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山形県西川町、体験型ミステリー「記憶を失くした名探偵」ネタバレなしレビュー

名探偵となって現地に赴き謎を解く。4時間以上の大ボリュームイベントを体験

【記憶を失くした名探偵】
開催期間:4月~11月(不定期開催)
会場:山形県西川町
料金:5,000円(税込)※小学4~6年生は2,500円(税込)
所要時間:4~5時間

 山形県・西村山郡西川町を舞台に、4時間以上の大ボリュームのシナリオを楽しめる体験型ミステリー「記憶を失くした名探偵」が4月から11月にかけて不定期で開催される。チケット価格は5,000円。小学4年生から6年生は2,500円。

 「記憶を失くした名探偵」は、参加者が実際に西川町を訪れ、名探偵に扮して事件の真相を明らかにしていく体験型ミステリー。西川町は、東京からだと新幹線とバスを乗り継いで合計4時間以上かかる場所だが、名探偵として地方へ赴くなんて、いかにもミステリー小説っぽいシチュエーションがとても良い。

 今回、実際に山形まで足を運んで、ガッツリ体験してきた。ネタバレ最小限でその模様をお伝えする。

山形の町で事件を解決という、TVなら劇場版的な胸アツ展開

ただの謎解きじゃない! 町全体を巻き込むARG体験?

 今回のイベントは、よくある「リアル脱出ゲーム」的なものではなく、オンラインとリアルが融合したARG(代替現実ゲーム)。実際にある場所やモノが使われているため、何が本当で何がゲームの設定なのかの線引きがだんだんと曖昧になってくるところも見どころの一つだ。

 体験者は事前に前日譚として、記憶喪失者の失踪事件を体験しておく必要がある。LINEやX、インスタグラムを駆使しながら謎を解くのだが、これもどこまでが本当で、どこまでが設定なのかわからなくなるほどだった。実際にある某公式ページに、事件に関連するデータが紛れていたりして、驚きの連続だった。また、謎もかなり凝っていて、正直ヒントを見なければ答えがわからないものも多かった。

 SNSツールを駆使する場面も合ったりして、「これが次世代の謎解きスタイルか」と感嘆した。本編でも、スマホなどのツールが必要になるので、バッチリと充電して向かってほしい。

 なお、この前日譚は誰でも参加できる。興味を持ったら「ウエストリバーレディオ!」公式サイトからLINEを登録して、謎解きにチャレンジしてみるといいだろう。

□「ウエストリバーレディオ!」公式サイト

ARGという、なかなかプレイできないゲームに興味がわく
オンライン版の謎解きもかなり凝っていて楽しい

名探偵の資質を問う! 白熱のミッションがスタート

 イベント体験は、スタート地点となる「にしかわイノベーションハブ TRAS」だ。集められたのは全国からやってきた僕ら「名探偵」たち。ここでは、まず本名ではなくコードネームとも言える探偵名を決めた。基準は、好きな食べ物ということで、ハンバーグや芋けんぴなど、個性あふれる名前がついた。ちなみに、僕ははんぺんフライにしておいたが、呼びにくいので、みなさんが参加する時には、短くてわかりやすい名前がいいだろう。

 イベントが始まると、まずは西川町の情報を教えてくれるというラジオ番組「ウエストリバーレディオ!」の紹介があった。これは前日譚でメインともいえる扱いの番組だ。パーソナリティは水場翔太さん。今回のミッションをナビゲートしてくれる米さんは水場さんの大ファンで、名前入りサインをもらってポーチに飾るほど……という設定が語られる。水場翔太は架空の人物で、実際のCVは声優の岡本信彦さんが演じている。このあたりの細かくもリアルな設定がARGの面白いところだなと感じる。

 そして満を持して画面に登場したのは、西川町のインターネット環境やセキュリティを担当しているというAIのクリス。彼女によると、「怪盗から依頼を受ける前に、皆さんがどれほど優秀な探偵かテストさせていただきたい」とのことで、いきなりミッションが発動された。

 第一のミッションは、「本日TRASで、キジトラの3歳程度の猫を保護しました。制限時間は30秒、飼い主に連絡をして安心させてあげてください!」とのこと。30秒とはいきなりの無茶振りで焦りまくる。幸い、この謎はほかの探偵さんが時間ギリギリでクリアしてくれた。なぜ解けたのか、どういう答えだったのかは秘密だが、探偵らしく様々なところに目を配る必要があった、とだけ伝えておく。

 第二のミッションは記憶力と観察力のテストだ。問題自体もネタバレになるので内容は伏せるが、これも探偵としての実力が試されるような、かなりの難問だった。しかし集まった今回の探偵たちは優秀で、リーダーである「ビリヤニ探偵さん」が回答してくれた。これにてミッションクリアだ! そうこうしているうちに、参加している探偵間の連帯感もどんどん強まっていく。

にしかわイノベーションハブ TRASから事件は始まる
水場さんのサインも作り込まれている

ガチの特製衣装に身を包み、いざ秘密の場所へ!

 テストが終わり、ついに今回の本題が明かされた。映像で登場した「月影教授」によれば、西川町には1977年の「小国火球」で落下した1.5億円の価値を持つ「月の隕石」が隠されているという。そして、その隕石を狙う「怪盗ムーン」から犯行予告が来ており、なんとこの日がその当日だという。つまり、僕らが呼ばれたのは、怪盗ムーンから月の隕石を守ることなのだ。

 さらに月影教授の口からは、隕石を狙う怪盗ムーンの正体が、現在行方不明となっている「加茂鹿緑」である可能性が明かされた。この加茂鹿緑は、前日譚(事前ゲーム)で一生懸命足跡を追っていた記憶喪失の女性のこと。ここで、デジタル(事前のオンライン謎解き)とリアル(今日のイベント)がひとつの線となって結びつくようになっている。これは正直、熱い展開だった。

 さらに、探偵たちのモチベーションを爆上げする演出として、特別な「探偵コスチューム」として、探偵マントと探偵帽が貸し出される。実は事前に服装について「無地・柄物ではないベーシックカラーのトップスを着てきて」と指示があったのだが、これを羽織るためだったことが明かされた。

 この衣装はただのコスプレ衣装ではない。既製品では世界観に合うものがないと、西川町のアパレルデザイナー・長谷川瑞希さんが一からデザインしたもの。その制作費は全体で約60万円だという。そしてその衣装を彩るのが、服のボタンと帽子のアクセサリーに使われた「月山(がっさん)めのう」と呼ばれる天然石。これは、地元の職人・上野さんが手作りしたもので、ストーリーのイメージに合わせて、満月と三日月をイメージした形に削り出されている。上野さんによると、極限まで薄くすることで、光を通すとめのうの美しさが映えるらしい。

 そしてストーリーが進むと、我々探偵はこの贅沢な探偵マントを翻しながら、隕石が隠されている秘密の場所へと向かう。秘密の場所へはバスで移動するのだが、場所は本当に秘密のため、車内で目隠しをすることに。1.5億円の価値を持つ月の隕石を隠してある場所……想像するだけで、なんとも言いようのない不安が押し寄せてくる。「これ絶対に事件が起きるフラグだよな」。そう思いながらも、バスは西川町を疾走していくのだった。

目的は月の隕石を守ること!
満月をイメージした月山めのうのボタン
三日月をイメージしたアクセサリーが可愛い探偵帽子
着用するとかなり気分が上がる!

AIとの対話、そして町全体を使った立体的な謎解き

 目的地には月影教授が待っているということだったが、バスが着いても月影教授の姿はない。バスを降りて直接秘密の場所へ向かい、たどり着いたのは雰囲気のある廃屋だ。町内の空き家をミステリースポットに改築したということで、存在感が半端ない。入り口で月影教授を呼ぶが返事はなく、一行は隠されている別の入り口を探すことになる。ここでは、隠された第2の部屋を探すことに……。と、参加した名探偵たちはどんどんストーリーに引き込まれていく。

 無事、第2の部屋を見つけて、中に入るとカビ臭いが鼻をつく。部屋全体は納屋を階層した感じで、壁にはロープや鎌などが散見する。青白く光る照明と相まって、おどろおどろしいホラーな演出がバッチリ決まっており、女性の探偵たちからは恐怖とも言える感情を見て取れた。

 ここで部屋を調査すると怪しげな金庫があり、開錠することで次の展開へと導かれる仕組みだ。そして、この金庫を開けるには再びAIが絡んだシステムを利用し、スマートフォンを使って金庫の暗証番号のヒントを調べることになる。

 そして開錠後は、中のアイテムを使って次の謎を解くことに。ひとつの謎を解決すると、次の謎がまっている。この立体的な謎解きのラッシュが、本企画の醍醐味だろう。スタンプラリーのような謎解きを予想していると、翻弄されるに違いない。

 この先の展開も書きたいのは山々だが、そこはこれから体験する人のためにネタバレはしないでおくべきだろう。いずれにせよ、見たもの聞いたもの、その全てを記憶し、疑い、真実への扉を開いたとき、感動すること間違いなしだ。

目隠しをさせられてバスに揺られるのは結構怖い
秘密の場所へ向かう名探偵たち。彼らを待ち受けるのは?
何に使われたのかわからないロープ類が不気味さを感じさせる
鎌などから元が納屋であったと思わせる
現代の名探偵はAIやスマートフォンを活用することもあるのだ
この赤い点は……まさか??

おわりに:西川町は本当の名探偵になれる町かも?

 今回はメディア向け体験取材ということもあり、途中で菅野町長や窪田プロデューサーの記者発表があった。話を聞いて驚かされたのが、このプロジェクトに懸ける関係者たちの「異常なまでの熱量」だ。過去に実施されたAI謎解き(第1弾~第3弾)では、計1万6千人以上が参加し、経済効果は約3億9千万円とのこと。また、参加者のNPS(顧客推奨度)は、有名テーマパークをも超える数値を叩き出しているという。これは、町おこしとしてかなり成功していると言える事例だろう。

 実は、さきほど謎解きの舞台となった「廃屋」も、地元の方が代々受け継いだ大切な家を提供してくれたもの。その内部を東京藝大出身のアーティストが改装するという力の入れようだ。街全体が協力するからこそ、この深みのあるミステリーができたのだろう。

 さらに驚きなのが、ストーリーに絡んでくる天空石橋(てんくうしゃっきょう)という場所は、セットではなくも実在するもの。しかも、いつ誰が何のために作ったのか分からない本当の謎だとか。第一発見者の大沼さんが「その謎こそが余白であり、それを埋めるのはあなたたちです」と語っていたのに印象的。つまり、この西川町には本当の謎があるのだ。

 今回の「記憶を失くした名探偵」も、非日常のワクワクする体験だが、天空石橋以外にも西川町には「なぜ」が複数点在する。このミステリーに参加するだけでなく、現地に赴いて西川町の謎を解き明かすのも楽しいだろう。西川町は本当の名探偵になれる町なのかもしれない。

ストーリーにも絡んでくる菅野町長
今回の仕掛け人でもある窪田望プロデューサー
天空石橋の第一発見者である大沼さん
このミステリーを盛り上げる西川町と出演者たち