インディーズの登竜門「センス・オブ・ワンダー ナイト 2012」開催

今年も個性派ゲームが勢揃い。珠玉のファイナリスト10作品を紹介


9月20日~9月23日 開催(20日、21日はビジネスデー)

会場:幕張メッセ1~8ホール

入場料:前売り1,000円、当日1,200円、小学生以下無料



司会の新清士氏とMCのイザベル・マサボさん
「SOWN 2009」での発表を機にインディーズ開発者へのキャリアを選んだアレキサンダー・ブルース氏からのメッセージ

 東京ゲームショウでは、インディーズゲームの新作でも人々を楽しませてくれる。ビジネスデイ2日目の9月21日に開催された「センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012(SOWN 2012)」では、日本と世界から選出された個性的なゲームの数々が登場し、“見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがハッと、自分の世界が何か変わるような感覚”=「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームアイディアを披露した。

 今年5回目の開催となった「SOWN」は、ますますインディーズゲーム開発者の登竜門的な性格が濃くなってきている。これまでに開催された「SOWN」で紹介された複数の作品が製品化を達成しているほか、「SOWN 2009」で作品を紹介したアレキサンダー・ブルース氏が今年3月にサンフランシスコで開催されたGame Developers Conference 2012のIndependent Games Festival(IGF、独立系ゲームフェスティバル)にて技術賞を獲得するなど、ゲーム開発者としての輝かしい成功に繋がっているのだ。

 今年も司会を担当したIGDA日本副代表の新清士氏は、「応募作品のレベルがどんどん上がっていて、全世界のインディーズの潮流を感じますね」とコメント。5つのテーマに沿い、世界中から応募された作品の中から厳選された10作品のプレゼンテーションが行なわれた。

今回、新たに「SOWN」協賛企業となったUnity Japanの大前広樹氏。発表者全員にUnity Proが贈呈された会場内で大きな反響を受けた発表者には、「SOWN」オリジナルの“金のピコピコ”が副賞として贈呈


■ “だれかこれを説明して” ── 奇抜すぎるコンセプト

・「Grandmaster」 Artur Mine、Dmitry Verbitsky (Beast Mode)/ウクライナ

発表者のBeast Modeチーム。プレゼン中に踊り始める
「グランドマスター」

 ウクライナからのインディーズグループが紹介したのは、キエフの街に溢れる路上生活者を題材としたゲームだ。プレーヤーは路上生活の“グランドマスター”となり、特有の様々な問題解決に挑む。

 まず重大問題として立ちふさがるのが「腹ペコ」だ。解決するため、グランドマスターはゴミ箱を掘りまくる。タッチスクリーンでゴミをスワイプすると外に放り出すことができるので、何か食べられるものが見つかるまでひたすら掘り進む。

 ときにはゴミ箱から“資本主義者”たちの残滓を手に入れられることもあって、これが一種のアバターアイテムとなっている。ショッキングピンクの派手なスーツに、ヨレヨレのチノパンといった辻褄の合わない格好で街を徘徊するのだ。

 そのほか、自分の縄張りとなっているゴミ箱を、他の路上生活者から守ったり、警察官にちょっかいを出してぶん殴られてみたり、あるいはゴミ箱に大量発生したゴキブリを潰しまくったり。にわかには理解しがたい“狩猟採集”スタイルの生活文化とビビッドな色彩で構成されたアートワークが相まって、「どうしてこうなった」と叫びたくなる内容だ。

 開発者チームが住むキエフの街には、このゲームのように多くの路上生活者がいるという。中には敢えて文明的な生活を捨て、施しを受ける代わりに知恵を授ける“賢者”としての路上生活を営む文化もあるそうだ。古代ギリシャの哲学者ディオゲネスのように、それは尊い生き方のひとつである。

 このゲームでは、ある意味で自由を謳歌する人間本来の姿として路上生活を捉え、一定の敬意と共感を持ってその文化が表現されている。そのテーマは自由、自立、DIYの精神、持続可能性。プレーヤーがこれまで想像したこともない世界を感じさせ、哲学的な楽しみを与えてくれそうだ。


・「ちゅまむ」 石田翔(い~といん)/日本

発表者の石田翔氏
「ちゅまむ」のゲームシステム

 日本のインディーズチーム「い~といん」の石田翔氏が発表したのは、スマートフォンのインターフェイスを全く新しい方法で用いるゲームだ。このiPhone向けゲームでは、複数の端末同士を“つまんで、つなげる”ことがゲームルールの基本となっている。

 ゲームをスタートすると、画面にランダム生成されたルートが現れる。ルート上には本作のメインキャラクター、「ピンちゃん」と「チルちゃん」が歩いており、画面端で3秒間スタックするとゲームオーバー。そうなる前に2台の端末を隣接させて、ルートの端点同士をつまんで接続する。すると、キャラクターが別の端末に移動して得点が得られる仕組みだ。

 デモプレイでは想像以上に忙しいゲームプレイが展開された。キャラクターの移動がそれなりに速いため、2台の端末を忙しく回転させ、くっつけ、慌ただしく“つまむ”操作をする。ルート上のボーナスポイントを通過したり、2体のキャラクターがランデブーするとボーナスポイントを獲得。なかなか難しいようで、1回のプレイは30秒くらいで終了していた。

 スマートフォンのタッチインターフェイスと通信機能をうまく使い、これまでにないゲームの遊び方を提案する点には会場内からの反応も大きく現れた。ひとりでのプレイはもちろん、複数人でのプレイは非常に楽しいものになるだろう。さらなるゲームアイディアへの発展につながりそうだ。



■ “どんなものだか見てみたい” ── 関心をそそるゲームアイディア

・「Breaks」 柳原隆幸(FullPowerSideAttack.com)/日本

発表者の柳原氏。昨年に続いての登場だ
「Breaks」の概要

 “ゲームプレイと音楽の融合”をテーマに作品を発表したのは、昨年の「SOWN 2011」でも同様のテーマで発表を行なった柳原隆幸氏。今回の作品はタッチスクリーンインターフェイスを使ったアクション性の高いゲームだ。

 ゲームをスタートすると、円で表されたフィールドの中にボールが現れる。このボールは慣性に従って勝手に動くが、タッチ操作で軌道を変化させることができる。これを操って、画面上に現れるブロックを次々に破壊してくことが基本ルールだ。

 テクノ系のBGMに合わせ、次々に赤いブロックが現れてくる。プレーヤーが何らかの操作をするたび、あるいはブロックを破壊するなどイベントが発生するとサウンドエフェクトが発生。BGMの調子に変化を加えていく。そのプレイ風景は、まるでターンテーブルを激しくスクラッチするDJのようだ。

 本作のコンセプトでポイントとなるのは、ゲームプレイそのものが音楽を作り出すアクションになっていること。BGMが単に雰囲気を演出する脇役に留まるのではなく、プレーヤーのアクションが作り出す一種のストーリーに昇華しているのだ。

 プレイ結果として生成された音楽はWAVEファイルとして出力が可能であるため、さらに編集を加えたり、オンラインで共有することもできる。プレーヤーそれぞれのオリジナルな体験が音楽として記録に残るアイディアは、今後1ジャンルを築くことになるかもしれない。


・「光弾の射手」 安本匡佑/日本

弓型デバイスを披露する安本匡佑氏
「光弾の射手」のコンセプト

 東京工科大学メディア学部で助教を勤める安本氏は、自身の研究テーマである“身体意識”をコンセプトとした作品を発表した。本作では和弓型のインターフェイスを使って、暗闇の中に隠されたターゲットを打ち抜くことが目的となっている。

 ゲーム画面は当初真っ暗だ。そこへ、弓をつがえて狙いを定めると光が当たり、若干の視界が確保される。矢を撃ちこめばそこに光が固定され、次第にフィールドの全容が明らかになっていく仕組みだ。

 当初は技術実験レベルの作品であったが、「SOWN 2012」への出展を踏まえてゲーム的に改良。グラフィックスを大胆に“点と線”で構成するシンプルな内容とし、非常に幻想的なイメージを持つ作品に変貌した。当初は点だけで構成され、何が何だか分からない空間に光を当てると“線”が浮かび上がり、生体力学に沿ったモーションで動きまわる人物や動物の“正体”が確認できるようになるという塩梅だ。

 この映像マジックには開場からも大きな反応があった。また、弓型のインターフェイスにも工夫が凝らされており、構える方向によって打ち出せる光弾の種類が変化するという。本作はTGS会場内、東京工科大学のブースで試遊可能となっている。


・「たいそう」 雑魚雑魚/日本

体操服に身を包んでプレゼンする「雑魚雑魚」メンバー
「たいそう」の概要

 スマートフォンのジャイロセンサー機能を使い、全く新しい遊び方を提案するのが本作品。ロンドンオリンピックの記憶も新しい体操競技を題材としたゲームで、“端末を回したり、投げて遊ぶ”というのだから面白い。

 ゲーム内の体操選手はスマートフォンのジャイロセンサーに反応して動作するようになっている。例えば、鉄棒競技で大車輪回転をするならスマートフォンを縦にグルグル回し、たくさん回れば高得点。

 そこから端末を空に放り投げてキャッチすれば、ジャンプ月面宙返りを決めてのフィニッシュだ。ひとりで遊べるのはもちろん、2人で1つの端末をキャッチボールよろしく投げあうことでも遊べる。そのうち端末をぶっ壊してしまいそうだが、そのケレン味がまたおかしさを増していて良い。

 発表中に肉声をひとことも発せず、読み上げソフトの自動音声だけを使ってシュールな開発日記を披露するなどネタに走った「雑魚雑魚」の面々だが、ゲームそのもののアイディアも高く評価され、開場から大きな反応を受けていた。



■ “クールな既存ゲームの再定義” ──工夫の光るゲームデザイン

・「Douse」 DigiPen Team Terrabyte/米国

発表を行なうTerrabyteチームの面々
「Douse」のゲーム画面。ジャンプして上を目指す

 水と自然をテーマとする詩的なプラットフォームアクションゲームを発表したのは、ディジペン工科大学の2年生がつくるグループ「Terrabyte」。本作の主人公「Douse」は水の精で、雲上の世界から下界を覗き見ているうち、思わず地上に落ちてしまったうっかり者だ。

 木々や花々が散りばめられた幻想的なアートワークで構成される本作では、プレーヤは「Douse」を操って雲上世界を目指す。可能な操作は移動とジャンプだけなので、ステージ上に配置されたキノコや葉っぱ、樹の枝などの足場をたよりに世界を冒険していくのだ。

 「Douse」が歩んでいくと枯れた花々が色彩を取り戻すなど、生命賛歌の演出が随所に見られる。また、キノコの反発力を使って大ジャンプしたり、水に浮かんだ葉っぱの船を漕いで移動するシーンなど、主人公のアクションに併せてアンビエント音楽に多彩なパーカッションが追加されていく。

 全体を通して高い芸術性とテーマ生を感じさせる作風であり、リラックスしてプレイすればより楽しめそうな雰囲気だ。既存のプラットフォーム系アクションに“癒し”の要素をうまく取り入れた点が、本作の高い評価に繋がっている。


・「Backworlds」 Anders Ekermo & Juha Kangas/スウェーデン

スウェーデンからやってきたEkermo氏とKangas氏
「Backworlds」のゲーム画面

 スウェーデンからの発表者、Andres Ekremo氏とJuha Kangas氏はユニークな仕組みを持つアクションパズルゲームを紹介した。「Backworlds」(裏世界)と題する本作では、カラフルに描かれた“表の世界”と、モノクロームで描かれた“裏の世界”という異なるレイヤーをうまく組み合わせることがゲーム上のカギとなっている。

 不思議な動物の形をした主人公は移動とジャンプができるが、表の世界には様々な障害物が存在するため、そのまま先に進むことはできない。そこでもうひとつのアクションである“ペイント”を用いて、裏世界を部分的に現出させるのだ。異なる地形を持つ裏世界を通れば、表世界の障害物を無視して進むことができる。

 先のステージに進むと、さらに仕掛けが凝ったものになる。動くプラットフォームと裏世界の空間を組み合わせて高い場所に登るのは基本。ステージによっては裏世界の法則が変化しているところもある。時間が停止したり、重力が反転するなどだ。

 これらの仕組みを使えば、的確な場所に裏世界を出し、あるいは表世界に塗りなおすことで様々なアクションや、パズルの解法が可能になる。既存のプラットフォームアクションに“世界を部分的に切り替えるペイント”というポインティングデバイスを使ったアイディアを組み込むことでまったく新しいゲーム性が実現している。アートワークやステージ構成などの完成度も高く、近いうちに製品化も可能な雰囲気だ。


・「BaraBariBall」 Noah Sasso(Strange Flavor)/米国

発表者のNoah Sasso氏。元々は音楽を専門としていたそうだ

 米国のミュージックアーティスト兼インディーズ開発者のNoah Sasso氏が発表したのは、新手のルールで構築されたスポーツ的な対戦アクションゲーム。「BaraBariBall」の名前が示すとおり、ボールを巡って遊ぶ競技だ。

 1ゲームには2人のプレーヤーが参加する。2Dで表現された対戦フィールドには様々な地形があるが、1つのボールと、2色に書き分けられた水面が存在するのが共通ルール。プレーヤーは中空に浮かぶボールを獲得し、相手陣地の水面にボールを落とすことができれば勝ちとなる。

 いわば1対1でプレーする空中サッカーといった塩梅だが、ルールが単純であるだけにゲーム性は奥深く、何度プレイしても新たな展開が楽しめるものになっているようだ。ボールを持つ相手にタックルしてボールを奪ったり、それを交わすためにいったんボールを離してフェイントをかけてみたりなど。

 Sasso氏は良いゲームの本質を、将棋や囲碁のように何千年もの時間に耐えうる本質的なルールにあると見ている。また、音楽家としてのキャリアから、インタラクティブアートにおけるテンポ、応答性の高さを何よりも重視。プレーヤーは演奏家であるとして、操作システムのレスポンス向上と、意図どおりに動かせる操作性の設計に多くの労力を割いたそうだ。

 果たして、このゲームのルールが千年の時に耐えられるものかはプレイしてみないとわからないが、対戦型のアクションゲームが好きな人ならば是非プレイしてみたいと思わせる軽妙さが確かにある。まずは実際に遊んでみたいところだ。



■ “とてつもなく奇妙で美しい” ──見る者の心を動かすアート性

・「Memory of a Broken Dimension」 Erza Hanson-White/米国

 米国からの発表者、Erza Hanson氏が制作した「Memory of a Broken Dimension」(壊れた次元の記憶)は、見る者を未知の感覚に突き落とすものだった。

 ゲームをスタートすると、そこには架空OSのターミナル画面が表示される。それが何なのか、どういうコマンドを打てば次に進めるかもわからない。まるで「始めてコンピューターを学び始めた当初の感覚」とHanson氏は表現する。

 対象に対して観察を続けていると、漠然としたイメージが得られてくる。ヒントを掴んでコマンドを打ち込むうち、画面はグラフィカルユーザーインターフェイスに変化。何か3D空間のような、しかし何のかわからない映像だ。これはコンピューター内に散らばったデータの断片を表しているという。プレーヤーの目的は、データの断片をつなぎあわせて具体的なイメージを再現することらしい。

 やがて、世界の姿は徐々に具体性を帯び、データの断片を選び、組み合わせることで何らかの全体像が見え始める。と、プレイデモはそこで“ブルースクリーン”となり終了。結局、キツネに摘まれたような感覚で終わった。

 “未知の感覚、解明への興味”という、ある意味掴みどころのない感覚をゲーム化しようとするところに本作のオリジナル性と意欲が感じられる。今回のプレゼンテーションを見て、果たしてこれがどういうゲームなのか正確に理解した者は少ないとおもうが、多くの人が是非やってみたいと思うに充分な、魅力的な雰囲気を醸し出していた。


・「Tengami」 Jennifer Schneidereit(Nyamyam)/スウェーデン

インディーズ企業「Nyamyam」のメンバー
「Tengami」の世界は飛び出す絵本!

 最後にプレゼンテーションされた「Tengami」を開発したのは、元ゲーム開発者が集まって設立されたインディーズゲーム企業「Nyamyam」のメンバーたち。日本の文化、伝統建築、自然観、芸術様式などにインスパイアされたという本作の世界は、なんと“飛び出す絵本”そのものだ。

 プレーヤーはゲーム内の様々な場所に隠された“ページ”をめくることでゲームを進めることができる。各シーンには様々なパズルも組み込まれていて、ページをめくるというユニークなアクションであればこそ表現可能な、摩訶不思議な仕掛けが多数施されているようだ。

 特筆すべきはその雰囲気のよさ。水墨画を彷彿とさせる淡い色調で描かれた世界には、日本の自然にある“わび、さび”や、伝統建築に表される神聖な雰囲気が満ちている。本作の全てのシーンは実際の和紙からとったテクスチャーが使われているという本物志向。驚くべきことに、各アートアセットを印刷して組み立てれば、全てのシーンを本物の絵本として忠実に再現できるのだそうだ。

 内容、品質ともに高いプロフェッショナリティを感じるこの作品は、すでに1年以上の開発期間を投じているという。特に、特殊なステージ構造のための手法やツール開発に苦労したのだとか。現在は開発半ばにさしかったところであり、来年夏ごろの正式リリースを目指しているとのこと。こんまま慣性すれば間違いなく人気のゲームになりそうだ。


(2012年 9月 22日)

[Reported by 佐藤カフジ]