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人口3万2,000人の田舎町が「ゲームジャム高梁」を開催にこぎつけるまで

“ゲーム開発の空白地帯”中国地方で始まったインディーズムーブメントを取材

10月17日・18日 開催

会場:高梁市市民ホール

ゲームジャム高梁のロゴマーク

 ゲーム開発とはまったく無縁そうな田舎で、アマチュアのゲーム開発者を集めたゲーム開発イベント「GameJam」が開催された。「ゲームジャム高梁」を開催したのは、岡山県高梁(たかはし)市。岡山市から電車で約1時間ほど、山と川しかない風景を旅するとふいに現れる山間の小さな城下町だ。人口はわずか32,000人、市街地は端から端まで見渡せるほど小さい。

 開催日当日、谷間に立ち込めた雲海がまだ晴れ切らない中、会場となった高梁市役所の市民ホールに17人の参加者が集まった。ほとんどは県南の大学や専門学校でプログラムを勉強している学生、部活動でゲームを開発しているという地元の高校生や、県外からきたアマチュアのエンジニアもいる。遠くは大阪や広島からの参加者もいた。

 「ゲームジャム高梁」には中国地方からインディーズを盛り上げていきたいという、たくさんの人の熱い想いが込められている。なぜ、中山間の小都市でGameJamが企画、開催されることになったのか。そこでどんなゲームが作られたのかをレポートしたい。

ゲーム開発の空白地帯から、グローバルに通用するゲーム開発者を生み出せ!

会場となった高梁市役所
岡山理科大学の山根信二氏
吉備国際大学の井上博明氏

 GameJamは限られた時間の中で1本のゲームを作るというゲーム開発を目的としたハッカソン。東京や大阪では大小さまざまなGameJamが開催されている。最も大規模な「Global Game Jam」では世界に518カ所の会場が設置され、数千人が参加する。日本でも全国に19カ所の会場が設置され600人以上が参加している。この19カ所の日本会場を見てみると、札幌、仙台、福島、東京、新潟、石川、名古屋、大阪、福岡、沖縄と全国をくまなくカバーしているように見える。だが、よく見ると全く姿の見えない地域がある。

 それが中四国地域だ。中国地方、四国地方はなぜか昔からゲーム開発者の中で存在感が薄く、ゲーム開発の空白地帯と言われていた。もちろん開発者がいないわけではないのだが、とにかく目立たない。それぞれの立場から、そんな状況を打開したいと思っていた人物がいた。その動きがやがて、ゲームジャム高梁というイベントに結実していく。

 岡山県南にある岡山理科大学は、「バーチャファイター」や「シェンムー」を産んだ鈴木裕氏の母校だ。これだけのビッグネームの母校ともなれば、前面に出して大学のプロモーションに使っていそうなものだが、実際には学内にも知っている人はほとんどいない。そこで岡山理科大学は“第2の鈴木裕”を誕生させるために、情報科学科のデジタルメディアコースでゲームシステムデザインの授業を開始した。そこでゲームを教えるために東京から赴任したのが、IGDA理事の山根信二氏だ。山根氏はGameJamに運営としてかかわっており、東京から岡山へ来る時に託されたミッションの1つが、中国地方でのGameJam開催だった。

 東京ではさまざまなメーカーがセミナーを開催しており、それに参加して勉強したり人脈を広げたりできるが、岡山ではなかなかそういう機会がない。そこで山根氏は、大学や専門学校生、エンジニアらとともに、2014年にインディーズのネットワーク拠点となる「岡山Unity勉強会」を立ち上げた。勉強会では、メーカーやゲーム開発者をゲストに呼んでセミナーを開催している。この勉強会のメンバーが、ゲームジャム高梁でも根幹をなすことになった。

 同じ時期、会場となった高梁市では別の動きが起こっていた。高梁市にある吉備国際大学にはもともとアニメーション文化学科があったが、2014年から学部に昇格した。吉備国際大学では「オネアミスの翼 王立宇宙軍」や「MEMORIES」のプロデューサーを務めた井上博明氏を専任教授に抜擢して、アニメの製作技術やプロデュースを教えている。そんな大学と連携して、高梁市ではアニメをスポンサードしたりとコンテンツビジネスを利用した地域活性化に重点を置いていた。

 そんな高梁市の市議会議員からアニメと親和性の高いゲームを使った町おこしイベントとしてGameJamが提案される。議員チームの思惑は起業支援だ。県内でももっとも消滅可能性が高いと言われてしまった高梁市では、現在全力をあげて定住対策が行なわれている。定住には雇用が欠かせないが、高梁市のような過疎地域では工場を誘致しても労働者が集まりにくくなっている。そこで期待されているのがスモールオフィスだ。小規模のスタジオを呼び込むことは、地方で問題になっている空き家対策にもなる。

 市議の1人は「いまやアニメやゲームは国際分業が当たり前の時代。遠い海外との仕事なら、岡山も東京も大きな違いはない。岡山でグローバルに通用するスタジオを作ることも不可能ではないはず」と語る。中四国地方でGamJamを開催したい山根氏、高梁市をゲームで盛り上げたい市議の思いが融合して、「ゲームジャム高梁」の企画が進み始めた。

岡山発のインディーズゲームが東京ゲームショウに

「福島GameJam」の岡山会場の様子

 高い志で企画が立ち上がったのはいいが、果たして本当に人が集まるのか、という不安はあった。そんな中、8月に「福島GameJam」の岡山サテライト会場が立ち上がることが決定。岡山Unity勉強会が開催した事前の説明会には40名あまりが集まり、説明にきたUnityの担当者を驚かせた。それまでは開催に懐疑的だった山根氏も、その人数を見て開催できると確信が持てたという。

 その「福島GameJam」は東日本大震災の復興支援を目的に始まったGameJamで、今年で5年目を迎える。今年は国内4会場、海外7会場をつないで8月22日、23日に開催された。岡山からは5チーム32人が参加し、駅前にある専門学校の部屋を間借りして30時間でのゲーム開発に挑んだ。地域の人に素材を描いてもらったり、ベータテストに参加してもらったりという地域密着型の運営スタイルはゲームジャム高梁の運営にも生かされている。岡山会場で作られた「わしらバルーンキャッチャー We are Balloon catchers」はUnity賞を獲得し、東京ゲームショウのインディーゲームコーナーにも出展された。

 ゲームジャム高梁の募集はちょうど東京ゲームショウへの出展が決まり、岡山のインディーズシーンが盛り上がっている時期だった。ちょうど国家試験が重なり参加したいのにできないという人が多数いたため、当初10名程度になるかと思われていたが、最終的には17名が参加することになった。

 そんな参加者の期待に応えようと、主催者側も準備を頑張った。会場は5月に落成したばかりの市役所内にある市民ホールを市が無料で貸し出した。宿泊施設は吉備国際大学がこちらも無料でゲスト用の宿泊施設を提供し、ベッドと風呂がある部屋で宿泊しつつ開発するという、ザコ寝上等なGameJamとしてはかなり恵まれた環境になった。

 大会のルールは「福島GameJam」と同じ30時間で完成を目指すというもの。Global Game Jamでは48時間で1本のゲームを作るが、この場合金曜スタートになり社会人が参加しづらくなることが理由だ。スタートは土曜日の10時。開会宣言の後、「前へ!」というテーマが発表された。テーマには、閉塞感のある中山間地域でも未来に向かって前進していきたいという気持ちがこもっている。ゲーム内に使えるよう、観光地の写真素材も用意された。

(石井聡)