バンダイナムコ、PS3「のびのびBOY」高橋慶太氏インタビュー
「どうでもいい感じのゲーム」ができるまで
BOYを伸ばすアクションゲーム「のびのびBOY」 |
株式会社バンダイナムコゲームスは、プレイステーション 3用アクションゲーム「のびのびBOY」を2月に配信した。弊誌でもこれまでに何度か紹介しているが、正直なところ、どんなゲームなのかは遊んでみないとわからない(あるいは遊んでもわからない)という不思議なタイトルである。
このゲームを企画したのは、「塊魂」のディレクターとして知られる高橋慶太氏。本作でもディレクターとして制作を統括するとともに、デザイナーとして「塊魂」でも見られた独特なビジュアルを表現している。高橋氏は3月に米国で開催された「GDC 2009」において、本作についての講演を行なっている。
今回、その高橋氏にインタビューする機会が得られた。講演よりも踏み込んで、開発の経緯や狙いを尋ねるとともに、アップデートや今後の展開についても質問をぶつけてみた。
■ 「塊魂」のヒットから「のびのびBOY」の開発までの道のり
「のびのびBOY」企画・ディレクターの高橋慶太氏 |
――まず高橋さんといえば、代表作に2004年発売の「塊魂」があります。これは大ヒットしましたが、当初ここまでヒットすると思っていましたか?
高橋慶太氏: 大ヒットはしていないですけどね。だけど、こんなに受け入れられるとは思っていませんでした。果たしてどうなるんだろう、と何もわからない状態で出してしまったというところです。
――その「塊魂」で結果を出したわけですが、次の作品ではどういう話があったのでしょうか。
高橋氏: 会社からは、ぜひ「塊魂」の続編をつくってくれと言われていました。最初から続編をつくるつもりはなかったのですが、会社としては、自分が参加しなくても誰かを立ててつくっちゃうからね、みたいな感じだったんです。まあ、自分が関わった最初のゲームだったわけで、それなりに思いもあったし、「塊魂」を遊んでくれた人をいきなり裏切るのも嫌だったので、結局続編のプロジェクトに参加することにしました。それで2005年に「みんな大好き塊魂」をつくり終えて、その時、暖めていた「のびのびBOY」をやらせてくれないかなと話をしました。
――企画としては、以前から暖めていたものなのですか。
高橋氏: 「のびのびBOY」は自分だけで考えたものではなく、スタッフと話をしている時にアイデアの1つとして出てきたものです。それを自分で何とかまとめた感じですね。「みんな大好き塊魂」が始まる時には、頭の中でできていました。
――何か思いつくきっかけはあったのですか?
高橋氏: きっかけは特にないです。GDCでも言いましたけど、「塊魂」は「転がしていって大きくするって面白いでしょ? どう?」という思いと、現代のモノに溢れた、便利な使い捨て社会へのオマージュという気持ちも含まれています。本当はゲームさえ面白ければ、そんな個人的な思いはどうでもいい事なんですけどね。
自分は企画者だったので、マップ上に巻き込むモノを配置していくわけです。そうすると、モノが足りなく感じるんです。どんどんモノが欲しくなってきて、マップ上をモノだらけにしないと不安になってくるんです。もちろん緩急や処理負荷の問題もあるから画面を覆い尽くすようなことはしませんけれど、「もっと種類が必要だ」とか言ってデザイナーにいっぱいつくってもらったんです。結果、そうすることでゲームとしても自分としても、まあまあ満足なものになるんですが、デザイナーにつくってもらったモノは塊に巻き込まれて一瞬で画面から消えちゃうんです。
ゲームプレイとしてこの行為が延々と繰り返されていくわけですけれど、これがとても空しく感じてしまって。その空しさというのは、まさに使い捨てが繰り返される事そのものに対する感情に近いものだったんです。ミイラ取りがミイラになった感じです。オマージュとしても、こういう感じはちょっと勘弁だなと。そんな事を最初の塊が終った後に考えていたんです。
そこからどんどん妄想は広がり、いわゆるボリューム感といわれるもの、ステージ数とか、数で勝負してるやりこみ要素的な商売から脱却できないのか? とか、粘土みたいに触っているだけで楽しく刺激的な何かがつくれないかな? ゲームの目標なんかなくても楽しいものができるんじゃないの? とかを悶々と考えていたんです。で、そんな救いのない妄想と、スタッフと話していたアイデアがマッチしたわけです。
――コンセプトとしては、「塊魂」は転がし、「のびのびBOY」は伸ばすというものだと感じましたが、これには何か理由はあるのでしょうか?
高橋氏: 伸ばすのも大事なんですけど、触っているだけで楽しいもの、という意味では、長いものを動かすという方が自分の中では大きいです。長くて柔らかい生きものだから、こっちが意図していない形になったり、動きをしてくれたりしたら、それだけで十分に面白いかなと。
■ 最大の課題は、面白さを伝えるコミュニケーション
GDCで公開された4枚の企画書のうちの1枚。このノリで完結する企画書だけで、プログラマーを捕まえたという逸話がある |
――GDCでの講演の中で、4枚の企画書を公開されていました。あの企画書でできると思った方がいらっしゃったそうですが、他にも開発メンバーは必要ですよね。その方々はどうやって集めていったのですか?
高橋氏: ええと……だましだまし。
――チームは最終的にどのくらいの規模になったのですか?
高橋氏: 最終的には12、3人です。プログラマーが3、4人で、ビジュアルもそのくらい。あとはサウンドという感じの少人数のプロジェクトです。開発はとても大変でした。デバックが始まる直前まで「このゲームは面白くなるのか?」と疑問を抱いていたスタッフもいて、空中分解寸前でした。ダメなプロジェクトの典型かもしれないですけど、試行錯誤を繰り返しながらつくっていった結果、時間が足りなくなってどんどん仕様が削られていき、当初考えていた形から離れていったわけです。だから、不安に思うのは当然なんです。
で、2008年の冬くらいに、ようやく何とかなりそうなものができてきました。スタートして2、3年経っています。色々大変だったけれど、ゲーム開発はチーム作業なので、みなが同じ方向を見続けることができなくなった時期があったことが1番大変でしたね。
――そこがまさに聞きたかったところです。完成したゲームを見ても、どう遊べばいいかという提示がないゲームです。それをつくる際に、どうやって開発チームに方向性を示し、意思統一を図ったのでしょうか?
高橋氏: うーん、カリスマですかねえ。
――先ほどは試行錯誤があったと仰いました(笑)。
高橋氏: 売れ線をつくりたいとか、シリーズ物をつくりたいとか、そういうことを考えていない、何か新しいことをしたいと思ってくれた人が集まってくれたので、そこで初めのハードルは越えています。「塊魂」をつくったから集まってくれたのでしょうね。当分はそのテンションで行けました。PS3は新しいハードだし、不思議なゲームができるんじゃないか、と。割と普通ですね。ただ、そこから完成に持っていくのに3年くらいかかっているので、途中は色々なことがあありましたね。物理エンジンを採用したこと、PS3の立ち上げ時にスタートしたこと、あれやこれや色々とありますが、企画者としても多々失敗したなあ、と思うことがあります。
――失敗というと、例えばどんなことが?
高橋氏: 「のびのびBOY」をつくるにあたって、自分なりにいろんな思いがあったんです。言葉だけでは説明できない、もっと感覚的なゲームをつくりたい、というのもあったんです。それは、1つの表現としてそういう感覚に訴えかけるものへの憧れもあったし、個々で考えもしないであらゆる物事に説明ばかりを求めてしまっている今の時代への疑問でもありました。これは時代というより、会社の中で自分が感じているストレスなのかもしれませんけれど、とにかくそういう思いもあったんです。
だけど、それはゲームの中で実現すればいいことであって、制作過程では説明を省いてしまってはダメなんですよね。その辺りを自分が混同してしまって、一緒につくっているスタッフに対する説明を怠ったことがあります。その結果、作業のやり直しが発生したり、嫌な空気になったりして迷惑をかけたことは多々あります。
これを読んだスタッフはどう思うかわからないけれど、自分はみなさんが思っているほど独裁ではなく、プロジェクトの全員が企画者であればいいじゃないかと思っています。プログラマ兼企画、デザイナー兼企画、とか。1人で考えるより大勢で考えた方が、最終的にはいいものになると信じているからです。当然、多くの意見や考えに振り回されてしまったらグダグダになっていくだけですけど、それをきちんとジャッジして整理さえすれば、1人で考えるよりもいいものに昇華させることはできるはずなんです。でも、ちょっとその辺りのさじ加減を自分が間違えたというか、勘違いした部分が今回あったなとは思います。
――講演の中でも、「予定調和でないものをつくりたかった」と仰っていましたが、予定調和でないものをつくるのに、チーム全体の意識を統一するというのはすごく難しいと思います。そこはうまくできたのでしょうか?
高橋氏: 開発が大変で、いい意味でも悪い意味でも予測不可能だったんです。予測不可能と予定調和とは違う事だけれど、先が見えなくて、どういう展開が待っているかわからない、という意味では予定調和ではないとも言えるんじゃないかと。まあ、そんな空気の開発現場だったから、何も言わずともみんなの体に染みついていったんじゃないでしょうか。うまく言えないけれど、一喜一憂を繰り返されている感じです。不安君と期待君が交代で遊びに来てくれる感じ。主に不安君とばかり遊んでいましたけれど。
――その不安になったところというのは、どう説明していたのですか?
高橋氏: 特にBOYの挙動が最後まで安定してくれませんでした。物理エンジンを使っているのですが、体が伸びる動きと長い軟体であるというのを同居させたり、モノを食べたら太くなったり、体がちぎれてバラバラになった時の動きなどを少ないルールで物理エンジン上で安定させるのは、とても大変なことなんです。だけどこのゲームはBOYが主役なので、その挙動が安定しないとお話になりません。だから1番先に安定させてから周りを構築していきたいのですが、それが中々できないという状態がずっと続き、みんな不安がっていました。おかげで発売も何度も延期することになりました。
――それがどこかで落ち着いて、発売できたと。その時点で万事安心に、あとは出すだけという形になったのですか?
高橋氏: いえ、全然安心できませんでした。何とかBOYの挙動は落ち着いたものの、最初に考えていた仕様はほとんど入っていません。もっと楽しみが増えるようなものを考えていたんですけど、それがほとんど入らない状態でリリースしないといけないわけです。だから、果たしてこれが本当に受け入れられるものになるのかという不安は、みんなが持っていたと思います。自分はその不安を解消する役ですね。
――それはどうやって?
高橋氏: もう、話すしかないです。「今はこんな事になってしまっているけれど、こうなるから、こうすればもっとよくなる」と。あとは不安がっている本人にも「どうすればいいと思う?」とアイデアを聞いて。本当にそういうコミュニケーションの繰り返しですね。本当のことを言えば、自分もかなり心配でした。
――高橋さん自身の不安はどうやって解消したのですか?
高橋氏: つくることでしか解消しません。ただ、スタッフと話している間に自分の中で整理されていったり、アイデアをもらうことで解消することもありました
――高橋さんからコミュニケーションの中で、ゲームの面白さになりえる要素というのは、具体的にはどういうものを伝えていったのですか?
高橋氏: 面白さにおいては、BOYというのが大事な要素の1つなんですけど、それは単なる葉っぱの1枚なんです。うまく伝わらないかもしれませんけど、BOYの他にもいろんな葉っぱがあって「のびのびBOY」という1本の樹になっている、というイメージなんです。だから、マップでうろうろしている人の変な髪形や、フェアリーとかBOYハウスの無意味な感じとかも、BOYと同等の存在なんです。
そういう意味でわかりやすかったポイントは、キャラクターがカメラ目線になる仕様です。L1、R1を押すと、キャラクターがプレーヤーの方を見てくれるんです。それだけの事なんですけど、自分はそれをとても嬉しいと感じたんです。その面白さは純粋にその行為だけじゃなく、あのふざけた顔をしたキャラクターがあのモーションでこっちを見てくれるから、などいろんな条件があるんですけど、それこそ上手く説明できない楽しさがあったんです。だからそれを例に挙げて話をしたことは何回かありました。
――すると全面的に高橋さんのイメージしているものを伝えて理解してもらい、形にしてもらうという連続なんですか?
高橋氏: まず最初はそれですが、さっきも言ったように自分だけのイメージでつくっていくのは限界があると思います。自分が思いつかないようなことをスタッフが教えてくれることも多々あるので、アイデアを聞く割合をどんどん増やしていきました。
――そもそも当初イメージしていたのはどんなものだったのですか?
高橋氏: GDCで話した、惑星ランキングの順位でプレーヤーにプレゼントを贈る企画はやりたかったですね。あの部分だけを抜き出してみたら、別にゲームでやる必要は全くないんですけど、ゲームの一部であっても構わないと思うんですよね。現実世界とゲームの世界のちょうどいい具合の接点を見つけるのは楽しいはずなんです。でも、ちょっと話が大きすぎたのか、無理でした。世界各地の宅急便を使えばやれるんじゃないか? と思っていたんですけど、そういう手渡し的な方法のほうがハードルが高いというのは盲点であり、発見でした。壁紙などをダウンロードできるようにすればいいんじゃない? という話もあったんですけど、そんなものではつまらないので、なしにしました。
この件をデジタルとアナログという対比に持っていくのは間違いかもしれないけれど、やはりアナログは価値があるなと感じました。そのプレゼント案以外のところでは、言い訳や負け惜しみになってしまうので言わないですが、プレーヤー同士がゆるーいつながりを感じたり、遊んでいていい意味混乱する感じになっていたはずなんです。わからないと思うけけど、まあ、そんなところで勘弁してください。
――では逆に、上手くまとまった要素にはどんなものがありますか?
高橋氏: 雰囲気かなあ。
■ 「のびのびBOY」はどんなゲーム?
――発売前の社内での評価や反応はどうでしたか?
高橋氏: みんな懐疑的だったと思います。えらい人に見せる機会があったのですが、よくわからないし、売れないんじゃないかと言われました。外国人に説明しても、わからない、これは物理デモか? と。みんな冷ややかな感じでしたね。
――私は最初に触った時、伸ばせるだけ伸ばしてほうっておいたら、キャラクターが勝手に動いていたり、音楽がずっと鳴っていたりしていました。その時、「これは環境ソフト的に見ればいいのか」と理解しました。
高橋氏: そこで気づく人もいますよね。会社に翻訳担当の韓国人がいて、「翻訳しているけれど、これをどうやって遊べばいいか全くわからない」と言ってたのですが、ある時、起動したままトイレに行って、帰ってきたらBOYがいなくなっていて。「あれ、BOYどこ?」と探して、見つけて。あ、これでいいんだ、と気づいたそうです。
――思い通りになってくれないことがいい、というのはありますね。
高橋氏: ああ、そうですね。今のゲームは親切すぎるような気がします。他のゲームを遊んでいないから完全な憶測ですけど。
――それはそれで、別に嫌いではないですが。
高橋氏: 僕もいいとは思うのですが、そればっかりじゃなくてもいいじゃないかと。
――そこで、ぜひ聞きたいのですが、高橋さんが「『のびのびBOY』ってどんなゲームですか?」と聞かれたら、どう答えますか?
高橋氏: アクションゲームです。それ以上説明しろと言われても、BOYを伸ばすゲームです、としか言えません。上手く伝えられないのは今も変わらないです。言葉だけで説明できないものをつくろうとした結果なので、それはそれで正解なんですけれど、多くの人に伝わらないのもわかります。その辺りの壁を自分が超えられたら、300万本売れるゲームをつくれるんじゃないですかね。
で、なぜこれをアクションゲームですって言いたいかというと、これをキワモノとして扱ってしまうと、余計にゲームの幅が狭まってしまう気がするのです。そろそろ、こういうゲームもありなんじゃないですかね? という提案です。そもそもゲームじゃないだろう、という意見もありますけどね。「これゲームじゃないよね、おもちゃでしょ」と言うスタッフもいました。言いたいことはわかるんですが、じゃあゲームって何なんですか? と思う気持ちもあるんです。ゲームって何かか定義があったっけ? これをしたらゲームだけど、これをしなかったらゲームじゃない、という線引きがあったっけ? 楽しければいいんじゃないの? と。まあ、「のびのびBOY」は楽しくないよ、と言われたらぐうの音も出ないんですけど。
■ 「どうでもいいけれど面白い」アップデート
アップデートで4人同時プレイが可能になったが、高橋氏のプッシュするところは……? |
――次は春のアップデートについて伺います。GDCの講演の中でも発表されましたが、特にどこがウリか教えていただけませんか?
高橋氏: マニュアル画面のフェアリーが右スティックで拡大縮小します。これが1番のウリです。
――色々なネタが散りばめられているのは知っていますが、これは知らなかったです。アップデートで変わったのですか?
高橋氏: そうです。
――こういう小技をぜひ教えてください。
高橋氏: 教えちゃうんですか?
――自分で探した方がいいですか。
高橋氏: 遊んでくれた人が見つけて盛り上がって欲しいですね。こんな小さくてどうでもいいような感じの仕様は、1個1個記事にしてられないと思いますよ。
――今、アップデートのお話を聞くのがとても難しくなりました(笑)。
高橋氏: 要素としては、マルチプレイや、おならBOY、サウンドのパワーアップなどがあります。
――アップデートで何か方針のようなものはあったのですか?
高橋氏: 最初から入れたかったけれど、時間が足りなくて入れられなかったというのが本音です。大勢で遊んで欲しかったので、マルチプレイは入れたかったです。より混乱して、どれが誰なんだかわからないというのをやりたかったです。
おならBOYは、BOYが食べたものをおしりから出して、それに対応した音をしゃべるというものです。最初はBOYが持ってしゃべるという機能だったのですが、それが上手くいかなかったので、おならでいいじゃないかという悪ノリです。本当はフランス語やイタリア語など多数の言語でしゃべってくれるようにして、教育ソフト感も出したかったのですが、時間がなかったのででとりあえず日本語と英語で。外国の人に日本語を聞かせると、どういう反応をするのかも楽しみですね。
「こんなどうでもいいようなアップデートでいいの?」と思われる感じにしたかったんです。
視点を自由に動かせるのだが、地面の下から見上げるとフレーム表示になったり、カメラを天地逆転させたりという無茶もできる。今までのゲームではタブーだったことをあっさりやるところが笑える |
――私が関西人だからかもしれませんが、ネタにいちいち突っ込みたくなりますね。ステージの外に出ると素直に落ちたり、ステージを裏から見るとフレーム表示になると、「それちゃんとつくれよ!」と言いたくなる突っ込みどころが面白い。それがアップデートでさらに増えたのがよかったです。
高橋氏: ゲームなんて、別に何でもありだと思うんですよね。ワイヤーフレームになるのも、デバッグの人から「これは大丈夫ですか?」と言われました。綺麗じゃないかと思うんですけどね。
――私の感性では綺麗というのはわかりませんが(笑)。面白くはありますね。
高橋氏: デバックの人も仕事なのでそういう点を指摘するのはわかりますが、ゲームをつくっているのに、ゲームって楽しいものだというのを忘れています。きっと最近はきちんとしたゲームが多いんでしょうね。「何でここでリスとオウムが出てくるんですか?」って、面白いかなと思ったからで。「ワイヤーフレームとリス最高!」とは思っていないですけど、ゲームにはもっと色々な表現の幅があるはずなのに、何で可能性を広げないのかなと常々思います。自分としては「塊魂」の時から奇をてらったことをしているつもりはなくて、周りが真面目すぎて、そういうことをしていないゲームが多いだけだと感じています。
――サウンドのほうはどういうアップデートがあったのでしょうか?
高橋氏: サウンドは「塊魂」とは全然違う感じになりましたね。担当者と時間をかけて相談して、つくってもらいました。最初から入れればいい話ですが、このゲームにどんなBGMが合うのかというのがちょっと難しく、時間が足りず間に合いませんでした。「塊魂」の曲も、あれはあれだけの路線ですし、本当にこのゲームに合う曲は何だろうと考えて、こういう曲達になりました。あとアップデートで、スピーカーを食べられるのは知っていますか?
――はい。食べるまでが大変ですが、曲が消えますね。
高橋氏: サウンド面でもインタラクティブに楽しめる仕様を入れたいと思っていたので、スピーカーを配置してみることになりました。カメラをぐるぐる回すと面白いですよね。ヘッドフォンをつけて遊ぶともっと面白く感じるかもしれません。調子にのって、スピーカーが自走したり、車に乗っていたりしたら面白いかと思ったんですけど、「それはやり過ぎ」と担当者に言われてしまいましたね。
■ GDCで発表されたiPhone版や関連グッズは?
GDCではiPhone版が発表された |
――今後さらに追加したい要素などはありますか? もっと色々なネタを見てみたいのですが。
高橋氏: 僕も見てみたいです。見てみたいんですよね……どうしましょうか。
――ぜひやってください(笑)。他の方とそういう話はされているのですか?
高橋氏: 今、iPhone版をやろうかと思っています。最近、社内でプレゼンしたんですけど、再検討と言われました。困りましたね、どうしましょうか。
――GDCで発表されましたが、まだだったのですか。
高橋氏: GDCで言ったのが本邦初公開です。会社の偉い人にも一切見せていなくて、驚いていました。
――iPhone版は何かコンセプトはあるのですか?
高橋氏: 「のびのびBOY」を何かしら続けたいと思って。iPhoneが今、売れてるじゃないですか。会社的にも、ちょっとやってみようかという空気があるし。あとはプログラマーが最近Macを買ったとか。それでGDCに行くし、サプライズなネタとしてやっておいたほうがいいんじゃないですか、という軽い感じでした。当時はそんな軽いノリでしたが、今はちゃんと取り組んでいます。PS3版とは違った感じになると思うので、楽しみにしてください。ちゃんと出せればの話ですけれど。
――講演でもMacを使いでしたし、iPhoneもお好きなのですか?
高橋氏: いや、持っていないです。でもゲーム機としては、マルチタッチだとか、ネットワークにつながっているとか、面白い要素はありますよね。
――あとGDCといえば、講演でマフラーや抱き枕を見せてもらいました。あれらの行方はどうなるのですか?
高橋氏: 個人的には、太陽系を1周できた時のランキングで何か決められたら面白いと思っていたのですが、何年後になるのか見当も付かないので。でも何かしらプレーヤーにプレゼントできたらいいなと思っています。どうしたらいいですか?
――バンプレスト(同じバンダイナムコグループ)のプライズにしてもらうとか。
本邦初公開となる、モザイクなしのロボット。「下からあおって」という高橋氏の要望によりこの角度で1枚 |
高橋氏: バンダイナムコグループねえ。うーん、どうでしょうね。チキュデオン(ロボット)は商品化したいですね。別に「のびのびBOY」としなくても、これが木でつくられていて、これくらいの大きさでちゃんと動くなら、玩具としても面白いんじゃないかなと。ちなみにこれは公式サイトでは、いろいろ気を使って部分的にモザイクを掛けているんですよ。ぜひ、初モザイクなしで紹介してください。
――この抱き枕の短いものも初めて見ました。よくできていますよね。
高橋氏: プロがつくっていますから……姉ですけれども。真ん中のチャックで繋がっていて、3mある胴体を繋げられます。これも商品化できたら面白いですね。
――ここまでして世に出せないのはもったいない気はしますね。
高橋氏: そうですね。インプレスさんから出してください。商品化に興味がある奇特な方がいましたら連絡ください。本気ですよ。
BOYとGIRLの抱き枕。真ん中のチャックを使って3mの胴体もつなげられる。一家に1セット置いておきたいと思える完成度の高さ |
■ 高橋氏のこだわり
――高橋さんのゲームは、丸いオブジェクトが特徴的だと感じます。BOYもGIRLも丸いし、「塊魂」も最終的に塊が丸くなります。そこに何か哲学があるのですか?
高橋氏: ないですね。
――そうですか(笑)。では他に何か、今までつくってきたものの中にこだわりはあったのですか?
高橋氏: 驚きがあるものでしょうか。新しいこと。
――デザイン的なことより、新しいことという方が強いのですか?
高橋氏: そうですね。そっちの方が強いですよ。
――デザイナーさんは、作品の中にメッセージを込められたりすることが多いと思います。高橋さんも講演で世界平和を願うというようなことを仰っていましたので、何かそういう信念があるのかと思っていました。
高橋氏: 場のテンションってありますよね。あの場では言えるけどここでは言えないような。
――わかります(笑)。
高橋氏: そんなに深く考えていないですよ。面白いものをつくれればいい。面白いものをつくったらみんな楽しんでくれて、気持ちに余裕ができるというか、生活がちょっとよくなるのではと。
――ただ面白い物をつくりたいという気持ちですね。講演でも伝わってきました。
高橋氏: そうですね。だけど、楽しいことってビデオゲームだけじゃないんですよね。ゲームで遊ぶには電気代がかかるし、みんなが遊べるわけでもないし。何千万台売れていると言ったって、いわゆる先進国でしか売られていないわけです。環境が整っている地域でしか売られていないんです。テレビも電気もない、そういう人たちに対して、自分は何もアプローチできていないなと感じます。ダウンロード販売が新しいと言ったって、インターネットが一体どれだけ普及しているか。先進国では十分普及してるけれど、それは一部の事でしかないですから、何をちっぽけなことをやっているんだろうという思いはあります。
GDCだって、ビデオゲームというニッチなものをつくってるだけなのに、自分も含めて何を偉そうに壇上で語ってるんだとか、何でこんな大勢集まっているんだろうと思う面もありますよ。もちろん、ゲームというもので言葉を越えてこれだけの人が集まることの素晴らしさも感じるんですけど、そんな明るい面だけではないです。だってGDCの会場の周囲には、日々の生活だけでも大変な人がいっぱいいるんですよ。
以前、GDCの中のGame Design Challengeというでセッションでプレゼンしたんです。世界平和のためのゲームをつくる、というテーマだったので、「そもそも世界が平和だからゲームで遊べるんだ」ということを言いましたが、伝わらなかった雰囲気でした。それが、何か悔しくて。そういうプレゼンテーションはショーなので、面白い方が盛り上がるしウケがいいのですが、そのテーマを扱うならもう少し考えてもいいのではないかと思ったんです。
そのセッションでは、「そんなにゲームが大好きで愛してやまないのだったら、自分だけで満足しているのでなく、もっと多くの人に奨めよう。難民キャンプとか戦地、水が足りないところ、疫病が流行っているところに出向いて、ほらゲームやろうよって薦めてくればいい。でも当然ゲームなんかできる環境じゃないから、みんなでゲームをやる為に争いをなくして、みんなでゲームをやる為に井戸を掘って。難しいことは考えないで、みんなでゲームをする為に活動することで、それが世界平和につながるのではないか。だけど、僕らが注意しないといけないことは、みんなでゲームを遊べるところまで環境を整えて、さあ遊ぼうとしたところで、このゲームつまんない、と言われないものをつくること」という話をしたんです。好きなら好きで、そのゲーム愛を、無償の愛としてどんどん広めようとしようよと。まあ、こんなことは無理だとわかっていますが、全然伝わらなかったかと、がっかりした記憶があります。
だから、「純粋に面白いものをつくりたい」という気持ちと、「この閉ざされた環境でぬくぬくとやってていいのか、もう34になるけど次はどうしなければいけないんだろう」という不安、というか思いがあります。面白いものって、何かを面白く感じることができる環境や空気ありきなんですよね。だから、FPS等はゲームとして面白いのかもしれないけど、やはり疑問です。ということで、34にして今だ暗い道を歩き続けているという感じですね。大変です。
Game Design Challengeでのスライドより。ゲームができる環境を整えることが、世界平和に繋がるという論旨。コスプレの写真については、「好きなのはいいけど、内輪だけで楽しんででいいの? そのゲームに対する愛情なり楽しみをもっと多くの人に広めようよ」という意味もあるそうだ。ただそういった夢を語るだけでなく、「つまらないと言われないゲームを作ること」とオチをつけるのも高橋氏らしい |
■ 高橋氏から10万人のプレーヤーに一言
BOYとGIRLの抱き枕を持ってもらうと、なぜか表情が引き締まる高橋氏 |
――では最後に「のびのびBOY」のアピールを一言お願いします。
高橋氏: どうアピールしましょうか。ええと、難しいですね。
――既に遊んでいるプレーヤーに向けてでも構いません。買った方は7万人くらいるわけですし。
高橋氏: 実際は10万人くらいなんですよ。
――そうなのですか。あの公式サイトに書いてある「世界中のBOYたち」の数字は?
高橋氏: あれはGIRLに伝えた人の数です。実際の数を調べてみると、4月の時点で世界で9万ちょっとまで行っています。もしかしたら10万人まで行っているかもしれません。
――では世界中の10万人が読んでくれるかはわかりませんが、日本のプレーヤーに何かメッセージを。
高橋氏: 最初のリリースでは物足りなかった人も、バージョンアップしたらとても楽しくなるよ。PS3を起動してね。……これでお願いします。読者へのアピールとか、毎回全然できないんですよ。何ででしょうかね。すみませんでした。
――謝っていただかなくても(笑)。ありがとうございました。
~ 高橋氏よりインタビュー後に追記 ~
取材を受けた時、あまりうまく話せなくて、後から相当量加筆をお願いしました。コミュニケーション能力の低さに脱帽です。というか、このゲームに関してあまり説明できない、したくない、面倒くさいという気持ちもあったので、言葉数が少なくなったんです。ということで、取材日から月日が経ってしまいごめんなさい。今はiPhone版「のびのびBOY」の社内OKを目指して頑張りつつ、次のことを考えている状態です。正式に決定したら「iPhone版のびのびBOY、無事発売決定!」という記事でGAME Watchさんに取り上げてもらおうと思っています。会議での偉い人のコメントなど掲載できたらするので、お楽しみに。
■ 「のびのびBOY」Tシャツをプレゼント!
今回のインタビューに合わせて、Panicより発売中の「のびのびBOY」Tシャツを、読者の方にプレゼントします。デザインは2種類で、それぞれMサイズとLサイズが1枚ずつとなっています。下の画像をご確認の上、お好みのものを選んでご応募ください。
デザインA。白地にぐるぐると曲がって伸びたBOYが描かれたもの | |
デザインB。グレー地にものすごく伸びた黒っぽい色のBOYが描かれたもの |
【応募方法】
応募締切 :8月17日 23:00 まで
当選発表 :発送をもってかえさせていただきます
応募方法 :下記のフォームに入力して、送信してください
※ 応募フォームの送信はSSL対応ブラウザをご利用ください。SSL非対応のブラウザではご応募できません。
※ ご回答いただいた内容(データ)は、当選者の選考および、プレゼントの発送にのみ使用し、その他の目的で使用することはありません。
(C)2009 NBGI
□バンダイナムコゲームスのホームページ
http://www.bandainamcogames.co.jp/
□「のびのびBOY」のページ
http://o--o.jp/
(2009年 8月 10日)