2019年8月21日 00:00
アクションRPG「鬼ノ哭ク邦(おにのなくくに)」が、明日8月22日にスクウェア・エニックスから発売される。本作は「いけにえと雪のセツナ」、「LOST SPHEAR」を開発した「Tokyo RPG Factory」の3作目にして、初のアクションRPGであり、バトルのマップは昔ながらの斜め見下ろし型(クォータービュー)を採用。プレーヤーは主人公を操作して、生者の世界と死者の世界のマップを切り替えつつ移動し、群がる魔物や強力なボスを倒しながらストーリーを進めていく。
プレイスタイルによって戦略性が異なる奥深いゲームシステムや、ド派手で美しい戦闘エフェクト、爽快さのあるアクション性、そしてシリアスに振り切ったストーリーが特徴の本作は、発売前から多くの注目を集めてきた。今回、製品版をプレイする機会が得られたので、前2作にも増して「生と死」に深く切り込んだ独創的な世界観や、独自のジョブシステムを中心に、本作の魅力をお伝えしていきたい。
心を抉る音が木霊する、魂を揺さぶる物語に注目
死を悲しんではいけない独特な世界観
本作の舞台となるのは、輪廻転生によって命が繁栄する「中ノ邦」(なかのくに)。物語は主人公「カガチ」の幼少期、両親の通夜の場面から始まる。この世界では、死を悲しむことは輪廻転生を妨げる禁忌とされており、それは幼い少年でも例外ではない。静かな雨が降る夜、亡くなった両親を前に「悲しんではいけない」と告げられる主人公。ほんの小さい子どもに何て惨いことを言うのか。強烈な先制パンチを食らった筆者は、この時点で心がザワザワしてしまった。
悲しみは死者をためらわせ、未練に囚われた死者は「迷イ人」(まよいと)になるという。迷イ人はやがて魔物になるため、その前に彼らを救済し、生者と死者の双方に寄り添う役割を果たすのが「逝ク人守リ」(いくともり)だ。主人公のカガチは20年後に逝ク人守リとなる道を選ぶが、物語の随所で挟まれるモノローグは淡々としている分、彼の使命感の強さや諦観にも似た悲しみの深さを感じさせ、切なさを誘う。
輪廻転生を理とする世界での命の重さ
やがて幼馴染と共に逝ク人守リとなったカガチは、生者の世界である「現シ世(うつしよ)」と死者の世界である「幽リ世(かくりよ)」を行き来し、日々、幽リ世でさまよう迷イ人を救済することになる。
最初に訪れるマップの「ローム草原」では、遺された両親を心配する迷イ人の子どもを導くことが任務だ。「死者の願いに応え、成仏させる」系の話といえば心温まる展開が定石だが、この時点で筆者の中では嫌な予感しかなかった……。
両親に会わせることで、少年の未練を断ち切ることにしたカガチとマユラ。だが、家に到着すると案の定というべきか、少年は「寂しい。ひとりは嫌だ」と言い出す。当たり前だ。両親が心配な気持ちもあるだろうが、幼い子どもにしてみれば親から離れたくないという感情のほうがよほど強い。
オープニングで悲しみを押し殺していた主人公との対比も相まって、この場面の演出はかなりうまいと感じた。が、問題は次の展開である。息子の悲しみに触れた両親は、なんと共にあの世へ逝くことを選択する。その決断を尊重するかのように、主人公も逝ク人守リとして両親を息子のもとへ送ることに……。
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。物語の序盤でこんな壮絶な展開を見せられるとは、誰が予想していただろうか。息子をひとりにしたくないからってそんな簡単に死を選ぶのか? 輪廻転生が当たり前に信じられているから、そこまで死は重くない世界観なのか? いやでも……などと筆者の頭は混乱し、心はざわつくどころの騒ぎじゃない。
物語の展開は重く、鋭く心を抉ってくるのに、可愛らしくデフォルメされたキャラクターデザインとのギャップがヤバい。そのヤバさはもうヤバいとしか言えないくらい、筆者のボキャブラリーを奪うほどだ。
輪廻転生をテーマに、現実ではタブー視されるような後追い自害に近い表現もためらわず、「生と死」や「命」についてノンストップで語りかける本作の物語。この先どんな展開が待ち受け、主人公はどんな選択をするのか。残酷とも言える展開もどこか美しく感じられ、序盤だけでも伝わってくるシナリオの熱量は、本作の大きな魅力であると感じた。読者の皆さまにも、ぜひこの衝撃を体感してほしい。
爽快かつ戦略性もある独特なバトルシステムに注目
「鬼ビ人(おにびと)チェンジ」がもたらす変幻自在なバトルスタイル
物語の次は、いよいよ本作特有のバトルシステムについて、その面白さを存分に語っていきたい。陰鬱さが垣間見えるシナリオとは対照的に、本作のバトルはかなり爽快に仕上がっており、プレイスタイルによっては戦略性も求められる。物語の進行と共に、遊べば遊ぶほど楽しさが増すゲームデザイン。それを可能にしたのが、「鬼ビ人」の設定だ。
鬼ビ人は、強すぎる想いを抱えた特殊な迷イ人であり、魔物化せずに変じた存在。本作では、いわゆる「ジョブ」の役割を果たしており、主人公たち逝ク人守リは鬼ビ人をパートナーとして任務に赴く。鬼ビ人は同時に4人まで編成でき、戦闘中は状況に応じて、リアルタイムで憑依させる鬼ビ人の切り替え(鬼ビ人チェンジ)ができる。それぞれ固有のアクションがあるうえに、使用する武器や得意とする攻撃範囲も異なるため、新しい鬼ビ人と出会ったらどんどん試して、自分に合うバトルスタイルや鬼ビ人の編成を模索しよう。この試行錯誤の過程が、時間を忘れるほど楽しい!
ただし、鬼ビ人チェンジには難点もある。今回プレイしたPS4版では右のアナログスティックで切り替えられたが、デフォルトでは少し時間がかかり、戦闘中に敵の攻撃を避けながらの操作は、筆者にはやや難しく感じた。このラグ自体は時間短縮の技を修得することで軽減できるので、気になる方は「技奥樹」(ぎおうじゅ)というスキルツリーで優先的に修得してみよう。
序盤のローム草原のマップでは、刀を扱うアイシャの他、「ザーフ」という西洋騎士風の鬼ビ人が仲間になる。槍を使った突進攻撃や固有アクションの「ジャンプ」が持ち味であり、同じ近接攻撃を主体とするアイシャと比較しても、立体的な立ち回りが可能という点で差別化が図れていると感じた。
実は最初のボス戦ではザーフ主体で挑んだ筆者だが、迫りくるミサイルのような攻撃を避けきれず、一度敗北。「ダッシュ」ができるアイシャに切り替えながら再戦したら勝てたので、序盤から鬼ビ人チェンジを意識させるゲームデザインは、秀逸と言わざるを得ない。
ローム草原のクリア後に仲間になる鬼ビ人についても、2人ばかり紹介しておきたい。まずは弩と銃の二刀流が特徴の「ディーア」。筆者の中二心のど真ん中を狙い撃つバトルスタイルと、その可憐なビジュアルがたまらない。ただし、本作は序盤こそ敵の数は多くないが、物語が進むと敵がワラワラと群がり、容赦なく襲い掛かってくる。
遠距離攻撃を主体とするディーアは、いかに距離を取って多くの敵を狙い撃てるかという点で、テクニカルなプレイを要求される。固有アクションの「グライダー」が「滞空時間の長いジャンプ」なのも、かなり玄人向けだと言えるだろう。かく言う筆者もうまく扱えなかったものの、前述のアイシャ、ザーフとまた違った立ち回りや、攻撃が何やらシューティングゲームっぽい点が面白く、下手なりにディーアを使いまくっていたのは、ここだけの話だ。
最後に、斧を巧みに操る鬼ビ人「ウィル」も紹介しておこう。その巨大な斧は振りがやや遅いものの、期待を裏切らず攻撃力が高く、通常攻撃でも多くの敵をまとめて薙ぎ払える。技の攻撃範囲も広いので、ディーアに比べると操作がシンプルで、ボタンを押すだけでバッタバタと敵を倒していける爽快感がある。また、固有アクションの「ガード」は前方に大きなシールドを展開しつつ、ゆっくり前進できるため、耐久力が高い点でも初心者が扱いやすいと感じた。
鬼ビ人も4人そろうと最大16種類の技を使い分けられる。技は使用後に一定のクールタイムがあるものの、鬼ビ人を切り替えるうちにまた使用可能になる。そのうち技の使用だけでも戦っていけるようになり、序盤とはかなりバトルの感触も変わってくる。
ここで紹介した以外にも個性豊かな鬼ビ人が登場するので、あえて近接攻撃が得意なメンツで固めるとか、遠距離攻撃だけでシューティングっぽいプレイを楽しむとか、各自に合ったバトルスタイルを追求できるのも本作特有の魅力だ。
「現シ世」と「幽リ世」を切り替えて進むバトルの面白さ
前述のとおり、逝ク人守リの役目は幽リ世でさまよう迷イ人の救済である。そのため、鬼ビ人だけでなく、現シ世と幽リ世の切り替えも本作の大きな特色のひとつだ。目的地に向かう道中では、現シ世では道が途切れている場所が幽リ世に渡ると先に進めるなど、マップによってギミックが異なり、飽きない工夫がなされている。
また、現シ世では壊せるオブジェクトも幽リ世では壊せなかったり、幽リ世だけに存在する「幽リ世の理」という特殊ルールがあったりと、バトルにおいても現シ世と幽リ世の切り替えを戦略的に行なう面白さを味わえる。現シ世で戦うべきか、あえて特殊ルールを利用して幽リ世で戦うべきか考えるだけでも楽しく、どの鬼ビ人の組み合わせで挑むかも合わせると、十人十色な攻略法があると言っても過言ではない。
物語もバトルも、先が見えない奥深さを秘めた一作
「Tokyo RPG Factory」の前2作でも「いけにえ」や「記憶の喪失」といった重いテーマが話題だったが、本作の「輪廻転生」というテーマは、それらを上回る重さと現実感をもってプレーヤーの心に訴えかける。序盤だけでは物語の全貌は見えず、また技奥樹で段階的に解放できる鬼ビ人たちの記憶も、非常に気になるところだ。
多くの鬼ビ人が登場するので、物語が進めばバトルもどんどん感触が変わってくるだろう。また、敵を倒して入手できる武器は様々な種類のものがあり、クリアしたマップでも目当ての武器を求めてハクスラ的な遊び方が可能だ。物語と同様に、この先のバトルも楽しみでならない。
なお、本誌では過去にも本作の開発者インタビューや体験版のプレイレポートを発信しているので、ぜひ関連記事もご覧いただければと思う。作り込まれた独特の世界観とバトルシステムの調和が印象的な本作。今日からあなたも立派な逝ク人守リとして、迷イ人を導きたくなるはずだ。
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