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【OGC 2013】知られざるAmazonとゲームの蜜月関係!?

本格ゲームプラットフォーマー化への舵取り、始まる!

 3月15日、オンラインゲーム業界関係者向けのカンファレンス「OGC 2013」が開催され、勢いを増すソーシャルゲームに関連して多数の講演が行なわれた。その主人公となったのは例年通り大手のオンラインプラットフォーマーやゲームコンテンツホルダー各社だが、そこに、物販サイト最大手として知られるAmazonも加わり、ゲーム業界の構造変化を如実に表すことになった。

 Amazonは2000年11月に本と洋書の通販サイトとして国内にオープン。取り扱い商品の幅を加速度的に広げ、現在では各種コンテンツのオンライン配信プラットフォームとしての役割も果たす。ダウンロード販売コンテンツは2010年の「Amazon MP3」に始まり、2011年に「PCソフトウェアダウンロード」、2012年にはAndroid端末「Kindle Fire」をベースにしたアプリストアがスタートしており、毎年のようにサービスの幅を増しているのだ。

 今回のカンファレンスでは、そのAmazonが力を入れつつあるゲーム関連ビジネスについて、BtoCとBtoBの両面から迫る2つの講演が行なわれた。2013年以降、ますますゲームユーザーにとって重要な存在なっていくであろうAmazonの現状と戦略についてお伝えしよう。

Amazon、今年は本格的にゲームプラットフォーマーになる!

アマゾン ジャパン株式会社 根本哲氏
Amazonの現状データ
押しも押されぬ物販最大手である

 まず、「Amazon アプリストアのサービスとプラットフォームについて」と題する講演でAmazonの現状とゲーム関連の事業戦略について紹介が行なわれた。講演者はAmazon ジャパン株式会社でアプリストアの立ち上げを統括する根本哲氏。

 基本的なデータから紹介していこう。Amazonは2012年度時点で世界11カ国に展開し、2億人超のアクティブカスタマー、年間611億ドルの売上高を達成している。このうち日本国内での売上高は78億ドル。月間来店者は4,400万ユーザーと、国内ECサイト内で第1位の実績を誇っている。

 2012年には顧客リーチ力を高めるためとしてAndroid端末「Kindle Fire」シリーズの出荷を開始。全世界のAmazonの中で、史上最も売れている商品になったという。Android端末としてのシェアも世界最大の33%を占め、米国内においては過半数のシェアを獲得しているそうだ。

 Amazonは端末の圧倒的なマーケットシェアを背景に、「Google Play」、「AppStore」などに並ぶ独自のアプリストアをKindle Fire上で展開している。もちろん人気フランチャイズを含むゲームソフトも多数販売されているが、そこからさらに、2013年中にはAmazonによるゲームマーケットへのさらなる本格的なコミットメントが始まろうとしているのだ。

「Kindle Fire」シリーズ。Android端末内で世界シェア33%と、他機種を圧倒
Amazonならではの使い勝手をワンパッケージにした仕様が強みである
「Amazon Coins」。米国で5月スタート
Kindle上で高課金率を示すゲームタイトル
「Game Circle API」。ゲームコミュニティ機能をアプリに連結する

 その皮切りとなるのが「Amazon Coins」。これはKindle Fireにて、アプリ購入およびアプリ内での課金に使用可能なバーチャル通貨で、2013年5月より米国にてサービスを提供開始するという。

 イメージとしてはXbox LIVE、PlayStation Network等のプリペイドポイントと同じで、少なくともゲーム内においては現金と同等の価値を持つが、現金とは違って、サービス提供者(この場合はAmazon)の裁量である程度柔軟な運用が可能である。例えばAmazonでは、5月の提供開始時、ユーザーに対して一定額のコインを無償配布することを予定している。

 根本氏の講演によれば、Kindle Fire上ではAppStore やGoogle Playを超える課金率を示すゲームも既に現われているという。このバーチャル通貨の導入によって、コンテツホルダーとユーザーの両方に対してさらなる利便性と購入・販売機会の拡大を図る考えのようだ。

 これに合わせて、Kindle Fire向けゲームコンテンツへの新API提供も進められている。その中で特に重要と見られるのは「Game Circle API」だ。これは各ゲームにSteamやXbox LIVEのようなコミュニティ機能、ランキング、実績などを導入するもの。クラウドセーブ機能もサポートし、中断したゲームを時と場所を変えて、また端末を変えても継続することができる。など、非常にモダンな機能構成となっている。

 これらは明らかに本格的なゲームプラットフォーマー化を目指す動きだ。この点においてAmazonの強さはKindle Fireの圧倒的な普及率をベースとするが、それと同時に、世界最大の物販サイトとしての強みもリンクしてくる。

 一例として紹介されたのがActivisionの「Skylanders」というゲーム。Amazon.comで販売されているキャラクターフィギュアをゲーム内から1-Click購入することができ、同時にゲーム内でのレアキャラがアンロックされるという仕組みが導入されている。この仕組みはキャラクターのクロス・マーケティングが盛んな日本でも大いに広がりが期待できそうだ。

 「Amazon Coins」等について日本国内での展開については触れられなかったが、他のサービス同様、いずれ上陸を果たすことは確定的だろう。いずれ、Kindle Fireシリーズがモバイルゲーム端末として大きな存在感を発揮しだすことは、まず間違いなさそうだ。

APIはUnityやAdobe AIRなどモバイルのゲーム開発で一般的なSDKに対応。A/BテストAPIという、Amazonらしい機能もある(ちょっとだけ違う2バージョンを同時提供してユーザーアクティビティへの違いを調べフィードバックする機能)
Amazonの強みである物販とゲームが連動する例。フィギュアを買うとゲーム内キャラがアンロックされる

クラウドでソーシャルゲームを支える。BtoBでも存在感を増すAmazon

クラウドを活用するソーシャルゲーム技術者によるトークセッション
モデレーターを務めたAmazonデータサービスジャパン 安川健太氏
パネリスト gloops CTO 池田秀行氏
パネリスト gumi システムオペレーションエンジニア 本間 知教氏
パネリスト KLab CTO 安井真伸氏
「Animoto」というWebサービスでの対応事例。3日で40→5,000サーバーにスケールアップ

 Kindle Fireで本格ゲームプラットフォーマーへの舵を切り始めたAmazonだが、BtoBの世界では既にクラウドサーバー事業を通じて日本のソーシャルゲーム業界に大きな貢献を果たしている。その実例紹介となったのが「昼だけ生クラウド ~大人気ソーシャルゲームを支える各社の秘訣~」と題されたショートトークセッションだ。

 このセッションでは、人気ソーシャルアプリ多数の開発・運営を行なっている気鋭の技術者たちが登場。gloops CTO 池田秀行氏、gumi システムオペレーションエンジニア 本間 知教氏、KLab CTO 安井真伸氏という顔ぶれだ。Amazonデータサービスジャパンの安川健太氏をモデレーターに、クラウド使用事例、苦労話などを展開した。

 ここでいうクラウドとは、仮想サーバー群で構成されたサーバーファームの一部を使用することで、初期投資なしにスケーラブルなサーバー運用を実現することだ。

 クラウドは、物理的にサーバーを用意してデータセンターに置くなどの従来手法に比べ、初期投資が不要で、かつサーバー台数の増減が容易であり柔軟にサービスをスケールできるというメリットがある。Amazonでは「Amazon Web Service」としてクラウドサーバーの総合的なサービスを提供している。

 導入経緯としてgloopsの池田氏は、現在では各アプリ累計で2,000万インストールを越えており、国内では物理サーバーも使用していると前置きした上で、サービス開始時にはスモールスタートが可能であることからAWSを使用したと話した。また、後発でサービスを開始しているサンフランシスコとベトナムでは現在もAWSを利用しているといい、物理距離を気にしないで済む点も大きなメリットとして紹介。

 gumiの本間氏はビジネススピードへの対応という点でクラウドの利点を挙げた。急激なユーザー増加に対し物理サーバーの増設では追いつかなくなった、というのが導入経緯だ。現在でもgumiの各種ゲームでAWSを使用し、韓国にも展開しているとのこと。

 KLabの安井氏は技術的な関心が先に立ってクラウドへの移行を果たしたようだ。当初は物理サーバーでサービスを提供していたものの、「使ってみたかった」という単純な動機から、いろいろと理由をつけてAWSの利用に踏み切ったという。

 「海外展開での使い勝手」に話が及ぶと、より具体的なメリットも飛び出している。三者とも共通するのは、Web上のインターフェイスで設定を行なうだけで、物理的距離も関係なくスピーディにサービスをスタートできることである。ただし、サービスがある一定規模を超えると物理サーバーのコスト効率のほうが良くなるようで、基本的にはスタートアップのサービス拡大期にAWSを利用するというシナリオが理想と考えられているようだ。

 KLabの安井氏は「物理サーバーでは絶対に不可能な使い方」に触れた。ユーザーとサーバーとの通信で出入り口になる部分など、ロードバランスできず全てのアクセスが集中してしまう部分は一般的には物理的な冗長化が必要となるが、AWSでは障害検出時にサブネットを切り替える(ネットワークケーブルをまるごと別のサーバー群に付け替えるイメージ)手法を考え付き、実装したという。この事例はクラウド開発のナレッジベースとして知られる「クラウドデザインパターン」にも紹介される例となったそうだ。

 スケーラビリティや柔軟性、使い勝手ではバラ色のクラウドだが、良いことばかりでもないようだ。コスト面では「ある一定規模以上では安くない」というのが三者の共通見解。クラウドの利用料には物理部分の管理代行費用も含まれるが、自社ゲームサービスのスケールがクラウドサービスの想定スケールを超えるとその部分が吸収できるようになるため、コスト効率が逆転するというわけだ。また、物理サーバーではインスタンスあたりのパフォーマンスをスケールアップできるが、クラウドではそれができないことなども挙げられている。

 ゲームは一般のWebサービスなどと違い、1インスタンス内で巨大なデータを扱ったり、無数のデータの相互作用を演算しなければならない場合がある。1インスタンスの性能を調整できないクラウドで計算能力やI/O能力が頭打ちになるとアプリケーションの設計に制限がかかる場合があるため、この点は特に重要視されているようだ。

 Amazonの安川氏はこれらの不満点に対して非常に参考になると答え、積極的に要望に答えていきたいと話していた。

 最後にクラウドの将来について。KLabの安井氏は性能アップによってできる事が増えていくと強く期待。gumiの本間氏は、サーバーは安心感が重要であり、クラウドが特別なものでなくなる日が来るはずだと語った。gloopsの池田氏は、クラウドの新たなメリットとしてサーバー管理の自動化を挙げ、APIの整備によってさらに便利にサービスを展開していける手段になってほしいと希望を述べた。

 ゲームユーザーからは直接見えない部分ではあるが、本トークセッションで示されたように、クラウドはソーシャルゲームの世界で幅広く使われている。何十万、何百万というユーザーに安定的なサービスを提供するため、現在では必須の技術だ。

 ただし、現時点ではリアルタイム性の高いゲーム(対戦アクション、FPSなど)でのクラウド利用は限定的で、未開拓だ。1サーバーの性能がゲームデザイン上の焦点となるMMO系でも物理サーバーが主流である。

 これについては、各社の技術者が指摘するように性能の向上が進むことで別の地図が描けるようになるかもしれない。クラウドサーバーのメリットがより多彩なジャンルに応用できるようになれば、新たなゲームデザイン、新たなビジネスモデルが可能になるに違いないからだ。

 上述したように、Amazonでは今後Kindle Fireを通じてゲームプラットフォーマーとしての地位確立を本格化させていく。その中で、同社が展開するクラウドサービスは、多くのゲームメーカーとユーザーを支えるロジスティクスとして、益々重要性を増すことは間違いなく、ゲーム開発者の臨む方向へ発展のスピードを高めていくに違いない。

(佐藤カフジ)