2020年3月31日 11:09
人生には必ず選択を迫られる瞬間がある。毎日のちょっとした選択肢の積み重ねが、後の未来で取り返しのつかない重大な影響を与えていたことに気が付く。「ライフイズストレンジ」シリーズをプレイすると、いつも「人生において、最善の選択とは一体何なのか」深く考えさせられる。
本作は、フランスのデベロッパーDONTNOD Entertainmentが開発を手掛け、スクウェア・エニックスが3月26日に発売したPS4/Xbox One/PC向けアドベンチャーゲーム。ある事件をきっかけに、超能力に目覚めた弟ダニエルを連れて父親の故郷である、メキシコのプエルト・ロボスを目指して旅に出る。
作中のキャラクターたちの人生がプレーヤーの手に委ねられ、ストーリーで些細な会話や行動の分岐点を選択することで、その後の彼らの人生を大きく変えてしまう。プレーヤーの決断がショーン自身ではなく、周囲に大きく影響を与えることになる。自分が過去に選んだ選択が、周りにどう影響を及ぼしていたかは、未来で気付くことになる。そのため、その時選んだ選択を信じて前に進むしかない。慎重に決断した選択をただ信じるしかないのだ。
ゲームではプレイ中の様々な決断によって、物語がそれぞれ違う道へと進むことになる。そこにはプレーヤーごとのドラマがあり、いくつもの異なるストーリー展開が用意されている。なお、若干のネタバレを含むため、ネタバレを完全に避けたいという方はクリア後に一読されることを強くお勧めしておきたい。
運命を選択していく「ライフイズストレンジ」の魅力
「ライフイズストレンジ」は、リアルな日常に少しの奇妙さが存在する世界だ。前作では、少しだけ時間を巻き戻せる能力を手に入れた高校生マックスが主人公。その能力を使い、未来を大きく変えてしまう力を持っていた。だが、何か起きてしまったとしても、主人公はすぐに時間を戻して行動を変えることで、異なるパラレルワールドの未来を自分で選択することができる。死や暴力、ドラッグなど重いテーマを題材としていたが、親友であるクロエの身に起こる悲劇をいくつも回避することになる。
だが「ライフイズストレンジ 2」は、過去には決して戻ることはできない。前作と違って主人公に特別な力はなく、超能力を持った幼い弟を周囲から守る立場になる。起こった運命を変えられる力がないだけに、とても歯がゆい気持ちになり、時に心がえぐられるような痛みにも近い感覚になることがある。現実の世界と同じく、未来に何が起こるかはわからない。
前作では時間を戻し、選択し直すことでいくつもの全く違う“もしも”の世界を見ることができる仕掛けに驚かされた。だがパラレルワールドでは、キャラクターが全く違う人物になってしまう。「ライフイズストレンジ 2」の面白いところは、選んだ選択肢によって、キャラクターの感情に影響を及ぼすということ。
ショーンは周囲の人の運命を変えるのではなく、相手に干渉することで感情に変化を起こしていく。そこにはリアリティが生まれ、そしてこの後起こるストーリーに、深く感情移入することができる。旅ではダニエルと一緒に、どう時間を過ごすかが重要になっている。ショーンの行動は、まだ幼いダニエルの人格形成にも影響を及ぼすことになる。
ショーンの心情がリンクする数々の音楽が心に響く
「ライフイズストレンジ 2」は、チャプターごとに流れる音楽がストーリーをより魅力的なものにしてくれる。その時々、シーンごとの選曲に毎回鳥肌が立ったのを覚えている。それはまるで、ショーンの気持ちが映し出されているようにも思え、感動する場面がいくつもあった。
シアトルから離れた2人は、旅の途中でモーテルに泊まる。ホームレス生活が続いていたが、久しぶりに部屋でくつろげることに喜びはしゃぐ2人。この先の旅では、スマホを捨てる決断をしたショーンはバルコニーで1人、クリスマスに録画した家族3人の映像を見ていた。弟が居る前では気丈に振る舞っていたが、父親の面影を思い出すとショーンの目からは涙が溢れていた。静かな時が流れる切ないシーンに、激しく感情を揺さぶられた。
部屋に戻るとダニエルが音楽を聴きながら、楽しそうに踊っていた。そしてショーンに一緒に踊ろうと声を掛ける。このシーンでは「Banquet」という曲が流れるのだが、筆者もこの曲が好きで、その時のショーンの状況とリンクしている気がしてならなかった。
歌詞で「何故否定されているように感じる? 光に背を向けながら歩く。そうして大人になっていく。俺は自分自身と向き合っている。光に向かって歩きたいんだ」というフレーズがあるのだが、楽しくダニエルと踊る場面で、事件によって父親を失いダニエルを守るため、大人にならなければいけないショーンの姿を思わず重ねてしまった。
「ライフイズストレンジ 2」では、楽曲が流れるシーンの演出がとてもドラマチックだ。さらに、ショーンがスケッチするイラストや日記もアートに溢れていて、キャラクターたちのカルチャーを感じられる。
そしてダニエルが、テレビで流れた自分達に起きた事件のニュースを偶然見てしまい、父親が死んだことを知ってしまう。その時力が暴走し、ダニエルの周囲で超能力現象が起こる。そこで2人は初めて、ダニエルが不思議な力を持っているのを知ることになる。
旅で出会う人と絆を深め成長していく
衝撃的なストーリー展開から始まるエピソードに、思わず息を呑む。兄弟は、自由を求めてプエルト・ロボスを目指すことを決意する。チャプターが始まるシーンでは、ドラマや映画のようなカメラワークにも思わず息を呑んでしまう。自然がとても美しく表現されていて、絵画のような風景をずっと眺めていたくなるような気持ちになる。
また、兄弟が道中で立ち寄ったガソリンスタンドでは、様々な出会いがあった。旅をしながらブログで記事を書いているジャーナリストのブロディや、貰い手を探している子犬など。ここからは、物を盗んだり、ダニエルに物乞いをさせるといった選択肢が出るようになり、ショーンが様々な行動を取るようになる。
どう行動するかを選ぶのはプレーヤーなのだが、お腹を空かせたダニエルに少しでもいい食事を与えたいと思うショーンの心情もわかるし、ダニエルの前ではいい兄で居て欲しいとも思ってしまう。悩みすぎて禿げそうになったくらい、兄弟たちにとって最善の選択肢になるよう心掛けて行動していった。
ショーンはブロディと2人きりになった時に起きた事件のことを打ち明ける。そこで、今まで抑えていた感情が溢れ出て、泣きながら「父親が死んだのは自分のせいだ」と自身を責めるシーンがある。この時、ショーンの悲しみや後悔が痛いほど伝わってきて、胸が締め付けられた。
ショーンは起こってしまった運命の中で、どう生きていくかを必死で考える。「過去にもどれるなら戻りたい」そんな願いも虚しく現実の世界と同じように、悩んで立ち止まる瞬間があっても、常に前に進まなければならない。過酷な状況に居ても進み続けるショーンたちから、作品を通じて教えられることが沢山ある。
超能力を使うシーンではダニエルに大きな影響を与える
ダニエルは超能力を使えるが、ショーンから人前では力を隠すよう言われる。感情によって、いつ力が暴発してしまうかわからないため、ダニエルはショーンと特訓を重ねる。力をコントロールできるようになり、どんどん重い物も持ち上げられるようになる。
だが、ストーリーで何度もダニエルの能力を使うかどうか選択を迫られることになる。その選択を決めるのはショーンであり、プレーヤー自身だ。
シアトルで警官の身に起こった出来事同様、ダニエルの力は危険もはらんでいる。選択によっては、幼いダニエルの心を深く傷つけることになるかもしれない。そして兄弟だけではなく、出会った人たちの未来にも影響を及ぼすことになる。
重要なのは超能力を“使わせるか”、“使わせないか”ということ。それは、人を殺すか殺さないかという究極の2択を迫られるシーンでもある。ショーンはこの決断で誰かを救えるかもしれないが、弟を変えてしまうかもしれない。全てはショーンの行動によって影響され、未来を決めるものでもある。
「ライフイズストレンジ 2」では、連続ドラマのようにエピソードを通じて、登場人物たちと時間をかけて絆を深めていく。ショーンたちにとって大切な時間で、家族が増えたような安らげるひと時になる。みな兄弟とどこか通じ合うものがあり、傷ついた心のすき間を埋めてくれる。だがその時間は、いとも簡単に壊されてしまう。そしてその後、出会った人達に起こってしまう出来事が、プレーヤーにとってもより心に刺さるものになる。
今まで歩んできた道のりは、全て未来へと繋がる。ひとつの選択だけで、人生が全て決まることはない。そして、最後に訪れるエンディングが、より特別なものになっていく。
すれ違いながらも兄弟の絆で困難を乗り越えていく
ただ普通に日常を過ごしたい兄弟の前には、様々な壁が立ちふさがることになる。ショーンが農園で一緒に働く女性キャシディと一緒に過ごす時間が増えると、ダニエルは自分から離れていく兄に反発するようになる。幼かったダニエルも少しずつ成長し、お互い気持ちがすれ違ってしまう。
旅で出会う人達との交流で大きく成長した兄弟は、自分たちの運命に悲観的になりすぎることはない。そしてこれから2人の物語がどう進んでいくかは、プレーヤー自身の選択になる。いくつもの分岐点がありその先のストーリーは、どれも起こるはずの未来だということ。
ショーンたちは国境の壁を越えられ、人生をやり直すことができるのか。この後も衝撃的なストーリーの連続に、目が離せなくなる。各チャプターの始まりでは、ショーンがダニエルに、2人に起こった出来事を物語として語ってくれる。そこでは、2匹の兄弟狼が苦難に立ち向かうストーリーとして、兄弟の絆を表現している。
本作をまだプレイしていないという人は、ぜひとも実際に兄弟の物語を見届けてほしい。筆者はプレイ中に感情移入しすぎて、悲しくも感動するシーンの連続に何度も泣いてしまった。そして自分が選んできた選択肢によって訪れた最後のエンディングでは、ただショーンのことを想い「ライフイズストレンジ 2」の余韻にずっと浸りたくなった。
登場人物たちもそれぞれ抱えている悩みに向き合っている。ショーンたち兄弟に出会うことで、彼らの人生も変化していく。生きていると色々なことが起こるが、前に進むことを教えてくれる。「ライフイズストレンジ 2」の美しくもリアルな世界を体感すれば、自分の人生もきっと何か少しだけ変わるような気がしてならない。本作は、いつまでも心に残る作品である。
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