「NGF 2010」オーバークロックイベントレポート

Duck氏らが2GPU環境での世界記録を更新


4月10~11日(現地時間) 開催

会場:上海正大廣場 9階

入場料:前売30元(約400円)、当日50元(約700円)



オーバークロッカーのDuck氏

 「GEFORCE LAN / NVIDIA GAME FESTIVAL 2010(NGF 2010)」の目玉イベントの1つとして、新製品のGeForce GTX 480を使ったオーバークロックステージが開催された。

 このイベントには、日本のオーバークロッカーDuck氏と、地元上海のオーバークロッカー2名が参加。初日には来場者に向けたオーバークロックのレクチャー、2日目にはGeForce GTX 480を使ってシングルGPUでの3DMark Vantageの世界記録更新に挑戦した。いずれも対戦形式ではなく、3人が協力して行なうという、オーバークロックイベントとしては珍しいスタイルとなった。

 Duck氏はPentium 4の8.2GHz駆動など、これまでに数々の世界記録を打ち立ててきた世界トップクラスのオーバークロッカー。これまではCPUのオーバークロックを中心に取り組んできているが、今回はNVIDIAの招待を受け、GeForce GTX 480のオーバークロックにも挑戦した。




■ GeForce GTX 480で2GPUでの世界記録更新

 初日はレクチャーということで、CPUの液体窒素冷却の実演が行なわれた。環境は、CPUがCore i7-980X Extreme Edition(3.33GHz)、GPUはGeForce GTX 480。CPU上部に取り付けられた銅製のポットに液体窒素を注ぎ込んでCPUを冷却するという手法で、5GHzにオーバークロックした状態で3DMark Vantageを走らせて見せた。GPUもリファレンス状態ながらコア800MHz、SP(Stream Processor)1,600MHzにオーバークロックされ、計測中はDuck氏が液体窒素から出る冷たい蒸気をGPUファンに吸わせるという小技を見せていた。


レクチャーに使われたセット。CPU上に断熱材を巻いた銅製のポットが置かれているポットに-196度の液体窒素を入れてCPUを冷却するある程度冷却したところでBIOSのクロック設定や電圧設定を変更
起動したらクロックを確認して3DMark Vantageでベンチマークを起動ベンチマーク起動中、液体窒素の蒸気をGPUに送って冷やすDuck氏Core i7-980X Extreme Editionを軽々と5GHzで動作させてみせた

 記録を狙う2日目は、GPUにも液体窒素冷却を投入。GeForce GTX 480に細長い形状のポットを取り付けたもので、CPUと同様に上から液体窒素を注いで冷却する仕組み。

 作業はDuck氏が主にPCの操作を担当し、他の2人が液体窒素を注ぐなどの実作業を行なった。温度計を見ながら慎重に作業していたものの、なかなかセッティングが固まらず、3DMark Vantageの完走に至らなかった。そこでGPUを地元オーバークロッカーが持ち込んだ別のGeForce GTX 480に交換して再挑戦したところ、今度はGPUコアクロック1GHzの状態で3DMark Vantageが走り出した。しかし今度は温度計のセンサーが本来あるべき位置から外れてしまい、正確な温度が測れなくなってしまったため、残念ながら記録が出ないままステージを降りることとなった。

 この結果についてDuck氏に尋ねたところ、とにかく準備時間が不足していたという。本来こういったイベントでオーバークロックを行なう場合、事前に1日かけてテストを繰り返して最適なセッティングを探っておき、現場でそれを披露するというのが一般的だ。しかし今回はGeForce GTX 480という新製品だったこともあり、準備時間がほとんど与えられなかったことから、あたりをつけて1発勝負に臨んだものの、残念ながらうまくいかなかったのだそうだ。

 ちなみに最適なセッティングとは、電圧とクロックのバランスだという。電圧が低くても高くても正常には動作しない。そしてこれに適切な温度調整が加わって、最高のパフォーマンスを発揮するオーバークロックが実現される。

 「-196度の液体窒素を入れるだけなのに温度調整が要るのか?」と思うかもしれないが、実は温度が低すぎてもいけない。CPUには起動限界温度があり、例えば起動限界が-100度のCPUを-110度まで冷やしてしまうと、PCが起動しなくなってしまう。よって狙った温度に安定させることが重要になる。液体窒素はポットに注ぐとすぐに蒸発してしまうが、その分だけポットが冷えてCPUを冷却できる。温度計を見ながらポットに少しずつ液体窒素を注ぐことで、狙った温度で一定に保つというわけだ。


2日目はGeForce GTX 480も液体窒素で冷却した。GPUを冷却するため、黒いタワーのようなものが伸びている
1枚目はうまくいかず、2枚目にスイッチ。こちらも同様に上から液体窒素を注ぎ込んでいく。あふれ出る蒸気がすごい
途中、温度を何度にしようといった相談もあったりと、真剣な表情も見られた3人だが、うまく動作した時には揃って笑顔が見られたのが印象的。ちなみに右写真の猫はDuck氏のトレードマークだそうだ

 ともかくステージイベントは失敗したまま終わってしまったが、Duck氏らは引き続きステージ裏の別室で挑戦を続けることになった。ただしセッティングは変更し、GPUはGeForce GTX 480を空冷で2枚のSLI構成とし、CPUの液体窒素冷却は続けて、できるだけ高い3DMark Vantageのスコアを狙った。

 このセッティング中、CPUを1度は5.51GHzまでオーバークロックできたものの、長時間のトライでマザーボード全体が冷えてしまった。これによって何が起こるかというと、前述の起動限界温度が上がり、オーバークロックがしづらくなってしまった。それ以降はなかなか安定させて動かすのが大変そうだったが、最終的にはDuck氏が渾身のチューニングでCPUを5.3GHz、GPUをコア850MHz、SPを1,700MHzにそれぞれオーバークロックした状態で3DMark Vantageを完走。スコアはP39,182となり、11日時点で2GPU環境における世界最高記録をマークした。

 3人のオーバークロッカーは、ステージ上でも別室でも、とにかく楽しげに挑戦していたのが印象的だった。オーバークロックそのものは準備不足もあってうまくいかない場面が非常に多かったのだが、失敗を繰り返しながらも最良の設定を探り、うまく走った時には笑顔で互いを称えあっていた。世界トップクラスのオーバークロックが楽しげに行なわれている様子は、対戦形式でスコアを競い合うよりもずっと興味を持たせられる絵になっていた。


別室は急にアットホームな雰囲気に。ステージよりも時間をかけて調整でき、CPUクロックも徐々に上がっていった
最高5.5GHzまでCPUクロックをあげられたが、終盤は時間をかけすぎたことが逆効果となった。それでも2GPU環境で世界最高スコアを記録し、GeForce GTX 480の面目を保った



■ Duck氏ショートインタビュー

見事に世界記録を樹立した3人に、NVIDIAから記念の盾がプレゼントされた

 イベント終了後、Duck氏にショートインタビューができたのでお伝えしよう。

――今回のイベントに参加した感想はいかがですか?

Duck氏: 恥ずかしながらLANパーティーに参加したのは今回が初めてでした。もっとゲームを真剣にプレイしている様子をイメージしていたのですが、実際はネットカフェ気分で来られたような方も多くいらっしゃいました。日本でもここまで大規模なイベントには参加したことがないので新鮮でした。オーバークロックをやった感想としては、最後にうまく締めくくれてよかったです。次に繋がることが大事なので、結果がよければ、といつも考えてやっています。

――競い合うイベントではなく、3人一緒にやる形はよかったですね。

Duck氏: 私はああいう形であるべきだと思っています。30人、40人で競えば見ていて楽しいですが、3人だとどうかと思いますし、私以外は地元の方だったので空気的にどうかなと(笑)。これは楽しく次に繋げていくためにも、3人一緒にやったほうがいいだろうと思い、あの形を提案しました。他の2人ともコミュニケーションできましたし、私も海外とまた新たに繋がったので、オーバークロックのイベントとしてもよかったです。

――Duckさんにとってオーバークロックの楽しさはどこにありますか?

Duck氏: 楽しさは人それぞれです。安いものを買ってオーバークロックして、高いものを買う分の差額を得した気分になる、というのは私も最初はそうでした。最近はオーバークロックしてもパーツの安全機構が働いて滅多に壊れないですし、どこのパーツにもオーバークロックを奨励するようなセッティングが用意されていて、一種の文化になりつつあります。

 ですので楽しみ方としては、「OCGP 2010」のような大会に参加して、ゲーム感覚のオーバークロックを普段から薦めています。競い合う場所が増えてきましたし、勝っても負けても楽しいのです。誰でも自宅にいながら世界記録を狙えるわけですし、環境さえ整えば数カ月で世界チャンピオンになれたりするのも面白いと思います。競技であるオーバークロックを楽しんでいただきたいですね。

――何か読者に向けてメッセージがあればお願いします。

Duck氏: 「OCGP 2010」は賞品がすごいんですよ。私は審査員を務めているのですが、名前を変えて出たいくらいです(笑)。テレビやカメラなどもありますし、協賛社提供の賞品の数もかなりのものです。部門賞がいっぱいありまして、今日オーバークロックを始めた方が、PCをちょっと斜めに置いてみました、というだけでもツボにはまれば賞品がもらえます。アイデアで勝負できます。

 私は普段から地方巡業に行って、液体窒素をみんなに触らせています。オーバークロックの様子を見ていただければわかるとおり、3DMarkだったらグラフィックステスト1では-100度、次のテストでは-80度といったように、ルールを守って温度をキープしていかないとその場でPCが落ちてしまいます。初めてやったお客さんはすぐにはできないですが、何回か失敗しているうちに慣れてきて、そのうち面白がってくれます。ちなみに液体窒素は誰でもさほど苦労せずに購入できます。

 私は今、3Dのベンチマークに力を入れています。元から私はゲーム好きなのですが、オーバークロックとゲームの二束のわらじは履けなかったので、このイベントを機にまたゲームを勉強しようと思っています。今後はゲームとNVIDIAさんが絡んだイベントもいっぱいあると思いますので、ぜひイベントに来てください。私は今、フル水冷化されたモンスターマシンを安く提供できないかと思い、パーツを作ってショップで売っているので、そちらでゲーマーの方から意見をフィードバックしていただきたいと思っています。よろしくお願いします。


液体窒素を口に含んで蒸気を吹き出すDuck氏の得意芸。上海でも来場者から大きな歓声が上がっていた(注:危険ですので真似をしないでください)

(2010年 4月 12日)

[Reported by 石田賀津男]