Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

加Autodeskゲームテクノロジー担当副社長Marc Stevens氏インタビュー
業界スタンダードの3Dコンテンツ制作ツールに「2011年度版」を投入。ミドルウェア事業にも力を入れるその意図とは?


3月9~13日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center


 加Autodeskは、GDCの開催に合わせて同社の3Dコンテンツ制作ソリューションおよびミドルウェアの最新ラインナップを発表した。その内訳は「Autodesk Maya 2011」、「Autodesk SoftImage 2011」、「Autodesk Mudbox 2011」、「Autodesk MotionBuider 2011」、「Autodesk Human IK 4.5」、「Autodesk Kynapse 7」の6製品となっている。弊誌ではAutodeskのゲームテクノロジー部門副社長であるMarc Stevens氏にインタビューを行なった。

 カナダに本拠をおくAutodeskはゲーム業界のみならず映像関係の業界でも広く知られた存在で、プロユースの3DCG制作の現場ではほぼ100%の割合で、同社のソリューションが使われているほどだ。また、近年Autodeskの製品ラインナップに加えられたミドルウェア製品「Human IK」、「Kynapse」の存在は、ゲーム業界により深くコミットしようとするAutodeskの姿勢を表している。




■ Autodeskが開発するミドルウェア「Human IK」、「Kynapse」とは?

 今回発表された製品のうち、「Autodesk Maya 2011」、「Autodesk SoftImage 2011」は言わずと知れた3DCGの制作ツールだ。いずれも多数のアップデートが行なわれているが、NVIDIAのGPGPU技術に対応することで高品位なレンダリングプレビューを高速に行なえる点など、さらなる作業の効率化が主要な強化点となっている。

 「Autodesk Mudbox 2011」はデジタルスカルプト及び3Dテクスチャペインティングのための制作ツール。「Maya」、「Adobe Photoshop」とのデータ相互運用性が強化されている。「Autodesk MotionBuider 2011」はキャラクターアニメーションの制作ツールで、こちらもGPGPUの利用により表示を高速化するなど、作業効率の改善が図られている。

 これまでのAutodesk製品の中で、特に異質な存在となっているのがミドルウェアの2製品「Human IK」と「Kynapse」だ。いずれも今回新バージョンが発表されたが、一般にはまだあまり知られていないソリューションであるため、この場で簡単にご紹介しておきたい。



・「Human IK」

「Human IK」。環境要素との関係を反映してキャラクターアニメーションを変化させることができる

 「Human IK」は、人物や動物のボーンアニメーションに、地形などの環境要素を考慮してより説得力のある動きを導き出すためのミドルウェアだ。IKというのはインバース・キネマティクスの略。例えば、段差に足を置いて立つ場合、足の高さ、膝関節・股関節の曲がり具合は地面の高さによって決まるが、そういったキャラクターの姿勢解決を既存のアニメーションにブレンドしながら行なうのが「HumanIK」の役割だ。

 「HumanIK」では、IKの仕組みを応用して様々なアクションを自然に見せることができる。例えば「はしごを登る」というアニメーションを作る場合、従来ははしごの各段の幅とキャラクターのアニメーションを一致させる必要があった。ところが「HumanIK」では、手足の動きをはしごの幅にあわせてリターゲッティングすることができるため、あらゆる幅のはしごで正しいアニメーションが導き出される。

 「Human IK」の技術は多くのメジャータイトルでふんだんに活用されている。その代表例は「アサシン・クリード」だ。亀裂や段差を用いて壁面をスムーズに登っていくシーンを思い浮かべていただけたら、それがまさに「HumanIK」が活用されている部分だ。最新バージョンでは使いやすさの向上も図られており、例えば「Unreal Engine 3.0」でのアニメーションソルバーのひとつとして組み込むことも可能だという。

【Human IK】
「Human IK」のデモ。はしごを登るアニメーションパターンは1種類だけだが、はしごの幅に応じて自動的にリターゲッティングする機能により、いずれのはしごでも正しい幅でアニメーションが行なわれている



・「Kynapse」

「Kynapse」のデモ。AI制御により、複雑な3D環境を多数のキャラクターがスムーズに移動する

 もうひとつのミドルウェア「Kynapse」は、3D空間でキャラクターを自律的に動かすためのAIソリューションだ。経路探索が主要な機能となるが、「Kynapse」ではリアルタイムに変化する3D環境にも対応し、動く障害物を上手に避けながら移動するような動きもサポートする。マルチコアのシステムに最適化されており、同時に数百、数千といった群衆を制御可能だ。

 「Kynapse」では空間認識の機能もサポートする。このため、群集だけでなくより賢いNPCの制御に使うこともできる。例えば3D空間の遮蔽物をリアルタイムに判定し、開けた空間に対して常に注意を向けるようなAIは、特殊部隊の隊員のようなキャラクターにうってつけである。動的に変化する環境にも対応できるため、FPS系のゲームで「障害物を利用して、できるだけ安全なルートで行動する」ようなシチュエーションも比較的容易に実現できるようだ。

 また、「Kynapse」はランタイムのAI技術を提供するだけでなく、AIを効率的に動作させるための各種データ(ナビゲーションメッシュなど)を自動生成することができ、AIに関連する開発のワークフローが相当に簡略化されることがウリとなっている。


【Kynapse】
「Kynapse」で制御されたNPCの集団は、周囲の環境要素を考慮し、適切なルート、適切な姿勢で行動する。それぞれのキャラクターに「Human IK」を用いてアニメーション内容を向上させることも可能であるようだ
遮蔽と開けた空間を判断し、中央のキャラクターを守るように移動するNPC。FPS系のゲームで大いに使えそうな機能だ



■ Autodeskゲームテクノロジー担当副社長 Mark Stevens氏インタビュー

 Autodeskでは3Dコンテンツ制作の主要ツールに加え、制作したコンテンツをランタイムで動かす部分にまでソリューションを提供することになった。また、今回発表された「Maya」、「SoftImage」、「Mudbox」、「Motionbuilder」といった制作ツールの最新版では、業界からのフィードバックに基づいた数々の改良が施されているという。

 今回、ゲームテクノロジー担当副社長 Mark Stevens氏およびシニアマーケティングマネージャーのRob Hoffmann氏に行なったインタビューでは、Autodeskがゲーム業界をどう見ているのか、その上で将来的なビジョンはどうかといった部分を中心に話を伺っている。続いてその内容をお伝えしよう。



──まず、Autodeskにおけるゲーム産業の位置づけについて教えてください。

ゲームテクノロジー担当副社長 Marc Stevens氏

Marc Steven氏:弊社にとってゲーム業界は非常に重要な分野です。現在では「Maya」、「3ds Max」、「SoftImage」、「Mudbox」、「Motionbuilder」といった主要なコンテンツ制作ツールを提供しています。それに加え、近年では「HumanIK」、「Kynaps」といったランタイム技術におけるミドルウェア製品を提供するようにもなりました。

 コンテンツ制作ツールについてはゲーム業界に限らず、映画やテレビ業界など幅広い分野で使用されるものですので、「ゲーム産業向けの事業規模」という割合を出すことは非常に難しいです。純粋にゲーム業界に向けたものとしてはミドルウェア製品が該当します。これについては現在50名ほどのスタッフが関わっている状況です。

──Autodeskではつい先日、「Maya」、「Max」、「SoftImage」、「Mudbox」、「Motionbuilder」といった主力製品の2011年度版をリリースされましたが、これらの製品がゲーム製作者に与えるメリットはどのあたりにあるのでしょうか?

Marc Steven氏:ゲーム、映画、TVのどの業界にも共通する問題があります。つまり、顧客側の期待がとても高く、求められるコンテンツの質と量が増えていくばかりである一方、それを作り手が提供するための予算や時間がどんどん少なくなっているということです。そこで私たちが目指していることというのは、受け手が求めるクオリティと作り手が必要とするリソースとの間に横たわるギャップを埋めていくということです。

 ですから、私たちの製品はいかに効率的にコンテンツを作れるようにするか、という点に注力しています。それは最新製品のユーザーインタラクション、ワークフロー、インターフェイスのデザイン、ソフトウェア間の相互補完性といった部分に現われています。多くの点で改良が施されていますよ。

──Audodeskでは映画やテレビなどの映像業界も主な顧客ということですが、特にゲーム業界からはどのようなフィードバックを受けていますか?

3Dメディア&エンターテインメント、シニアプロダクトマーケティングマネージャー Rob Hoffmann氏

Rob Hoffman氏:ゲーム開発者からいただくフィードバックとしては、やはりゲームをより効率的に開発したいというものが殆どを占めます。より多くのコンテンツを作り、さらに高いクオリティを達成しなければならないという状況では、制作ツールがさらに幅広い分野で役立つものになることが必要です。我々としてはそういった顧客の皆さんと協力しながら、多くのご要望を実現に移すことが使命であると考えています。

──ゲーム業界にはテクニカルアーティストという職種があり、ゲームグラフィックスの発展に大きく寄与しています。このような人材が日本では少ないとよく言われるのですが、これについてどうお考えですか?

Marc Steven氏:私達の方からは、技術トレーニングを行なう研修の場のようなものをご提供するような形でお役に立つこともできるかと思います。それと同時に、私たちや業界の方々がゲーム開発の現場で学んだ教訓、ノウハウをソフトウェアに生かし、技術に明るくない方でも最新のゲーム開発に取り組めるようなものをご提供することを目指しています。

──そういった部分が、Autodesk製品のユーザーインタラクションやインターフェイスに生かされていると。

Marc Steven氏:そうですね。ユーザーインターフェイスの改良もそうですが、それ以上に作業の進め方、ワークフロー自体を改良するということが大枠になっています。

──最近ではモバイルゲーム、ソーシャルゲームといった分野が急激に成長しています。こういった分野ではゲームの開発にあまり多くのコストを掛けられない特性がありますが、このような現状にアプローチするための特別な施策は考えていますか?

Marc Steven氏:大変面白い現象だと思います。仰る通り、モバイルやソーシャル分野のゲーム開発は予算が少なく、開発期間も短いものがほとんどです。そこで弊社としては、開発のプロセスを簡素化することが重要であると考えています。それだけでなく、ミドルウェアの価格体系においても特別な取り組みをしています。例えば、弊社のミドルウェア製品「HumanIK」では、100万ドル以下のゲーム開発プロジェクトと2,000万ドルのゲーム開発プロジェクトとで、異なる価格でライセンスを提供しています。

──Autodeskで提供しているミドルウェアについて、ゲーム業界の反応はいかがでしょうか?

Marc Steven氏:すでに数百のタイトルで弊社のミドルウェア製品が使われており、いくつものタイトルが大きな成功を収めています。例えば「アサシン・クリード」では「HumanIK」をふんだんに使用していますし、EA Sportsなどよく知られたゲームブランドで「Kynaps」が使われています。このような事実が示す通り、ゲーム業界の反応は非常に良いですね。

──Autodeskでは現在「Human IK」、「Kynaps」の2つのミドルウェアを提供していますが、これ以外の分野にもミドルウェア事業を広げていきたいと考えていますか?

Marc Steven氏:現在のところ私たちはキャラクターアニメーションの分野にミドルウェアのリソースを集中しています。ゲーム開発において重要な部分であるからです。この分野で完璧なソリューションを提供できるようになれば、その上で他の分野に目を向けるということもあるかと思います。

──近年では中国を中心としたアジアのゲーム市場が急速に発展しています。Autodeskとしてこういった新興市場に対する特別な戦略などは考えていますか?

Marc Steven氏:弊社では広く映像関連業界全体にも多くの顧客を持っており、その動向を常に追っています。その中で、御存知の通りハリウッドなどの映画関連企業や、あるいは大手のゲーム企業であっても、中国やシンガポールにアウトソーシングするという傾向が進んでいます。そこで私たちとしては、より効率的に使い慣れたツールを使って制作ができるよう、教育分野にも力を入れてきました。教育機関へのソフトウェア提供、ユーザーのトレーニングなど、様々な形で業界への協力を進めています。

──不景気であるといわれて久しいですが、ゲーム業界はどのように成長していくべきでしょうか? コンテンツ制作ツールの提供企業としての立場から考えを聞かせてください。

Rob Hoffmann氏:確かに、ゲーム業界は不景気の煽りを受けて厳しい状態にあると言えます。ですが、他の業界に比べればその影響は軽微であるということも事実です。その中でゲーム企業がさらに成長をしていくためには、人気のあるフランチャイズ作品に対してさらに投資していくことがひとつの方法になると考えています。

 また、ソーシャルゲームのような小規模タイトルを開発する企業は、組織が小さいかわりに機敏であり、時代の変化に柔軟に対応することが強みだと言えます。このような企業が、大手のゲーム企業にはできないような新しいゲームの可能性、ビジネスの手法を切り開くことを期待していす。

──最後に、日本のゲーム業界に期待することを教えてください。

Rob Hoffmann氏:日本のゲーム業界はこれまで、画期的な技術や素晴らしいゲームタイトルを作り出すことによって、ゲーム市場を飛躍的に成長させてきました。私としては、日本のゲーム業界が今後とも世界に新たな例を示し続け、リーダーとしてこの業界全体を引っ張って欲しいと願っています。

──:ありがとうございました。


【関連GDCセッション】
GDC2010の会場では、多数のAutodesk関連セッションが行なわれていた。この画像は「ROCKBAND」を開発したHarmonix Music SystemsのRyan Lesser氏、Dare Matheson氏、Josh Randall氏による「THE BEATLES: ROCKBAND」制作のポストモーテムセッション。生き生きとしたキャラクターの制作にあたり、Autodeskの各種ソリューションを効果的に活用したという


(2010年 3月 12日)

[Reported by 佐藤カフジ]