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【GDC 2013】日本人必見! 米PopCapの中国市場での成功ノウハウ

基本無料化、クライアント軽量化など中国ならではの施策が成功の秘訣!

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 地球最大規模の市場でありながら、依然として難敵であり続けている中国市場。日本のみならず、北米でもそれは同じだ。とりわけ北米メーカーにとって中国市場は、まだまだ馴染みの薄いFree to Playゲームの本場ということもあり、「World of Warcraft」などの一部の例外を除いてなかなか踏み込めない状況が続いている。

 そうした中で2012年、米Electronic Artsの子会社で、古くからカジュアルゲームを手がけてきたPopCap Gamesが、中国で「Plants VS. Zombies」を成功に導いた。GDC2013の「Free to Play Summit」では、PopCapが「OMG! Zombies on The Great Wall of China!」というユニークなセッションタイトルで中国市場での成功ノウハウを存分に語ってくれた。

海賊版やクローン、コピーなど様々なイリーガルビジネスを逆手に取った大胆なビジネスを展開

 このセッションでは、開始前の準備中にマイケル・ジャクソンの「Beat It」を大音量で鳴らし始め、何事かと思いきや、上海スタジオの全スタッフが参加したスタジオ紹介ビデオだった。ビデオカメラが社内を練り歩き、その都度、中国人スタッフが黒服のスーツ姿やゾンビ、プラントなどに分して寸劇を行なうという5分ほどの内容で、クオリティはともかく、和気藹々とした雰囲気がよく伝わってきた。

【beat it】

PopCap Games Head of Strategic Development James Gwetzman氏

 セッション講師を務めたのは、PopCapで海外戦略を担当しているJames Gwetzman氏。PopCapは5年前に多くの反対を押し切る形で中国進出を始め、この5年間の間に、海賊版やクローン、コピーなど様々なイリーガルビジネスとの戦いや、獲得会員の伸び悩み、スタッフのリストラといった痛みを伴う改革を経て、「Plants VS. Zombies」の成功に結びつけることができた。

 PopCapがこの5年間で取り組んだのは、意外にも中国市場の特性を逆手に取ることだった。Gwetzman氏は、海賊版や多くの競合相手の存在、とりあえずやってみるというメンタリティ、離職率の高さ、トップダウンスタイルのマネジメント、クオリティの低さといった具体例を挙げながら、たとえば海賊版なら、それ自体を認知向上のための1種のプロモーションツールとして捉え、自社IPの普及に活かすなど、すべて逆手に取ることで事業を成功に導くことができたという。

 感心したのは、北米ではあまり行なっていないマーチャンダイズや漫画などを徹底的に行なっているところだ。それに釣られて、多くの中国の業者が海賊版のグッズを作り、中国の最大手オンラインショッピングサイト「タオバオ」では5万件を超えるグッズが売りに出されているという。PopCapとしても海賊版なのは認知しつつも、これを根絶やしにすることに労力を使うよりも、海賊版も大量にあることで一種のメジャー感を創出させ、新規ユーザーの獲得に結びつけているという。欧米人はこの手の腹芸が苦手な印象があるが、かなり真面目にやりきっているところに凄味を感じさせる。

【中国は10億人のマーケット】
中国は10億人の市場と言われるが、往々にして期待値があまりに高すぎるがゆえに、うまくいかない

【中国市場をすべて逆手に取る!】
中国市場の問題点を逆手にとって問題解決に繋げていく。なかなか真似できないタフな思考と言える

【マーチャンダイズ】
海賊版が出ることは前提の上でマーチャンダイズを手がける

 その上で、これまで蓄積してきた中国市場での運営ノウハウを注ぎ込んで生み出されたのが、中国オリジナルの「Plants VS. Zombies」となる「PvZ Great Wall Edition」である。「PvZ Great Wall Edition」は、まさに中国市場向けのノウハウがたっぷり詰め込まれており、日本のメーカーにも役立つ情報が多く含まれていると感じた。

 第1に取り組んだのは、クライアントを無料版も用意し、Free to Playのビジネスモデルに切り替えたことだ。「Plants VS. Zombies」は日本も含む、他のエリアでは有料アプリとなっているが、中国ではレベル1から6まで限定で無料公開し、その上、有料版についてもGoldとDiamondの2つのタイプに分け、それぞれ利用可能なサービスに差を付け、細かいユーザーニーズに応えられるようにしている。

 また、ブーストアイテムなどの各種有料アイテムに関しても、現地の所得水準を踏まえ、すべて1ドル以下に抑え、買いやすくしている。さらに、中国オリジナルの新モード(マップ)を定期的に有料で公開。「Great Wall Edition」では、敵はすべてキョンシーやゾンビ兵士、ゾンビ文官、ゾンビ将軍など、中国文化に根ざしたものばかりで、ローカライズのみならずカルチャライズもしっかり行なっているところがポイントと言える。

【ビジネスモデルの改良】

 「Plants VS. Zombies」が次に取り組んだのはクライアントのオプティマイズ(最適化)。ここが今回の講演でもっとも感心させられた部分だ。オプティマイズといってもパフォーマンスやグラフィックスの向上ではなく、彼らが心血を注いだのは、アプリサイズやメモリサイズのコンパクト化だ。

 こだわる理由は、中国市場ではまだ10MBまでの従量制の2G回線や、300MBまでの従量制の3G回線など、低速かつ従量制のサービスを利用しているユーザーが過半数を占めており、アプリサイズやメモリサイズは、インストール可能な端末数に直接響いてくるためだ。リサーチでも、中国でインストールされているアプリの過半数以上が、10MB以下ということで、ここはこだわるべき価値があると判断したようだ。

 ダウンロードサイズは72MBからなんと8MBまで落とし、メモリ使用量も150MBから48MBまで軽量化。その結果として、メモリ256MB、ストレージ512MBクラスのAndroid 2.2端末にまで対応することができたという。

【アプリ軽量化の軌跡】
アプリを軽量化すると、インストール数が跳ね上がるというユニークな結果が出ている

【成功するための取り組み】
流通先を増やしたり、ハッキング対策やFree to Playの研究など実に様々なトライアンドエラーを繰り返している

【「Plants VS. Zombies」成功までの軌跡】
「Plants VS. Zombies」の2012年5月のサービス開始からこれまでの軌跡。クライアントの軽量化のほか、実に様々な施策を行なっていることがわかる

 Gwetzman氏は、今後について、「PvZ Great Wall Edition」の運営およびコンテンツ強化に力を注ぎつつ、シアトル(PopCap Gamesの本社所在地)に、この成功事例をフィードバックし、Free to Playのビジネスモデルを採用した次回作の開発に役立てたいと話した。

 PopCapの中国市場での取り組みは、クライアントの軽量化は比較的大胆でユニークだが、それ以外の施策はごく当たり前のことばかりだ。それを中国人の現地スタッフと共に多少失敗してもやり続けているところが成功の要因になっているという印象で、日本のメーカーもまだまだ成功の予知が残っているなと感じた。この成功事例を参考に、ぜひ日本のメーカーも果敢に中国市場を狙っていって欲しいと願うばかりだ。

【今後の展開について】

(中村聖司)