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AMD、E3に合わせて新GPU9モデルを一挙に発表!
ゲーミングPCの新コンセプトモデル「PROJECT QUANTUM」も披露
(2015/6/18 02:01)
ADMは米国時間の6月16日、E3会場近くのBelasco Theaterにおいて「A NEW ERA OF PC GAMING」と題したPC向けGPUラインナップのプレス向け発表会を行なった。Chief Gaming ScientistのRichard Huddy氏を進行役にした本発表会では、GPUの新製品発表とAMDが提案するゲーミングPCのコンセプトモデル「PROJECT QUANTUM」の公開を軸に、DirectX 12や4K解像度対応ゲームやVRコンテンツにも披露され、AMDのGPUの優位性をアピールしていた。
本稿では、発表会での内容に加え、すでに日本AMD公式サイトで公開されている内容を含めて、現時点で明らかになっている情報をお伝えしたい。
本発表会でお披露目されたGPUは合計で9モデル。現世代のRadeon R7、R9それぞれに2モデルの計4モデルを追加するほか、コードネームFijiの新世代GPUを4モデル投入する。登壇したAMDのDevon Neckcheuk氏から最初に紹介されたのは、現世代の新GPUのRadeon R7 360、R7 370と R9 380、R9 390、R9 390Xだ。
発表会ではスペックについて触れられなかったが、すでに日本AMDのサイトで公開されている情報によると、R7 360はR7 260、R7 380はR7 265、R9 380はR9 285、R9 390はR9 290、R9380Xは290Xと、それぞれ200番台を置き換える製品とみて良さそうだ。必ずしもスペック的に完全一致しているものばかりではないが、現行品と大差ないため、残念ながら既に同スペックのビデオカードを所有するユーザーにとっては、大きな注目に値する要素はないだろう。
その一方で、断然注目すべきなのは新世代Fijiのラインナップで、R9 nano、R9 Fury、R9 Fury X、dual Fiji + HBM(現時点で製品名称未設定)の4モデルが、登壇したCEOのDr. Lisa Su氏から発表された。同氏はR9 nanoを手にとって大きく掲げ、ボディのコンパクトさを大きくアピールしていたが、現時点ではスペックについての公式発表はなく、あくまで外観を披露したにすぎない。R9 Fury、dual Fiji + HBMについても同様で、空冷のR9 nanoと異なり水冷が前提になっていることとがわかるだけだった。
唯一、スペックが公開されたのがR9 Fury Xで、4,096のストリームプロセッサ数、8.6TFLOPSの浮動小数点演算性能、89億のトランジスタ数と、R9 290Xと比較して約40%の性能向上に加え、新しいビデオメモリのアーキテクチャHBMのビデオメモリを4GB搭載していることが明らかになっている。
HBMは、DRAMのダイを垂直に4層重ね合わせたうえで、さらにベースのダイと重ね合わせて合計5層の構造となっている。プリント基板上の結線を経由しないため、メモリ間の物理的な距離が非常に短い。その結果、1.3Vと定電圧でありながら、4層の1セットごとのバス幅は1024bit、メモリ帯域幅は100GB/s以上となっており、4セットのHBMがパッケージに搭載されることから、合計で4096bitのバス幅、512GB/sの帯域幅を実現している。
物理的にひとつのパッケージに収めてローカルバスでバス幅を大きくし、アクセス速度の向上を図るアプローチは、基本的な考え方は、同一ダイのL1、L2キャッシュやマルチコアプロセッサのコア同士、グラフィックス統合CPUのGPUとの接続と同じで、いずれも転送レートが飛躍的に向上する。HBMは、そのビデオメモリ版といったところで、強いて言えば、プレイステーション2のGS(グラフックスシンセサイザー)の内部ビデオメモリと似ているだろうか。ただし、Fijiは同一ダイではなく異なるダイにプロセスした独立したメモリを使用しているため、メモリ量を4GBと大量に用意することができる。物理的に接着するという意味においては、初期のインテル・コアプロセッサの作りと似ているということもできるだろうか。
いずれにしても、高解像度、高リフレッシュレートでのプレイが当たり前となっている昨今のPCゲームを快適にプレイするためには、ビデオカードのさらなる性能向上は必須だ。それを実現するために、GPUやビデオメモリそのものの性能は世代を重ね、着実に向上してきたわけだが、従来までの製品ではバス幅が十分とはいえず、パフォーマンス向上は頭打ちになっていた。このボトルネックを解消するためのAMDの解決策がHBMということになる。
また、数々のGPU製品群に加え、非常に興味深いコンセプトマシンの発表が、Fiji世代GPUの発表の前に行なわれた。「PROJECT QUANTUM」と銘打ったゲーミングPCは非常に小型のもので、iMac miniを2台、縦に積み上げたようなサイズ感だ。下部のケース内にはdual Fiji + HBMやその他のPC構成パーツが収まっており、対する上部のケース内には、水冷式GPUクーラーの冷却水を冷却するための大型ファンとラジエーター部分のみが収納されている。
最初は、CPU、GPUを共にプロダクトに持つAMDが、ついにゲーミングPCそのものを販売するのかと思って、発表会終了直後に確認したのだが、そうではなかった。「PROJECT QUANTUM」は、あくまでコンセプトモデルで実際に販売されるものではなく、具体的なことは何も決まっていないということだった。
さらに本発表会では、新GPUの性能を最大限発揮するゲームとして、多くのゲームタイトルの紹介が行なわれていった。最初に登壇したのは、DirectX 12対応タイトルの関係者だ。アクションRPG「FABLE LEGENDS」の関係者としてMicrosoftのKam Vedbrat氏とLionhead StudiosのRaymond Arifianto氏、SF RTS「ASHES OF THE SINGULARITY」からは、StardockのAdam Biessener氏が登壇した。Windows10版、つまりDirectX 12対応版の「FABLE LEGENDS」のベータが近い将来行なわれること、「ASHES OF THE SINGULARITY」のアルファが今週木曜日にリリースされるといった情報が公開されている。
VRについては、CCP Gamesの宇宙船ドッグファイト「EVE VALKYRIE」と、ノンゲーム系のVR体験に取り組むGEの「SUB SEA VR」が、各社のゲストを交えて紹介された。「EVE VALKYRIE」は、すでに基本部分はできており、ビジュアル完成度も高まっているように見えたが、リリースは2016年の第1四半期になるとのことだ。
異色なのが昨年家電部門を売却して、飛行機のエンジンや金融部門にシフトしたGE(ゼネラル・エレクトリック)のVRへの取り組みが紹介されたことだ。残念ながら用途はゲーム用ではないということだが、GEはブレインイメージの視覚化にVRの活用を行なっており、今回もそういったイメージ映像を公開している。
また、発表会の最後には、Fiji世代の4K解像度にふさわしいゲームとして、EAの「Star Wars: Battlefront」が大きく取り上げられた。登壇したのはEA DICEのSigurlina Ingvarsdottir氏で、本プロジェクトのリードプロデューサーを務めている。氏によると、Frostbite Engineであるため、すでに動作しているが、同じくEA DICEのテクニカルディレクターJohan Andersson氏によって改良作業は続けられているとのことだった。なお、気になるPC版のリリース日が2015年11月17日に発売されることが告知された。
以上のように、Fiji世代GPUに不明な点があったものの、ステージには実際の製品やリファレンスカードの実物が展示され、非常に多くの事項が明かされた発表会であった。Fury Xを軸に、ざっくりFuryが50%ダウン、nanoが、Furyからさらに50%ダウン(Fury Xの25%)として、dual Fiji + HBMが50%アップだと仮定すると、nanoは今回発表された現世代GPUのR7 370以上R9 380未満のパフォーマンスになるのではないかと推測できる。ただ、HBMの恩恵は未知数なのでR380を上回る可能性もあり、その実力は未知数だ。
アーキテクチャが変わってしまう世代交代の時期には、製品名のナンバリングやカタログスペックだけでは実力がわからないため、製品がリリースされる際にはベンチマークを参考にすると良いだろう。Fury X搭載ビデオカードの発売日は今月24日で、わずか一週間後だ。Furyは7月14日、nanoは今夏、dual Fiji + HBMは今秋に予定されており、テスト可能になるまで長くはかからない。
同社のGPUの発表のみにとどまらず、4KゲームやVR体験といったことまで含んだ本発表会は、「ERA」のタイトルの意味するとおり新時代が予感できる、密度の高い発表会であったと言えるだろう。