Xbox 360ゲームレビュー

権力の味はいかがかな、プレジデンテ?
ほのぼの南国、独裁国家経営シミュレーション

「トロピコ3」

  • ジャンル:国家運営シミュレーション
  • 発売元:ラッセル
  • 開発元:Haemimont Games
  • 価格:7,140円
  • プラットフォーム:Xbox 360
  • 発売日:5月20日発売
  • プレイ人数:1
  • CEROレーティング:B(12歳以上対象)


南国の島は楽園?それとも?

 株式会社ラッセルは、Xbox 360用シミュレーションゲーム「トロピコ3」を5月20日に発売した。本作はコンシューマーゲーム機向けとしては近年珍しい箱庭建設・経営ゲームで、PCで人気を集めた「Tropico」シリーズの最新作となる。

 箱庭経営ゲームと言えば、「シムシティ」シリーズや「A列車で行こう」シリーズのように、何らかのテーマに沿ってミニチュア都市を「経営」していくものだ。本作も強烈なテーマがあって、それは「カリブ海に浮かぶ独立国家の独裁者となる」というもの。市長なんて生易しいものではない、アメとムチを使い分け、不正工作もお手の物。あらゆる手段を尽くして国家の繁栄(と、個人的な蓄財)を目指すのだ。ビバ・プレジデンテ!

 本作は昨年10月にPCとXbox 360で発売された海外版のローカライズ版ということになるが、ラッセルによる日本語化はとても丁寧で、本作の持つ独特の雰囲気、特にブラックジョークの類をうまく伝えてくれるものになっている。ゲームそのものはブルガリアのゲームスタジオHaemimont Gamesの作によるものだが、このスタジオは長年箱庭経営ゲームばかり作ってきたとあって、本作の完成度もすこぶる高い。では早速、異色の独裁国家経営ゲームの内容をご紹介していこう。



■ トロピコ、それはカリブに浮かぶプチ国家。繁栄も衰退も、全てはあなたの腕次第

「プレジデンテ」は自分でデザインすることも、既存のモデルから選択することもできる
武装勢力との激闘!プレジデンテ自ら銃を持って戦う。このスケールの小ささが素敵だ

 舞台は1950年代のカリブ海。吹けば飛ぶような小国が乱立する無数の小島では、キューバ革命の風に吹かれてクーデター祭りの真っ盛りだ。プレーヤーはそんな中で独裁権力を手にしたという、新たな「プレジデンテ(大統領)」。トウモロコシ畑以外にはほったて小屋しかないような小島に文明をもたらし、繁栄に導くのだ。

 プレーヤーは独裁者ということで、本作では都市に関する建設・経営要素の全てがプレーヤーの手に委ねられている。島の産物を輸出したり、旅行者から巻き上げて得られる金銭は全て国家予算になるし、島民の衣食住や教育・医療等のサービスも全て国家予算からひねり出される仕組みだ。いわば島が1つの会社のような感じで、プレーヤーがその全てを制御するわけだ。

 独立運動の嵐が吹き荒れ、CIAやKGBが暗躍する舞台背景を反映して、本作では独特の政治的要素も表現されている。例えば、プレーヤーの第2の目標はスイス銀行の隠し口座にできるだけ蓄財をしておくことだったり、島では定期的に選挙が実施されるが、分が悪そうであれば得票数の操作も可能だ。

 また島民は資本主義者、共産主義者、宗教主義者、環境主義者といった政治的派閥に分かれており、ときにはプレーヤーの施策に対して特定の派閥が反感を抱き、パルチザン化することもある。騒動が起これば産業の運営や選挙に支障をきたしてしまうので、武装勢力を軍隊で鎮圧したり、不穏な派閥のキーマンに賄賂を上げたり、あるいは「事故を装って」秘密警察に消させることもプレーヤーの裁量次第だ。

 そんな政治力学の表裏まで再現しながらも、やはり王道なのは産業の発展によって生活水準を上げ、全ての島民を満足させること。そのためには各農産物や鉱物・森林資源などを効率良く産出し、加工工場を建設して輸出により利益を挙げることが必要だ。あるいは、島の自然を友好活用して、外国から訪れる金持ちの旅行者を惹きつけるのもいい。

 様々なプレイスタイルを模索しつつ、トロピコ人たちにプレジデンテの偉大さを知らしめよう。


トロピコ小史。革命の風が吹き荒れた1940年代末から、産業が発展する1970年代まで、その舵取りを任されたのはプレジデンテであるプレーヤーだ



■ 食料と住居、交通、宗教、軍事、教育、産業の育成……。プレジデンテは仕事がいっぱい

基本視点は見下ろし型。カメラは自由にズームや角度調整ができる
様々な目的別の建物がある。予算は限られているので必要なものを見極めよう
定期的にタンカーが移民を運び込み、輸出品を運び出していく
衣食住から産業、娯楽、各種行政サービスまで、プレジデンテの考えるべきことは幅広い

 ゲームシステムとしては、見下ろし型の視点で建物を建設していくことが主な操作となっている。場所を指定して、建物の種類を決めて、位置や角度を調整して……という操作が基本になってくるが、このあたりはXbox 360コントローラーにうまく最適化されており、慣れてしまえば快適にプレイできる。

 プレジデンテとして建設を指示するべき建物の種類は膨大だ。建物はカテゴリー別に大別して「住居」、「農業・鉱業」、「工場」、「ホテル」、「観光施設」、「娯楽施設」、「インフラ」、「政府施設」、「福祉施設」の9つに分類されており、それぞれに5~10種類ほどの項目が用意されている。

 これは一見複雑そうだが、最初のうちはそう多くのものを作れるわけではないのでご安心を。トウモロコシ畑くらいしか見るべきのもののない島でゲームがスタートするので、最初にやることは1次産業関係の施設と、住居を作ることだ。

 島の収入の大半は、輸出もしくは観光による売上と、アメリカもしくはソ連からの資金援助に依存している。観光収入を得るためにはかなりの先行投資が必要になるため、最初は農作物を育てて輸出することが主な収入源となる。そこでまずは農場を作り、売り物にならない「トウモロコシ」ではなく、商品作物となる果物や、コーヒー、タバコなどを積極的に作っていこう。

 地形によって各農作物の育ち具合が違ってくるので、プレイする島によっては特定の作物しか作れない場合もある。これが後々、プレーヤーの経営戦略に影響してくるあたりが面白いところだ。例えば「パパイヤ」や「パイナップル」といった果物が育つなら、後々缶詰工場を作って二次産業に繋げつつ、そればかり作っていれば島民が飢えることもない。しかし「コーヒー」や「タバコ」は金にはなるが島民の栄養にはならないので、一歩間違えると「金を握りしめたまま餓死する」という、笑えない状況になってしまうのだ。

 島民を飢えさせると餓死者を出して人口が減ってしまうだけでなく、不満を持つ島民がパルチザン化して産業がストップしたり、選挙で負けてしまうことになるため、島民の満足度には常に気を使う必要がある。そのために食料を生産することはもちろん、十分な量の住居を建設し、職場へ素早く移動できるよう近くに「ガレージ」を作って、各施設を道路で結んであげよう。人口が増え、土地が埋まってくると、いかに効率良く人々を循環させるか、本当に頭を使う部分だ。

 しかし家と職場を往復する毎日では、やはり不満をためてしまうのが島民の性。宗教主義派閥の島民は教会の設立を求めてくるし、共産主義者は医療などの行政サービスの充実を求めてくる。資本主義者は娯楽施設がないと不平不満が止まらないし、軍事主義者は兵隊の給料を上げたり、「武器庫」や「基地」を作って兵力を充実させないと不平分子化する。まったく面倒なことだ。

 しかし定期的に行なわれる選挙で追い落とされる可能性を考えれば、ある程度は期待に答えることが筋道というもの。しかし先立つものは金だ。島民に十分なサービスを提供できるよう、島の産業を第1次産業から第2次産業へシフトアップしよう。果物や魚、コーヒー等を高く売れる「缶詰工場」作ったり、「伐採所」で取った樹木を「製材所」で加工、「家具工場」で高額商品にすることもできる。本作にはその他様々な加工産業が用意されているが、どれが最適かは島の事情によりけりだ。

 ちなみにこれらの第2次産業施設では「高卒」の島民でなければ労働力になることができない。そのため、島の産業を発展させるためには早めの段階で「高校」を作っておくことが必要だ。またクリニックや病院、新聞社、ラジオ放送局のような施設では「大卒」の島民が必要となるなど、島の発展段階においては教育サービスを充実させることも重要。プレジデンテはその必要を見極めるほどに、賢くなくてはいけないのだ。


基本操作はチュートリアルミッションで学ぶことができる。コントローラー周りは独特のスタイルだが、筆者は小一時間のプレイで慣れることができた

産業を育成し、経済を発展させる。輸出が軌道に乗れば莫大な利益を上げて住民サービスを向上させることができる。それに先立つものはカネと、住民の犠牲的精神だ



■ 個性的な島々で展開する、色とりどりのゲーム展開

アンロック式の全15のシナリオでプレジデンテの挑戦を待つ
各シナリオには独特の政治状況が設定されていることが多い
「海賊の島」。この殺風景な島が…
最終的にこうなった

 本作のメインゲームモード「キャンペーン」では、カリブに浮かぶ15の島々でプレジデンテとしての様々な目標をこなしていくことになる。最初にプレイできる島は3種類だけで、クリアしていくごとに新たな島がアンロックされていく仕組みだ。

 それぞれの島にはそれぞれの特殊事情があって、それぞれに違った手応えがある。例えば、見込みのある産業資源が鉱物しか見当たらない島。タバコ以外の農作物がほとんど育たない島。険しい地形で分断され、開発が容易でない島などだ。

 あるいは政治状況が特殊な島もある。例えば「産業大国」というシナリオでは、旧宗主国のイギリスが「全ての農業生産物、鉱業生産物、板材の輸出に50%もの税を課しています」という状況。なんとか第2次産業中心に島を発展させなければ立ちゆかない。あるいは「海賊の島」というシナリオも面白い。代々海賊だった民族の島という設定で、まともに育てられる産業が観光くらいしかないのだ。「セカンド・チャンス」というシナリオでは、軍事かぶれの政治集団との闘争劇が繰り広げられる。強力な軍隊の育成が必要だ。

 シナリオ毎に達成条件も様々で、特定の年代まで勤め挙げるという単純なものから、特定の産業をある水準まで育てる、あるいはスイス銀行の隠し口座に○○ドル以上の蓄財をするなどなど。CIAとKGBの闘争に巻き込まれつつ勝利を目指せ、なんていうのもあって、一筋縄では行かないものばかり。

 ここでは例として、「海賊の島」でのプレイ内容をご紹介してみよう。このシナリオでは、前任者が木材をあらかた伐採して売り尽くしてしまったという状況で、土地は痩せてまともに農作物が育たない。作れるのはせいぜい「タバコ」くらいのもので、あとは海賊ブームに乗った観光くらいがめぼしいところ。

 となれば、島の経営方針として2つの方法が考えられる。まず「タバコ」とその加工産業で儲けること。それだけでは心もとないので、最終的には観光業メインにシフトしていくこと。観光施設は金がかかるので、まずはタバコ農園の設置からスタートだ。

 タバコは単価がそれなりに高いわりに、育つのが早いのが良いところだ。果物の「パパイヤ」などだと農園を作ってから木が育って実が成るまで何年もかかってしまうところ、すぐに収入にすることができる。島民が飢えるのは少々放置しつつ、タバコ農園を大量に設置。周辺に小汚いバラックが立ち並ぶが、住環境の改善は充分に儲けてからでいい。

 タバコの輸出で国庫が潤ってきたら、海岸に旅行者用のドックを建設。ちょうどこの海岸は観光レベルの高い地域になっているので、ホテルを数件とビーチサイト、土産物店など安い施設を作っておけば、収益が上げられるようになる。これらのものが軌道に乗ってくるあたりで島民人口も増え、不満分子のパルチザン化が怖い頃なので、共同住宅、アパートといった住環境の改善、各種行政サービスの拡充を少しづつ進めていく。

 ここまでの流れで資金繰りに失敗しなければかなりの黒字経済が達成できるので、あとはタバコの加工工場を作ったり、観光資源をさらに活用して産業規模を拡大していくことができる。1960年代には速くも、島の端にある遺跡の近くに「高層ホテル」を建設することができた。高層ホテルは大量の裕福な観光客を収容でき、近くに「グルメレストラン」や「カジノ」を作っておけば自動的に金を巻き上げられるという寸法だ。

 こうして本シナリオを無難にクリア。途中、島の植民300周年を祝ってプレジデンテ自ら近隣の島に略奪しに行ったり、「森林を復活させる」という環境主義者の一団に金をダマし取られたりはしたものの、島民の支持率100%近い数字での引退だ。これはあくまで筆者なりの攻略なので、他の方法もあるだろう(行政サービスは無視してひたすら恐怖政治というのも面白い)。本作の雰囲気が伝われば幸いだ。


観光産業は初期投資が大きいが、島の環境が良ければ確実な収益が見込める有料産業。少しづつ育てていこう

経済規模が拡大すれば、発電所を作り、様々な高度な施設を運営できるようになる。テレビ局やラジオ局は住民の洗脳に最適だ。空港を作ればさらに観光産業を拡大できる



■ さらなるチャレンジも用意。創意工夫で楽しもう

「サンドボックス」では各種ゲーム要素を調整して実験的にプレイできる
あなたならどんな島を作るかな?

 産業を育成したり、反乱勢力を鎮圧したり、大国の思惑に踊らされながら15のシナリオをクリアしても、プレジデンテの挑戦は続く。「サンドボックス」というゲームモードでは、「政治的安定」、「世界経済」、「観光」、「ゲームの長さ」などのゲーム要素を自由に調整して、18の既存の島、あるいは自動生成されるランダムマップでゲームをプレイできる。

 また、「チャレンジ」というゲームモードでは、オンライン配信されるオリジナルのシナリオをプレイでき、クリアスコアによって世界ランキングに参加できる仕組みが用意されている。上位ランカーのハイスコアぶりは一体どうなってるんだという世界だが、それだけ本作の奥が深い証拠だろう……。

 衣食住から産業、政治に至るまで様々なプレイ要素を持つ本作だが、本作の唯一の弱点は、何事も「強制しない」という優しさにあるのかもしれない。住民の不満を抑えつつ、経済的に成長するという王道的なプレイで、大抵のことが解決できるのだ。

 そういうプレイも楽しいには楽しいのだが、ひたすら王道プレイに徹していると「勿体無いなあ」と思うことがあることも事実。せっかく様々なことに多くのやりかたが用意されているのだから、創意工夫を持って、いつもは取らない戦略も、時には敢えて挑戦してみたいところだ。「選挙対策は秘密警察だけで」とか、「軍隊をどれだけデカくできるか」とか、自分なりの目標を立てても面白い。

 美しくトロピカルなグラフィックス、住民ひとりびとりが目的を持って行動するAI、幅広い戦略性。箱庭経営ゲームとして非常に高い完成度を持つ本作。近年のコンシューマーゲーム機向けの作品としては非常に“異色"と言えるゲームであり、最初はとっつきにくいかもしれないが、多くのゲーマーに是非プレイしてもらいたい内容だ。




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(2010年5月20日)

[Reported by 佐藤カフジ ]