【特別企画】

「NINTENDO 64」発売30周年

ゲームの歴史を根本から変えた名機と、永遠に色褪せないローンチタイトルの記憶

【NINTENDO 64】
1996年6月23日発売

 任天堂より1996年6月23日に発売された家庭用ゲーム機「NINTENDO 64」が、2026年の今年、発売から30周年という偉大な節目を迎えた。

 30年という途方もない歳月が流れた現在、私たちは極めて高精細で、広大なオープンワールドを自由に駆け回るゲームを当たり前のように享受している。しかし、その「3D空間を自由に動き回る」という現代アクションゲームの基礎文法、いわば“当たり前”の礎を築き上げたのは、間違いなくこの「NINTENDO 64」というハードウェアであった。

 NINTENDO 64が発売された1996年当時、筆者は学生時代を謳歌し、そして社会への扉を開こうとしていた時期だった。スーパーファミコンのドット絵全盛期から次世代機戦争へと突入し、ゲーム業界全体が2Dから3Dへと急激なパラダイムシフトを起こしていたあの熱狂の時代、他社のディスクメディア機が先行して市場を席巻する中、満を持して任天堂が世に送り出したROMカセット専用機、それがNINTENDO 64だった。

 本稿では、ゲーム業界の歴史的転換点となった「NINTENDO 64」の発売30周年を記念し、このハードがいかにして私たちのプレイスタイルを変革したのかを振り返っていく。そして、ハードの性能を極限まで見せつけた歴史的ローンチタイトル「スーパーマリオ64」と「パイロットウイングス64」への底なしの愛、さらにはそれらの名作を現代に蘇らせた「NINTENDO 64 Nintendo Classics」の魅力について、語り尽くしたい。

異形の三叉コントローラーと、3Dスティックがもたらした革命

 NINTENDO 64というハードウェアを語る上で、絶対に避けて通れないのがあの独特な形状をしたコントローラーの存在である。初めてその姿を見た時、多くのゲーマーが戸惑いを覚えたはずだ。左、中央、右と、下に三つのグリップが伸びる異形のフォルム。スーパーファミコンまでの「両手で包み込むように持つ」という常識からは完全に逸脱していた。

 しかし、実際に手に取ってみた瞬間に、その戸惑いは驚嘆へと変わる。左手で中央のグリップを握り、右手で右側のグリップを握る、いわゆる「ライトポジション」と呼ばれる持ち方をした時の、あの手に吸い付くような完璧なフィット感はどうだろう。

 そして、中央グリップの頂点に鎮座する3Dスティックこそが、ゲームの歴史を変えた最大の革命であった。それまでの十字ボタンは、上下左右と斜めの「8方向」にしか入力できず、オンかオフかのデジタルな入力しか持たなかった。

 しかし3Dスティックは、360度あらゆる方向へ、しかも「倒す角度」によって入力の強弱を無段階に調整できるアナログスティックだったのだ。スティックを少しだけ倒せばキャラクターは抜き足差し足で忍び歩きをし、深く倒し込めば全力疾走をする。プレイヤーの指先の繊細な意志が、画面の中のキャラクターの挙動に直接リンクする。

 このアナログ入力の概念は、3D空間を移動する上で必要不可欠なものであり、後のすべてのゲームハードにおけるコントローラーの標準規格となっていった。

 さらに特筆すべきは、中央グリップの裏側に配置されたZトリガーボタンである。左手の人差し指が自然に添えられる位置にあるこのボタンは、まるで銃の引き金を引くような心地よいクリック感を持っていた。

 FPSの金字塔となった「ゴールデンアイ 007(TM)」などで、このZトリガーを引いて銃を撃つ瞬間の、あの指先から伝わる圧倒的な爽快感。後の「ゼルダの伝説 時のオカリナ」では、このボタン一つで敵をカメラの中央に捉え続ける「Z注目システム」を生み出し、3Dアクションにおけるカメラワークの煩わしさを根本から解決してしまった。

 また、本体前面に最初から4つのコントローラーポートが標準搭載されていたことも、革新的であった。マルチタップなどの周辺機器を買うことなく、本体とコントローラーさえあれば、最初から4人でのローカルマルチプレイが可能だったのだ。

 「マリオカート64」、「ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ」、「マリオパーティ」といった名作群により、NINTENDO 64は「友達の家に集まって、4つの画面分割でワイワイ遊ぶ」という、極上のコミュニケーションツールとして当時の若者たちの中心に君臨し続けたのである。

箱庭探索型3Dアクションの金字塔「スーパーマリオ64」

 NINTENDO 64のローンチタイトルとして登場したのが、「スーパーマリオ64」である。結論から言えば、この作品は単なる「マリオの新作」にとどまらず、その後の世界中のゲームクリエイターに「3Dアクションゲームとはこう作るのだ」という明確な解答と道筋を提示した、歴史的な金字塔であった。

「スーパーマリオ64」 ※画像提供:任天堂(以下同)

 電源を入れ、タイトル画面でマリオの顔を3Dスティックで引っ張って遊ぶという、当時としてはあまりに斬新なお遊び要素からすでに度肝を抜かれた。

 そして本編が始まり、ピーチ城の前の広場にマリオが降り立った瞬間。3Dスティックをぐりぐりと倒し、マリオが広大な緑の芝生の上を縦横無尽に走り回る姿を見た時の、あの言い知れぬ感動は、当時大学生だった筆者の心に鮮烈に焼き付いている。

記事内の画面写真は「NINTENDO 64 Nintendo Classics」で撮影したもの

 これまでの横スクロールの2Dマリオは右へ右へと進んでゴールを目指すゲームだった。しかし本作は違う。城の中に飾られた絵画の中に飛び込むことで、それぞれ独立した広大な箱庭の世界へと入り込み、そこに隠された「パワースター」を探索して集めるというゲームデザインへと根本から変貌を遂げていた。

 「ボムへいのせんじょう」で、巨大なワンワンに追いかけられながら山を登る緊張感。「さむいさむいマウンテン」で、子ペンギンを親ペンギンの元へ届けるために氷の滑り台を滑り降りる疾走感。ジュゲムが吊るしたカメラという設定で、視点をプレイヤー自身の手で操作するという概念も、本作が定着させたものだ。

 何より素晴らしかったのは、マリオの多彩なアクションである。ただジャンプするだけでなく、走りながらしゃがみボタンを押して滑り込むスライディング、方向転換を利用した宙返り、壁を蹴って高いところへ登る壁キック、そして極めつけは三段ジャンプ。プレイヤーの操作スキルが上達すればするほど、マリオはプレイヤーの手足のごとく滑らかに、そして美しく3D空間を舞い踊る。

 クッパとの対決では、クッパの尻尾を掴んで3Dスティックをぐるぐると回し、遠心力をつけて爆弾に向けて投げ飛ばすという、アナログスティックの特性を完璧に活かしたバトルが展開された。狙い澄ました軌道でクッパが爆弾に直撃した時の、あの手汗を握るような至高の達成感は、30年経った今でも色褪せることがない。

 「It's-a me, Mario!」という陽気なボイス、近藤浩治氏による多彩でいつまでも耳に残る素晴らしいBGM群も相まって、「スーパーマリオ64」は箱庭探索型アクションというジャンルにおいて、発売と同時に完成形を提示してしまった奇跡の作品なのである。

わざわざ訳すまでもないとは思うが、「It's-a me, Mario!」は「僕は、マリオだ」的なニュアンス

3D空間の空を飛ぶ、静かなる至福の体験「パイロットウイングス64」

 NINTENDO 64のもう一つのローンチタイトルとして発売されたのが「パイロットウイングス64」である。「スーパーマリオ64」が「箱庭の中で動く楽しさ」を提示した作品であるならば、本作は「広大でシームレスな3D空間を自由に飛び回る楽しさ」を提示した作品であった。

「パイロットウイングス64」

 スーパーファミコン版「パイロットウイングス」の系譜を受け継ぎつつも、NINTENDO 64の処理能力によって描かれた世界は、まさに圧巻の一言だった。特に、アメリカ合衆国を丸ごと一つのミニチュアマップに凝縮した「リトルステイツ」というステージの広大さと作り込みは、当時の技術としては信じがたいレベルのものであった。

 ニューヨークの摩天楼をすり抜け、グランドキャニオンの谷底を飛び、マウントラシュモアの大統領の顔の周りを旋回する。ただそれだけのことが、どうしてあんなにも楽しかったのだろう。

 プレイヤーは様々な機体を乗りこなし、空を制覇していく。エンジンの推進力で自由に空を駆けるジャイロコプターでは、ミサイルでターゲットを破壊するアグレッシブな飛行を楽しむ。

 背中に背負ったロケットの噴射で空中に浮かぶロケットベルトでは、3Dスティックの繊細な傾きとスラストの微調整が命となる。狭い洞窟の中を進み、着地パッドの中央にミリ単位でふわりと降り立った時のあの安堵感と、至高の達成感はたまらない。

 そして風の力を利用して滑空するハンググライダーでは、上昇気流を捉えながら高度を保ち、静かな空の旅を堪能する。夕焼けに染まる空の下、極上のBGMに身を委ねながらゆったりと滑空していると、日々の疲れや悩みがすーっと消えていくような癒しの時間を味わうことができた。

 さらに本作には、人間大砲となってターゲットの的の中央を狙う「キャノンボール」や、バネのついた靴でピョンピョンと跳ね回る「ジャンブルホッパー」といった、一風変わったお遊び要素も用意されていた。

 特にジャンブルホッパーで高層ビルからビルの屋上へと跳び移る時の、胃がフワッとするような浮遊感と落下への恐怖は、3Dならではの非常にリアルな感覚であった。得点を競い合うストイックなフライトシミュレーターとしての側面と、ただ鳥のように空を飛ぶという根源的な欲求を満たしてくれる環境ソフトとしての側面。

 「パイロットウイングス64」は、NINTENDO 64の描画能力の凄まじさを、最も美しく、そして最も静かに証明してくれた名作なのである。

よみがえる名作たち。現代の環境で楽しむ「NINTENDO 64 Nintendo Classics」

 さて、ここまで「スーパーマリオ64」と「パイロットウイングス64」という、NINTENDO 64を代表する偉大なローンチタイトルについて語ってきた。当時のブラウン管テレビに繋がれた三叉のコントローラーを握りしめ、時間を忘れて熱中したあの日々。しかし、「あの頃の感動をもう一度味わいたい」と思っても、実機を引っ張り出してきて現代の薄型テレビに接続し、良好な環境でプレイするのは、なかなかハードルが高いのが現実である。

 だが、今の時代を生きる私たちには、極めて強力な味方が存在する。それが、過去のNINTENDO 64の名作たちを現代のハードウェア上で手軽に、かつ極めて快適にプレイすることができる「NINTENDO 64 Nintendo Classics」の存在である。

 有料サービス「Nintendo Switch Online + 追加パック」に加入すればNintendo Switch 2 およびNintendo Switchで遊べるようになるもので、その最大の魅力はなんといっても圧倒的な手軽さと、現代ならではの快適なプレイ環境にある。

 このサービスの最大の魅力は、なんといっても圧倒的な手軽さと、現代ならではの快適なプレイ環境にある。

 かつてはカセットの端子にフーフーと息を吹きかけ(※本当はやってはいけないのだが、当時のゲーマーの誰もが通った道だ)、画面が映るか祈るように電源を入れていたあの名作たちが、今やダウンロードされたデジタルデータとして、メニュー画面からボタン一つで瞬時に起動する。

 しかも、映像出力は現代の高解像度モニターに合わせてクリアに最適化されているため、ポリゴンの輪郭やテクスチャの細部までが当時以上に鮮明に映し出される。「スーパーマリオ64」のピーチ城のステンドグラスの美しさも、「パイロットウイングス64」のリトルステイツに沈む夕日のグラデーションも、美化された思い出を裏切ることなく、むしろ思い出以上のクリアな映像で眼前によみがえるのである。

 さらに、現代のサービスならではの機能として絶対に見逃せないのが「どこでもセーブ」や「巻き戻し機能」などの便利機能である。

 昔のゲームは、セーブポイントに到達するまでにゲームオーバーになれば、無慈悲にも最初からやり直しになっていた。「スーパーマリオ64」で100枚コインを集めている最中に高所から転落してすべてが水の泡になった時の絶望感や、「パイロットウイングス64」の着地直前で姿勢を崩して激突し、満点を逃した時の徒労感は、今となっては良い思い出だが、現代の忙しい大人たちにとっては少々シビアすぎる仕様でもある。

 しかし、このサービスを介せば、ゲーム中のいかなる瞬間であっても状態を保存したり、数秒だけ巻き戻してやり直すことができる。

 この機能のおかげで、理不尽さにコントローラーを投げ出すことなく、純粋にゲームの奥深さとアクションの楽しさだけを抽出して味わい尽くすことができるのだ。

 また、本サービスには今回紹介したローンチ2タイトルのみならず、先日のNintendo Directでリメイクが発表された「ゼルダの伝説 時のオカリナ」をはじめ、「スターフォックス64」、「ドンキーコング64」など、NINTENDO 64時代を彩った数多くの傑作・名作がラインナップとして連なっている。

 さらには、オンライン環境を通じて遠く離れた友人たちとマルチプレイを楽しむ機能が実装されているタイトルもあり、友達の家に集まって4画面分割で遊んだあの熱狂を、オンラインという現代のインフラを通じて再び体験することができるのである。

 「NINTENDO 64 Nintendo Classics」は、単なる過去の遺産のアーカイブではない。私たちがかつてブラウン管の前で流した汗と涙、そして至高の達成感という名の記憶の結晶を、極めて洗練された形で現代に呼び覚ましてくれる、まさにタイムマシンと呼ぶにふさわしい至れり尽くせりのサービスなのである。

□「NINTENDO 64 Nintendo Classics」のページ

30年経っても色褪せない、64ビットの魔法

 NINTENDO 64が私たちに与えてくれたものは、単なるグラフィックの進化や、処理速度の向上といったスペック上の話だけではない。「ゲームの世界の中に、確かに自分が存在している」という、次元を超えた圧倒的な没入感であり、3D空間という未知の領域を自らの指先で切り拓いていくという、純粋な探求の喜びであった。

 大学生だったあの頃、深夜のアパートで友人と肩を並べながら、あるいは一人静かに3Dスティックを倒し続けた日々。NINTENDO 64で味わったあの指先に残る操作の記憶と、マリオが空高く飛び上がった時の高揚感、ハンググライダーで風を切った時の静かな感動は、決して消えることなく私の魂の中に刻み込まれている。

 発売から30周年。あの異形で、でも世界中の誰よりもプレイヤーの手に馴染んだ三叉のコントローラーは、今もゲームの歴史の頂点に輝くモニュメントとして君臨し続けている。

 もし、今あなたの手元に環境があるのなら、どうか「NINTENDO 64 Nintendo Classics」を通じて、あの日の箱庭へ、あの日の大空へと、再び旅立ってみてほしい。そこには、30年前の私たちが目を輝かせて見つめていた未来のゲームの姿が、一切の色褪せを感じさせることなく、今もみずみずしい輝きを放ちながらあなたを待っているのだから。