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【GDC 2014】どえらい苦労で実現した「BF4」新装備の開発秘話
現在開発中の拡張パック「Dragon's Teeth」におけるアニメーション開発秘話
(2014/3/18 15:55)
GDC 2014では例年通り、初日と2日目はチュートリアルデイ。プログラミング、AI、アニメーションなどなど、それぞれのゲーム開発技術に沿ったテーマで連続セッションが開催されている。
中には最新ゲームの開発事例もあって興味深い。その内のひとつが、アニメーション技術の連続セッションAnimation Bootcamp内で開催されたセッション“Animation Bootcamp: Using the Power of Layered Animation to Expand Premium Content in Battlefield 4”だ。
やたらと長いタイトルのため要約すると、「BF4の拡張パック向けに今までにないタイプの装備を実装したけどうまいアニメーションの実現にとても苦労したよ」というお話。高度化・複雑化した最新ゲームのアニメーションシステムをうまく乗りこなしつつ、新コンテンツを導入するスタッフの苦労話に耳を傾けてみよう。
「BF4」におけるレイヤー化されたアニメーションシステムとは?
この講演を行なったのはEA DICEでシニア・アニメーターを務めるRyan Duffin氏。現在は「Battlefield 4」の新拡張パック「Dragon's Teeth」(2014年夏リリース予定)の開発に従事している。このセッションで語られたのは、その中でも特にアニメーションシステムとの折り合いを付けることが難しかったとある新装備開発の舞台裏だ。
プレーヤーの皆さんならご存知の通り、最新のAAAタイトルは非常に複雑なキャラクターアニメーションが実装されているものだ。対戦型FPSである「Battlefield 4」では立つ、歩く、走る、全力で走る、という基本アクションに武器ごとの構え、射撃などのアクションが組み合わせられ、そのパターンはわけがわからないほど膨大である。
Duffin氏の話をまとめると、アニメーションの複雑度はプラットフォームの世代毎に飛躍的に上がってきている。プレイステーション 2やXbox(初代)の世代では、キャラクターあたりアニメーションパターンは20~80種類ほど。状態遷移の組み合わせも少なかったため、単純なステートマシン表現でアニメーションを実装可能だった。
これがPS3/Xbox 360世代になると、キャラクターあたりのアニメーションは数百から千以上という膨大な数になる。複数のアニメーションの遷移や組み合わせを素直に実装しようとするとパターン数の爆発がおきてしまうため、アニメーションを部位ごとに分割する“レイヤー化”の概念が取り入れられるようになった、というのが近年の流れである。
次世代エンジンを搭載する「Battlefield 4」のアニメーションシステムはこの概念に基づいていて、基本の立ち姿勢や移動中の動きを基準に、銃の狙いを付ける、攻撃を食らってのけぞるといったアニメーションをブレンドもしくは上書き、あるいは追加することで実際の動きを作り出している。
特に基本のアニメーションが構えの異なる武器ごとにグループ化されているのが「BF4」の特徴だ。ピストル、ライフル、ロケット、素手といったベースの動き=レイヤーがまずあって、その動きに追加の動き=レイヤーを加えることで細かい武器の違いによる動きを表現している。基本モーションには手を加えることなく、異なる部分だけ別レイヤーのアニメーションとして制作すれば良いので、新しい武器の追加も効率的だ。
と、こういったシステムで「BF4」の拡張パックで追加される様々な武器は実装されているのだが、このシステムに全く合わない武器を追加したくなったらどうなるのか?というのが本題である。「Dragon's Teeth」では、まさにその手の装備を実装することになった。さて。
最終仕様はわりと妥協の産物に……でもカオスで面白そうな味わい
というわけで企画が持ち上がったのが“Ballistic Shield(防弾シールド)”という装備だ。盾で前面を守りつつ、ハンドガンでゴリ押しできたら楽しいよね……というのが最初の着想だったようだが、アニメーション制作担当としては大変困ったことになったという。
何と言っても、盾装備時の動きは特殊すぎて、これまでの基本アニメーションパターンがほとんど使えないのである。発売時期の決まっている拡張パック向けのコンテンツであるだけに、開発に使える時間も限られている。なんとしても現実的な範囲で実現しなければならないが、でも、どうすれば?
第1のアプローチは、盾持ち&ハンドガン装備時のアニメーションセットを1から作ってしまうこと。だがこれは制作コストがかかりすぎる上にPS3/Xbox 360ではメモリに収まらなくなることが判明し却下。
第2のアプローチは、基本のアニメーションセットに対して、盾持ち時のアニメーションレイヤーを追加すること。基本の立ち、歩き、疾走、ジャンプ等の動きに、盾持ち時の姿勢をブレンドすることで一応の目的を達成した。
あとはそのブレンド具体をどうすれば良いのかが議論の対象となるが、盾とピストルを同時に装備する形態の場合、左右の腕で異なるブレンドを行なったり、専用のアニメーションを追加するなどの必要が出てきた。結果的に組み合わせが膨大になりすぎ、まともに取り組めば開発期間に収まらなくなる。
これはどうにもならないということで担当ゲームデザイナーと相談した結果、思い切った方針転換が決定。“シールドオンリー”への移行である。ハンドガンは諦める。そしたらなんと、ロケットランチャー用の構えモーションが流用できるではないか、となり、とんとん拍子に実装が完了。
あとは盾による近接攻撃を実装したり、はしごを登る際の動きを調整したり、目標指示(ポインティング)のアクションを盾装備時は不可にするといった調整と妥協を重ね、なんとかスケジュール内に新装備“Ballistic Shield”を開発できたというお話である。
実際のプレイ模様もちょっぴり披露された。盾持ちのプレーヤーがLMGの弾丸を全部跳ね返しながら前進、近接攻撃でなぶりに来る様子はちょっと笑ってしまうほどカオチック。室内で2~3名の盾持ちに囲まれてにじり寄られたら夜眠れなくなるほどの絶望を味わえそうだ。
アニメーションシステムの都合上、当初の企画通りとはいかなかった“Ballistic Shield”だが、開発時に重ねられた工夫により作り手にとっても予想外の風景を作り出す装備になったことは間違いなさそうだ。それが吉と出るか凶と出るか、作り手の苦労に思いを馳せつつ実際のゲームで試してみたい。