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PS Vita「ソウル・サクリファイス デルタ」メディアブリーフィングを開催

~コンセプト稲船氏と下川氏インタビュー~

9月19日~22日 開催(一般開催日:21日~22日)

会場:幕張メッセ1ホール~9ホール

入場料:1,000円(中学生以上・前売)

1,200円(中学生以上・当日)
入場無料(小学生以下)

 SCEJAは、PlayStation Vita用アクション「ソウル・サクリファイス デルタ」メディアセッションを幕張メッセ 国際会議場で開催した。セッションにはSCEアソシエイトプロデューサーの鳥山晃之氏、comceptディレクターの下川輝宏氏、マーベラスAQLデベロップメントマネージャーの岡村光氏が、質疑応答には下川氏とコンセプターの稲船敬二氏が出席した。

 セッションでは、鳥山氏が本作の概要について「前作の発売以来、さまざまな調整、パッチ、DLCの配信などを行なってきたが、単なるアップデートではこれ以上ユーザーの皆様を満足させることはできないところまできた」と説明。ユーザーの声、膨大なゲームデータをもとに、グラフィックス、モーション、AIなどを再調整。新たな追体験、共闘アクションを進化させる新要素を追加し、「ソウル・サクリファイス」を新たに作り直すことにしたという。

 前作で登場した組織「アヴァロン」、「サンクチュアリ」に加えて、第三の勢力「グリム」が追加され、ユーザーは所属する組織を前述の3つから選択するようになった。各組織は得意な魔法や戦果が異なり、各勢力の特徴をふまえた役割分担がより重要視される。プレーヤーの貢献度もゲーム内に反映され、オンライン集計により組織間で争われる。貢献度については後日詳細を明らかにするとしている。

 神話や伝承をベースにした世界観は、今回新たにグリム童話を中心とした世界各地の童話を新解釈した表現を追加。新規モンスターだけでなく、前作に登場した既存の魔物もグラフィックやAIをグレードアップ。盾で投擲魔法を防いだり、怒りで凶暴化するなど、今まで以上の魔法バトルが楽しめる。

 魔法はさらにボリュームアップし、周囲の地面を持ち上げたり、魔法に寄生する植物を植えつけて敵の動きを遅くしたり、さらに植えつけた植物を回復魔法で成長させダメージを与えるといった“組み合わせ”による進化が盛り込まれる。また、お互いの魔法を組み合わせる“魔法連携”を追加。浮遊機雷を無属性の武器に取り込む、地面にもぐって回避する魔法と腕を強化して敵を殴る魔法を同時に使うと、地上に飛び出すと同時に強力な打撃が繰り出される、仲間の盾魔法に同属性の魔法を当てると盾が巨大化、召還したゴーレムに吹き飛ばし系魔法を使うと小さなゴーレムに分裂、岩の塊になった味方を腕を豪腕化して殴り飛ばすなどの例が示された。なお、魔法連携はマルチプレイ必須というわけではなく、ひとりで実現できるものもあるという。

 マップもグリム童話などを新解釈したものを追加。ラプンツェル、ヘンデルとグレーテルのお菓子の家など、さまざまな舞台が登場。前作収録マップも進化しており、たとえばバビロンの森では戦闘中に地面が割れ仮想フィールドに落下、ヴァルハラ修道院は凶暴化した魔物が壁を破って屋外のフィールドで戦闘が継続するなど、マップのギミックによる戦況変化が戦いをよりヒートアップさせる。

 前作で好評を博した魔法使いのお話は、新キャラクターが多数登場。新たなエピソードが用意され、さらに奥深い要素が体験できるという。ユーザーから要望が多かったキャラクターエディットも強化され、顔パターンや衣装の追加だけでなく、衣装部位の上下分割、アクセサリーといったカスタマイズパーツを用意。やりこむことでパーツを増やし、自分だけのオリジナルキャラクター作りが楽しめる。セーブデータの引継ぎは、供物、刻印、ストーリークエストの進行度、リブロムの涙、衣装などの入手物に対応。開放条件などは今後発表するとしている。

 10月10日に発売される「ソウル・サクリファイス」ベスト版には、2013年8月までに配信されたアップデートや追加ダウンロードコンテンツのほか、PlayStation Vita TV専用モードを搭載。既存ユーザー向けに、PlayStation Vita TV専用モードに対応するパッチを後日配信するとしている。

鳥山晃之氏
下川輝宏氏
岡村光氏

 下川氏と岡村氏は、SCEJAブースに出展されている体験版を用いた4人マルチプレイデモを披露。冒頭の牢屋のシーンでは、下川氏が「少し変わっているところがあり、シナリオ的に意味がある。気づかれる方はわかると思いますが……」と補足。体験版は赤ずきん、白雪姫のいずれか一方と戦えるが、ここでは赤ずきん戦がチョイスされた。常に行われていく“生贄”と“救済”の選択。中立はこの選択が“運任せ”で行われ、これにより中立に特化したバトル付加がなされる。また、前作では生贄で供物、救済で体力が回復したが、今回は組織によって効果が異なる。これは生贄魔法についても同様だという。

 バトルでは、心眼により赤ずきんのパーツの一部が赤と紫色に光る例を提示。紫色のパーツは、投擲攻撃をはじいてしまうが近距離攻撃に弱い。紫のパーツを近距離攻撃で壊しておけば、投擲攻撃が通るようになる、というわけだ。ちなみに赤ずきんは、おなかの部分とそれ以外の狼の騎士部分で行動がわかれており、のっとっているほうが主導権を握る。赤ずきんが主導権を握っているときは、狼の騎士部分はだらんとするのが面白い。

 戦闘後の報酬は、組織のポリシーに沿った行動をとっていたかどうかで評価が変化。生贄がポリシーなら生贄、救済なら救済、中立は一定の報酬にくわえて運の要素がからむという。前述のとおり、単なるアップデートの領域をはるかに超えた新要素の数々。3つの組織、ポリシーがからみあう新たな戦いの構図に注目されたい。

【スクリーンショット】
2014年3月発売予定。価格未定

稲船氏&下川氏 メディア合同インタビュー

稲船敬二氏

――ユーザーの意見を取り入れたというお話がありましたが、1番目についたものはなんでしたか? また、そうした意見のなかで予測していなかった意見などはありましたか?

下川氏厳密にユーザーさんの意見になるかはわかりませんが……生贄派、救済派、中立派。議論じゃないですけど「俺はこれをやるんだ!」、「いや、こっちがいいだろ」といった自己主張がユーザー間で起きて欲しいな、と思ったんですね。前作では、ちょっとしか火がつかなかった。瞬間的には、ちょこちょこあったんです。やっぱり生贄派がいい、いやいや救済をこういう使い方をすれば凄くいいんじゃないか、とか。それを見たとき「半分届いたけど、半分届いていないな』というところがあり、それをやりたかった。

 「デルタ」というタイトルをつけさせてもらいましたが、もっとわかりやすくアイデンティティを持ってもらうために所属する組織を用意した。組織を選択するというのは、半分ユーザーさんの意見であり、半分は我々のコンセプト。その完成形みたいところがあると思います。

稲船氏ストレートに「組織を作ってくれ!』という意見ではないんだけど……競い合いたい、争いたいという。そういう意識って、人間は持ってるじゃないですか。僕は阪神ファンですけど、「阪神が好きです」、「巨人が好きです」とか、持ってるじゃないですか。「野球が好きです」という人は、あまりいないと思うんですよ。野球は好きだけど応援するチームはありませんって、あまりないはずなんですよね。やっぱり応援するチームを持つじゃないですか。ユーザーさんがそういう動きになっちゃってるところが見えたんで、くすぐってあげたいなっていう。今回はきっちりと3勢力をもって、どこにハマるの? っていう形にして、より面白くさせようかなって。

――予想していなかった意見などは?

稲船氏言い方が偉そうに聞こえたら嫌なんですけど、ユーザーの意見で突拍子もないものって、そんなに存在しない。細かいところはありますよ? でも、ユーザーの意見で突拍子もないものがボンボンでてきたら、たぶん僕らプロとして失格ですよね(一同笑)。たぶん、もうゲームを作らないほうがいい! ユーザーに作ってもらおう! って思うんですよ。全部、基本的に予想できるんだけど、でもどっちだろうな? って迷ってるわけですよ。こっち側を好むのかな? 意外とこれ気にしないんじゃないかな? と迷ってるところで「凄く気にしている」って思うと「あぁ、やっぱりこっちなんだ」って、そういう系の取り方ですよね。だから、全然考えてないことがポン! って出てくることって少ないですよね。でも今回は魔法なんで、全然考えてない組み合わせ……こういう使い方は想定してなかったよね、っていうのは出てきたりするんですよね。それはあるよね?

下川氏嬉しい意味で、ですけどね。ポジティブに「こんなところを好きになってくれるんだ!」みたいなのはありますね。基本的に、作っている側ってマイナスのほうから入っていく。こう言われるだろう、ああ言われるだろうって、発売前って頭が一杯になっているわけですよ。そんななかで「これ、思ったより『いい』っていってくれた!」みたいなのが結構あって。たとえば昨日、おかげさまで日本ゲーム大賞の優秀賞をいただいたとき、投票コメントを読ませてもらったんです。「凄く世界観が好きだ」って書いてくれた人が多かったですよね。

 (世界観は)設定文章をバン!って乗っけたんです。多少の演出はありますけど、デモシーンがあるわけでもなく。バックストーリーをずらずらっと書いたのを「凄く読みました」みたいな。ゲームって、文字で表現しちゃダメ。絶対に見せて表現しなきゃいけないのが鉄則なんです。今回、文字でバン!って乗っけたのを「読みました」っていう人が結構いて、それはいい意味でサプライズがあったというところ。そういうところはどんどん伸ばしていきたいな、と思います。

――第3勢力にグリムを選ばれた理由を教えてください。

下川氏グリムをモチーフに持ってきたというのは、前作から稲船に「王道だけどサプライズがいる」ってずっと言われていた。みんなが知っているモチーフをデザイナーがアレンジして、サプライズを出すっていうやり方だったんです。その方程式に当てはまるなかで新しいモチーフを考えたとき「あぁ、童話がいいんじゃないかな」と。みんな知ってますものね、「赤ずきん」とか「三匹の子豚」とか。それを「こういうデザインだ!」って出したら、驚きを与えられるんじゃないかな、みたいなところ。本っていう話もあった。

稲船氏元々ゲーム自体が、リブロムを読むっていう話。童話、本。世界観の一致がしっかりしてくる。「今回、グリムでいきたい」って最初にいってきたときは「バッチリだね!」って。文句なし! みたいな感じだった。世界観やコンセプトがずれると相当きつく言うんですけど(笑) コンセプトをよく理解してスタッフが出してくるんで、ずれて出てくることはほとんどなくなった。コンセプトの範囲内で自由に作ってもらえると、凄くいいゲームになると思っている。グリムが出てきたときには、コンセプトの範囲内で凄く面白いモチーフだなって感じました。

――グリムについてはどのような反響がありましたか?

下川氏

下川氏本格的に反響が届くのはこれからだと思うんです。チラっと見た感じだと、そこに関してネガティブなことは聞かないですね。凄くいい! って。これはデザイナーの力でもあるんですけど、かっこいいとかグロテスクっていうところは凄く興味を引いてくれているのかな、と。「赤ずきんがかっこいい!」っていう意見はよく聞きますね。

稲船氏「『ソウル・サクリファイス』はこうだろう」って、みんな思ってるんじゃない? 凄く受け入れられているなかで「あぁ、やっぱりかっこいい!」って思ってくれる。「なんでこうなるんだよ!」みたいなマイナス面って、ほとんどないよね。「ソウル・サクリファイス」の世界観や設定を、ユーザーが受け入れちゃってるから、よりかっこよく取ってくれるかなって。わりと日本人的ではないんだけどね。グローバルな設定、デザインでいけてるかな。海外でも評判いいものね? 特にデザインに関してはダントツにいい。

下川氏イギリス人に「本当にクレイジー」っていわれたそうです(一同笑)。

――PlayStation Vitaの普及率が、前作が発売された頃に比べるとだいぶ増えています。それに向けて、たとえば新規向けに少しだけ簡単になっているとか、あるいは逆にコア向けなど、方向性を変えたということはありますか?

下川氏基本的に共闘ゲームって“ゲーマーのためのゲーム”だと思っているんですよ。そこは外しちゃいけないだろうなっていう根っこがありつつも、やはり新しい人が入ってくるための配慮(も必要)。それは前作から意識していました。お話を入れたのも、そういうところがあります。あまりゲームをやらない人だと、いわゆる共闘ゲームって途中であきちゃう。そのモチベーションを引っ張るためにお話を入れた、みたいな。

稲船氏単純に「簡単にしよう」とかっていうのは、できないし、やりたくないですよね。PlayStation Vitaが普及したからといって、簡単なゲームを求めているかといったら、僕は違うと思うんですよ。簡単なゲームをするなら、別にスマホでやっときゃいいんですよね、今の時代は。PlayStation Vitaを買う人は、簡単なゲームをやりたいから買っているんじゃなくて、もっとやりごたえのあるゲーム(を求めている)。操作的に難しすぎないとか、あまりにも複雑すぎないというのは当然必要だと思うんです。そこはユーザーフレンドリーに考えなきゃいけないところはあるけど、でも「ボタン1個だけね」という話には、当然ならないし。そこはせめぎあいはあるんですけど、あまり簡単に「新しいユーザー」、「誰でもできる」ということにせず進化はさせていきたいと思っています。

――先ほど4人プレイの映像を見せていただいたとき、女性がひとりいらっしゃったので「あっ、私もこれならできるな」と思いました。

下川氏僕の所感なんですけど、思ったより女性がプレイしてくれているな、とは思うんですよね。パーシバルっていう凄く小さいキャラがいるんですけど、それに女性ファンは結構いますね。凄く言葉は悪いんですけど……ショタコンっていうんですか?(一同笑)。

稲船氏話がいいからだと思うよ? たぶんショタコンじゃない(笑)。俺、下川が書いた話のなかでパーシバルが1番好き。話が凄く入りやすいというか。俺が女性的なのかもしれないけど(笑) 女性が感情移入しやすい話になっている。下川の才能でしょうけど、このゲームは話に引き込む部分があって。僕、前作を発売するときに言ったけど「1番注目して欲しいのは、実はストーリーです!」って。

下川氏そうか、あれはやっぱり意図的にいったんですね。

稲船氏うん。ストーリーの部分って、凄くこのゲームの世界観に引き込んでくれる。引き込んでくれれば、この世界観のなかでずっと遊びたいと思う。難しいな! と思っても壁を越えられるんです。でもストーリーがないと「難しいな。もう嫌だ!」って投げちゃうと思うんですよね。だから投げないように考える部分でもストーリーは重要だし。もちろん仲間っていうのも重要だよね! 自分はもう投げたい! と思っても他の3人が頑張ってくれる、みたいなところは凄く重要だと思ってる(一同笑)。このふたつで、初心者じゃないけど……あまり共闘ゲームをやらない人も引き込んでこれるんじゃないかな。

下川氏稲船さん、そういうことを言わないで自分のブログにいきなり「1番見て欲しいのはお話」っていい出すから! おおっ!? って(笑)。

稲船氏「お話と音楽」って書いた(一同笑)。ゲーム性はどうなの!? みたいな(笑)。

――前作発売時の稲船さんのインタビューを拝見したんですが「ファンタジーをテーマにしたマルチプレイのアクションゲームを作る」と制作された。それで、先ほどのお話で「言わなくてもグリム童話。バッチリだね!」といえるものがあがってきた。ファンタジーをテーマにしたマルチプレイアクションという部分を、前作のときはみなさんにどう伝えていたのか教えてください。

稲船氏王道ファンタジーで、そういうマルチプレイのアクションを作るという話を最初にして。「どういう感覚でそれを捉えるのかな?」と見てて。だからといって、凄くオーソドックス、シンプルなものをポン! とあげてこられると「それ違うよね」っていうところはあるんですよ。でも「中世ヨーロッパっぽい王道ファンタジーの世界観は、絶対に外しちゃだめなんだ!」って。それはなぜかというと、やはりグローバルに考えたい。日本でもアメリカでもヨーロッパでも「あっ、その世界観は好き」っていうのが王道ファンタジーの世界。そこはいれたい。でも、凄くアニメっぽいとか日本ナイズされているようなもので作ってしまうと、受け入れられない部分がある。

 それもわかったうえで「じゃ、このゲームに特徴がある部分ってなんなの?」っていうのを加えられるか。今いっているところを外さずに。外してしまえば、いくらでもできる。でも、外さずにそれができるかというのがチャレンジだった。何度かやりとりしていくなかで「じゃぁこうしたほうがいい」、「魔法しか出てこないものにしたい」、「生贄、救済、犠牲みたいな重いテーマを入れていく」であるとか、そういうものがどんどん積み重なっていって、モンスターのデザインも知っているやつなんだけど「あぁ、こんな解釈なんだ」みたいなものになっていったのが、前作。それをさらに広げていく。同じ形の王道で、みんなが知っている。でも意外性のあるデザインで「赤ずきん」が出てきて、みたいな。赤ずきんのイメージとは違うけど「でも、どう見ても赤ずきんだよね」ということになっていった。

 たぶん、もう真似できないんですよね。似たようなことをやっちゃうと「『ソウル・サクリファイス』と同じやり方じゃん」って言われちゃう。でも、今まで誰もやっていなかった。王道ファンタジーなのに、こんないじり方をしていなかったというのが「ソウル・サクリファイス」。「ソウル・サクリファイス」自体がオリジナルになれたかなって。それをさらに「デルタ」で「ほら、『ソウル・サクリファイス』だったらこうでしょ?って。凄くオリジナリティのあるものに昇華できているんじゃないかな。

下川氏稲船さんがどう伝えたかっていうのは、凄くいい質問。直前のインタビューでは「コンセプターってどんな仕事?」みたいなことをきかれたんですよ。こういうメディアに出るときは“王道”って凄くわかりやすい言葉で稲船さんも言いますけど、作っている最中はクリエイターとしての言語、もっと高度なやりとり、言語化できない。どうしても感性の行き来もあるし、今までやってきた方法論のやりとりもあるし。そこをもう少し言語化できると、コンセプターという仕事がクッキリ伝わるのかな? とは思いますけどね。

稲船氏僕は“コンセプター”って世界で唯一名乗ってるんですけど。昨日もレベルファイブの日野さんとメシ食ってたら「稲船さん、コンセプターって発明だよね!」っていうのよ(笑)。「もう本当にいい言葉だよね!」って。日野さんは“企画原案”を、凄く違和感を持ちながらいってる。コンセプターは、誰の職業も奪わない。ディレクターっていっちゃうと、ディレクターいるじゃん! プロデューサーっていうと、プロデューサーいるじゃん! エグゼクティブプロデューサーといっても「プロデューサーの上にいるんでしょ?」ってなるじゃないですか。

 やってることは、プロデューサー的なこともやってるし、ディレクター的なこともやってるし、もしかしたらキャラクターデザイン的なこともやってるかもしれないけど、それはそこにいます。でも「俺はコンセプターです」といったときに、どこにも抵触してない。ディレクターとコンセプターの仕事は違う。でもディレクターに対して感性で伝えなきゃいけないし、伝えたものがいいか悪いかも判断しなきゃいけない。まさに言葉どおり「コンセプトを作ってつなげていく」っていうところ。

 極端にいっちゃうと、コンセプト以外に俺は仕事がない。コンセプトさえずれていなければ、下川が好きにやっていい、好きにデザインしていいという形にしている。イチからこうしろ、ああしろとは絶対に言わないし。わからなきゃ、言ってあげなきゃコンセプトは伝わらないんで言わなきゃいけないけど、優秀だったら言う必要がまったくない。コンセプトさえずれていなければいい。コンセプトがずれているかいないかを明確に伝えないと「稲船さん、コンセプトって何ですか? よくわからないんで、僕できないです」となっちゃう。

 そこが伝わるかどうかが1番大事なところ。そこが伝わっているゲームは、スムーズにいくよね。伝わっているから、下川が今回こう出してきました。別に下川がデザインしたわけじゃないんだけど、デザイナーと一緒に持ってきたものが「あぁ、いいんじゃない?」っていえる。それは適当にいっているんじゃなくて、俺の見ているコンセプト部分がバッチリだから。デザインの好き嫌いじゃない。それは俺が好き嫌いで選ぶんじゃないから、って。好き嫌いは、デザイナーの好き嫌いもあるし、デザイナーが誰に向けてやっているかもある。俺はそういう形を示して見せていて、だからコンセプターっていう仕事が重要で、コンセプトが重要なんだといい続けられることなのかなって。そこは本当に、発明といえば発明なんです。

 だから日野さんに「別にコンセプターって名乗ってもいいですよ」って。「でもそれってかっこ悪いよなー!」とか言いながら(一同笑)。コンセプターって最後“tor”なんだけど、造語なんで“ter”でもいいんだ。人だから“er”でもいいんだけど“or”なんですよね。最初“er”でやったんだけど、外国人に「たぶん“or”のほうがいいよ」っていわれて“or”に変えた。日野さんに「“er”使ったらどうですか?」っていったら「なんでボツ案を使わなきゃいけないんだ!」って(一同笑)。

――意識の共有を強く推し進めていく、という感じになるんでしょうか。

稲船氏そうですね。意識……かな。わりと俺、具体的にいってないけど“具体的”にいってるよね。例は凄く出す。たとえ話が、たぶん日本一うまいんですよ(笑)。たとえ話が好きなんですよ。人に伝えるときにたとえ話をするっていう。たとえ話って、直接の話じゃないじゃないですか。先ほどの阪神ファンの話もそうですよね。直接話すのではなく「野球だったら応援する球団を決めますよね」というような話が凄く好き。それを話してあげると、さっきの「職業を奪わない」と一緒で、めちゃくちゃ具体的にいってるんだけど「考えることを奪わない」んです。

 「こういう魔法使いにしたい!」っていうときに、下川はどういう魔法使いにするか考えなきゃいけない。たとえば俺が「ドラゴンボールのような」って。あれは魔法使いじゃないけど、飛んだり跳ねたり気功砲を撃ったりとかするじゃないですか。あのスピード感であったりとか、ああいう形の魔法であってもいいんじゃないの? っていってあげると、俺はドラゴンボールの話をしてるんだけど「あぁ、別に魔法使いが杖やホウキに乗るとかじゃなくていいんだ」って思えて、「じゃぁこういう魔法を使います」っていえるでしょ?。

 何もいってないわけですよ。「時を止めてこうやったりするんだよ!」っていっちゃうと、仕事を取っている話。そういうたとえ方は、ほとんどしないです。言うとそれが答えになっちゃうんで、それ以上のことが広がらない。「たとえばこうするんだよ」というと、考えなきゃいけない余地がある。だから楽もさせないですし(笑)。でも、それに全部応えてくれるんで、あの仕事ができるっていう形ですね。

――では、答えが出てくるときが楽しみなことが多いですか?

稲船氏そうですね。自分的には、もう答えはわかっている。「最低、こういうことを考えて欲しい」と思っているところで、一生懸命考えたけど最低の答えを出してくると「まぁいいや」ってなるし、想定外に上の答え「それ面白いね!」っていうのがぼんぼん出てくると、いいコンセプターとディレクターの関係になれるわけです。俺がディレクターも兼ねていたらこのレベルしか出てこなかった話が、下川がディレクターでわけてやっているから「ここ出てきたよね!」っていうことが、ゲーム作りでできていますよね。

 だから、いいゲームは必ず俺の考える上をみんなが出してくる。たいてい出してきますよ。それが出てこないと「あぁダメかな」っていつも思いながら(一同笑)「もう答え言わなきゃいけないな」って。でもそれだと俺が全部を兼ねた最高のもの、ひとりの力のゲームしかできないから、それじゃダメかなと。

――意地悪な質問かもしれませんが、その想定から自分がずれていって矯正されたなど、そういった話はありますか?

下川氏「デルタ」はあまりないですけど、前作のときは……ずれたといったら変ですけど、意識のすり合わせのところはありましたよ。あっ、考えてるのと違うなって。どこだったかな……魔法の考え方の部分ですかねぇ。ドラゴンボールのたとえが出ましたけど、そこに含まれているものが要素として足りないっていう。もちろん単純な派手さもそうですし、なんていうのかな? ヒーロー感とか。魔法使いってどうしてもナヨナヨしたイメージなので、もうちょっとマッチョなのもあったほうがいいとか。たとえから何をどう分解するかも、それぞれのディレクターで違ってくるとは思うんですけど。

稲船氏俺が見ていた感覚では、わりとしょっちゅう見せてくれていたんで、そのなかで「違うな」と思ったときは、もうハッキリといってる。そのときに凄く修正が早かった。俺が何かいって目指してることって「目からウロコを落とさせる」こと。ディレクターって、やっぱり迷ったり悩んだりする。俺も経験があるけど、どっちかわからないし、でも時間がないし、進めなきゃいけないし、っていうのが凄くあって、そこで何かヒントを得られたとき「あぁ、こうすりゃいいんだ!」って思った瞬間は、目の前がパッ!と開く。

 目の前が開けさせること、が自分の役割だと思っている。ずーっと導く必要はなくて、開いたらしばらくガーッて突進するわけですよ。また暗くなってきたときに開かせてあげるっていう感覚を持って話してあげる。そのためには、しょっちゅう見せてもらわないといけない。僕はわりと複数タイトルをやっちゃうんで、プロデューサーによってはサボっちゃうと見せにこない。凄いうぬぼれでいうと「俺に何回見せたかで変わる」と思っているんですよね。それはプロデューサーの力量なんですよ。ディレクターじゃない。プロデューサーがどれだけしつこく見せにくるか。面倒くさいし怒られるのも嫌だしっていうのは凄くあるんだけど、別に怒らないよねって。変なふうに言ってるから怒るんだよね、みたいな。俺のコンセプトからはみ出しているから怒るんだよね、はみ出してなきゃ全然怒らないよね? って。何回か開かせてあげられたかなと思っているので、「デルタ」は明確にやっている。そんなに暗くならないんですね。迷わないっていうか。そんなに開かせてあげなくてもいい状態ではきています。

――最後に期待しているファンの方々にメッセージをお願いします。

下川氏新創というところを謳っているんですけど、ふたつ意味を込めてあります。ひとつはグリム童話や第3勢力といったサプライズの部分。もうひとつは前作で力が及ばなかったところやユーザーさんから意見をもらったところのフォローアップ、リニューアル。この2つが大事だと思っています。TGSビルドでは、その2つが体感できるものになったという自負がありますので、その辺をぜひ遊んでいただければと思います。

稲船氏「デルタ」には3勢力という意味もあるんですけど、実はSCE、うち、マーベラスの3社でやっているデルタという意味も実はあってですね。3社でやっているデルタって、簡単にいいますけど、相当難しいですよね。それぞれの思惑も違うし、考えていることも違うっていうところで、しっかりやっていかなきゃいけない。それが今回は最初の段階から(できていた)。

 前回は、まずコンセンサスをとって仲良くなって、しっかりと取り組んでいくっていう考え方、役割とかもあったんで、そこまで大変だったんですけど。今回は最初からガッチリ手を組んで理解しあえているなかでスタートできている状態。本当に、いい作品ができあがる環境が整っている。今のところそういう形で進んでいるので、ユーザーさんには自信をもって届けられるものができると思っているので、凄く期待して欲しいですね。デルタに込められた色々な意味を考えてプレイしてもらえると嬉しいです。

――本日はお忙しいところをありがとうございました。

(豊臣和孝)