iPhone/iPod touchゲームレビュー

コンシューマー版の雰囲気を忠実に再現
iPhone史上最大級のホラーアクション

「バイオハザード4 モバイル エディション」

  • ジャンル:アクション
  • 開発元/発売元:カプコン
  • 価格:900円
  • プラットフォーム:iPhone/iPod touch
  • 配信日:7月28日(配信中)

 最新作「5」の世界的ヒットで累計4,000万本以上のセールスを記録した、カプコンの看板タイトル「バイオハザード」シリーズ。その中でも画面スタイルの刷新をはじめ、数々の変更でシリーズに新たな方向性をもたらした「4」が、このたびiPhone/iPod touchに移植された。「バイオハザード ディジェネレーション」に続くiPhone版「バイオハザード」の第2弾で、iPhoneアプリ史上、最大級のホラーアドベンチャーになっている。

 最初に断っておくと、筆者は「バイオハザード」シリーズは「1」と「2」しかプレイしておらず、移植作ではあるが、ニンテンドーゲームキューブ・プレイステーション 2・Wiiで発売されたコンシューマー版との直接比較はできない。しかしiPhone/iPod touch用「ディジェネレーション」は一通りプレイずみだ。そこで本レビューでは「ディジェネレーション」を前作と呼び、その比較も含めて、iPhoneアプリとしての「4」を見ていきたい。




■ コンシューマー版「4」の移植版で、iPhoneアプリ第2弾

 前作「ディジェネレーション」は、2008年に期間限定で公開されたフルCG映画「バイオハザード: ディジェネレーション」が原作の、いわゆる「映画ゲーム」だ。iPhone上で本格的な3Dアドベンチャーが遊べるというのは、当時としては珍しく、ユーザーから大きな評価を得た。

 これに対して本作は、コンシューマー版の雰囲気を抽出しつつ、うまくiPhone向けに落とし込んだ「移植作」だ。ゲームは全12章で進むストーリーモードと、全24個のミッションが遊べるマーセナリーモードがあり、ボリュームもかなりのものだ。コンシューマー版を楽しんだユーザーにとっても、遊びがいのある内容になっている。

 ゲームの主人公は前作・今作ともに、「2」で主人公の1人として活躍したレオン・S・ケネディだ。ただし時系列的には、「ディジェネレーション」は「4」の1年後のストーリーで、後日談的な内容になっている。「2」でラクーンシティ事件に巻き込まれ、街を脱出したレオンは6年後、アメリカ政府直属のエージェントとなっていた。そして「4」で大統領の娘、アシュリー・グラハムの救出任務のため、ヨーロッパに赴くという設定だ。

 その後、航空機事故によりアメリカ中西部の空港内でゾンビが大量発生し、事態収拾のためにレオンが3度危機に立ち向かうことになる。これが「ディジェネレーション」だ。iPhone/iPod touch版「4」は単独で十分楽しめる内容だが、「バイオハザード」シリーズは世界観がある程度共通で、重複する登場人物などもいる。他の作品を知っておくと、より深く楽しめるのは間違いないだろう。


【主な登場キャラクター】
レオン・S・ケネディ…… 本編の主人公で、アメリカ政府直属のエージェント。27歳アシュリー・グラハム…… アメリカ大統領の娘で、何者かに誘拐される。20歳ルイス・セラ…… 物語の鍵を握る人物の1人で、自称「ハンサムなプー」。28歳



■ ゲームモードは2種類で、カメラ位置はコンシューマー版と同じ

 ゲームではまず、ストーリーモードかマーセナリーモードを選択する。ストーリーモードはチャプターごとにストーリー概要とゲームシーンで構成され、チャプター2以降では、武器商人から武器の購入や改造などのサポートが受けられる。マーセナリーモードでは、特定のアイテムを初期装備として渡され、条件(時間内にできるだけ敵を倒すなど)を満たせばクリアだ。クリアすると賞金がもらえ、ストーリーモードで使用できる。

 ゲームの操作は、画面左のバーチャルパッドで移動し、画面右の5つのアクションアイコンをタッチするスタイルだ。アイコンには武器・ナイフ・移動・指示・その他があり、配置を全12種類の中から選べる。チャプター5でアシュリーを救出すると、自分の後をついてくるか、その場で立ち止まるかの選択を、指示アイコンで出せるようになる。その他アイコンは汎用アクション向けで、状況に応じて蹴る、梯子を立てる・倒す、梯子を登る、調べる、緊急回避など、行為内容に応じて表示が変化する。このほか本体をシェイクすると武器のリロードなどができる。

 カメラスタイルはコンシューマー版と同じビハインドカメラ方式で、移動中は3人称視点。射撃アイコンをタップすると、武器を構えて肩越しの視点にズームする。バーチャルパッドで狙いを定めて、再び射撃アイコンをタップすると発砲だ。命中部位によってよろめいたり、足をつくなど反応が異なり、クリーチャーごとに特有の弱点を狙うと、1撃で倒せる場合もある。攻撃で敵がよろめいている時に近寄ると、相手を蹴り飛ばすこともできる。蹴り攻撃は威力が大きいだけでなく、1撃で周囲のクリーチャーも巻き込んでダメージを与えられるので、ぜひマスターしたいテクニックの1つだ。

 また、ゲーム中には特に説明がないが、移動中に下方向にダブルタップすると、その場でくるりと振り向ける(クイックターン)。武器を構えている時に前後にダブルタップすると、前後にステップして近づいたり、間合いがとれる。左右にダブルタップするとサイドステップだ。これらはクリーチャーとの戦闘で非常に役立つ。中でもクイックターンは、背中に弱点のあるクリーチャーと戦う上で、必須といってもいい操作だ。ただしダブルタップは焦ると失敗しがちなので、落ち着いて入力しよう。

 このほか、ステージ上の木箱を銃で撃つと破壊でき、多くの場合アイテムが入手できる。中にはステージクリアに必須のアイテムが隠されていることもあるので、見落としは厳禁だ。壁などでキラキラ光るポイントに、照準をあわせて撃つと、宝石類が手に入る。宝石類はステージ2以降で登場する武器商人に売却できるが、中には組み合わせると価値が高まるものもあるので、注意が必要だ。


【メイン画面】
通常は3人称視点で移動し、バーチャルパッドの操作で歩く・走るが切り替えられる。武器アイコンをタップすると肩越し視点の射撃モードだ。クリーチャーなどに組み付かれた際は、端末をシェイクするほか、「もがく」アイコンの連打でも抜けられる

【ステータス画面】
左上のステータスアイコンをタップするとステータス画面が開く。上部の見出しを左右にフリック(指で払う)してメニューを切り替えられる。武器・回復ではアタッシュケース内のアイテムを整理したり、異なるハーブを組み合わせて薬も作れる。マップでは目的地や宝物の場所なども確認できる

【ストーリーモード】
ストーリーモードで1度クリアしたチャプターは、後から自由にプレイし直せる。チャプター2以降は武器商人が登場し、ゲームの前に装備の補充や改造、売却ができる。資金が不足したら前のチャプターをプレイし直して、資金を稼ごう

【マーセナリーモード】
マーセナリーモードでは一定条件下でクリアをめざす。最初は「訓練場」しか選べず、ストーリーモードの進行と共にロックが解除されていく。アイテム補充のために賞金を稼いだり、手軽に遊びたい時などにオススメだ



■ 格段に向上したグラフィックスとゲーム内容

 プレイしてすぐにわかるのは、格段に向上したグラフィックスと、深みを増したゲーム内容だ。前作は舞台が空港内に限定されていたが、今作では村、渓谷、教会、城内など多彩だ。テクスチャーも前作はのっぺりしていたが、今作では細部まで描きこまれており、リアリティが大きく異なる。クリーチャーも動きが滑らかになり、素手で組み付くだけでなく、ガナードが手斧を投げてきたり、農作業用フォークで突き刺してきたりと、バラエティ豊かな攻撃を繰り出すようになった。複数のハーブを組み合わせると、より効力が高い回復薬が作れるなど、コンシューマー版でおなじみの仕様も復活している。

 またゲーム中盤以降は、救出したアシュリーを敵の攻撃から守りながらゲームを進めていく必要が出てくる。アシュリーが死んだり、敵に連れ去られるとゲームオーバーだ。おもしろいのはアシュリーにも味方の当たり判定があることで、敵の攻撃以外に、プレーヤーの攻撃でもダメージを受けてしまう。特に敵に連れ去られている最中は誤射しやすく、場合によっては1撃で死んでしまうので注意が必要だ。なお、アシュリーの体力も回復薬などで回復したり、体力の上限を増やすことができる。

 なお、グラフィックスの変化については、開発ミドルウェアの違いが原因ではないかと推察される。今作ではエイチアイの3D描画エンジン「MascotCapsule eruption」が採用されており、これによりiPhoneの3D描画性能をより効率的に引き出し、モーションブレンド/モーフィング、パーティクル、影生成、バンプマッピングなどのエフェクトが表現できるようになった。


【「ディジェネレーション」と「4」の違い】
前作ではグラフィックスがのっぺりとしており、クリーチャーの動きも単調だった。ゲームの舞台も屋内に限定され、何度も同じステージを行き来する必要があった。その反面、ある程度力押しで進められる手軽さもあった
今作ではグラフィックスがより緻密に描きこまれ、ステージも屋内・屋外とバラエティに富んでいる。チャプター5以降は救出したアシュリーと行動を共にすることになり、ゲーム内容がより広がっている。一方でより正確な操作も必要になった


 もっとも、その一方で、ゲーム内容もかなり歯ごたえがあるものになっている。前作では難易度が3段階から選べたものの、敵の攻撃は単調だった。しかもレーザーポイントによる照準にも、補正がかけられていたので、ある程度は力押しで進めていけた。しかし今作では難易度の選択ができず、一部を除いて照準の補正もない。バーチャルパッドを正確に操作して、きちんとクリーチャーごとの弱点を狙って射撃していかないと、数の暴力で次第に取り囲まれて、倒されてしまう。ただし以前のチャプターをプレイして賞金を稼ぎ、武器の強化などができるので、途中で行き詰まる恐れは少ないだろう。

 特に興味をひいたのが、本作ではガナードをはじめとしたクリーチャーの頭部に照準を合わせると、時折ひょいっと体をずらす動きが見られるようになったことだ。本シリーズのゾンビにある特徴的な動きで、貴重な弾丸を無駄にしやすく、やられるとむかっとくる。この動きが入ったことで、「バイオハザード」らしさが強く感じられた。おそらく照準補正が削られたのには、このじれったさを活かす意味もあったと思われる。

 タッチ操作という点で、ゲーム機のコントローラーよりも操作性がよくないのは事実だが、本作では題材がホラーアドベンチャーということもあり、操作のじれったさが恐怖と結びついて、「ウザい」の1歩手前でギリギリ踏みとどまっていると感じた。何度もゲームオーバーになりながら、つい再プレイしてしまう、骨太の魅力がある。




■ 操作ガイダンスに改良の余地あり?

相手がよろめいた時は、蹴り攻撃を繰り出す絶好のチャンスだ。ただし、このとき誤って射撃アイコンをタップしないように注意。無駄弾を消費するばかりか、蹴るタイミングも逸してしまう

 ただし操作性の部分で2点ほど、不要なストレスがあるように感じられた。1点目はアクションアイコンだ。前作に比べて本作では、画面上のアクションアイコンの数が3個から、最大5個に増えた。オプションで配置が変えられたり、状況に応じて不要なアイコンを表示しないなどの配慮も見られるが、タップミスが起きやすくなった点は否めない。特に射撃・移動・蹴りの一連のアクションでは要注意だ。また、アシュリーに誤って指示を出さないようにも注意しよう。まあ、ゲームプレイが下手なだけだと言われれば、その通りではあるが……。

 2点目は操作ガイダンスの不在だ。まずダブルタップ操作は、画面を見ただけでは入力方法が連想しづらい。次にこれらは、前作では前後左右への素早いキー操作で行なったもので、若干変更されている。そのため前作のユーザーほど、アクションに気づきにくいのではないだろうか(筆者も指摘されるまで、左右ステップ以外は気がつかなかった)。また、前作では序盤で画面上に操作説明が表示されたり、サポートキャラクターからのガイダンスがあったが、今作ではこれも簡略化されていた。代わりにオプション画面の「プレイングメモ」で基本的な操作説明が参照できるようになったが、パワーダウンは否めない。少なくともダブルタップ操作は戦闘に大切なので、早期に説明が欲しかったし、いつでも参照できるようにすべきだろう。

 パッケージゲームでは、基本的な操作方法は最低限、紙のマニュアルで提供できる(それでも、ほとんどのユーザーはマニュアルを読まないので、その前提でチュートリアルなどを工夫する必要がある)。しかしダウンロード配信では紙のマニュアルはつけられない。ただでさえiPhoneのタップ操作はコントローラー操作よりも操作ミスが出やすいので、操作デザインとガイダンスの提供に、より配慮が必要になる。大前提としてアイコンやバーチャルパッド操作の場合は、サイズを大きく、数を減らし、操作を補正する努力をすべきだと思うが、どうだろうか。




■ ホラーアドベンチャーの新しいベンチマーク

 本作はiPhoneでの発売ということもあり、コンシューマー版「4」をプレイ済みのコアユーザーから、ある程度カジュアルなユーザーまで、幅広い層を狙っていると考えられる。シリーズの存在は知っているけれど、今では遊ばなくなってしまった休眠ユーザーの掘り起こし、といった意味合いもあるだろう。

 しかし、本作ではこうしたカジュアルユーザーを、ゲームの世界観に引き込むための配慮が乏しい。例えば「洋館事件」、「ラクーンシティの惨劇」などと言われても、何のことかわからないユーザーもいるだろう。そこでたとえば、WEB上にiPhone/iPod touch向けの特設サイトを作って、人物設定や過去のシリーズとの相関関係などを表示し、リンクを張るなどの仕掛けがあってもよかったと思う。

 ともあれ、ゲームとしてはこれまでに発売されたiPhoneアプリの中でも最上級のレベルであり、ホラーアドベンチャーの新しいベンチマークであることは間違いない。個人的には「5」のiPhone/iPod touch版リリースを期待している。私見だが、iPhoneで「4」を遊んで興味を持ったユーザーが、Xbox 360などを買ってまで、コンシューマー版をプレイするとは思いにくい。それよりもiPhoneプラットフォームで新しいユーザー層を開拓していき、全体でフランチャイズを盛り上げていって欲しいと思う。


【スクリーンショット】
最高峰のクオリティと最大級のボリュームで、人気シリーズの名を冠するにふさわしい内容になっている


(C)CAPCOM 2009

(2009年 8月 28日)

[Reported by 小野憲史]