CESA Developers Conference 2009現地レポート

各社キーマンが語る、Xbox 360のオンラインビジネス最前線
「ドリームクラブ」のオンラインプロモーション、DirectX 11などマイクロソフト関連のホットピックをご紹介


9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜

 

 CEDEC 2009初日の9月1日、XNAスポンサードセッションとして、マイクロソフトのプラットフォームビジネスに関連する5つの講演が行なわれた。

 ゲームプラットフォーマーとしてのマイクロソフトは、8月に行なわれたXbox LIVEサービスのアップデートなどを通じてXbox 360上のオンラインビジネスを拡充しつつあり、さらに10月にはWindows 7の一般発売を控え、その主要なゲーム支援機能であるDirectX 11の提供も間近であるなど、大きな変化の最中にある。

 それを反映し、9月1日に行なわれた各セッションではXbox 360のオンラインビジネスとDirectX 11の技術情報に関するテーマが中心となった。本稿ではそのうち、Xbox LIVE上のオンラインビジネスに取り組むサードパーティ各社によるパネルディスカッション内容をはじめ、マイクロソフト関連セッションの情報をお伝えしたい。



■ 各社最前線のキーマンが語る「Xbox 360オンラインビジネスの魅力」

パネルディスカッションのモデレーターを務めたマイクロソフトの宇野敦氏
アークシステムワークスの山中丈嗣氏。Xbox 360向けの代表作は「ギルティギア2」、「ブレイブルー」
セガの村山亨氏。Xbox 360向け代表作は「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム」、「バーチャファイター5 Live Arena」
バンダイナムコゲームスの二村忍氏。Xbox 360向け代表作は「ソウルキャリバー4」など
ディースリー・パブリッシャーの岡島信幸氏。Xbox 360向け代表作は「お姉チャンバラ」、「ドリームクラブ」など

 まずはこの日行なわれたパネルディスカッションの内容からご紹介していこう。「Xbox 360オンラインビジネスについて -パートナー企業によるパネルディスカッション-」と題されたセッションではマイクロソフト ホーム&エンターテイメント事業本部の宇野敦氏が司会進行を務める中、Xbox LIVEアーケードやプレミアムダウンロードコンテンツの販売などオンラインビジネスを手がけるサードパーティ各社からパネリストが出演。Xbox 360上で展開するオンラインビジネスのあれこれについて語り合った。

 出演したパネリストは、アークシステムワークスで制作ディレクターを勤める山中丈嗣氏、ディースリー・パブリッシャーコンシューマー事業部部長の岡島信幸氏、セガAM R&D2 ディレクターの村山亨氏、バンダイナムコゲームスでソウルキャリバーシリーズのメインプログラマーを務める二村忍氏の4名。いずれもXbox LIVEビジネスの最前線でゲーム開発に取り組んでいる面々だ。

 マイクロソフトの宇野敦氏が質問を投げかけ、それに各パネリストが応える形でトークが進行した。まずはじめの質問は、「有料課金コンテンツ(プレミアムDLC)、またはXbox LIVEアーケード(XBLA)の当初の導入意図は?」というもの。

 これに対し各パネリストからはポジティブなコメントが相次いだ。特に顕著だったのはセガの村山氏。村山氏は4月にXBLAで「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム ver.5.66」を配信しているが、「XBLAの導入意図うんぬんという前に、それしか選択肢しかなかった」そうだ。なんでも、「オラタン」のXbox 360版は正式にプロジェクトになる前から社内で勝手に作られていたという経緯があり、てっとり早く商品化するためにはXBLAが唯一にして最高の選択肢だったという。

 ソウルキャリバーシリーズを手掛けているバンダイナムコゲームスの二村氏に至っては「質問の意図すらわかりません」と切り出し、「高度なグラフィックス機能や、実績などのシステムがあるのと同様に、ダウンロードコンテンツなどオンライン要素はXbox 360の基本的なプラットフォーム特性です。重要なのはお客様にどう楽しんでいただくかということなので、分けることなくはじめからオンライン要素も全部込みで、あたりまえのように組み込みました」と語っている。

 Xbox 360のゲームを企画する上でもはや当たり前の要素として捉えられているDLC、XBLAといったオンライン要素。次の質問は「オンライン販売を促進するために工夫したポイントは?」というものだ。

 これについては「オラタン」の村山氏が最も具体的に回答している。まずXbox 360には、特に海外には「実績」コレクターというべきプレーヤー層が存在することに注目し、そういった客層に注目してもらえるよう意図的に「実績」の解除条件を緩くしたという。また、XBLAタイトルに義務付けられている「お試し版」の内容は売上に直結するので、どこまで遊べるようにするか非常に苦心したという経緯を紹介した。

 「配信したコンテンツ、計画をかえりみてどうだったか」という質問に対して多くを語ったのは、「ギルティギア」シリーズ、「ブレイブルー」を手掛けた山中氏だ。

 「格闘ゲームは盛り上がる最初の数週間にDLC第1弾を出すのがベストです。しかし実際には遅れてしまったので、苦心したコンテンツが多くのユーザーさんの手に渡らず、機会損失となってしまいました。また、有料コンテンツの適正価格をリサーチするのも難しかったです。ウチの社長はできるだけ高くと言い、僕らはできるだけ安くと思っていたので。今後は『ドリームクラブ』の様子を見て参考にしたいと思います(笑)」と、ジョークを交えつつも、かつて手がけたタイトルの追加コンテンツについてタイミング、価格面の反省点をまとめた。

 続いて提示された「導入意図は達成できたか?」という質問に対しては、バンダイナムコゲームスの二村氏が意外な視点からXbox 360のオンライン機能のメリットを語っている。

 「計画通り『ゲイツ』もといマイクロソフトポイントを獲得する目標は達成できています(会場笑)。それ以上にDLCは、ロングテールのビジネスを可能にし、さらに、北米などで盛んなゲームレンタルでプレイされてしまうことを防ぐ効果がありがたいですね。セールスの高さがそれを証明しています」。

 それに加えて二村氏が語ったオンライン機能の特性は興味深い。「DLCの販売データや『実績』のデータのおかげで、いままで知りたくても知ることのできなかった、お客様が家庭でどうやって遊んでいるかを知ることができました。DLCはまさにリアルなキャラクターの素直な人気投票になっていますし、実績を見ることで、どのように、どれくらい遊んでいるかもわかる。今までわからなかった情報が全世界でわかってきて、非常に満足しています」。

 

 二村氏自身、1家4人ひとりに1台のXbox 360を所有し、自身は450本以上のゲームをプレイしたという熱狂的なゲームファンだ。そしてゲーマースコアにこだわる「実績コレクター」でもある。それにゲーム製作者としての視点を加えたとき、全プレーヤーのマクロなプレイ動向把握という、これまでのプラットフォームでは収集が難しかった情報に製品開発のヒントを見つけているようだ。



■ 「ドリームクラブ」で爆発する、オンラインコンテンツによるプロモーション効果
 オンラインの特性を生かした、新たなビジネスモデルにも期待が集まる

「ドリームクラブ」一色と化したXbox 360のダッシュボード。プロモーション効果は絶大
「ドリームクラブ」の今後の展開について語る岡島氏

 続いてトークの主役になったのが、「オンライン配信を導入したメリット」について聞かれたディースリー・パブリッシャーの岡島氏。先週発売されたばかりの「ドリームクラブ」がまさにホットな話題だが、作品ではパッケージの発売と同時に多数のDLCを展開し、ゲームに登場するメイン級のキャラクターも有料で配信するというドラスティックな施策を打ち出している。

 そこで岡島氏は、Xbox LIVEならではの絶大なオンラインプロモーション効果を高く評価。「発売直後ということで現時点ではドリームクラブに限って、ということになるかもしれませんが、有料アイテム販売のほかにもプロモーションの面で大いに役立っています。映像を作って『お願いします』と言えば、マイクロソフトさんのご協力でどんどん配信してくれるのがありがたい。我々のような小さなメーカーにとっては非常にメリットがあります」。

 セガの村山氏は別の利点にも注目している。「XBLAでゲームを配信するメリットは本当にたくさんあります。特に売り切れがない、在庫リスクがない、欲しい時にいつでも買えるというのが大きいですね。中古も存在しないので、買ってつまんなくても、大丈夫(会場大爆笑)。いや、もちろんゲーム内容には自信ありますので、お試し版を遊んでもらって、知ってもらうことが簡単にできるというのも素晴らしいです」。

 また、「企画の初期段階からプレミアムDLC、XBLAを意識しましたか?」という質問には、すべての面々が当然とばかりに答えている。興味深いのはアークシステムワークスの山中氏だ。

 「(いわゆるDLCとは異なる)ゲームバランス調整パッチというのがありまして、『ギルティギア2』では計17回出しました。配信はほとんど無償でできるので、ゲームタイトルのライフスパンを伸ばすというためにも積極的に活用していきたいです」と、ユーザーの慣れによって日々変化していく格闘ゲームならではのオンライン機能活用法を披露している。

 最後に「将来に向けて提供したいコンテンツは?」という質問が投げかけられ、いよいよ各氏のトークが饒舌さを増していた。その中で、格闘ゲームの現状を憂う山中氏の発言は新たなパラダイムシフトの到来を予感させるものだ。

 「新規の顧客獲得が課題です。まずは手にとってもらうことが優先なので、ゲームはタダ同然で配ってもいいと思います。はじめはキャラ数が少ない状態でゲームを配信して、追加キャラを有料で配信するというモデルを模索していきたいですね。特に海外ではパッケージの価格が高すぎると捉えられているようですので、日本ではパッケージで、海外ではXBLAで出す、といったことを検討しています」。

マイクロソフトよりXbox LIVEアーケードで無料配信予定の「Joy Ride」。追加コースやアバターアイテムでの収益を期待されている
二村氏はDLC展開のメリットとして「コピー対策」という視点を、「実績」のメリットとしてユーザーのプレイ動向の把握といった側面を挙げた

 これは、マイクロソフトが無料配信を予定しているXBLAのカジュアルゲーム「Joy Ride」と同様、パッケージビジネスの延長線上ではなく、PCオンラインゲームサービスのビジネスモデルに属する、かなり突っ込んだ施策だ。実現すれば非常に大きな変革と言える。

 セガの村山氏は次のXBLA配信タイトルについて、すでに準備中であることを明かした。「いま作ってます(笑)。『オラタン』でよい結果を残せたので、いろいろできるようになりました。自分はアーケードゲームの部署に属しているので、今後もアーケードからの移植タイトルをいろいろやっていきたいなあと思います」。

 ディースリー・パブリッシャーの岡島氏も、今後のオンライン配信に向けて「ドリームクラブ」の追加コンテンツを開発中であることなど、オンライン配信にむけて積極的な姿勢を語っている。「11月にリリースする予定のDLCを今まさに作っています。作っているというか、表現を変えると『収録』しています(会場笑)。あと、『地球防衛軍』シリーズも無視できない存在ですね。前作から3年、今回は『実績』にも細かく対応したり、DLCにも力をいれて新作に取り組んでいきたいです」。

 最後のフリートークで、バンダイナムコゲームスの二村氏は「DLCをぜひやるべき理由として、コピー対策という側面もあります。主にアジア圏でそういうことが行なわれているんですが、そういった『えげつない360』はLIVEにつながりません。なので、ゲームの大事な部分をオンラインに持ってくれば非常にいい対策になるはずです。そういったことを今後の課題として考えています」と語り、DLCの効能についてシリアスな観点で光を当てている。

 今回のパネルディスカッションを通じて、既に何らかの形でXbox LIVE上のオンライン配信を経験している各社はともに、非常にポジティブな印象を持っていることが伺われた。オンラインでのゲーム販売の利点はこれまでも指摘されつくされてきた部分ではあるが、予測や展望ではなく実体験レベルの話題として、こうして具体的に語られる時代になったことを大いに歓迎したい。トークに現われた各社の姿勢を見る限り、この流れは今後ますます加速していくはずだ。

各社ともXbox 360のオンライン機能に対してポジティブな感想を述べ、さらにDLCやXBLAに力を注いでいく姿勢を見せていた。「もっと高い値段をつけられれば(村山氏)」、「実績をブラウズする便利なユーティリティや、海外のフレンドとコミュニケーションするための翻訳支援機能が欲しい(二村氏)」など、マイクロソフトに対するフィードバック的意見が見られたのも興味深かったところだ



■ その他のマイクロソフト関連セッションはDirectX 11の技術情報を中心に展開

 このほか、当日はマイクロソフトによるスポンサーセッションが複数行なわれたが、Xbox 360関連以外のもうひとつの核は、Windows 7およびDirectX 11に向けた技術情報を提供するセッションだ。

 Windows 7は既に一部企業を対象に正式版の提供が始まっているし、DirectX 11もすべてのスペックが明らかになり、あとは提供を待つばかりだ。このためこれらのセッションは、既知の情報をまとめたもの、あるいは現場のプログラマー向けの技術情報といった、ごくごく専門的な内容が中心だった。ここでは画像を交えつつ、その内容を簡単にご紹介しておこう。

【ゲームのかたち -シ・ン・カ・セ・ヨー】
マイクロソフト、XNAデベロッパーエバンジェリズム リードプログラムマネージャーの鵜木健栄氏による講演では、Windows 7で提供される「Windows 7 Touch」、Xbox 360向けに提供予定の「Project Natal」といった、新たなユーザーインターフェイス、あるいはWindows Mobileを含む各プラットフォームに向けた新たなゲームのスタイルが模索された。ひとつのカギとして鵜木氏が紹介したのは「1ゲーム、マルチクライアント」という概念。ゲームサーバーを通じて、PC、据え置きゲーム機、携帯プラットフォームが同じゲームにつながり、それぞれ別の形でゲームに参加、プレイするというスタイルだ。また、それらのプラットフォームに向けた開発を支援するため、1ソースで複数バイナリを生成できるというXNAの取り組みが紹介された



【DirectX 11がもたらすイノベーションとは? AMD編】
日本AMD、マーケティング&ビジネス開発本部の土井憲太郎氏が講演したこのセッションでは、AMDプロセッサー、ATI Radeonと、CPUとGPUの両方を提供できるリードカンパニーとなったAMDについての歴史的紹介があり、それに続いてDirectX 11で実現するインテリジェントなテッセレーション、DX11 Compute Shaderによるレンダリング処理の高速化といった点について、実機を使ったデモンストレーションが行なわれた。シェーディングパスの一部をCompute Shaderに置き換えることで、DirectX10 SDKに付属するサンプルプログラムのフレームレートが3割程度向上する様子が紹介された



【DirectX 11がもたらすイノベーションとは? NVIDIA編】
NVIDIA、デベロッパーテクノロジー エンジニアの風間隆行氏による講演。同じくDirectX 11の技術情報を紹介するセッションとなったが、こちらはより現場のプログラマー向けの専門的な情報が中心となった。テッセレーション、Compute Shaderといった「ハデなトピック」を敢えて避け、DirectX 11の新たなプログラミングモデルによって得られるメリットが細かく説明された。例えば、ハードウェアの互換性レベルを簡単に判断できる「Feature Level」要素や、マルチスレッドレンダリングのDX11的な実装方法、大きなパフォーマンスロスを受けることなく複数のシェーダープログラムを統合できる「Dynamic Shader Link」の具体的なプログラミングモデルなどだ。昨今ではエンジンレベルでコードを書くプログラマーは減りつつあるので、専門家にとっては却って貴重な機会となったようだ


(2009年 9月 2日)

[Reported by 佐藤カフジ ]