ゲーミングノートPCレビュー「GS63VR Stealth Pro」

GS63VR Stealth Pro

GTX 1060搭載、1,800gの軽量で充分以上のVR性能を発揮!

ジャンル:
  • ゲーミングPC
発売元:
  • MSI
開発元:
  • MSI
プラットフォーム:
  • Windows PC
価格:
240,000円~(税別)
発売日:
2016年8月17日
「GS63VR Stealth Pro」

 8月17日、MSIはゲーミングノートPCの新モデル「GS63VR Stealth Pro」を発売する。本製品はNVIDIAの最新ノート向けGPUであるGeForce GTX 1060を搭載したVR対応モデルで、市場想定価格は24万円前後。

 本製品の登場により、非常に高いグラフィックス性能が必要とされてきたVRゲーミングにまつわるマシン事情がガラリと変わる。これまでノートPCでは不適とされ、たとえ動作したとしても充分なフレームレートを得られなかったミドルクラス~ミドルハイクラスのゲーミングノートPCで、これからは充分に快適なVR体験を楽しめるようになるからだ。

 それを実現するコアとなるのが、NVIDIAから発表されたばかりのノート用GPU、GeForce GTX 1060である。このGPUシリーズにはGTX 1060/1070/1080と3つのモデルが有り、それぞれの性能は大きく違うが、その中で最も安価で普及型とされるのがGTX 1060である。それが今回、充分以上のVR性能を発揮するという事実は、ゲーミングノートPCの革命とも言えるできごとだ。

2kgを切る本体重量、取り回しの良い筐体、数々のゲームサポート機能を搭載

本体。ハイパワーなゲーミングノートとしては軽量・薄型であり、デザインもシンプル

 「GS63VR Stealth Pro」は、MSIの本格的なゲームが楽しめるゲーミングノートPCの中で、15.6インチのディスプレイを備えて取り回しに優れた「GS60」シリーズの最新モデルだ。

 前世代で近しいモデルというと「GS60 6AK Ghost Pro 」はGTX 970Mを搭載し、CPUにCore i7-6700HQ、16GBのDDR4-2400メインメモリーと、128GBのSSD+1TBのHDDを搭載したミドルハイクラスの製品で、価格は27万円程度であった。本製品「GS63VR」では前モデルからGPU以外の要素をほぼそのまま継承しているが、GTX 1060を搭載したことによる大きなパフォーマンス向上を果たしつつ、価格は24万円前後と、より手の出しやすい価格へ引き下げられていることも特徴といえよう。

 基本スペックは以下のとおりだ。

【スペック表】

内容
OSWindows 10 Home
CPUIntel Core i7 6700HQ (Skylake)
GPUIntel HD Graphics 530 + NVIDIA GeForce GTX 1060
メモリーDDR4-2400 16GB
SSDSamsung MZPV128 (128GB)
HDDHitachi HGST HTS541010A73630 (1TB)
本体重量約1,800g
奇をてらうことのない質実剛健なデザインが好感触
厚みは20mmを切り、取り回しも良い

 注目したいのは、2kgを切る本体重量。これまで高性能なゲーミングノートは3kgを超えるような製品も多く、「重い物」というイメージが非常に強かったし、事実そうだったが、本製品は従来のハイエンドゲーミングノートに匹敵するパワーを備えながら、エントリーモデルクラスの重量を実現している。持ち運んで使う、日常使いのノートPCとしても充分に活かせる軽量さだ。

 サイズや形状も、取り回しの優れたムダのないデザインが採用されている。全体的に遊びが少なく無骨ではあるが洗練されており、厚みは17mm程度と、指でつまんで持ち上げられる程度のスリムさだ。このスリムさでありながら発熱もうまく抑えられており、高負荷時のでもキーボード上面がうっすら暖かくなる程度。排気音はそれなりだが、ゲームの邪魔をするほどではなく、スピーカーから音を出していればほぼ気にならないレベルに抑えられている。

 各入出力端子は本体の左右のみに配置されている。本体左面にはオーディオ出力端子、マイク入力端子、3つのUSB 3.0、SDカードスロット、有線LANソケットを配置。本体右面にはUSB 2.0、USB 3.0C、HDMIポート、DisplayPort、ACアダプタ入力端子が配置されている。

 ここでポイントになるのが右側面の端子配置だ。Oculus RiftやHTC ViveといったPC用VRシステムは、PC側のケーブルが2又に分かれてHDMI+USBという構成をとっている。この2つのケーブルは距離をあまり離せないので、それぞれ近くに接続する必要があるが、本製品では片面にUSBとディスプレイ端子をまとめて配置してあるため、問題なくVRシステムを接続することができるのだ。

VRシステムを接続するための構成となる右側面の接続端子類
背面には端子類はなく、吸気口のみが見える
StealSeries謹製のゲーミングキーボードを実装。ボタン機能やLEDライトの色も調整できる
多彩なゲーム環境支援アプリへのハブとなる「Dragon Center」(スクリーンショットは他機種版のもの)

 また、ゲーミングPCとして評価点としたいのは、キーボードの出来。本製品では、従来のMSI GSシリーズのゲーミングノートPCと同じくSteelSeries謹製のキーボードユニットを搭載しており、グラつきの少ない、堅牢な打鍵感を実現している。また、全てのキートップにLEDが搭載されており、調光を抑えた暗い部屋の中(ゲーム系のイベント会場ではよくある状況だ)でも各キーを問題なく視認できる。

 それに加えて、ゲーム環境を快適に維持するための各種ソフトウェアがプリインストールされている。その中心となるのはMSI謹製の「Dragon Center」アプリで、ここから各種カスタマイズ用のアプリ起動や、パフォーマンスや画質の調整がワンストップで可能だ。

 連動ツールとしては、キーボードの動作やLEDをカスタマイズする「Steel Series Engine 3」アプリや、オーディオ機能の細かな調整を行なえる「Nahimic2」アプリ、ネットワークの動作を確認・最適化できる「Killer Network Manager」、ゲームの録画・配信を行なう「XSplit GameCaster」といったツールがプリインストールされており、デイワンから贅沢な環境でゲームを楽しめる。このあたりの充実度は、さすがにゲーミングノートPCの老舗というか、過不足のない構成だ。

ディスプレイ部は最大180°まで開くことが可能。
各種インディケータ
「SteelSeries Engine」でキーボードの動作をカスタマイズ
オーディオ機能のカスタマイズを行なう「Nahimic2」アプリ。音がどこからなっているかを画面にオーバレイする機能もある
「Steelsereis Engine」では、各キーの割当てやマクロの管理もできる

前世代の倍以上。デスクトップ版GTX 970を超えるパフォーマンスと留意点

定番ベンチ「3DMark」

 最新のGPUであるGeForce GTX 1060と、最新CPUであるIntel Core i7 6700HQによるグラフィックスパフォーマンスは折り紙つきだ。その性能は定番ベンチマークアプリである「3DMark」ですぐに確認することができた。

 まず、3DMarkの「Fire Strike (v1.1)」テストでは、スコア9719をマーク。この数字はちょうどGTX 1060搭載ノートPCの性能を象徴的に表している。デスクトップ版GPUであるGeForce GTX 970を搭載したOculus/HTC Vive推奨スペックPCよりも上、GTX 980を搭載した前世代のハイエンドゲーミングPCよりも下、という位置づけである。

「Fire Strike」のテスト結果。計測時点でGPUドライバの熟成度によっては、今後さらに向上する可能性もある

 そしてこの性能は、前世代のモバイルGPU最上位であったGeForce GTX 980M(スコア8300程度)よりも2割も高い。Pascal世代のモバイルGPU、GTX 10xxシリーズの最下位モデルでこれなのだから、世代交代による性能向上の強烈さがわかるというものだ。なおGTX 1060の前世代にあたるGTX 960Mは同じFireStrikeのスコア“4,300”程度であり、そこから見ればわずか1世代で倍以上の性能向上を果たしたと言える。

 また、最新ゲームで多く使われるようになってきているDirectX 12のパフォーマンスを図る最新テスト「Time Spy 1.0」では、スコア“3,657”をマークした。これも数字的には、デスクトップ版のGTX 970とGTX 980のちょうど中間に位置するスコアだ。つまり、GTX 1060を搭載した本製品は、ノートPCでありながら前世代のミドルハイ~ハイエンドデスクトップゲーミングPCに匹敵するパフォーマンスを持つということになる。隔世の感に驚きを禁じ得ない。

「Time Spy」テスト結果。やはりデスクトップ版のGTX 970とGTX 980の中間という結果になった

バッテリー駆動時はCPU統合グラフィックスが優先される

ACアダプタ接続時。ハイパフォーマンス設定が有効で、GTX 1060が基本GPUとなる
バッテリー駆動時はハイパフォーマンス設定の「Sport」、「Comfort」が利用不可となる

 ただ、ここで1つの問題に気がついた。上記はACアダプタ接続時のパフォーマンスだが、それを取り外し、バッテリー駆動時のパフォーマンスを測ろうとしたところ、「Fire Strikie」、「Time Spy」の両テストともに起動不可能となったのだ。原因はすぐに判明した。

 本製品はバッテリー駆動時にCPU統合グラフィックスである Intel HD Graphics 530が優先使用されるようになり、グラフィックス機能が大幅に低下する。多くのビデオメモリを必要とするこれらのテストが起動できないというわけだ。これはもちろん、VRアプリのパフォーマンスにも多大な影響を与える。

 問題を回避するため、バッテリー駆動時でもGTX 1060を駆動できるかどうか、「Dragon Center」やWindowsコントロールパネルで電源管理まわりの設定項目などをあたってみたものの、その方法は無いようだった。例えば「Dragon Center」のシステムチューナーパネルでは、ACアダプタ接続時に利用できたパフォーマンス設定の「Sport」、「Comfort」という項目がバッテリー駆動時には選択不可となり、「ECO」、「User」という項目だけが利用できるようになる。そしてその2つの項目では、バッテリー節約のためにGTX 1060がカットされるようだ。

 その理由として、バッテリー容量が充分に与えられていないという理由が考えれる。本製品は満充電状態から通常のデスクトップ利用時で4時間強、CPU統合グラフィックスによるゲームアプリ利用時で1時間程度と、バッテリーライフが短めだ。さらに大きなパワーを使うGTX 1060をフル稼働させた場合の連続使用可能時間は極めて短い時間になることは間違いなく、それがバッテリー駆動時の統合グラフィックス利用を固定した理由だと考えられる。

 GTX 1060と、CPU統合グラフィックス。その差は想像以上に大きい。VRパフォーマンス計測の定番アプリ「SteamVR Performance Test」による計測結果では、ACアダプター接続時ではフレーム落ちゼロ、平均忠実度7.1と、やはりデスクトップ版のGTX 970とGTX 980の中間程度の値が得られた。これは「VRレディ」のラインをゆうゆう超える値だ。

 これに対し、バッテリー駆動時では、90fps以下となったフレームが100%となり、総フレーム数も必要な1/3以下の数しかレンダリングできず、平均忠実度は0と、VR用途には全く使えないレベルのパフォーマンスしか得られなかった。

ACアダプター接続時の「SteamVR Performance Test」結果
バッテリー駆動時の結果。CPU統合GPUが駆動した結果となる
GTX 1060のプロファイルとCPU統合GPUのプロファイルを比較すると、ピクセルフィルレートにほぼ20倍の差があることが見てとれる

 これらを総合して考えると、本製品は、ヘビーなゲームやVRアプリを用いる際には、かならずACアダプターを接続して使用する必要があるということになる。まあ、VRシステムを接続して使用するシチュエーションでは、ほぼ電源が確保できる室内となるだろうから、実用上は問題ないとも考えられる。

 もし、バッテリー駆動時も充分なVRパフォーマンスを得られるノートPCが欲しい場合は、より大きなバッテリーを搭載し、そしてより重量級の製品を探す必要があるだろう。バッテリー容量と重量は完全なトレードオフの関係にあるため、現状、これは致し方無いところである。

Oculus Rift / HTC Viveともに、快適なVR体験が可能

Oculus Home。執筆時点では「あなたのPCは推奨スペックを満たしていない」と警告が出たが、全く問題ない

 「ただしACアダプター接続時」という前置きは必要となるが、3DMarkで得られたパフォーマンス結果を反映し、本製品ではOculus RiftとHTC Viveの双方で、極めて快適なVR体験を享受することが可能だ。

 各VRシステムのドライバーインストールもつつがなく完了。そしてOculus Rift/HTC ViveどちらかのVRシステムを本製品に接続すると、「VR Ready」と題したMSIカラーのダイアログボックスがポップアップし、最良のVR体験のためのパフォーマンス調整を行なうかどうかが選択できる。ACアダプター接続でもともと最大パフォーマンスに設定している場合は、何もおこらないようだが、ファン速度を低速に、CPU/GPUをエコモードに設定している等の場合は、これにより自動的に最大パフォーマンスを発揮する設定に調整されるようだ。

 Oculus Riftでは、標準のデモアプリである「Oculus Dreamdeck」VR体験デモの全てのシーンが、ひとつのコマ落ちもなく実行することができた。「Edge of Nowhere」や「Chronos」といったやや重めのVRゲームでも、いかなるシーンであれコマ落ちや引っ掛かりのような不快な瞬間は全く無い。Oculus Storeで配信されている全てのゲームが必要十分以上の快適さで楽しめると見ていいだろう。

「Oculus Dreamdeck」の全シーンが完全なフレームレート(90fps)で常時動作することを確認した。快適そのものだ
デスクトップGPUでも重い「DCS World」は本製品でもまあ重かった。無理はいえない

 HTC Viveのほうも同様だが、こちらはもう少し幅が広い。当初よりHTC Vive対応としてリリースされているタイトルについては、まず問題なく動作すると見ていい。Valve謹製のVRデモである「The Lab」も、全てのアクティビティを全く快適にプレイすることができた。まったく、ノートPCでこれだけの体験を得られるとは驚きである。

 とはいえ、SteamVRに対応したアプリには、もともと超重量級のゲームをそのままVR対応させたものも存在する。例えば本格フライトシミュレーターの「DCS World」では、デスクトップ版のGTX 980でも充分なフレームレートを発揮できなかったが、それは本製品でも同様。常時45fps以下のフレームレートとなり、それも安定せず、大きなコマ落ちも発生する。まあ、これについてはデスクトップ版のGTX 1080でも充分かどうかわからないレベルのアプリなので、例外的なものではある。

標準的なHTC Vive対応のVRアプリであれば、ほぼすべて快適そのものの動作が得られると期待できる
重めのVRアプリを利用する際はShadowPlayの常時録画機能をオフにしておくことをオススメ

 もう1点、充分なVRパフォーマンスを維持するために留意したいのは、GeForceシリーズ共通の「Shadow Play」における常時録画機能の併用を避けたほうがいい、というものだ。録画機能の全てに言えることだが、録画中はCPUやPCI Expressのバス帯域が録画のためにある程度取られ、グラフィックスパフォーマンスが若干程度ではあるが低下する。

 「Shadow Play」の常時録画の場合はGPU内蔵エンコーダーを用いるため負荷が低く、最大でも10~15%程度のパフォーマンス低下となるが、常時録画という特性上、機能をONにしていると、録画を意図しない場合でもバックグラウンドで映像のキャプチャーとSSD/HDDへの一時記録が行なわれ続けるため、若干であるが慢性的にグラフィックスパフォーマンスが低下し、ギリギリで充分なVRパフォーマンスを得られず、アプリによっては常時半分のフレームレートで動作する、という状況になる。

 デスクトップ版のGTX 1070やGTX 1080ではそのぶんを差し引いても余裕なのだが、本製品に搭載されたGTX 1060はVR推奨スペックをやや上回る程度の性能、という点に留意したい。というわけなので、特に必要がない場合は、録画機能をオフにしておくことをオススメしておきたい。

 といったささいな留意点を除けば、本製品は1,800gという軽量なノートPCでありながら、ほぼ全てのVRアプリを快適にプレイできるという、ちょっと前までは考えられなかったレベルのパフォーマンスを発揮するゲーミングノートPCである。それと同時に、SteelSereisの堅牢でカスタマイズ性豊富なキーボード、各種のゲーム向け最適化機能など、MSIならではの行き届いたプリインストールシステムが、通常のゲームプレイも快適なものにしてくれる。

 VRゲームに限らず、多種多彩のゲームを1つの環境で楽しみたいゲーマーや、持ち運び容易な環境でVRアプリの開発やデモを行ないたいVR開発者にとって、力強い相棒になること間違いなしの逸品だ。