ニュース
「インディーズゲームフェス」ステージに稲船敬二氏らが登壇
クラウドファンディングで2億3,000万円を集めた「Mighty No.9」の真意とは?
(2013/9/23 00:57)
TGS2013にて行なわれたステージイベント「インディーズゲームフェス」にて、ゲーム開発者たちを招いたトークショー「インディーズゲーム・トークライブ ~クリエイター達が語るゲームづくりの世界~」が開催された。
出演者は、稲船敬二氏(comcept)、遠藤琢磨氏(アクワイア)、南治一徳氏(ビサイド)、馬場功淳氏(コロプラ)、楢村匠氏(NIGORO)、飯田和敏氏(チーム・モンケン)、なる氏(えーでるわいす)、Nicolai氏(エンドレスシラフ)、木村祥朗氏(Onion Games)、大前広樹氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)。ゲーム開発会社の社長からインディーズゲームの開発者まで、幅広い顔ぶれが揃った。
稲船氏のKickstarter話に登壇者も興味津々
話題の中で注目を集めたのは、やはり稲船氏。先日、クラウドファンディング「Kickstarter」で新作ゲーム「Mighty No.9」の資金調達を行なったところ、これまでに2億3,000万円を集めた。登壇者たちにとっても気になる話題だったようで、イベントはさながら稲船氏のステージのような様相に。
まず「Mighty No.9」のコンセプトについて語った稲船氏。「27年間ゲームを作ってきたが、当時の日本のゲームは世界中の憧れだった。その当時のゲームの匂いを残しつつ、今の形も入れて作りたいと訴えた」と説明。
続いて、なぜKickstarterでファンディングしたのかという質問に、「ゲームを作るのに、誰かにお金を出してもらうと、その誰かのものになる。でもKickstarterはユーザーにお金を出してもらうので、ユーザーはお金ではなくゲームの面白さを返せばいい。だからゲームは自分たちのものになる、というのが大きい。『Mighty No.9』はユーザーのために作っているが、僕たちの会社のものになるので、次を出そうという時も大きな会社に判断を委ねなくていい。自由を与えられるので、これからの基本になっていくかもしれない」と述べた。
Kickstarterなどのファンディングはお金が集まり過ぎて、逆に収集がつかなくなって破綻することもあるが……と問われると、「もし僕が26歳の時にやっていたら、まずできない。何も知らずに勢いだけでゲームを作るというやり方は、学んでいないのでわからない。稲船はチャレンジャーだと思われがちだが、石橋を叩いて渡るチャレンジャー。よしやるぞといったのが45歳で、それまではとにかく学んで、そこから飛び出してインディーズをやるので、ゲームで最低限やるべきことは全部知っている。『Mighty No.9』でもし思い通りに行かずお金を使い切ったら、それは自分たちが身銭を切ってもユーザーに届けるんだというのが第一にある。楽をしたいわけじゃない。楽をしたいなら大手のパブリッシャーさんにお金を出してもらった方が絶対に楽ができる。でも自分たちの物なんだという形でやると、やはり楽しない形でやっていく」と答えた。
「『Mighty No.9』はビジネスのためにやっている感じがしない」と言われると、今度は開発の基本思想について語り出した。「ずっとビジネスのことを考えてゲームを作ってきたが、いったんビジネスを取り除いて、クリエイターとユーザーということだけを考えた。ユーザーが俺自身に何を求めていているのかを突き詰めていくと、“あのゲーム”みたいなものをやりたいんだなと思った。あのゲームは作れないが、あのゲームの魂を持ったものは作れるんじゃないか、その魂が伝わればファンはついてくるんじゃないかと思って、自分の作りたいものと、ファンの望むものを合わせた」という。
インディーズの力を感じるプロのゲーム開発者たち
その後も話題は引き続きお金周りが中心に。ここで話を切り出したのはコロプラの馬場氏。「スマートフォンでは個人で作って、直接課金はできなくてもバナーで広告収入を得て、百万、一千万くらい行くこともある。それくらいバジェットがあると作品を作りやすい。うちは『Kuma the Bear』というライトゲームシリーズを作っているが、素人が作ったアプリによく負ける。でも実際にやってみると面白い。才能がある人はオープンな場に作品を出していく」とインディーズのクリエイターに語り掛けた。
稲船氏もこれに同調。「モバイルにネームバリューは関係ない。稲船が作ると言っても売れない。面白くなければいけない。でもコンソールやPCゲームは、その面白さを伝えるのが難しい。モバイルの方がチャンスはある」と述べた。
「Kuma the Bear」シリーズは短期間で多数のアプリを提供してきたことで、プラットフォームとして一定の地位を得ている。ただ今後も数を作るというスタイルが成り立つのか。馬場氏は「ゲームの開発環境が整ってきて、ノウハウを伝播させやすくなったので、プロジェクト支援も並列に置きやすく、数は出せる。しかし一方で高度化もしているので、作るのも時間がかかる」と回答。
「それでは今からインディーズに入る余地はあるのか」という質問には、アクワイアの遠藤氏が「インディーズは我々には超えられない一線を超えられる」、チーム・モンケンの飯田氏が「我々は実績がある分、限界を知っている。インディーズはバカばかりだが(褒め言葉として)限界を知らないバカは怖い」とそれぞれ答えた。
かく言う飯田氏もクラウドファンディングによってお金を集めているのだが、その点については、「今は新しいお金の使い方のアイデアを試されている。例えば皆さんの入場料や、企業のブース出展料などは、それぞれ桁は違うが、それによって1つの場所にあるお題目で集まる機会ができている。この場を成立させるためだけにお金を使うというのは、額の問題じゃない。『モンケン』がクラウドファンディングに挑戦したのは、お金の使い方の順番を変えてみたら、面白いことがあるんじゃないかと考えたから」と述べた。
他にも様々な質問・回答が飛び交う中、最後の質問は「自分が作りたいゲームを作るための障壁をどう解決するか」。遠藤氏は「インディーズのバカにできないパワーを、ビジネスと融合させて新しいことができないかと考えている。うちでは会社の中でインディーズチームを作っていろいろやろうと話をしているが、社員からは反対されている(笑)」というエピソードが。
稲船氏もこれに答えた。「いいゲームの企画を考えるのは誰でもできる。でもそれを通すことができない。大きな会社であればプレゼンして、これに予算を付けてくださいというのはなかなか通らない。インディーズではお金がないので、スタートさせることができない」と語った。
では稲船氏はどうすべきと考えているのか。「やりたいことをやるには、ゲームの企画の外もゲームとして考えて、どうやって通すのかを考える。その時、嘘をついてもいいし、ハッタリをかましてもいい。プレゼンなりで企画を通すことで、初めてスタートできる。プロトタイプを作る前のプロトタイプをしっかり考える。インディーズは諦めない精神を持ってやれば、きっと自分たちの作りたいものが作れる。でもほとんどが、会社が通してくれない、俺には才能があるのにわかってくれないと他人のせいにする。それでも作りたいものを作らせろというのは、ただの甘ちゃん。そういう人は作りたいものを作らなくていい」と厳しい言葉で締めた。
最後まで稲船氏の存在感が圧倒的なステージだったが、プロとしてのゲーム作りを知った開発者が、インディーズ的な手法で新たな挑戦をしているという視点が興味深い内容だった。他にも各開発者から面白い話がいくつも出ているので、詳細を見たい方はニコニコ動画のタイムシフト(http://live.nicovideo.jp/watch/lv151281850、5時間42分辺りから)をご覧いただきたい。