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「スペースインベーダー」や「ゼビウス」など伝説のゲーム開発者3名が一挙集結!
「あそぶ!ゲーム展」でトークイベント「ゲームデザイナーの仕事」を開催
(2016/1/25 13:14)
埼玉県川口市で開催中のデジタルゲームの展覧会、「あそぶ!ゲーム展」の会場であるSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザにて、有名ゲームデザイナーと本展覧会の企画監修者をゲストに招いたトークイベント、「ゲームデザイナーの仕事」が1月23日に開催された。
ゲームデザイナーとはどんな人?
本イベントのゲストとして登場したのは、「スペースインベーダー」を開発した元タイトーの西角友宏氏、「パックマン」を開発した現東京工芸大学教授の岩谷徹氏、本イベントの企画監修を担当した「ゼビウス」などの開発者として著名な遠藤雅伸氏、同じく企画監修をした東京大学大学院情報学環の馬場章教授の4名。司会進行はゲームライターのローリング内沢氏が担当した。
まず最初のテーマは、そもそも論として「ゲームデザイナー」とはどんな仕事をする人なのかというもの。西角氏によると、「スペースインベーダー」を発売した1978年当時のタイトーでは「ゲームデザイナーという人はまだ存在しなかった。デザイナーと言えば、グラフィックスを描く人のことを指してましたね」とのこと。ちなみに「スペースインベーダー」は、同氏がゲームの企画からグラフィックスデザイン、ハードの設計など、サウンド制作以外の仕事はほぼすべて1人でこなしていたというから、今となっては驚きだ。
岩谷氏は、ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)で自身が企画とグラフィックスを担当した「パックマン」(1980年発売)を例に挙げ、「ゲームデザインにおいて1番大事なことはコンセプトを考えることです。『パックマン』は、女性やカップルもターゲットにしようということから、食べることをテーマにして作っています」と自身の体験を元に語った。
遠藤氏からは、「ゲームデザイナーにはゲームの内容をデザインするレベルデザイナーと、メカニクスのデザイナーの2種類があり、これらを統合したものをゲームデザイナーと呼びます」と説明した。会場内は、インベーダーブームの時代からゲーム好きだったと思しき40歳代前後の来場者が多数を占めた印象だが、中学生以下と思われる若い来場者もいたこともあってか、ゲーム開発の事情を知らない人向けにもわかりやすい言葉で話すよう配慮していたようだ。
さらに馬場氏からは、「逆に海外ではゲームデザイナーという名称は古くから使われていました。それから海外では女性のゲームデザイナーが多いのも特徴で、社会的にも非常にリスペクトされています。日本ではそうなっていないのが、個人的には不満なところですね」と、研究活動を通じて海外の事情に精通する学者ならではの視点から見解を述べていた。
超貴重な資料も公開! あの往年の名作ゲームに影響を与えた作品とは?
ゲスト3名の代表作である、「スペースインベーダー」、「パックマン」、「ゼビウス」はどのようにして生まれたのかというテーマに話が及ぶと、実はそれぞれのタイトルに影響を与えた作品が別にあることが明かされた。
「スペースインベーダー」においては、デモ画面(※誰も遊んでいない状態)中に上下逆さまに表示された「Y」の文字を敵のインベーダーが元に戻すなど、近くを通り掛かった人が思わず目を向けてしまう面白い演出が存在する。西角氏によると、「アメリカの子ども向け番組で、文字を入れ換えて遊ぶ場面があったのを見てこれは面白いなと思った」というのが発想のヒントになったことを説明した。
さらに当時の手書きの開発資料をスクリーンを通じて見せながら、「敵のインベーダーのデザインは昔のSF小説や映画に出てくる、タコのような火星人の絵に影響を受けている」と語った。なお、本作の開発資料は「遊ぶ!ゲーム展」のメイン会場にも展示されている。
「パックマン」においては、主人公が食べると一定時間だけ敵のモンスターを食べられるようになるパワークッキーの演出があまりにも有名だ。ところが岩谷氏いわく、「企画当初はパワークッキーがなく、後から追加したものなんです」という。開発中はずっとモンスターから逃げ回るだけのゲームだったため、プレーヤーが常にプレッシャーを受ける状態になっていたことから、「アニメの『ポパイ』をモデルにしました」とのことで、あの一発逆転の痛快なシステムが誕生したのだそうだ。
一定のステージ数をクリアするごとに見ることができるデモ画面、通称「コーヒーブレイク」の演出についても、当初はプログラマーから反対されたていたとのこと。しかし、岩谷氏が「この演出にはプレーヤーに休息を与え、また先のステージをクリアできたときには『どんな絵が見られるのかな?』というモチベーションを与えることができるんです」と、プログラマーを説得することで実現したと解説した。
1983年にナムコから発売された「ゼビウス」に関しては、遠藤氏によると完全にマーケット主導の発想から開発がスタートしたそうだ。「当時は画面がスクロールするタイプのシューティングゲームがトレンドになっていたので、ならば自分たちも作るべきだと思いました。さらに、2種類の攻撃方法で敵を破壊するようなシステムにしたら面白くなるのではないかとも考えていました」と、その背景を説明した。
続いてゲームの世界観の創出についての話題になると、「あれは完全に厨二病。もうお花畑の世界ですよ。アニメの『伝説巨神イデオン』の影響をもろに受けています」などと語って聴衆を笑わせていた。また隠れキャラクターの代名詞的な存在である、かの有名なソルのアイデアについては、「自機のソルバルウについている照準内に敵が来ると3色に光るようにしたのですが、これを使えば敵の居場所の探知に利用できるというのがヒントになった」と説明した。
巨匠たちの提言:現在のゲームデザインの仕事における問題点とデザイナーに求められる要素
本トークではゲストが手掛けた作品の内容に関する話だけでなく、ゲーム開発の現場において現在起きている問題点などもテーマに挙げられた。西角氏によると、「昔は1人でゲームを作ることが普通だったが、今は多くの人数が関わるようになった」ことから、「異なるセクション間でのコミュニケーションが取りにくくなっている問題はあるかもしれません」と語り、岩谷氏も「自分で工夫をするチャンスが少なくなっている」と指摘した。さらに遠藤氏は、スマホアプリやネットワーク対応ゲームが今は多くなった結果、「ゲームの開発ではなく、運営にも手を掛ける必要が生じたことでデザインをする機会が減っている事情もある」と述べた。
ここでも馬場氏は、「海外では、国策としてゲーム開発者の養成に取り組んでいる国がいくつもあるんです」と、海外での事例について触れた。その顕著な例のひとつがカナダだそうで、「カナダは2007年の時点ではアメリカ、日本、イギリスに次いで第4位のゲーム開発国でしたが、政府がゲーム開発会社の法人税を免除したり人件費の50パーセントを補助するなどの尽力をした結果、2008年にはイギリスを抜いて世界第3位になりました」と、国のバックアップや大学・研究機関とのいわゆる産学連携の重要性を指摘した。
また、ゲームデザイナーを志望する人向けのメッセージとして「ゲームデザイナーに必要なものは?」という質問に対しては、「ゲームだけでなく、いろいろなものを見ること」(西角氏)、「相手の気持ちになって物事を考えること」(岩谷氏)、「コンセプト主導で企画を考え、それを形にできること」(遠藤氏)とそれぞれ提言した。さらに馬場氏は、「ICT(Information and Communication Technology)とエンターテインメントとが融合した、ゲームならではの本質的な部分を見るようにしてほしい」と述べるとともに、「勉強を始める前に、適度にゲームを遊ぶことは脳の活性化にも役立ちますよ。これは研究でも実証済みです。ちなみに私の研究室では、ゲーム会社への就職内定率は100パーセントなんです(笑)」と、自身の研究を元にゲームデザイナーの仕事の有用性もアピールしていた。
当日は雪の予報が出るというあいにくの天気だったにもかかわらず、ビデオゲーム開発の巨匠たちのお話が聞けるとあって会場には優に100名を超える来場者が駆けつけて満員札止め状態に。さらにイベント終了後にはゲストとのサイン会も行なわれ、レトロゲームファンにもゲーム開発志望者にも大いに楽しめる1日となったのではないだろうか。
なお、「遊ぶ!ゲーム展」の入場料は大人510円(税込)、小中学生は250円(税込)で、開催期間は2016年2月28日までとなっている。展示内容や会場までの交通アクセスなど、詳細は下記リンクを参照していただきたい。