Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】Valve、「Team Fortress 2」セッションレポート
パッケージの人気FPSがFree to Playに至るまで


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center


 


 GDC 2012会期中の3月9日、ValveプログラマーのJoe Ludwig氏は、同社のオンラインFPS「Team Fortress 2」に関するセッションを行なった。

 「Team Fortress 2」は、もともと2007年にWindows/Xbox 360/プレイステーション 3向けFPS集「Orange Box」に収録されていた作品の1つ。その後しばらくは単品でのパッケージ販売などを行なっていたが、アップデートを重ねたり、アイテム販売などを試験的に導入していった結果、発売から4年後の2011年6月にはFree to Playスタイルのビジネスモデルへと転換している。

 このセッションでは、「Team Fortress 2」がFree to Playに至るまでにどのような経緯をたどったのか、そこからLudwig氏は何を学んだのかが話されていった。




■ Joe Ludwig氏が語るFree to Playまでの変遷

ValveプログラマーのJoe Ludwig氏

 「Team Fortress 2」は、60年代アメリカンコミック風にデフォルメされたキャラクターたちが活躍する3DFPS。ビジネスモデルをパッケージ販売からフリーミアムへと転換する過程には、ゲームのアップデート、アイテムの追加、そしてゲーム内ショップのオープンがあった。Ludwig氏は、それぞれのポイントを抑えながら、そこから得られた教訓を話した。

 まずパッケージ販売のビジネスモデルでは、アップデートやイベントなどを重ねていった。ここで紹介されたのは、「Engineer」、「Sniper」のプロモーションビデオや、「Demoman vs. Soldier」で行なったポスターコンテスト、ハロウィーンの特別イベントなど。

 Ludwig氏はこれらを「伝統的なアップデート」だと紹介し、特に大きなアップデートでは収入が上昇したという。またパッケージをセール価格で販売した時も、収入は上がったそうだ。Ludwig氏は、こういったアップデートについて「アップデートの過程でできる限りユーザーを招き入れること」と話した。

「Team Fortress 2」のビジネスモデルの変遷を端的に表した図。一旦はパッケージ販売モデルとしてスタートした本作だったが、その後実験的なアップデートによってFree to Playへと向かった

 続いての転換点は、帽子アイテムの追加だった。これは「Sniper vs. Spy Update」  で実装されたもので、ゲーム中でのドロップなどで入手できる。このアイテムはほぼ全てがステータスに影響を与えず、装飾の意味合いが強かったのだが、その希少性から人気が出て、多くの帽子が作られることになった。

 希少価値が生まれた理由はその確率の低さだ。全てのサーバー上で25分おきに25%の確率でドロップされるという割合で一見そう確率が低いようには思えないが、特異なケースも稀に起こるそうで、1,000人が毎週10時間プレイしても、何もドロップアイテムがもらえない人も発生したという。Ludwig氏は「これではプレーヤーは怒ってしまう」と語り、レアケースも想定することに対して注意を喚起した。


ゲーム内ショップ「Mann Co. Store」の成功が、「Team Fortress 2」をフリーミアムへと舵を切らせる大きなきっかけとなった

 最後の大きな展開は、「Mann-Conomy Update」で導入されたゲーム内ショップ「Mann Co. Store」だ。「Mann Co. Store」では、先述した帽子や、装備アイテムが購入できるショップとなり、この時点で「Team Fortress 2」はパッケージ販売とアイテム販売という2つのビジネスモデルに挑戦することになる。Ludwig氏は、「Mann Co. Store」を設立する前に、ユーザーから期待されていることとして、「勝つための支払いをさせないこと」、「ただ楽しむだけのために品物を買わせないこと」、「偽の通貨で煩わさせないこと」を考えたという。

 そうして実装した「Mann Co. Store」は、見事に成功する。開始と同時にパッケージ販売数も伸び、そしてそれ以上にアイテム販売の収入がその4倍を計上した。それまでにもパッケージのセールやアイテムの追加などの事前準備は行なってきていたが、この「Mann Co. Store」の成功が直接的なきっかけとなって、「Team Fortress 2」は完全フリーミアムモデルへと移行する。フリーミアムに移行した2011年6月の直後には、収入は「Mann-Conomy Update」時の3倍、つまり以前の12倍まで伸び、同時接続のユーザー数も4倍に増えた。

 Ludwig氏はこの施策を振り返り、「必要のない仮想通貨は作らないこと」や、「支払わないでもプレーヤーを楽しませること」、また「プレーヤーは、私たちが思った以上に安心して支払ってくれること」、そして「経済性を変えたことによって既存のアイテムの価値を失わせないこと」などを挙げ、その成果を来場者にフィードバックした。


「Team Fortress 2」が辿ってきた変遷をダイジェスト風に追ったセッションとなった。途中では役職の1つである「Sniper」の紹介映像も流された

(2012年 3月 11日)

[Reported by 安田俊亮]