CEDEC 2011レポート

「PS Eye」を使ったPS3「EyePet」のAR演出法
2D画面に擬似3D空間を出現させて楽しむコミュニケーション


9月6~8日 開催

会場:パシフィコ横浜


 9月6日から9月8日までパシフィコ横浜にて開催されているゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2011」。この記事では、「AR(拡張現実:Augmented Reality)ゲーム開発のためのアドバイス(題材:PS3EyePet)」という題したセッションについてお伝えする。

 登壇したのは、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント クリエイティブディレクターのドウセ・ニコラ氏。プレイステーション 3のカメラデバイス「PlayStaition Eye」(「PS Eye」)用コミュニケーションゲームソフト「EyePet」にてクリエイティブディレクターを務めたニコラ氏が、家庭向けARゲーム制作上の工夫点について講演した。なお、この「EyePet」は「PS Eye」のみを使用したタイトルだが、日本では「PlayStation Move」に対応した「Me&My Pet」として発売されている。




■ 2Dの認識情報から擬似3D空間を演出

ソニー・コンピュータエンタテインメント クリエイティブディレクターのドウセ・ニコラ氏

 「PS Eye」は、動作認識機能を持つPS3専用のカメラデバイス。「EyePet」は、「PS Eye」を通して画面に映しだされたプレーヤーと空間の前に、猿のようなキャラクター「ペット」が合成され、まるでそこに「ペット」がいるかのようにコミュニケーションができるというタイトル。手を差し伸べれば「ペット」が追いかけてきたり、上の方から手をかざせば手をめがけてジャンプしてくれる。ARマーカーによるアイテムも用意されていて、餌の入った箱を傾けて器に入れたり、レントゲンのようなアイテムで「ペット」の骨格を透かして見るなどのアクションもできる。

 ニコラ氏が制作上の工夫点としてまず挙げたのは、擬似3D空間の演出の方法。コンセプトでは、「ペット」がプレーヤーの顔を認識してそちらの方向を向いたり、奥行きのある空間の中で「ペット」を押したり撫でたりといったコミュニケーションを考えていたが、「PS Eye」が認識するのは平面上の動作情報のみで、奥行きに関連する情報は得られないものだった。

 そこで考えたのが、画面を横に2分割して、下半分を奥行きのある床(画面下が手前、中央に近づくほど奥)として設定し、残りの上半分を空中として扱うことで、画面内を擬似的な3D空間として捉えるという方法。プレーヤーがアクションを起こした時、画面下半分の場合はそこへ「ペット」を移動させ、上半分の場合はその場から飛びかかるとすることで、認識情報としては3D空間ではないながらも、あたかも3D空間かのような演出が可能になったのだという。


「EyePet」は、「PS Eye」を使ったAR空間で「ペット」とコミュニケーションができるゲームARマーカーを使ったアイテムで、「ペット」との更なるコミュニケーションも可能
「EyePet」では、画面を2分割にし、擬似的な3D空間を演出することでAR体験を生み出すことに成功した



■ 描かれた絵をいかに楽しく3Dアニメーションとして動かすか

 「EyePet」には、プレーヤーが描いた絵を「PS Eye」でゲーム内に取り込む機能もある。取り込まれた絵は、3DのオブジェクトとなってAR空間に現われる。例えば飛行機の絵であれば、プロペラが回るアニメーションもするし、さらには自分で操作して飛ばすこともできる。

 取り込む絵は、白い紙に黒い線で簡単な形状を描くだけでいい。絵を取り込むと「EyePet」が線を解析し、滑らかに修正する。どんな絵を描いても、それなりの形に補正され、「おもちゃ」の形にしてくれる。

 「何を描いてもいい」というルールがこの機能にはあるが、実際に絵を取り込む際には、パーツごとに描いていくという手順も用意されている。デモ映像では、翼、機体、プロペラと絵を取り込み、生まれたパーツが空中で組み合わさって飛んでいく様子が見られた。絵をパーツごとに分けることで、プレーヤーが想定した通りのパーツが組み合わされ、よりリアリティのある「おもちゃ」ができあがる。またパーツの立体化には、角ばったものと丸みのあるものの2パターンがあり、パーツごとに上手く選択することで、メリハリのあるオブジェクトを生成している。


絵は取り込まれると、飛び出して空中で合体する。このアニメーションは、コントローラーで操作もできる
取り込む絵は至ってシンプル描かれた線は「EyePet」で解析されて、分解される何を描いてもアニメーションとしてちゃんと動く



■ ARにおける新しいインタラクションの作り方

 次に、ニコラ氏は新しいインタラクションの作り方についてのノウハウを提示した。「AR技術は世の中にあまり出ていないので、できることと、できないことは私達にもわからない。スピーディにそれらを知ることが大事」と述べたニコラ氏は、「最大の課題はインタラクションか楽しいかどうか。グラフィックスは問題ではないので、動きがわかる程度の簡単なもので試していけばいい」と説明した。

 具体的には、1人が1~2週間程度で実装できるプロトタイプの試験を繰り返す。もし「箱に入った粒状の物体を床に注ぐ」というインタラクションのプロトタイプが上手く行くようであれば、すぐにそこに「それに対する『ペット』の挙動」という新しい要素を加えてまた試験を実施する。ニコラ氏は、「小さなものを1つ1つ作って、色々なものを同時には作りませんでした」と振り返った。この方法だと、プロトタイプの30%はボツとなってしまうそうだが、それはニコラ氏の感覚では問題ないそうだ。こうしてプロトタイプを吟味した後、14カ月に渡って合計24家族に実施したユーザーテストを経て、製品版へと繋がっていった。

 なお、このユーザーテストでは、そもそもケーブルの繋ぎ方や、「PS Eye」の設置場所がわからないという問題が出てきたという。これには説明のビデオを付けることで対応したが、さらに「部屋の照明」という問題が発生した。普段はARに適した明るい場所でテストをしていたが、実際の家庭でテストをした時には想定よりも暗い場合が多く、スムーズに動作しないことがあった。これについては、ARに適していない環境であえてテストをすることで、「一般家庭でも十分遊べるようにした」という。

 ニコラ氏は最後に、「今の話を踏まえて、PS機器を使ったARゲームをぜひ作ってください。これらの工夫は、『PlayStation Vita』でも応用できるはずです」と来場者に呼びかけた。

ARで重要なのは、インタラクションが楽しいかどうか1人1~2週間程度でできる小さなものを1つ1つ試していく3割がボツになってしまうがそれでいい。中央はプロトタイプの「ペット」

(2011年9月9日)

[Reported by 安田俊亮]