E3 2011レポート

NEXON、「マビノギ英雄伝」開発チームインタビュー
「マビノギ」の要素をアレンジしながら取り込み、成長するMORPG


6月7日~9日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



 E3のNEXONブースで、会期に合わせて渡米した「マビノギ英雄伝」開発チームにインタビューを行なった。「マビノギ英雄伝」は日本では2011年サービス開始予定だ。インタビューでは、主に韓国での「マビノギ英雄伝」の現状を聞いてみた。

 インタビューを行なったのは、「マビノギ英雄伝」のディレクターを務める韓国NEXONのハン・ジェホ氏、韓国ライブサービスチーム総括チーム長ジョン・スンウ氏、企画パート長のイ・ギュドン氏。今回はハン氏が質問に応じ、ジョン氏、イ氏は補足のコメントをするという形となった。

 ハン氏は「マビノギ」のテクニカルデレクター出身で、およそ2年間「マビノギ」のディレクターを務めた。その後「マビノギ英雄伝」のライブマネージャーを務め、5月からディレクターに抜擢された。「マビノギ英雄伝」は共通するボスを導入したり、パラディン・ダークナイトのシステムなど「マビノギ」とのつながりを強くしてる。韓国でのサービス開始から1年半、「マビノギ英雄伝」はどのように成長しているのだろうか。



■ サキュバス、パラディン……「マビノギ」の要素がアレンジされて登場

「マビノギ英雄伝」のディレクターを務める韓国NEXONのハン・ジェホ氏
韓国ライブサービスチーム総括チーム長ジョン・スンウ氏
企画パート長のイ・ギュドン氏
「マビノギ英雄伝」のサキュバスの衣装を身にまっとったコンパニオン。後ろのベッドも作中をイメージしている

 「マビノギ英雄伝」は、北米では「Vindictus」というタイトルでサービスされている。韓国と同じ基本プレイ無料のアイテム課金制で2010年10月からサービスされている。「Vindictus」という名前は、“vindicate”と“us”を組み合わせた造語だという。vindicateは「正当化する、嫌疑を晴らす」という意味があり、ここにこの世界の人の想いを込め、「この世界から解放して欲しい」という祈りの意味を持たせたという。

 「マビノギ英雄伝」は「マビノギ」の過去の世界の物語であり、「マビノギ」の世界“エリン”は伝説上の存在で、天国のような世界だと考えられている。「マビノギ英雄伝」ではそのエリンを目指す人々の物語が描かれる。現在の世界から、理想の地へと進もうとする人々の想いを込めたタイトルということのようだ。また、北米では「マビノギ」という言葉になじみがないし、発音しにくいということで「Vindictus」というタイトルになったという。

 「マビノギ英雄伝」は北米で人気を獲得しているという。ソースエンジンによるリアルなグラフィックスと、アクション性の高いゲーム性が、先にサービスされている「マビノギ」よりも北米ユーザーの嗜好に合っているようだ。「マビノギ英雄伝」はゲームコントローラでもプレイ可能で、コンシューマーゲームになじみの深いユーザーにも受けているという。「それでもまだ、ゲームコントローラに対しての対応はまだ練り込みたいです。日本でサービスするときは、もっと操作しやすくします」とハン氏は語った。

 一方韓国では、サービス開始から1年半を迎えた。最初は大きな人気を博したが、その後コンテンツ不足を指摘され人気に影が差すこともあった。しかし現在は、積極的なアップデートを高く評価され、安定した人気を獲得しているという。新しくサービスが開始されたMOタイプの作品の中で、上位の人気だ。

 「マビノギ英雄伝」は、毎年年末に発表される「大韓民国ゲーム大賞」の受賞した。このことはハン氏、そしてNEXONにとってはかなりの自信になった。「私達のNEXON全体のタイトルで大賞を受賞したのは、『マビノギ英雄伝』が初めてなんです」とハン氏は語った。さらにシナリオやグラフィックスなどの多数の部門で賞を取ったという。

 ゲームに視点を移して気になるのが、「マビノギ」と「マビノギ英雄伝」は同じ世界を舞台にしているということだ。街の鍛冶屋は、「マビノギ」に出てくるファーガスというキャラクターだし、ゴブリンなどのモンスターにも共通の部分が見て取れる。そしてアップデートの中で、共通する要素をさらに盛り込む方向が強くなっていった。

 最近のアップデートでは、「サキュバス」、「グラスギブネン」という「マビノギ」ではお馴染みのボスモンスターが登場した。「マビノギ英雄伝」のサキュバスは口元を布で隠し軍隊の帽子のような物をかぶったセクシーな美女で、「マビノギ」のセクシーながらかわいらしいモンスターとは大きく異なる。今回ブースではこのサキュバスに扮したコンパニオンがいたのだが、彼女がサキュバスだと知って、驚かされた。

 グラスギブネンは「マビノギ」に近いデザインだが、さらに恐ろしく、不気味になっているという。巨大なボスで、アクションも多彩になっている。空も飛ぶようで、初めて見た人には、ものすごく恐ろしい存在に見えるだろうとのことだ。

 また、「パラディン」、「ダークナイト」という「マビノギ」のキャラクターの変身要素が、「マビノギ英雄伝」にも導入された。「マビノギ」ではパラディンの力を得た一部の人が、神への不信からダークナイトの道を選ぶ。メインストリームというクエストを進めて得る力だが、「マビノギ英雄伝」ではレベル40になると資格を得てパラディンとダークナイトのどちらかを選ぶという。

 「マビノギ英雄伝」のパラディンとダークナイトは「マビノギ」同様変身することで大きく戦闘力を増すことができる。制限時間があり、限られた時間だけ変身できる。クールタイムが設定されていて、変身できるのは1時間に1回だ。「マビノギ英雄伝」は街で仲間を募り、ダンジョンへ向かうMOタイプのゲームだが、1つのMOコンテンツは5分でクリアできるものから、1時間かかるものまで様々だ。変身をどのタイミングで使うかも攻略のポイントとなりそうだ。

 開発の方向性として、筆者には、サービス前にはもっと「マビノギ」とは全く違う世界観を構築しようとする印象があった。しかし現在は「マビノギ」の要素を積極的に取り込んでいる様に感じられる。方向転換などはあったのだろうか?

 ハン氏は「方向転換ではないですね。時間軸は違うけれども、世界は同じなので今後も様々な要素を取り込んでいきます。もちろん『マビノギ英雄伝』」ならではの要素をアレンジしていきたいと思います」と答えた。「マビノギ英雄伝」の今後の動向は、「マビノギ」ファンも注目したいところだ。

 




■ メインストーリーはもうすぐ1区切り。日本展開時には充実したコンテンツを

ロビーとなる船。色々な物が壊せる
剣の軌跡やキャラクターの表現など、「マビノギ英雄伝」はグラフィックスに強い魅力がある
巨大なボスとの戦いも本作のセールスポイントだ

 メインとなるエピソードでは、プレーヤーキャラクターは、傭兵として物語の地を訪れ、信頼を重ねていき騎士という地位を得るという。そしてエピソードの後半ではポウォールという魔族と人間の関係が重要になるという。「マビノギ」では神々が積極的に人間に干渉してきたが、「マビノギ英雄伝」は神はあまり出ず、人間と魔族の関係が、人間側の視点で語られていく。

 またプレイしていくことで、「マビノギ英雄伝」が「マビノギ」の世界の背景を語っていることに気づかされるという。魅力的なキャラクターもたくさん出てくるので期待して欲しいと言うことだ。

 ダンジョンの面白いギミックでは、細い通路を進むとき地面に糸が仕掛けられていて、其れを踏むと、左右から鎖につながれた丸太が振り子のように襲いかかって来る。パーティーで挑む場合は1人が丸太を押さえ、もう1人が鎖を切るといったことも可能だ。トラップはモンスターに踏ませて敵に大きなダメージを与えることも可能だという。各ダンジョンには様々な仕掛けがあり、これらを攻略していくのも大きな楽しさだという。

 また、最大30人で挑戦できるレイドシステムも実装されている。巨大ボスに争う様に、殴りかかったり、敵の攻撃に蜘蛛の子を散らすように逃げたり、大人数ならではの戦いが楽しめる。この他、ダンジョンへ向かうロビーにも仕掛けがある。ロビーは小船の形をしており、魚が吊されていたり、果物を置いてあるかごがあったりして、それらを攻撃して壊せる。ロビーでは、チャットして仲間を待つだけでなく、ちょっと暴れてみたりもできるのだ。

 昨今のオンラインゲームはソロ要素を強く求める傾向がある。しかし「マビノギ英雄伝」ではパーティープレイにこだわっていきたいという。パーティーの楽しさは大事にしていきたいとのことだ。ちなみにPvP要素もあり、現在は、1vs1での対戦と、5vs5の「キャプチャー ザ フラッグ」といったシステムも実装されている。また、マッチングシステムも搭載予定だ。

 今後は対戦で勝ったときの報償システムや、ランキングなども考えているが、現在の「マビノギ英雄伝」にとっては、あくまでゲームの幅を広げる要素だという。「対戦をメインとしたMOゲームでは『C9』がありますが、『マビノギ英雄伝』ではやはりパーティーの面白さ、協力プレイの楽しさを求めていきたいと思ってます」とハン氏は語った。

 今後の韓国での予定としては、エピソード9で一端物語に区切りがつき、「シーズン1」が終わるかもしれない、とのことだ。また、冬には「カイ」という弓を使う遠距離型の男性キャラが追加されるという。「マビノギ英雄伝」では、積極的に新キャラクターを投入することで、新規ユーザーの獲得を目指していくという。同じ戦略の「メイプルストーリー」では、新キャラクター用にスロットが追加されていくが、「マビノギ英雄伝」では検討中だという。

 「日本でサービスが始まる頃には、充分なコンテンツが準備できる予定です。またこれまでの経験と反省を活かしたサービスを行ないます。期待してください」。ハン氏の言葉の隅々から、日本でのサービスへの熱意が伝わってくる。現在日本でのサービススケジュールは「2011年内」ということだが、期待が高まってしまう。

 サービスを待っている日本のファンへのメッセージとしてイ氏は「長くお待たせしていますが、絶対楽しんでもらえる自信を持っています」。ジョン氏は「数十人で戦うコンテンツもあります」。ハン氏は「本作は、コンシューマーゲームユーザーにも楽しんでもらえると思います。オンラインゲーム初心者さんも見てください」と語った。


(2011年 6月 12日)

[Reported by 勝田哲也]