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【特別企画】1番人気は「GTAV」!? 中国コンソールゲーム最新レポート

全面解禁は吉か凶か? メーカーが力を入れる理由とゲームショップの動向を追う

7月30日~8月2日開催



会場:Shanghai New International Expo Center

 中国最大のゲームショウChinaJoy 2015が幕を閉じた。今年の上海は猛暑の日本を上回る“酷暑”で、ゲームを遊ぶには苛烈すぎる環境だったが、中国のゲームファンは暑さに負けず、平日から会場に詰めかけていた。ゲームショウとしての規模も、ショウの立ち上げから10年以上が経過しているにも関わらず、ますます拡大する一方で、今やアジア最大規模のゲームショウにまで成長している。

 今年もPS4を擁するSCESHと、Xbox Oneを擁するMicrosoft Chinaというゲームプラットフォーマー同士が隣り合わせで出展し、熱い火花を散らした。会期から少し時間が経ってしまったが、本稿ではChinaJoy期間中に関係者への取材で見えてきた、中国における最新のゲームコンソールビジネスについてまとめてみたい。

【コンソールゲームが火花を散らすChinaJoy会場】

プラットフォーマー各社が中国市場を重視する理由

SCEグループCEOアンドリュー・ハウス氏
Head of Xbox Phil Spencer氏
センサーシップの犠牲になった簡体字版「Watch Dogs」。ChinaJoy 2014のMicrosoftブースでローカライズ済みの状態で出展されたが、そのままお蔵入りとなった

 今年のChinaJoyのトピックについては、ChinaJoyレポートでお伝えしたとおりだが、今年は全体感としてこれまでともっとも大きく異なるのは、ゲームコンソールが名実共に全面解禁になったことだ。具体的には、ゲームハードを上海の自由貿易特別区以外のエリアにおいても自由にビジネスを始められるようになった。これを受けて、中国メーカー各社も、自社のゲームコンソールを開発したり、あるいは自社ブースにPS4やXbox Oneの試遊エリアを用意するなど、PC、モバイルに加えて、ゲームコンソールという第3のゲームプラットフォームが本格的に活動を開始した年となった。

 中国でコンソールゲームが解禁されたことは一般誌でも報じられたため、この事実はノンゲーマー層も含めて広く知られることとなったが、中国全面解禁における各種報道で見落とされているのは、“全面”の対象はあくまでハードウェアと、物理的な販売地域の話であり、センサーシップ(検閲)を始めとした各種規制は何も変わっていないことだ。

 従って、反政府、過度な暴力、ギャンブル、アダルトの4つはタブーのままだ。「The Last of Us」のような、エンターテインメントとして極めて高度で上質なタイトルであっても、ジョエルがナイフを元人間ののど頸に突き立てる限り、発売することは難しいし、「Grand Theft Auto」や「龍が如く」に到っては、暴力で物事を解決するというゲームを成立させている骨組みそのものが許容されない。中国におけるゲームコンソールの規制の本質はセンサーシップであり、この部分が変わらない限り、全面解禁とはとても言えない。

 またオンラインサービスも、また異なるライセンスの許諾が必要になり、今回の“全面解禁”には含まれない。SCEがPS4やPS Vita向けのPlayStation Storeのサービスを開始しても、ソニーグループが得意とする音楽や映像の配信は行なわれないのはそのためだ。現時点だとMicrosoftのように、パートナーのBesTVのライセンスを介して映像配信サービスを提供するレベルに留まっており、実質的にはゲーム周りがかろうじて解禁された程度だといっていい。

 こうしたことから「やっぱり中国市場は微妙だね……」と、早くも店じまい感が出ているかというと、まったくそんなことはない。明確な数字が出ない市場であるため非常に見えにくいが、巨大な市場の開放にコンソールゲーム業界は水面下で非常に活況に満ちている。ChinaJoy初日に、SCEグループCEOのアンドリュー・ハウス氏と、Microsoft Head of XboxのPhil Spencer氏が顔を揃えていることが、その何よりの証拠だ。それでは中国市場の何がそんなに魅力的なのだろうか?

中国はユーザーの母数が途方もなく大きい

ゲームショップには、香港から仕入れた繁体中文字版「GTAV」がたっぷり

 一言でいうとこれに尽きる。新しいものに対する感度が高く、かつ購買力のある層が非常に多い。感覚的には、近年縮小傾向にあるものの、国単体としては米国に次ぐ規模を誇る日本が、丸々1つ分、あるいはそれ以上の市場がいきなり開放されたイメージだろうか。具体的な例だと「Grand Theft Auto V」が挙げられる。同作は2013年、PlayStation Awardsで100万本以上のセールスに贈られるPlatinum Prizeを受賞したが、これは日本だけではなくアジアを含めた数字であり、その中でも実は中国を占める割合が大きい。新たにリリースされたPS4版も現在進行形でヒットしており、今後予想される廉価版なども含めるとアジアだけで200万、300万という数字は決して夢ではない。

 しかも、中国で買えるのは、香港や台湾から入ってくる繁体字版、日本から入ってくる日本語版、シンガポールから入ってくる英語版など、いずれも並行品ばかりだ。さらに、PS3/Xbox 360に関しては海賊版もある。そうした悪条件の中でもこれだけ売れているのだから、今後キチッと簡体字にローカライズして、しっかりプロモーションすれば、果たしてどれだけヒットするのだろうか? と関係者は期待しているわけだ。もっとも、中国にはセンサーシップがあるため、ここで取り上げた「GTAV」の簡体字版がリリースされることはないと思われるが。

 ちなみにSCESHのプレスカンファレンスは、毎回ライブ中継を行なっているが、視聴者が50万人もいるという。日本でゲーム関連のライブストリーミングで50万人集められる機会はどれだけあるだろうか。中国に来て感じるのは桁が違うということだ。

中国人は中文繁体字版が楽しめる

Taipei Game Show 2015では、「龍が如く0」、「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」など様々なタイトルの中文ローカライズが発表された

 これまで日本や香港、シンガポールなどからの並行輸入品でコンソールゲームを遊んでいた中国のゲームファンは、日本語版や英語版を利用していた。「ゲームで日本語を覚えたよ」という猛者もいる一方で、多くの人にとっては複雑なゲームになると読解力が足らなくなり、このためヒットするのはアクションゲームや格闘ゲームのような直感的に理解できるゲームか、カジュアルなゲームに限られてきた。

 ところが近年では、SCE TaiwanやMicrosoft Taiwanといった各プラットフォーマーの台湾法人の尽力で、徐々に中文繁体字へローカライズされるタイトルが増えてきている。これは台湾、香港、シンガポールといった繁体字圏にダイレクトにリーチできるだけでなく、多くの中国人は繁体字も理解できるため、実は中国本土にもリーチできるようになるのだ。たとえば、シリーズではじめて中文繁体字にローカライズされた「龍が如く0」は、実は香港、台湾以上に中国でヒットしている。中文繁体字へのローカライズはそのまま中国のセールスにも結びつくというわけだ。

 ちなみに、今回ショップを数軒回ってみたところ、「龍が如く0」は香港から仕入れた中文繁体字版と、日本から仕入れた日本語版があったが、中文繁体字版はほぼ定価の強気の価格設定になっていたのに対し、日本語版は180元(約4,000円)まで値崩れしていた。理由は中文繁体字版がリリースされた後は、ほとんどの人は中文版を欲しがるからだという。ショップでは次なるターゲットとして「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」のポスターがあちこちで目立っていた。彼らは9月2日のグローバルリリースから「MGSV: TPP」を遊ぶ気満々なのである。

 今のところ、中国のセンサーシップにおいて、中文簡体字へのローカライズは“必須”とされる。このため一見、サードパーティーにとっては英語版や日本語版でのテストリリースができないためリスクが高いように見えるが、実際には繁体字というワンクッションがあるため、段階を追って中国展開に挑めるわけだ。現在、簡体字版をリリースしているスクウェア・エニックスやコーエーテクモゲームスといったメーカーはすべて繁体字版をリリース済みで、彼らは何も大きなバクチに打って出ているわけではなく、これまでの豊富な経験やデータを元に、簡体字版に打って出ているわけだ。

実は中国のメーカーもゲームコンソールを待ち望んでいた

今年は中国メーカー自身がコンソールゲームを出展する初のChinaJoyとなった
Snail GamesのKing of Wushu」。Xbox One、PS4、PC GAMEの文字が並ぶ
中国ゲーム業界の名門Shanda Gamesもコンソールゲームに参入
SCESHプレスカンファレンスでは、PS4版「ファイナルファンタジーXIV」を、Shanda GamesとSCESHが共同展開することが発表された

 今回取材していて、もっとも意外だったのがこれだ。中国のゲーム業界は、コンソールとアーケードの門戸を長らく閉ざしていたため、ゲームプラットフォームと言えば、必然的にPC、現在はモバイルに限られてきた。このため、凄まじい数のメーカーが単一のプラットフォームにゲームを供給する状況になったため、すぐさまレッドオーシャンになり、作っても作ってもなかなか売れない、売れてもユーザー数が伸び悩むという状況になっている。

 このため、セットトップボックスにゲームをインストールして売り出したり、ストリーミングによるクラウドサービスをはじめたり、どのメーカーも“ゲームプラットフォーマー”化している。しかし、自社のプラットフォームでは、プラットフォームとして成立させるために必要不可欠な一定数のユーザーベースを獲得することがまず難しいため、なかなかうまくいっていない。

 そもそも中国のゲームメーカーがやりたいのは、ゲームプラットフォームビジネスではなく、自社タイトルの提供先を増やし、新規ユーザーを呼び込むことだ。こうした背景があるため、中国政府によるゲームコンソールの解禁、そしてSCEやMicrosoftの中国参入は、中国のメーカーにとっても渡りに船だったわけだ。

 SCEやMicrosoftが中国に参入を表明した際、中国のメーカー、とりわけ大手メーカーの参入があるかどうかが注目されていたが、ふたを開けてみれば、Perfect World、Snail、Giantに続いて、大手中の大手であるShanda Gamesまで参入を表明。現在は、こうした資金力のある大手メーカーが、海外のタイトルのパブリッシングを行なうというところまで来ているため、コンソールゲームの中国展開は予想以上のスピードで進展していくはずだ。

 個人的にサプライズだったのはPS4版「ファイナルファンタジーXIV」の中国展開の発表だ。同作の中文版はShanda GamesがPC向けに展開しているが、PCとPS4では提供の仕方が異なり、パブリッシャーのShanda Gamesは、PS4に関する開発・運営ノウハウがないだけでなく、パブリッシングライセンスを取得しておらず、そのハードルは非常に高かった。プロデューサーの吉田直樹氏も、以前取材で、海外展開は韓国までで一区切りとし、今後は開発体制や運営、プロモーション、ツールの整備など、安定的に運営を続けていくための足場作りに力を入れたいとコメントし、PS4版の中国展開については否定的だった。

 これをひっくり返したのは、新たな展開先を模索していたShanda Gamesの強い意志と、大型タイトルを増やしたいSCESHの熱意の賜のようだ。関係者によれば、中国でPCオンラインの市場は急速に冷え込んできており、PS4でオンラインゲームが成功するかどうか、高い注目を集めているという。PS4版「FFXIV」は2016年サービス開始が予定されており、これがどうなるのか注目が集まるところだ。

【Perfect Worldはコンソールゲーム推し!】
中国大手のPerfectWorldは、コンソールゲームをメインにした出展で、ブース中央には歴代のゲームコンソールを展示し、ファミコンで「バトルシティ」を遊ぶことができた

(中村聖司)