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【特別海外レポート】LGの新世代モニターはゲームをテコに伸びる?!

「3D World Festival」に見た、ゲーマー層取り込みへの大いなる意欲

イベント初日の6日、ソウル市はあいにくの雨天模様だったが、会場内は大入りの賑わいを見せていた
会場の目玉のひとつとなっていた有機ELテレビ

 モニター装置はゲームプレイ環境の中心を為す重要デバイスのひとつだ。近年では接続インターフェイスがHDMI系統に共通化されたこともあり、“テレビ”と“PCモニター”の区別が曖昧になって久しく、結果として、ゲーマーにとって選択の幅が大きく広がっている。

 その中、去年から今年にかけ、モニター業界に大きな変化が訪れている。4K2K、スマートテレビ、そして有機ELパネルの本格的な市場デビューと普及期の始まりだ。

 この“次世代テレビ市場”レースの先頭グループには誰もが知る日本・韓国のトップ企業が名を連ねるが、その中でいち早く次世代製品へのコミットを果たし、結果を出しつつあるのが、韓国に本拠を置くLGエレクトロニクスだ。多様なメーカーが各カテゴリーに新技術を投入し差別化を図ろうとしている中で、前のめりな開発力と強力な量産能力を武器にレースの先頭に躍り出ようとしている。

 我々ゲームファンが注目したいことのひとつは、そのLGエレクトロニクスがモニター業界全体の中でも特に強くゲーム市場を意識していることだ。お膝元の韓国内で毎年開かれているイベントでは毎回、ゲームコンテンツを使用したメインイベントが催されており、展示機のほとんどもゲームを使ったデモが行なわれるなど、宣伝の対象がモニターなのか、ゲームなのかわからないほどの力の入れようなのである。

 日本でもLGエレクトロニクスから2009年に発売されたPCモニター「W2363V」、2010年の「W2363D」の各シリーズがゲーマーからの圧倒的な支持を受けており、各種ゲーム大会での採用実績も多い。ここ2年ほどはLGからのゲーミンググレードモニターの製品投入がなく鳴りを潜めてはいるが、ゲーマーにとって要チェックのメーカーであることは間違いない。

 そのLGエレクトロニクスは、この4月6日~7日にかけ、韓国ソウル市にて「3D World Festival」と題するイベントを開催した。その主役はやっぱりゲーム。今回、本イベントを取材することができたので、その模様を通じてLGエレクトロニクスがゲームコンテンツと手を携え目指す、エンターテインメント戦略の方向性をお伝えできれば幸いだ。

【ロッテワールド】
会場が設営されたロッテワールドは、ソウル市のビジネス街と住宅街の中間地点にある複合商業施設に連結したテーマパーク。屋内型のテーマパークとしては世界最大とされており、週末は多くの来客で賑わう。会場は吹き抜けの底にあるスケートリンクを改装・設営されたもので、製品カテゴリー毎に多数のブースが並んでいた

3D対応は“当たり前”。有機EL、4K2K、スマートTVで先行を図るLGエレクトロニクス

会場内の様子
世界初の市場投入を謳う大型有機ELテレビ「55EM9700」
ショッキングなほどの薄さ。ブラウン管並の視野角もある
独自の4原色方式で長寿命化を狙う
パネルを接写。白い部分がW+GBで発色している

 LGエレクトロニクスのイベントである「3D World Fesival」は、世界最大級の屋内テーマパーク施設であるロッテワールドのスケートリンクを全面改装した会場にて、週末の2日間にわたって開催された。

 2009年から3Dモニターに力を入れるLGエレクトロニクスでは今年、展示されるテレビ/PCモニターがほぼすべて偏光方式の3D立体視に対応というラインナップを達成している。スタートアップ期の偏光方式に比べ格段に画質、使い勝手が高まったことで、もはや3Dは特別なものではなく、“対応して当然”というフェーズに入ったと見ていいだろう。会場入口では偏光グラスがすべての来場者に配布され、眼前に広がる立体映像の世界を誰もが楽しんだ。

 3D立体視が当たり前というフェーズに入ったLGエレクトロニクスのラインナップにおいて、次なる差別化ポイントは最新の展示機種に現われている。その主役となっていたのは、LGエレクトロニクスが一般家電市場への投入において先行する大型有機ELテレビ、4K2Kテレビ、そして新世代のスマートテレビだ。

 特に注目したいのは有機EL(OLED)テレビ。今回の会場で展示された「55EM9700」は、世界初を謳うホーム・エンターテイメント向けの大型モデルだ。これまでパネルの歩留まりの関係上難しいとされてきた大型化・量産化をいち早く達成し、2月から韓国内の出荷が開始されている。価格は1,100万ウォン(およそ100万円)。

 実物をみてみると、まずその薄さに驚く。55インチ、対角1メートル以上の大型テレビであるにも関わらず、モニター部の厚みはたったの4ミリ。ほとんどのスマートフォンよりも薄い。重量もたったの10kg。これは、有機ELが自発光する素子であり、バックライトが不要であるためだ。それと同時に、バックライトを使う従来の液晶モニターでは不可能だったトゥルー・ブラック(完全な黒)表示も素子の消灯によって可能となっている。

 また、有機ELは自発光方式のため従来の液晶モニターとは別次元の、100万対1のオーダーという非常に高いコントラスト比を有する。その上、ゲーマーにとって重要な応答速度も別次元だ。従来の液晶がミリ秒のオーダーであった事に対し、有機ELはその1,000分の1相当となるマイクロ秒のオーダーであり、往年のブラウン管テレビに匹敵するほどである。従来の液晶のような複屈折を使わない方式のためスペクトルに角度依存がなく視野角も断然広く、従来の液晶モニターが持っていた弱点をすべて補って余りある方式なのだ。

 バラ色の有機ELだが、特定色の素子寿命が短いという弱点もある。この問題について本製品では独自の4原色方式を取ることで対応している。光の三原色であるRGB素子に並んでW(White)素子を加え、WRGB方式としているのだ。

 本機のW素子は実際にはやや黄色がかった色となっているが、統計的に表示機会の多い白色を表現する際、RGB素子の全力点灯にかわり、W素子+GB素子の省力点灯で置き換えることで、各素子の負荷を分散。結果として長寿命が達成されるという仕組みだ。

 このように弱点を補った有機ELは、まさにゲーマー待望の表示方式といえよう。これまでは大型化に難があり、一般消費者向けにはソニー PlayStation Vitaや各社のスマートフォンなどの小型端末にて採用されるにとどまっていた方式だが、今回LGエレクトロニクスが他メーカーに先駆けて大型モデルの量産化に成功したことで、今後一気にテレビ/PCモニターの各カテゴリーに波及していく見込みが出てきた。

 本製品はLGが持つ最先端のスマートテレビ機能に加えて偏光方式3D立体視にも対応するフルスペック・ハイグレードモデルであるため価格は非常に高いが、これを端緒として、より安価な20~30インチモデルにも有機EL化の波が届くことは間違いない。有機ELは従来のTN/IPS液晶はおろかプラズマ方式さえも過去のものとし、そう遠くない時期には、全ゲーマー必携の表示装置の地位を占めることになるはずだ。

【有機ELテレビ】
LGのショールームとして昨年末にオープンした「LG BestShop」でもハイエンドモデルとして展示されていた有機ELテレビ。急な角度から見た際の薄さも驚き

【4K2Kテレビ】
84インチの4K2KウルトラUDテレビ「84LM9600」。お値段驚きの約1,500万ウォン(およそ150万円)!

【スマートテレビ】
ミドルクラスと位置づけられるスマートテレビ「CINEMA 3D Smart TV LA7400」。会場では本機を使ってたくさんのゲームコンテンツを試遊することができた。Linux系の独自OSを搭載し、ゲームエンジン「Unity」も対応するという。次期モデルではWebOSの搭載を目指す。LGスマートテレビ向けのオンラインマーケットには多数の独自タイトルのほか、Electronic Artsから「シムズ」シリーズのゲームタイトルも供給されており、サードーパーティの引き込みに力を入れる。今後、新たな形のゲームプラットフォームになっていきそうだ

(佐藤カフジ)