iPad「Bejeweled HD」配信記念。PopCap Games創業者インタビュー

カジュアルゲームの雄が目指す日本市場への展開


7月20日 発売

価格:350円


 米PopCap Gamesは7月20日、iPad用パズル「Bejeweled HD」の配信を開始した。価格は350円で、iOS 3.2以降のiPad以降に対応。

 12年前から続く「Bejeweled」シリーズの最新作となる今作は、過去シリーズで登場したモードから新しいモードまで5つのモードを有しており、心ゆくまで「Bejeweled」を楽しめるようになっている。

 キラキラと輝く宝石を動かして消していくパズルの「Bejeweled」シリーズは、日本では6月にGREE用ソーシャルゲームとして「ビジュエルド伝説」を独自に配信しており、今回の「Bejeweled HD」によって、日本では2カ月連続でシリーズの配信をしたこととなる。

 今回はこの「Bejeweled」シリーズについて、PopCapの創業者で「Bejeweled」の開発者であるチーフゲームデザイナーのジェイソン・カパルカ氏と「Bejeweled」フランチャイズディレクターのジョルダーノ・コンテスタビーレ氏に、「Bejeweled HD」の内容から、「Bejeweled」シリーズのこれまでの経緯から、今後の日本展開などについて伺ってきたので、その模様をお伝えする。



■ 誰でも1つは気に入るモードがある「Bejeweled HD」

「Bejeweled」フランチャイズディレクターのジョルダーノ・コンテスタビーレ氏
「Bejeweled HD」

――今回日本で発売となった「Bejeweled HD」について教えてください。

ジョルダーノ・コンテスタビーレ氏:これはiPad用の「Bejeweled」だと考えてください。もともとは「Bejeweled 3」という名前でしたが、今回改めて登場します。5つのモードが入っていて、蝶々を救出していく「Butterflies」モードや、「Bejeweled Blitz」をベースに、ボーナスタイムを追加した「Lightning」モードなどがあります。

 最も人気があるのは「Diamond Mind」モードで、宝石を消しながら下へ下へと掘り進んでいくモードです。他に、通常モードの「Classic」、終りのない「Zen」モードがあります。

――このゲームのウリはどこにありますか?

コンテスタビーレ氏:「Bejeweled」シリーズは、一般的に女性に人気があります。年齢で言うと、35歳以上から100歳くらいまでですかね(笑)、「Bejeweled Blitz」は、シリーズで初めて入った友達と競えるという要素がフックになって、18歳から35歳までを中心に、幅広い層に受け入れられています。

 そのような経緯の中から生まれた「Bejeweled HD」は、たくさんの要素が詰まっているので、色々な年齢のプレーヤーに合うモードが必ず1つは入っています。自分に合うモードを見つけて楽しんでほしいと思います。

――画面も綺麗ですよね。

コンテスタビーレ氏:Retinaディスプレイに対応しています。この12年間で最も輝いているのではないでしょうか(笑)。

――5つのモードのほかに、「Coming Soon」と書かれた場所もありますね。

コンテスタビーレ氏:アメリカでローンチした時には、ゲームモードは3つしかありませんでしたが、現在は5つまで増えています。今後もゲームモードをアップデートによって増やしていく予定なので、そのための呼びかけをここでしています。日本では5つのモードが最初から入った状態で遊べます。


【スクリーンショット】
こちらは左から順に「Classic」、「Butterflies」、「Diamond Mine」モード。同じ「Bejeweled」ではあるが、嗜好の違う5つのモードによってどれかはプレーヤーの好みに合うモードがあるという。この12年間で最も美しいという画像にも注目


■ 12年続く「Bejeweled」シリーズ。中でも「ビジュエルド伝説」は“チャレンジ”

PopCapの創業者で「Bejeweled」の開発者であるチーフゲームデザイナーのジェイソン・カパルカ氏

――では、これまでの「Bejeweled」シリーズの概要を教えてください。

ジェイソン・カパルカ氏:シリーズ最初の作品は、2000年に始まりました。もともとはただの四角を動かしていくパズルだったのですが、それがフルーツになり、最後に宝石になりました。フルーツは似たような形が多くてパターンを作るのが大変でしたが、宝石だと見た目もよく、パターンも多く出来たので作り手としても楽だったのです。

 それから3年経って日本で「ズーキーパー」が出たときにはみんなで驚いていて、冗談で「日本がアメリカのものを初めてパクったね」と言って笑っていました。

 シリーズはカジュアルゲームの草分けとして、2001年から順に「2」、「ツイスト」、「3」、「Blitz」、「ビジュエルド伝説」とフランチャイズを広げています。

コンテスタビーレ氏:数字としては、この12年間で35のプラットフォームに展開し、5億人に遊ばれています。現在配信している「ブリッツ」は、iPhone版でこれまでに1千万ダウンロード、Facebook版は2千万インストールされていて、300万人が毎日遊んでいます。

――シリーズの中では日本独自で展開した「ビジュエルド伝説」が印象的ですが、日本での展開に至った経緯は?

コンテスタビーレ氏:最初に「Bejeweled」が日本で展開したのは2008年にフィーチャーフォン向けに出した元来の「Bejeweled」でした。「ビジュエルド伝説」は、ローカライズというわけではなく、日本のチームが企画と開発をしたメイド・イン・ジャパンのものです。グラフィックスのテイストやシステムも日本人に合うように作っています。

 日本のゲームマーケットというのは、日本のゲーム企業が強力なので、これまでなかなかチャレンジが難しいという状況がありました。しかしながら、シンプルに楽しめるゲームは幅広い層に受け入れられるのではないかと思い、これをチャンスと見てより日本人に好まれるものを提供しました。

 2011年にはフィーチャーフォン向けに配信した「ポップ☆タワー for GREE」もヒットしており、これは上手く参入できたいい例だったと思います。

――「ビジュエルド伝説」は「Bejeweled Blitz」を元にしています。元のままでも傑作だと実際にプレイして感じていますが、わざわざ日本向けに作り直した理由は?

カパルカ氏:「Bejeweled Blitz」をそのまま展開することも考えましたが、ユーザーの中心だったFacebookが日本ではあまり普及しておらず、iOSもアメリカに比べると数が伸びていませんでした。

 「ポップ☆タワー for GREE」ではPopCapの「Bejeweled」、「Zuma」、「Chuzzle」のゲーム要素を活かしつつ、コレクション要素やソーシャル要素を入れることで日本の市場に受け入れらました。「ビジュエルド伝説」でもこの成功体験をもとに、「Bejeweled」を活かしつつ、日本のマーケットに受け入れられるような作り変えをしています。

――「Bejeweled Blitz」と「ビジュエルド伝説」で大きく違うなと感じたのは、「ビジュエルド伝説」は体力ゲージがあることで1度のプレイでの回数に制限があることです。「Bejeweled Blitz」では1分間のゲームを何度も繰り返しできますが、「体力ゲージ」という概念はなぜ入れたのでしょうか?

コンテスタビーレ氏:日本では、ソーシャルゲームに体力ゲージを取り入れたスタイルは主流となっており、それが理由の1つではあります。もう1つの理由としては、体力の残りを意識してプレイしてもらうことで、何度もできる状態とは違った緊張感を演出できるからです。

 ただし、この機能を入れるのが正しいのか間違っているのかはまだわかりません。「ビジュエルド伝説」は日本のソーシャルゲームらしい機能をたくさん取り入れていますが、これは意欲的であり、チャレンジングなタイトルです。

カパルカ氏:ソーシャルゲームは、継続的にゲームを遊んでもらうことが重要です。体力の概念があることで、1日に何度も触れてもらえるのではないかと思います。

――チャレンジをしたという「ビジュエルド伝説」ですが、これまでの調子はいかがですか?

コンテスタビーレ氏:こういった運営ベースのタイトルの場合、弊社でやっているのは世の中に出して少人数のユーザーで楽しんでもらうというものです。そこでチューニングをして、ベストな状態に持っていきますが、「ビジュエルド伝説」はこのステージにいます。

 ベストな状態で楽しんでいただくためには1カ月から数カ月かかるかもしれませんが、よりよい状態になったら、また大きな展開を考えています。



■ カードコレクションが興味深い日本市場。今後も積極的に参加

写真撮影でふざけあう両氏。PopCapのオフィスにはグッズが溢れていて、楽しみながら作るという雰囲気が伝わってきた

――世界的にも広がっているフリーミアムとカジュアルゲームは相性がいいと思いますが、カジュアルゲームを牽引してきたPopCapとして、今後の具体的な戦略はありますか?

コンテスタビーレ氏:カジュアルゲームは幅広い層に向けたものでしたが、フリーミアムにすることでさらに広い層に向けてリーチできました。PopCapは様々なIPを持っていますので、それをフリーミアムにしてどんどん広げていきたいと考えています。色々なプラットフォームで展開させるだけでなく、プラットフォーム同士を繋げて活性化させていき、そこでユーザーの声を聞くことも重要だと考えています。

――2011年7月にはEAの傘下になりました。まだ表立ってはいませんが、EAとの連携は何か考えているのでしょうか?

カパルカ氏:もちろん、1つの施策として考えており、協議中です。言えるものですと「ザ・シムズ3」に「Plants vs. Zombies」が登場するものがあります。個人的には、「Plants vs. Zombies」が「バトルフィールド3」に登場したり、「ペグル」が「Dead Space 3」に登場してほしいですね(笑)。

――ゲーム制作の時に心がけていることはありますか?

カパルカ氏:特にこれといった秘密の公式はありません。プロトタイプを作って、トライアンドエラーを繰り返すことです。「Plants vs. Zombies」は開発に3年かかりましたが、マーケットが変化していく中で面白くないものは排除されていくので、これもトライアンドエラーの繰り返しでした。

 一方で、「Bejeweled Blitz」は1カ月で大枠ができました。当初は3分から5分遊ぶという想定で作っていましたが、テストをしている中で10秒でプレイしたスタッフがいて、それが予想外に面白く、これはラッキーなアクシデントでした。それで遊ぶ時間を1分にしました。テストして気づくことというのはたくさんあります。

コンテスタビーレ氏:モバイルのゲームでは、戻ってきたくなるゲームというのが大事だと思います。もう1つは、バスの中であったりトイレの中であったり、色々な状況で短く遊べるということです。それと、記憶に残るのも重要です。アプリは何万と出ていますが、キャラクターなどの特徴が必要です。

 PopCapでは、カジュアルさに加えて、特にもう1度遊んでもらえるということを意識して制作しています。

こちらはゾンビの頭を被ったスタッフとじゃれあうコンテスタビーレ氏。楽しそうだ

――日本の無料を基本としたソーシャルゲーム市場はどのように捉えていますか?

カパルカ氏:カードコレクションが流行している点が興味深いですね。海外での成功例も出てきているので、業界全体がそこに進むのかもしれません。

コンテスタビーレ氏:日本の面白いところは、フィーチャーフォンの割合が大きかったところです。フィーチャーフォンではできることが限られているとはいえ、カードコレクションが台頭していました。今後はスマートフォンに移行していく中で、カードコレクションがどうなっていくかが興味深いです。

 またスマートフォンにしかできないものもあるので、変化は起きるはずです。例えば、「ビジュエルド伝説」のようにリアルタイムでのアクションがあるものがプラットフォームで展開する、といったものです。こうした変化によって、マーケットには、よりリッチなゲーム体験のあるゲームが広がっていくのではないかと思います。

――日本市場へのチャレンジは今後も続けていきますか?

コンテスタビーレ氏:2009年に日本のオフィスを開いてから、人もどんどん増えていますし、長い目でビジネスをしていきたいと考えています。PopCapのフランチャイズを上手く使って、ローカライズや独自ゲームを今後も作っていきたいと思います。

――では最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

カパルカ氏:PopCapは日本では知名度が低いですが、今後は積極的に日本へゲーム展開をしていって、アメリカと同じくらい知ってもらいたいですね。

コンテスタビーレ氏:日本のゲームは大好きですし、尊敬もしていますが、マリオよりも有名になりたいです(笑)。

――ありがとうございました。


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(2012年 7月 20日)

[Reported by 安田俊亮]