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スクエニのサウンド開発者が語るゲーム音楽の歴史と現在
プレーヤーをゲーム世界に引き込む音楽技術とは
(2015/3/8 11:40)
「The Evolving JRPG Audio Culture」のセッションでは、スクウェア・エニックスでサウンドディレクターを務める矢島友宏氏と、オーディオプログラマーの西松優一氏により、彼ら自身が分析した日本のRPGにおける音楽、サウンドの歴史と、現在が語られた。
「ドラゴンクエストのテーマ曲」を聞けば、冒険の日々を即座に思い出す人は多いだろう。「ファイナルファンタジー」の勝利のファンファーレなども含め、特にRPGにおいては、音楽や効果音は、様々なシーンで効果的に使われ、プレーヤーの心をつかんできた。現在、その技術はどこまで進化しているのだろうか。
進化を続けるゲーム音楽と効果音。重層的なトラックを切り替え多彩な場面に対応
まず、矢島氏は自身の体験からJRPGを分析した。彼は以前会社の先輩から、JRPGはエンディングに向けて、プレイと反応を繰り返し、中ボスと出会い、ストーリーを体験し、そして最後に世界の没入のクライマックスとしてRPGのエンディングがあると言われた。
しかし矢島氏自身は、ストーリーを深く味わって行くには様々なケースがあると感じたという。1つのケースには探索し、バトルし、途中でムービーが流れ、より深くなっていく戦略を楽しんでいく中でストーリーが掘り下げられていく。あるケースではムービーやカットシーンから始まり、戦略を練って戦ってから、探索が広がっていく。このようにRPGというのは様々なケースと順番があり、もっと自由度の高いものではないかと感じているという。
矢島氏が独自の考えを発展させていったように、日本のRPGも様々な進化を遂げている。そしてハードの進化は、矢島氏、西松氏が担当する音楽の進化も促した。次に矢島氏はゲーム音楽サウンドエフェクトの歴史を語った。ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン時代はグラフィックスの表現がシンプルだったからこそ、音楽の役割は大きかった。多くのミュージックトラックが活用され、画面と音楽のシンクロにより、効果的な演出が行なわれた。
プレイステーション時代では、媒体がCD-ROMになったことで生の音楽が使用されるようになった。「ムービーシーン」が出現し、音楽とのミキシングが行なわれた。サウンドの重要性は増し、さらなるクオリティと量が求められるようになった。戦闘時には、キャラクターのボイスも盛り込まれた。
そしてPS2/Xbox時代には複雑化するゲーム場面と音楽を制御するため、自社のツールを活用していく状況が生まれる。キャラクターは常にしゃべるようになり、サウンドエフェクトは極端に複雑化していった。
PS3/Xbox 360時代になるとさらに複雑化し、様々な要素が入り交じる。音楽はマルチチャンネル化し、様々な状況に合わせた動的な音楽の切り替えが行なわれる。ツールやソースは膨大になったが、自社内で様々なタイトルに共有できるツールや、ライブラリが生まれ、活用されるようになっていった。
現在日本のRPGは、PS3/Xbox 360時代の技術によって制作されている。現代のJRPGの音楽は、巨大なサウンドトラックが用意されており、伝統的なオーケストラが使用され、エモーショナルで精巧な楽曲が常に演奏されている。
そしてこれらの音楽はマルチレイヤーで、動的に切り替えて使用される。例として西松氏は「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」の1シーンを見せた。このシーンではフィールドBGM、敵に見つかったときの警戒BGMが鳴り、敵から逃れてフィールドBGMに戻る。そして再び警戒BGM、戦闘シーンと続き、最後に敵を倒しての戦闘結果画面のBGMとなる。ここでは、約1分のシーンに実に5回も曲が切り替わる。
こういった作業は、ゲーム開発と音楽デザインが密接に協力し合うこと、音楽に関する専用のプログラマー、デザイナーがいて可能になる。ここで実現しているのは、音楽のチャンネルを瞬時に切り替え、つなげていくという、演出と技術の融合だ。さらに、キャラクターの音声や効果音もチャンネルを持っている。音声もまた、戦闘時、通常時、戦闘に負けたときの音声など、それぞれのテーブルが用意されている。これらの要素が非常に複雑に絡み合って、それぞれのシーンは構成されているのだ。
JRPGは、エンディングへゲームを進めていくだけが物語世界の没入方法ではない。様々な状況、シーンで、プレーヤーは物語世界を深く楽しめる。「音楽は、その行動を助けてくれる要素。JRPGはこれからも進化し続け、より深い物語世界へプレーヤーを導いていく要素として音楽もまた進化していく」。こういった結論で両氏は講義を終えた。
講演の後たくさんの質問が寄せられた。特に興味深かったのは「日本のRPGの効果音」に関してだ。聴講した海外の開発者達は「何故日本のRPGの効果音は独特の音、そして音楽的なのか? その発想はどこから来たのか?」というものだった。
矢島氏は「その質問は想定外だ」と悩みながらも、日本の代表的なRPGにはファンが求める伝統的な「効果音」があること、また、日本では音楽を作るスタッフは開発者と独立しておらず、時にはゲームシステムや、キャラクター、シナリオにすら干渉する“近さ”がある。音楽を作る人と効果音を作る人の距離も近く、仕事の境界が時には曖昧になることも、効果音が音楽的になることの理由ではないかと答えた。
ゲーム音楽・効果音に関しては日本の開発者が、海外の開発者に「このBGMはどこから鳴っているのか」と聞かれて衝撃を受けた、という話がある。ゲームと言えばBGMという“常識”に対して「GTA」シリーズや、「フォールアウト」などは、“ラジオからのBGM”だという設定を持ち出したりしている。そういった価値観やリアルに関しての認識のずれもあるのかもしれない。しかし、ゲームは国での明確な違いなどは存在しないし、作品で提示される方法論は、相互に関係し合う。今回の講演をきっかけとして、ゲーム音楽にどのような変化がもたらされるか楽しみだ。