてしまう。おかげで、名もなきキャラクターたちの背景にある“ドラマ”が感じられるようになった。フルボイスが単なる技術力のアピールだけで終わっていない。

 ただしマイナスになっている点もある。今回使用した端末(FOMA P906i)やmicroSDカードの性能が原因かもしれないが、会話の開始時わずかに間が空いてしまう。装備品やアイテムの購入時など、何度も同じセリフを聞かねばならない状況では、特にもどかしく感じられた。


【スクリーンショット】
大物声優を40人以上使ったという、完全フルボイス化会話中、決定キーを押せば音声をスキップできる
主人公・ジライアは岩田光央さん、大蛇丸は子安武人さんが演じている



■ オーソドックスなスタイルに加え、召喚獣など世界を活かした要素も

 では、あらためて本作を解説したい。システムはコマンド選択形式のRPG。マップ画面や戦闘画面はXbox 360版では3Dグラフィックスだったが、モバイル向けに2Dグラフィックスに変更。PCエンジン版を彷彿させるような懐かしいデザインになっている。操作方法は方向キーで移動、決定キーで「調べる」、「話す」を行なうタイプなので、おそらく誰もがすぐになじめるだろう。基本的には、特定のキャラクターに話しかけたり、特定の場所に到達することでシナリオが進行していく。

 マップ上を歩いていると時々敵とエンカウントし、戦闘が発生する。戦闘システムもオーソドックスなターン制のコマンドバトル。「攻撃」や「巻物」などのコマンドを選択して、対象の相手を決定する。巻物はファンタジーRPGでいうところの魔法や呪文に相当するもので、相手に火の玉でダメージを与える「鬼火」や、体力を回復する「若草」などがあり、「技」という数値を消費して使用できる。巻物は旅の途中で遭遇する白い神獣から受け取り、巻物を持っているキャラクターだけが使用できる。面白いのは、巻物はパーティー内で受け渡しが可能なことだ。状況に応じて誰がどの巻物を持つのか、自分なりの戦略を考えられる。

 「奥義」はキャラクターが習得する強力な攻撃だが、使用するためには何らかの代償が求められる。例えば「卜伝斬り」を使用すると相手に大きなダメージを与えるが、自分もダメージを受けてしまう。奥義は強力だが使いどころを考える必要がある。

 本作の戦闘で特徴的なのは、召喚獣を呼び出す「召喚」。ガマ族のジライアは「技」を消費して「大蝦蟇(おおがま)」を、ヘビ族の大蛇丸(おろちまる)は「大白蛇」を呼び出せるのだ。召喚獣はNPCとして戦闘に参加する。召喚している時にしか使えない「召喚奥義」は非常に強力だ。


【スクリーンショット】
戦闘アニメーションも丁寧に描かれている戦闘で得られる経験点が一定の値に到達すると「段(レベル)」が上がる
大蝦蟇を召喚。召喚獣も経験点を得ることで、段が上がって成長していく
「連携技」はパーティーのメンバーが協力して行なう強力な攻撃だ奥義は各地にいる剣豪との勝負に勝つことで習得できる



■ 江戸時代から人気のあるヒーロー物語をベースに、独自の世界観を構築

 本作の舞台は、16世紀頃の日本をモデルにした架空の国・ジパング。ジパングには古来からガマ族、ヘビ族など半獣の民が、神通力を持つ白い神獣たちに守られ平和に暮らしていた。だが自らをジパングの王と称する「マサカド」により、ジパングは滅亡寸前まで追い込まれてしまう。その時、どこからともなく現われた「火の一族」がマサカドに挑みかかり、100日もの間、戦いが続くこととなった。火の一族はマサカドの前に次々と倒れていくが、火の一族の3人の勇者がマサカドを地中深くに封印し、ジパングに平和を取り戻した。しかしマサカドとの戦いから長い長い年月を経て、栄華と繁栄を極めるジパングに再び大きな脅威が迫って来ていたのだった……。

 本作のオープニングは、筑波山に暮らすガマ族の少年・自来也(ジライア)が、師匠のガマ仙人と修行しているシーンからスタート。正体不明の男による襲撃を受けた2人はなすすべもなく敗北し、ジライアは気を失ってしまう。何とか一命を取り留めたジライアだが、ガマ仙人は行方不明になっていた。自分たちを襲った男が、近頃話題になっている異国の宗教「大門教」と関係があるようだと知ったジライアは、姿を消したガマ仙人を探すために旅に出た。

 旅の途中で、大門教の目的がマサカドを復活させジパングを破壊すること、そして破壊されたジパングを支配することだと判明する。また、ジライアもマサカドを封印した火の一族の勇者の末裔だとわかり、仲間の大蛇丸、綱手(つなで)らと力を合わせ、大門教の野望を打ち砕くために活躍することとなる。

 本作の設定の一部は、中国の説話を元に江戸時代の戯作者・感和亭鬼武が書いた「自来也説話(じらいやものがたり)」に基づいている。主人公の盗賊・自来也が蝦蟇の妖術を使うことや、大蛇丸、綱手などの登場人物、「三すくみ」の設定などは「自来也説話」に登場している。その後、自来也の物語は歌舞伎などにも脚色され、大正時代には映画にもなるほどの人気があった。古くから日本人に愛されてきた世界観やキャラクターを活かして、独特な和風ファンタジーの世界を構築している。物語の壮大さやボリュームは、モバイルに移植されてもまったくスケールダウンしていない。


【スクリーンショット】
ジパングが滅亡しかけた過去を知るジライア。勇者の末裔としてマサカドの復活を防ぐため旅立つ
日本神話などを取り入れた重厚なストーリーと、「外国に勘違いされた日本」のイメージから生まれる不可思議な雰囲気が上手くミックスされている
水戸黄門や松尾芭蕉など、歴史上の人物も登場する



■ 歴史的名作の魅力を引き出すリメイク。未経験ならぜひプレイを

 据え置き機からモバイルへと移植された本作だが、モバイルゲームの特性を理解したうえで遊びやすいようにアレンジされている。特に、モバイルゲームのユーザーがあまりまとまった時間プレイしないことを踏まえ、プレイ時間が冗長にならないよう配慮がされている。例えば本作のマップサイズは、Xbox 360版と比べるとコンパクトに感じるが、おかげでストーリーを軽快に進められる。また2D化により戦闘シーンも簡略化。スピードアップとともにバランス調整もされており、モバイルのインターフェイスにフィットしたテンポのよさを実現している。モバイルゲーマーのニーズに上手く応えている点は素晴らしい。

 ただし、本作を余すところなく楽しむために、注意しておきたい点がある。1つは、ダウンロードするデータの大きさ。最初にダウンロードするアプリのデータ以外に、各章ごとにモバイルゲームとしては膨大な量のボイスやムービーなどのデータをダウンロードする必要がある。そのためパケット定額制サービスに入っていないとアプリをダウンロードできないよう対処がなされている。総容量は1GBを超えるボリュームで、プレイには1GB以上のmicroSDカードが必要。ボイスデータに関しては、取得設定をオフにすればダウンロード時間を短縮できる。

 もう1つは、ヘッドフォン。本作はムービーシーンもフルボイスなのだが、音声が聞こえないと字幕がないために会話の内容が全くわからないのだ。モバイルゲームは移動中にプレイすることが多いので、スピーカー音量をオフにしているプレーヤーも多いだろう。しかし、音声がないとせっかくのフルボイスを体験できず、ストーリーも理解しにくくなってしまう。自宅の外でプレイする場合は、できればヘッドフォンを用意したい。ハドソンは配信記念として抽選でイヤフォンをプレゼントするキャンペーンを行なうなど、ヘッドフォンの使用を推奨している。坂本龍一氏によるメインテーマ曲など音楽も非常によく、筆者もヘッドフォンの使用をオススメしたい。

 ボリュームのあるシナリオと練り込まれた世界設定、大容量を活かしたボイス演出などで、20年以上前にゲームファンを驚愕させた「天外魔境」第1作。さまざまなプラットフォームへの移植を経て、今またモバイルという新天地で新たな衝撃を与えてくれた。誰もができないと諦めそうなことに挑戦し、やり遂げて見せるのが、「天外魔境」という作品の魅力の本質ではないだろうか。本作はその魅力を十分に堪能できる作品だということが、シリーズを体験してきたファンならよくわかるだろう。そして、本作で初めて「天外魔境」に触れる人はさらに幸せだ。新鮮な気持ちで、TVゲーム史に残る名作を味わうことができるのだから。


【スクリーンショット】
移動速度も設定で速くできるので、さらにテンポアップいつでも保存できるのもモバイルゲームには重要だ
敵キャラクターも魅力的で、物語に引き込まれていく

【プロモーションムービー】


(C)1989, 2010 HUDSON SOFT (C)1989, 2010 RED
絵師:辻野寅次郎

(2010年7月5日)

[Reported by 山科明之進 ]