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シンラ・テクノロジー、プレジデント 和田洋一氏インタビュー
「新しいゲームの創出が僕らの責任」。シンラがつくる未来を語る!
(2015/3/7 18:56)
シンラ・テクノロジー・インクは、GDC 2015開催中の3月5日(現地時間)、クラウドゲーミングプラットフォーム「シンラ・クラウドゲーム」の最新技術デモをサンフランシスコ市内で披露し、同社が実現を目指す“スーパーコンピューターゲーミング”の世界を欧米のゲーム開発者にアピールした(関連記事:「シンラ、“スーパーコンピューターゲーミング”最新デモがスゴすぎる! βテストの手応えは如何に?シンラ・テクノロジーの最新情報をレポート」)。
本稿では前掲の記事に引き続き、シンラ・テクノロジーのプレジデント、和田洋一氏へのインタビューをお届けする。
新たなクラウドサーバー技術を武器に“スーパーコンピュターゲーミング”というアイディアの事業化を率いる和田氏は、システム面の実証が進んだ今、コンテンツ面の拡充にその軸足を移そうとしている。その取り組みはいかにして進められているのか、その先にはどのような風景が描かれようとしているのか、お伝えしよう。
動き出した、“スーパーコンピュターゲーミング”向けのコンテンツ開発
── さて、技術デモと解説を拝見しましたが、いやぁ、本当にスゴいですね。コンソールマシンでは絶対に見られない絵や動きが見られました。
シンラ・テクノロジー・インク プレジデント 和田洋一氏: そうなんですよ(笑)。今回は本当に良く出来ているなあと、手応えを感じています。
── 先日、NVIDIAが独自のクラウドゲームサービスをローンチすると発表しましたね。クラウドゲームの分野でこれは大きなニュースかなと思いますが、これについて和田さんはどうご覧になっていますか?
和田氏: まずひとつめは、一般論の感想としてですね、NVIDIAさんが言うくらいですから、クラウドという方向性に関してはだいたい、世の中のコンセンサスになってきたかなと見ています。私も報道を見ただけの段階でして、内容についてはまだ言及できないですが。
我々「シンラ」としては、ハードを売ったりするのではなくて、新しいゲーム体験を売りたいと思っていますので、もっぱら、どういうゲームを作るか……ということにフォーカスしているんです。ですから今回も、一般ユーザーというよりはゲームを作る側の人たちに働きかけているという状況なんです。
これはNVIDIAさんにしても、他のクラウドゲームをやっている会社とも違うアプローチだと考えているんですね。今のゲームをどうやってストリーミング配信するかということではなくて、これ(シンラ・システム)だから初めてできるゲームというものを作りたいということが目標ですから、そこの設定が違うのかなと。
── 「シンラ」らしいゲームの開発というところでは、今年に入ってプロトタイプ・アクセラレーターという名称で、ゲームデベロッパーとの提携を順次発表されていますね。その第1弾となったライアン・ペイトンさんのCamouflageという会社はAAAモバイルゲームというユニークな取り組みで立ち上がったスタジオですが、提携の理由はどこにあったのでしょうか?
和田氏: まず一般論として、我々がゲームデベロッパーに働きかける方法はいくつかありまして、ひとつは開発者イベント、ブロードキャストみたいな形ですね。これは毎月どこかの都市でやっていまして、先月はシアトルで、4月には東京でまたやろうと考えています。
それから我々がクラウド・デベロッパー・キットと呼んでいるSDK、“CDK”と言うんですが、それをどこかでリリースしようと思っています。それによって皆さんがゲームを作る環境を提供していこうと考えています。
でもこの2つだけですと、本当にシンラ・システムの真骨頂が何であるか、そこから初めて出てくるゲームデザインは何であるかということについて、なかなかわからないと思うんですね。
そこで3つめのやり方として、プロトタイプを共同開発しようと。我々のエンジニアなどとも会話しながら、ゲームのアイディアの意見交換なども、内部スタッフと変わらないような形でやっていくと。それにお金も出しましょうと。そうしてプロトタイプを一緒に作りましょうという取り組みを何本かやっているんですが、その第1弾がライアンのところ(Camouflage)だったわけです。
そのライアン自身は非常にクラウドゲームの未来を信じていて、モバイルの次に自分がやりたいことはクラウドゲームだ、という思いは元々あったみたいです。でも具体的に何をどうするか、というのはなかったので、我々のシステムならこんなことができるんじゃないか、という会話をかなりじっくりやってきたんですね。そこで彼からいろんなアイディアが出てきまして、それならシンラの特徴を引き出してくれるのではないかということで、始めることにしました。
── つまり、提携企業は、シンラ・システムにしかできない、「シンラ」ならではの新しいゲームというものを、いわばセカンドパーティのような形で開発、提案していくということですか。
和田氏: そうです、そうです。我々はいわゆるパブリッシャーではありませんし、自分たちでゲームを作ることもしないんですけれども、かといって「さあ作ってください」と言っても、皆さん何が何だかわからないですよね。その中で一般のゲームもやりますしCDKも出しますけれども、やはり3つ目のアイディアを具現化するようなプロトタイプをじっくり作りましょうということです。
プロダクションフェイズになっても一緒にやるかどうかはまた別なんですけれども、まずプロトタイプを作るということについて、そのリスクをある程度こっちでも取りますよと。できるかどうかわからないというリスクと、開発にかかるお金というリスク、諸々をこちらでシェアしないと難しいかなという考えです。
── 今後も提携デベロッパーは増やしていく考えですか。
和田氏: そうです。先週でしたかね、Hardsuits Labsという、最近名前が変わりまして、昔のZombie Studiosなんですけれども(笑)、そことも提携を発表しまして。プロトタイプ・アクセラレーター第2弾になりました。彼らもまたゲームの形で表現していきますから、それを出すことによって、他のデベロッパーの皆さんが「なるほど、こういうやりかたをすれば能力を引き出せるのか」ということがピンと来ると思うんですよ。その循環が効いてくると思います。
── シンラ・テクノロジーと関係の深いスクウェア・エニックスのほうでもコンテンツ開発を始めるということは、あったりするんでしょうか?
和田氏: そうですね、スクウェア・エニックスのことについては今、立場上離れているものですから、あまり言及できないんですけれども。どうでしょうね、考えてはいるんじゃないですかね(笑)。
── なにしろ開発力はありますから、期待はしてしまいますね。
和田氏: ありますよ、間違いなく、ものすごくありますね。元々はスクウェア・エニックスで最先端のクラウドゲームを作りたくて研究を始めたというのが元々ですから。まあぜひ頑張って欲しいと思っていますよ。ただ、やっぱりマーケットがまだ無いというところにコンテンツを作るとなると、それなりの度胸がいります(笑)。ですから、あまり強要できることではないですよね。
── その意味で、シンラ・テクノロジーそのものにしても、CamouflageにしてもHardsuits Labsにしても、非常に野心的な企業が集まっているという印象です。
和田氏: そうですね。まあアメリカのインディーズというのは、いわばベテランばかりです。若手でも二軍でもなんでもなくて、超一軍のベテランたちですから、そういう人たちが表に出て何かをやりたいと言い出した時にはもうメチャクチャアグレッシブなんですよね(笑)。
新しいゲーム体験への野心。サービスの形はどうなる?
── 開発者に伝えるという点では、今回GDCに合わせて技術デモを実施されましたね。その手応えというのはいかがでしたか。
和田氏: 展示は今日だけなんですけれども、実際には話し合いというか議論は月曜日からずっとやっていまして、その感触はすごくいいですね。まあ感触自体は前からいいんですけれども、実際に作るところまで踏み込むかというと、いろいろわからないところもあるし、予算も組めないですよね。「『シンラ』って今お客さんは何人いるの?」って言われて、「ゼロです」となりますから(笑)。
でもなんて言うんでしょうね、だからチャンスがあるんですけどね。既にインストールベースがあるところに乗るんじゃなくて、新しいところに行ったらいきなりトップに立てますから。昔は定価のビジネスだったんですけれども、今はF2Pをはじめとして、収益のアップサイドがあるというビジネスモデルになりましたから、ドマスに行かなくても勝てるんですよ。ですから、インストールベースばかり気にして、それがないから作りません、という状況では無くなった、ということが環境の大きな変化と言えるでしょうね。
── オンライン、インディーズの世界ですと、まさにワールドワイドのニッチで成功している企業が多いですね。
和田氏: そうです、全然おかしくないんですよ。今のプラットフォームを作っている人たちも、最初はニッチでバーンと当てて、後にプラットフォームと名乗るようになっただけですから。最初からプラットフォームを狙っていたわけではないんです。その意味では、我々は割りと無謀なことをしていますよね。プラットフォームだと言っておいてからコンテンツを募って。かなり野心的といえば野心的ですよね(笑)。
── なるほど。順番はどうあれ、正式サービスに向けて準備を進めてらっしゃるんでしょうけれども、今はどういったフェーズにあるんでしょうか?
和田氏: 基礎研究、システムの骨格については終わりましたので、中心となるのはβテストの反応を含めて若干の修正をしながら着地させていくということですね。それから実際の商売ということになりますと、お客さん用のシステムも作っていかなくてはなりませんし、それから、先ほどのプロトタイプ・アクセラレーターのようにゲームの内容をを外部の人と一緒に作っていくということで、だんだんとタスク管理が大変になっているところですね。
── システムとコンテンツの両輪ということですね。
和田氏: そうです、両方やっていく段階ですね。いろいろなデベロッパーがコンテンツの開発に乗ってくれるようになってきましたし、中嶋君(フリーランスゲームクリエイターの中嶋謙互氏)たちには今、CDKの開発を結構進めてもらってますから。
── 正式サービスの準備が整うということは、「シンラ」でしか遊べないようなゲームができた、ということとイコールで考えていいですか。
和田氏: そうです。ただまあ、ゲームコンソールのエクスクルーシブのように、例えば「PS3でしか遊べません!」というような、いわゆる“排他的”というエクスクルーシブではないんです。僕らのエクスクルーシブというのは、“独自”という訳ですかね。プラットフォームの能力を引き出ししたがゆえに、そこででしかできない独自のゲーム、という意味でエクスクルーシブという言葉を使わせていただきたいと思います。できるにもかかわらずやらせない、というエクスクルーシブじゃなくてですね(笑)。
── そのほうがデベロッパーにとっても夢がありそうですね。
和田氏: そうなんですよ。結局、従来のやりかたでどれだけ凄いゲームを作っても、お客さんはすぐ飽きてしまうんですよね。特に最近はどのゲームも本当に良く出来てますし、ハズレがないんすもの。恐ろしい話ですよ。これ以上何をしろと言うんだというほどにできているのに、それでもダメというのは、やっぱり飽きてきているんだと思いますよ。
ですからやっぱり、根本的に、お客さんにもデベロッパーにも、新しいゲーム体験というものが本当に必要なんだと考えています。そこで我々は、従来のパッケージ、クライアントサイドでやってきた限界を越えてみようということでかなり極端なことをやっていますけれども、そこではやっぱり、見たことがないものを見せるというのが重要だと思うんですよね。
── 正式サービスの時期としてはいつくらいを目標にされていますか?
和田氏: 年内、あまり軽々に言えないことではありますね。やっぱりエクスクルーシブコンテンツがリリースされるタイミングがベスト。ただし、それだと遅すぎる可能性もありますので、少なくともエクスクルーシブコンテンツがどんな内容かを具体的に言えるタイミングにしたいですね。ですからシステムの開発よりも、ゲームコンテンツがどうなるかに依存します。
いわゆるカタログタイトル(※従来作品をクラウド化したもの)だけで引っ張るのは難しいと思うんです。順番としてはまず能力を引き出した独特のコンテンツががあって、その上でカタログタイトルも遊べるというのが理想です。その逆はないと考えています。
── βテストは「フレッツ光ネクスト」の次世代ネットワーク内に限定して提供していますが、今後もっと広い範囲で体験できるような機会はできるでしょうか?
和田氏: 近々に具体的な発表をさせていただく予定ですけれども、まずアメリカでは同じような形でクローズドβをやろうとしています。その次は、最終的なサービスの仕様を完全に固める前に、有料のオープンβを何らかの形でやるというイメージでいます。そのタイミングは年内か、来年のはじめくらいか。ただこれは、さきほど言った理由でまだ決めていませんので。
── オープンβあるいは正式サービスの段階では、いま提供されているNGN以外にもサービス範囲を広げますか?
和田氏: 2方向ありますね。正式サービスに関してNTTの次世代ネットワークだけを使うのか、他にも広げるのかというのは、もうあと数カ月で決めますけれども、両睨みの状態ですね。ただ、次世代ネットワークは非常に品質が高いものですから、できる限り活用したいとは思っています。
次に、仮に本サービスでそのキャリアしか使わないとしても、私がユーザーだとしたらスマホなどからもアクセスしたいと思いますし、そういうことをサービスとしてやろうとは考えています。例えばハイエンドな遊び方をゴリゴリやるんであればファイバーケーブルで参加してくださいと。だけど、同じ世界に参加するもっと別の口、軽く参加する方法というのを他の通信環境にも提供したいと。そういった、両方の広がり方について考えています。
── 別の口、というのは、「Living World」であれば自分のキャラクターをカスタマイズするとか、家を建てるんであればマップ上で場所を決めたり、その設計をするとか、そういうイメージですかね?
和田氏: そうですそうです。友達の様子が覗けるとかですね。いろいろな形があるかなと考えています。
── ビジネスモデルについてはどのようになるんでしょうか?
和田氏: だいたいは決まってきていますが、まずは有料オープンβのときにたたき台を出すつもりでいます。サブスクリプション+レンタルという形、あるいは、どちらかというと、いわゆるF2P、アイテム課金のようなものを中心にしていこうとは思っています。
なぜはっきり言わないかというと、今作っているコンテンツはそう設計しているんですが、本当に彼ら(提携デベロッパー)が最後までそれでやってくれるか、できるかどうかは未知数なんです。少なくともライアンのところは、いま「Republique」でステージ売りをしていますが、そうじゃないやり方にするとは言っています。もう1つのHardsuit Labsは、いまF2Pで実績を挙げている会社ですから、まあ大丈夫かなと思いますけれどもね。
── 最後に、読者の皆さんに何かメッセージをお願いします。
和田氏: 僕らがいかに新しいゲームを作るかということが、皆さんに対する最大の責任だと思っています。それができるまで信じて待っていてくださいと、それしか言いようがないんですね。未来ってなかなか信じがたいと思うんですけれども、必ずやりますから、もうちょっと待っていてください。今回のデモのようなものも、順次お見せしていきたいと思っています。
── ありがとうございました。