CEDEC 2011レポート

パッケージからソーシャルへ。急激な変化の中、ゲーム開発者はなにを目指すべきか?
「戦国IXA」、「FEZ」の渡辺泰仁氏が語るゲーム開発マネジメント論


9月6~8日 開催

会場:パシフィコ横浜


 やや失速感のある従来型ゲームと、勢い良く成長しているようにみえるソーシャルゲーム。激流が巡るゲーム業界の狭間で、開発者は新たなコンテンツを生み出していくために何を指向すべきか。そんな議論が行なわれたのは、「『戦国IXA』と『ファンタジーアース ゼロ』の開発・運営から得た知見についてまとめてみた」と題する、株式会社スクウェア・エニックスの渡辺泰仁氏による講演だ。

 渡辺氏は旧エニックスを経て、現在はスクウェア・エニックスにて第2オンライン企画運営部ジェネラルマネージャーを務める。従来型の家庭用ゲーム開発から、「ファンタジー アース ザ リング オブ ドミニオン」および「ファンタジーアース ゼロ」(本稿では両タイトルを「FEZ」と呼称する)というMMOG、そして「戦国IXA」というブラウザゲームの開発・運営マネジメントを経験した立場から、現在のゲーム業界を織りなす風景と、新たな道しるべを描き出してみせた。




■ 全く新しい顧客層、開発哲学の両極。経験を経て見えてきた風景

スクウェア・エニックスの渡辺泰仁氏
これまでゲーム業界を象徴してきたひととおりのジャンルを経験

 1992年に旧エニックスに入社した渡辺氏は、「バスト・ア・ムーブ」や「せがりいじり」など個性的なゲームタイトルの開発に携わり、続いてスクウェア・エニックス時代も多数のパッケージゲームの企画・開発を勧めてきたという、従来型のパッケージビジネスの中で経験を培ったタイプのゲームクリエイターだ。

 そんな渡辺氏のキャリアにおいて転機となったのが2006年に発売された「FEZ」である。渡辺氏は「FEZ」のサービスを軌道に乗せた後、今度はブラウザゲーム「戦国IXA」を手がけ、成功させた。こうしてパッケージからソーシャルまでの幅広い経験を積むことになったことが、渡辺氏の現在の知見を作り上げているようだ。

 渡辺氏はその立場から、各形態のゲームについての「輪郭」を明確にしていく。発売日から数日の初動で売上の大半が確定するパッケージゲーム、5年経っても安定収益源として漸進的な成長を続けるMMOG、ローンチ数カ月で10万人~100万人のオーダーに乗るブラウザゲーム。

 ひとつのポイントは、各カテゴリのユーザーが、それぞれ全く別種の「お客様」であるという点だ。コアゲーマーはソーシャルゲームを物足りないと思いあまりプレイしておらず、逆にソーシャルゲームのユーザーがパッケージタイプのゲームもプレイしている率は著しく低い。その間に重なる部分はほとんどない、それぞれモノカルチャーの世界である。

 それら各カルチャーの中でコンテンツを作っている業界人にとっては、自分たちのコミュニティ外で起きていることは「意外とわからない」ということになるため、現在地を確認し、進むべき道を見つけるためには、意識的に外の世界、普段接していないタイプのユーザー性向にも目を向けるべきだと渡辺氏は語る。


高い定着率を誇る「戦国IXA」、5年を経てもまだじわじわ成長を続ける「ファンタジーアース ゼロ」。毛色はことなれ、いずれも成功を続けているタイトルだ
ユーザーはモノカルチャーな世界に住んでいる。その市場に過剰適応した開発者もまた、そうなっていく


ゲームジャンルによる根本的なプロモーション手法の違い
プロモーション手法がコンテンツの作り方も規定する

 では、どういった部分に目を向けるかという例のひとつが、ゲーム購入までの導線の違いだ。家庭用ゲーム機と、無料ゲームでは、コンテンツにお金を支払うためのプロセスが全く違う。発売のずっと前から、発売当日に向けて「高めていく」家庭用ゲームのプロモーションと、リリース後のプロモーションやゲーム調整による定着率の向上に力を注ぐ無料ゲームの運営手法は全く異なるものだ。

 プロモーションにおいてゲーム内容をもとに勝負する家庭用ゲームとは違い、ブラウザゲーム、ソーシャルゲームでは「そもそもゲームの内容でアクションを起こさない」。渡辺氏は例として、有名タレントを起用してCMを打ったGREEの「ドリランド」や、ゲームとは全く関係のない水着女性のバナーで集客した海外タイトル「Evony」の例を挙げつつ、これから意識すべきは「定着率・継続率」であると指摘。これがゲームの作り方をかなりの部分で規定すると指摘した。

 その数字を高めるためには既存ゲームの作り方を変えなければならない部分も多い。例えば、従来型ゲームでは宣伝文句になる凝ったシステムは、「わからないことによる離脱」というマイナスにしかならない。「FEZ」では3回のクローズドβテスト中に、凝ったシステム要素をかなり捨てたという。「戦国IXA」ではゲームの基軸である「合戦」のわかりにくさに徹底対処し、比較的理解しやすいものになったことで定着率の向上が見られたようだ。


プロモーション手法の違い。ゲーム内容を重点的に告知してロイヤリティを上げようとするパッケージゲームとは異なり、ソーシャルゲームではまず触ってもらうために手段を選ばない
定着率の向上を目指し、従来のゲームとは異なった角度のブラッシュアップが必要となった例



■ 開発者は何に立脚し、どこを目指して仕事をしていくべきか?

イノベーションなんていらない
イノベーションがすべてだ
現実的な方向性

 わかりやすいことが重要になることで、立ち上がってくるのが「イノベーションは必要か?」という議論である。Zyngaのソーシャルゲームに見られる「まずパクって、より早く改善していく」という戦い方と、エニックスで元来実行されてきた、全く新しいゲームを指向する哲学が対比された。

 エニックスの哲学に従ってさんざん個性的なゲームを開発してきた渡辺氏だが、現在ではその折衷案がいいのではないか、という結論を持っているようだ。そもそも創作とは、既存の何かベースに組み合わせ、変化させるものである。全てをゼロから創造することはできない。であれば、真似するにしてもなるべく遠くのものを借りて、そこにひと手間かけて、化学反応を起こす。

 実際、「戦国IXA」では、株式会社AQインタラクティブより「ブラウザ三国志」のフレームワークのライセンスを受けて制作されている。そこに、独自のアートワークや合戦スケジュール制など、独自の要素を加えることで、ユニークな存在感をもつ「戦国IXA」というゲームがイノベートされたわけだ。また「FEZ」ではRTSとMMO、アクションという非常に遠くにあるものをくっつけようとして作られたために、非常に苦労することになったとも言う。それだけに強いオリジナリティが生まれている。

 渡辺氏はまた、猛烈なマーケティング攻勢でトップレベルに躍り出たソーシャルゲーム「探検ドリランド」を取りあげ、模倣と改善、マーケティングに基づいた市場全体の拡大という構図が、ゲーム以外の普通の市場では普通にある話で、これが本来のビジネスのありかたではないかと話す。

 筆者の印象として、渡辺氏によるこれらの議論にはひとつの大きな方向性があるように感じられた。「模倣への拒否反応」、「それによる車輪の再発明」、「ビジネスチャンスの逸失」といった、従来のゲーム産業に従事してきたクリエイターが陥りがちな罠に対する気づきと、批判精神だ。急激な変化の中にあるゲーム産業を踏み外すことなく歩いていくための、非常に大切な視座と言えるかもしれない。

 そういった渡辺氏によるひとつの結論は、「ソーシャルゲーム、ブラウザゲームでの新発見」と、これまで実証されてきた様々な「マネタイズのアイディア」、そして、ゲームクリエイターが熟知している「ゲームシステム」を掛け合わせて、新しいものを生み出すチャレンジをしていこう、というもの。近年のゲーム産業の流れに対して暗い気持ちになっていた開発者にとって、前向きな方向性を見出すための力強いエールになったのではないかと思う。


すでにやってきた、あるいは今後やってくる変化にどのようなマインドを持って向かっていくべきか? 豊富な経験に裏打ちされた、不思議な説得力のあるセッションだった


(2011年9月9日)

[Reported by 佐藤カフジ]