オートデスクとUnity、「3DCGツールとUnityによるゲーム開発実践セミナー」開催

「Maya」との連携からiPhoneでの開発まで、「Unity」の現在を追う


2月23日 開催

会場:ベルサール飯田橋ファースト

入場料:無料


 オートデスク株式会社は2月23日、ゲーム開発者を対象としたイベント「3DCGツールとUnityによるゲーム開発実践セミナー」をベルサール飯田橋ファーストで開催した。

 「3DCGツールとUnityによるゲーム開発実践セミナー」は、スマートフォンやソーシャルゲームを含む、あらゆるゲーム開発者を対象としており、今回はUnity Technologies Japan 合同会社との共同セミナーとして開催された。最近ではUnityの日本法人も設立され、日本国内外で注目されているゲームエンジン「Unity」の実践的な紹介が行なわれるというだけあり、会場には多くの人が駆けつけた。

 各セッションではオートデスクの3Dアニメーションソフトウェア「Maya」と3Dゲームエンジン「Unity」を組み合わせたデモンストレーションから、実際にリリースされているタイトルの開発事例などが紹介された。新しいゲーム開発技術として注目されながらも、未だ発展途上である「Unity」の行方を考えるセミナーとなった。

 この記事では、本セミナーで主要となった3セッションの内容をお伝えする。


■ 「Maya」と「Unity」のスピーディな連携をデモンストレーション


オートデスク メディア&エンターテインメント AE マネージャの門口洋一郎氏
オートデスク メディア&エンターテインメント ソリューションエンジニアの長谷川真也氏
Unity日本担当部長の大前広樹氏

 第1のセッションでは、オートデスク メディア&エンターテインメント AE マネージャの門口洋一郎氏、メディア&エンターテインメント ソリューションエンジニアの長谷川真也氏と、Unity日本担当部長の大前広樹氏による「Mayaとは? Unityとは? その連携について」と題したプレゼンテーションが行われた。
 
 ここでは、門口氏と大前氏が「Maya」と「Unity」の簡単な説明をした後、大前氏と長谷川氏の連携によって実際にゲームが作られていく過程がデモンストレーションされた。

 デモンストレーションは、長谷川氏が「Maya」を操作してゲームに必要なマップ、彫像、プレーヤーキャラクターの3つのパーツを操作してファイルを作り、それらを受け取った大前氏が「Unity」で組み合わせて調整、ゲームとして動き出すまでが説明された。

 「Unity」が画期的なのは、ゲーム画面を見ながらゲームを調整できるところにある。さらに、3DCG作りに特化した「Maya」との親和性が高いのも特徴で、「Maya」のファイルは、その形式を変えることなくそのまま「Unity」で使える。「Maya」で3Dモデルを作成すれば、ボタン1つで「Unity」に直接出力できるため、チーム内でのやり取りの手間が省ける。
 
 会場では、実際に長谷川氏が作ったファイルが「Unity」で即座に反映される手順も紹介され、「Maya」と「Unity」を使えばチームにおけるゲーム開発が効率的になることを感じさせた。この他にも、「Maya」で作成したメッシュのレイヤー構成が「Unity」では自動的にLOD(レベル・オブ・ディテール。あるオブジェクトに対して、カメラが近づけば緻密なメッシュが描写され、遠くなれば粗いメッシュを表示することで処理を軽くする機能)として反映される点や、「Maya」で作成したキャラクターアニメーションのフレームを「Unity」で切り取れば、「歩く」、「走る」、「戦う」といった動作がいきなりキャラクターのモーションとして動作する点などが紹介され、スピーディにゲーム開発を行なえることをアピールした。

 門口氏はまとめとして「大前さんとは密接にやり取りをしている。よく『Maya』との連携がなかなか上手くいかないという意見をいただくが、技術的にはこのように協調してやっているので、問題点を発見することは今では簡単になっている。今後も何か問題があったらぜひ伝えてほしい」と話した。


像の頭をカラーリングして出力すれば、それも即座に反映。メッシュのレイヤーは「Unity」でLODとなって自動的に反映されるので便利
「Maya」で作ったアニメーションをフレームで切り取れば、歩く、走る、戦うといった動作が簡単にできあがる。なお、今回使用されたデータはBehaviour Interactiveの「WET」を使用

■ コンシューマーゲーム開発会社が「Unity」で挑んだAndroid端末向けタイトル


マトリックス コンテンツ事業部デザイン開発課主任の高崎奈美氏
マトリックス コンテンツ事業部技術開発課の杉浦祐輝氏

 続いてのセッションは、実際にAndroid端末向けのアプリとしてリリースされている株式会社マトリックスの「Ragdoll」の開発事例について。登壇したのは、マトリックスコンテンツ事業部デザイン開発課主任の高崎奈美氏とコンテンツ事業部技術開発課の杉浦祐輝氏。

 「Ragdoll」は、プレーヤーが編み物風のぬいぐるみをゲーム内で自由に作れるAndoid端末向けのアプリ。登場するぬいぐるみは3D表示で、編み物の柔らかくて暖かい質感が表現されている。ぬいぐるみは頭や手といったパーツに別れており、それぞれプレーヤーの好きなように大きさを変えたり色を変えたりできる。

 本タイトルにおいて、Unityを導入するきっかけとなったのは、コンシューマーゲーム向けの受託開発が多いという同社の企業環境に理由があった。スマートフォン向けで、しかもオリジナルIPのプロジェクトは会社としては異例だったため、短期間、低予算で成果を出さなくてはならない。「Unity」を採用したのは、ゲームの下処理に手間取られる時間の節約、低予算で導入できるプロライセンス、布の質感を表現するために、自由にカスタマイズできるシェーダーが用意されていたことの3つがあったと高崎氏は話した。 
 
 開発の具体例は杉浦氏から説明された。「Ragdoll」は、「Maya」で作ったデータを「Unity」で完成させるという手順で行なわれている。ここでは、データの更新をスムーズに行なうために、アプリ起動時に必要なデータだけを更新できる「AssetBundle」の利用事例や、アニメーションの作成方法、日本語フォントの選出方法などが説明された。
 
 高崎氏は、「Unity」を使ったゲーム開発について、「再生ボタンを押すだけでテストができるので、結果がすぐ見れてよかった」と述べた。また「Unity」のコミュニティ形成にも「他のエンジンに比べても異例だと思う」と話し、わからないことを掲示板に書き込めば、1時間ほどで返事が来て開発に反映できるのは、これまでのコンシューマーゲーム開発にはなかったことだと自身の驚きを語った。
 
 しかし一方で、高崎氏は「『Unity』にもできないことがある」と述べた。高崎氏の経験では、プロトタイプを作るまでは早かったが、そこから完成させてリリースに至るまでに時間を取られてしまったという。高崎氏は「Unity」を画材に例えて、「それを使えば誰もが上手くできるものではなく、スキルを持った人が使わないと上手くいかないものではないか」と話した。ただ、今までにないことにも注目すべきで、「作ったあと、実装しようとするだけでも発見することはある。色々なことに柔軟に取り組んでほしい」と会場にメッセージを送った。


「Ragdoll」は、柔らかい質感が特徴のぬいぐるみ制作アプリ
開発事例として、アニメーションデータ作成の流れや、ライティングの決め方などが話された

■ スペックに可能性を感じさせるiPhone 4へのゲーム最適化事例


株式会社セガ チーフデザイナーの築島智之氏

 最後に紹介するセッションは、株式会社セガ チーフデザイナーの築島智之氏による「Unity」でiPhone向けの3Dゲームを作るときの実例について。築島氏はアーケードゲームの「Let's GO ISLAND 3D」のデータをiPhone用に調整した「Unity」の画面を見せながら、iPhoneの最適化に際してのポイントや問題点を挙げていった。
 
 本セッションの主旨は、マニュアルがカバーしていないiPhone 4における開発、また少人数制作とは違ったアーケードゲームを事例に上げることで、その点を補完することにあると築島氏は説明した。
 
 築島氏が主に挙げたのは、iPhone4では3枚のテクスチャを重ねるよりも、1枚の大きなテクスチャを使った方が処理が軽くなることと、エディター上で画面が多少ぼやけてても、Retinaディスプレイを使っているiPhone4では画面がくっきりとなること。また処理を早くするためには、カリング処理をして、壁を作るなどデザイン上の工夫が必要なことなどが挙げられた。

 築島氏は、「とりあえずゲームを出力してみれば、結構な割合で成功する。ただし、ちょっとしたことで処理が重くなってしまうこともあるので注意してほしい。あとは、テクスチャを大きく使用できる点を活かすこと」と話した。

 また築島氏は、日本にはコンテンツ工学という考えが欠けていると話した。コンテンツ工学とは、職人的な技を一般化して、誰もがいいものづくりをできるようにするという工学的なアプローチを応用したもの。
 
 築島氏は、「ここ10年くらいは海外勢に追いつこうと見た目は似せても内容が伴っていなかった。それはコンテンツ工学の知識がごっそり抜け落ちていたからだが、幸いなことに『Unity』が出てきた。日本のゲーム開発者は、実際に絵を出してみてやり取りをするというセンスは抜群で、本来的に手触りや感覚といったところが強いと思う。プログラマやデザイナーが『Unity』を触ってみると、最初は今までにないやり方なので戸惑うが、慣れるとゲームそのものの開発に注力できるので好きになる。これで世界標準に追いつけるのでないか。『Unity』でいいゲームを作って、盛り上げていきましょう」と話した。


「Let's GO ISLAND 3D」のデータをiPhone用に調整して紹介。なおこのデータは本セミナー用ということで、残念ながらリリースの予定はない
「Unity」は優秀、という言葉を何度も使って築島氏がその可能性を説明。最後には「コンテンツ工学」という言葉で日本のゲーム産業と「Unity」の関係を表し、これまで日本に足りなかった部分を「Unity」が埋めるのではという期待を込めた

(2012年 2月 23日)

[Reported by 安田俊亮]