「OGC2010」開催。キーワードは“ソーシャルゲーム”
“ソーシャル”が持つ可能性と魅力、従来のオンラインゲームとの違いとは!?

2月17日開催

会場:ベルサール神田



会場の様子

 一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)は、2月17日、「オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンス(OGC 2010)」を開催した。6回目となる今年のカンファレンスでは、ミクシイの代表取締役社長である笠原健治氏が基調講演「mixiのオープン化戦略」を行なった。他にもネットワークビジネスや、ソリューションに関する12の講演と、2つのパネルディスカッションが開催された。

 今年のカンファレンスでは、海外でのFacebookのブームや日本でのmixiアプリの盛り上がりを受けて、ソーシャルゲームやソーシャルサービスが大きな比重を占めた。このレポートでは、ビジネス&トレンドトラックで行なわれた講演を中心に、「OGC2010」の様子や開催された公演の概要をお届けする。



■ 基調講演はミクシィの笠原社長。時代はオンラインゲームからソーシャルゲームへ

基調講演を務めたミクシィ代表取締役社長 笠原健治氏
サイバーエージェント新規事業局局長アメーバ事業本部ゼネラルマネージャー、長瀬慶重氏
デジタルガレージTwitterカンパニー カンパニーEVP、佐々木智也氏

 今年のOGCでキーワードとなったのは「ソーシャルゲーム」だ。もともと欧米では数年前からそうした動きが広がりつつあったが、2009年10月のmixiアプリのサービス開始と共に、日本でもソーシャルゲームの時代が幕開けた。発祥地のアメリカでは、巨大な産業へと急成長したソーシャルゲームは、既に日本でも月の収益が4,000~5,000万円を超えるゲームが現われるなどブームを加速させている。ミクシィ笠原氏の基調講演では、ミクシィの取り組みやミクシィがデベロッパーに向けて提供している支援サービスなどについて紹介があった。

 また、「Twitter」や「アメーバブログ」、「モバゲータウン」、「ニコニコ動画」などネット上に現われている新しいコミュニティサービスについての講演が多く行なわれた。特に、今まさにビジネスが拡大中の「Twitter」を日本で運営する、デジタルガレージTwitterカンパニーのカンパニーEVP佐々木智也氏の講演には多くの聴講者がつめかけ、講演終了後にも名刺交換の長い行列ができていた。

 ネットブックやスマートフォンの流行、そしてオープンAPIが増えたことで環境が整い、今までのオンラインゲームに代わって低スペックでプラットフォームを選ばずゲームが楽しめる、ブラウザゲームやソーシャルゲームが大きく注目され始めた。今まで市場の独自色が強調されることの多かった日本だが、アメリカで流行している農場系ゲームが日本でも大成功を収めるなど、ソーシャルゲームに関しては国の違いによる差が少なく見える。

 日本で現在流行しているソーシャルゲームの多くは、中国やアメリカのデベロッパーが作ったもので、国内産ソーシャルゲームの動きはいまだ鈍い。だが、ビジネスチャンスへの感心が高いことは、今回のカンファレンスに多くの業界人が訪れていたことからも見て取れた。

 以下に、特にゲームと関わりが深い3つの講演を紹介する。同じネットワークを介したゲームでありながら、ソーシャルゲームとオンラインゲームがまったく違うものだということがよくわかっていただけると思う。


ミクシィの笠原氏による講演のスライド。「mixiアプリはコミュニケーションのために遊ぶことがモチベーションになる」と語った
「Twitter」についての講演では、海外のマスメディアや企業との提携事例も紹介された


■ MMORPGとソーシャルゲームの比較から見える、新時代の「ネトゲ廃人」とは?

ゲームディレクターの澤紫臣氏

 MMORPGの運営と、ソーシャルゲーム開発の経験を持つゲームディレクター、澤紫臣氏の講演では、「ソーシャルアプリによりオンラインゲームは『プレイ・ライフ・バランス』の時代へ」というタイトルで、「ソーシャルゲームはゲームじゃない!」という疑問を端緒に、オンラインゲームとソーシャルゲームの違いを、プレイスタイル、課金体系などいくつかのポイントから論証してくれた。

 澤氏は2003年から2009年まで「シールオンライン」など10を超えるオンラインゲームの日本でのサービスに携わった後、現在はPCや携帯機向けのソーシャルアプリなどの開発にも関わっているという経歴の持ち主で、オンラインゲームの中でも自身に関わりの深いMMORPGを例にあげてその差を論じた。

 MMORPGは、オンラインゲーム依存症から転じて俗に「ネトゲ廃人」と表現されるように、膨大な時間を投入することがプレイの前提となる。その一因として、MMORPGでは同時にログインしていない相手とはコミュニケーションをとることができないため、コミュニケーションを維持するためにある程度の時間ログインし続けなければならないという事情がある。また、そこで形成されるコミュニティは基本的にはゲーム内で完結しており、ユーザーはゲームを目的に集まってくる。

 それに対して、ソーシャルゲームは非同期型のコミュニケーションが可能なので、ログインする時間がまったく重なっていなくてもいい。また、ソーシャルゲームは既存のコミュニティを活性化させるツールとして存在するので、基本となるコミュニティは基本的にゲームの外に存在している。

 また、オンラインゲームは、ユーザーのログイン時間が祝日や学事歴などに大きく影響を受ける。そのため人が増える時期の前に大型のアップデートを入れたり、アイテム課金の新商品を入れたりすることでユーザーを刺激することができるが、ソーシャルゲームはその影響がほとんどないため、ユーザーを刺激するための周期を意図的に作る必要があるといったことも語られた。

 他にも、オンラインゲームでは、現実とゲームの間に自分の分身であるキャラクターというクッションがあるが、ソーシャルゲームではプレーヤーは本人自身なので、ゲームの中で本人を否定するような勝敗のつけ方をしないほうがいいといったアドバイスも、実際の事例を元に紹介した。

 最後に、このような比較を元に新しい「ネトゲ廃人」の姿を提示した。若干補足しておくと、澤氏の言う「ネトゲ廃人」は、依存症や生活破綻者のような病的なニュアンスは含んでおらず、単にオンラインゲームのコアゲーマー程度のニュアンスで使っているようだ。今まで「ネトゲ廃人」という言葉が表す人物像は、どっぷりとゲームに浸ってゲームの合間に生活をしているような長時間プレイをするプレーヤーのことを指していたが、新しい「ネトゲ廃人」は生活の隙間にゲームをするような人間になるのではないかという。ふと気づくと、いつも携帯を触っているような姿が、これからの「ネトゲ廃人」の姿になる。プレーヤーの生活のサイクルに合わせたゲームが、これからますます求められていくだろうという話で講演を締めくくった。


かなりの早口での講演だったが、それでも予定時間を大幅に超えてしまうほどのボリュームだった


■ ベクターの成長戦略は「オンラインゲーム事業」。その理由と経過を紹介

ベクター代表取締役社長 梶並伸博氏

 ベクターの代表取締役の梶並伸博氏は、「ブラウザゲーム国内本格参入」というタイトルで、ベクターがここ数年の間に行なってきたビジネスプランの変革について紹介した。ベクターはもともとアプリケーションのダウンロード販売を手がけるサイトをビジネスの中心にすえてきた。しかしブロードバンドの普及と共に、ソフトウェアは、パッケージをダウンロードして使用するという形から、ブラウザを経由して無料で使用するというサービスへ変化した。

 その変化を梶並氏はマイクロソフトの百科事典ソフト「エンカルタ」がwikipediaに取って変わられた例や、かつてパッケージとして販売していた路線検索ソフト「駅すぱあと」が各種のナビゲートサービスによってその役割を終えたことなどの事例で説明した。

 ダウンロード販売事業に危機感を覚え、新たな主軸事業として選んだのがオンラインゲーム事業だった。その理由として、すでにベクターが持っていた決済システムを使えること、ダウンロードサイトを使っている600万人の利用者がいること、大容量回線サービスを運営した実績があることなどを挙げた。現在は6つのオンラインゲームと、4つのブラウザゲームを運営している。収益は既に全売り上げの50%に及んでいるそうだ。

 これまでクライアントダウンロード型のオンラインゲームは韓国産が多かった。だが近年増えてきているブラウザゲームは、そのほとんどが中国産で、ベクターでサービスしている4本のゲームも全て中国産だ。中国本国では約300ほどのブラウザゲームがサービスされているが、そのうち3分の1は三国志をモチーフにしたゲームなのだそうだ。

 プラットフォームやOSを選ばず、ダウンロードやインストールの手間もなく、WEBブラウザさえあればどこからでも接続できるブラウザゲームは、クライアントサーバー型のゲームよりも残存率が高く、顧客の獲得に必要なコストも低く抑えることができるのだそうだ。

 また、現在世界的にシェアを増やしているネットブックでは、WindowsOSが起動する前に、Linuxで動く高速起動のランチャー「Instant On」が立ち上がるマシンが増えている。WindowsOSは、ランチャーのメニューから選択して起動することになるが、ブラウザやスカイプなどはWindowsOSを起動せずに使うことができる。そんな状況を見て、今後WindowsOS以外でも起動するブラウザゲームはシェアを伸ばしていくのではないかという。

 最後に日本は3G携帯が世界で1番普及しているというメリットをあげて、今後は国産の携帯電話向けブラウザゲームが、あわせると世界の7割を閉める北米、中国、EUのマーケットに切り込んでいくかもしれないという世界戦略の方向性を示した。


ベクターがサービスしている「ドラゴンクルセイド」は初の本格的なブラウザゲームとして話題をよんだ


■ オンラインゲーム事業者がMMORPGを語るパネルディスカッション

司会の、日本オンラインゲーム協会事務局長、川口洋司氏
ゲームポッド代表取締役社長の植田修平氏
ゲームオン取締役の萩原和之氏
コーエーネットワーク事業部オンラインサービス部長の渥美貴史氏

 講演の後には2つのパネルディスカッションが行なわれた。そのうちの1つは「コンテンツデザイン、収益、持続性。今改めて知る、MMORPGの魅力」と題され、ゲームポッド代表取締役社長の植田修平氏、ゲームオン取締役の萩原和之氏、コーエーネットワーク事業部オンラインサービス部長の渥美貴史氏がパネリストとして参加した。司会は日本オンラインゲーム協会事務局長の川口洋司氏が勤めた。

――MMORPGの成功の要因は?

植田氏: オンラインゲームの魅力の1つはライフサイクルが長いことです。2002年ごろにサービスが始まった「リネージュ」や「ラグナロクオンライン」はいまだにプレーヤーに遊ばれています。このプレイへのモチベーションを保って、プレイを継続してもらうために、マーケティングサイドは、プレイを続けてもらうためのタネを継続的にまかなくてはなりません。そのためには開発と運営との意識の共有が非常に重要です。例えばレベル10でユーザーが滞留してしまう。それはなぜかを解明して、開発に改変してもらうという非常に地味な作業を続けることで、長期のサイクルを作ることができるわけです。ただ、最近は同じようなタイトルがたくさん出てきて、その中で競争が起こっているので、必ずしもMMORPGのライフサイクルが長いとは言い切れない状況も出てきてはいます。

萩原氏: ゲームオンは海外のタイトルを日本に輸入してサービスしています。海外の方が日本より半年ほど早くリリースをするので、そこでの成功体験と失敗体験を参考にできます。ですから日本で展開する時に、失敗するリスクが少ないというメリットがあります。ユーザーはオンラインゲームの変化をするという部分を楽しんでいると思うので、年4回アップデートをするという約束を守り続けています。特別なことはしてなくて、地味にこつこつと続けて今に到っています。地味に見えますが、この当たり前のことがなかなかできない業界でもあるわけです。

渥美氏: 成功の要因として、ゲームコンテンツに起因するものには、MMORPGの持つコミュニティの強力さと、コンテンツの息の長さがあります。「大航海時代 Online」の場合は、多彩な生き方が可能になるため、その中で偏りが出ないように1回1回のアップデートでどの項目を強化するかを記録として残しつつ、開発と運営が協議をして決めています。

――運営スタッフのスキルが、MMOROGの売り上げに影響を与えることもあると思いますが、スキルを維持する会社としての仕組みはありますか?

萩原氏: ユーザの主な不満点を挙げると、不正行為をするユーザーと、既知のバグに対する反応のなさ、不安定なサービスに対してです。「Red Stone」の場合は、不具合への対処をサイト上で公開して、いつ直しますという説明をしています。

渥美氏: 複数のタイトルを運営していますので、チーム間でいかにやり方を共有していくかを重要視しています。オーソドックスですが、ロードマップを提示して、その後詳細なアップデートを提示してユーザーの期待を高めていくという方法を取っています。以前は、プロジェクトごとに打ち出し方や出す時期がバラバラだったので、なるべく共有化して全体的なスキルの底上げに勤めています。

植田氏: 1つ1つのゲームの個性が際立っているので、一見同じようなゲームに見えても奥深いところは突っ込んでいかないとわからない部分があります。それによって打ち出す企画やカスタマーサポートの方法が変わってくるので、そのゲームのスペシャリストを育てていかないと質の高いサービスはできにくいと思います。当社では、コンテンツごとのプロジェクトチームを作って、運営サイド、データベース周りの開発、デザイン、サポートなどをプロジェクトチームごとに分けて、1つ1つの質を上げていくという感じです。

――「天上碑」は2002年、「スカッとゴルフ パンヤ」は2004年、「大航海時代 Online」は2005年から続いていますが、始めた当初のユーザーは今でもプレイしているのですか?

萩原氏: 当社のタイトルがアイテム課金に変わったのが2005年ごろですが、その時に集まったユーザーは今でも残っています。ゲーム内にできたコミュニティに愛着がわいているのが、長続きしている理由ではないでしょうか。継続的な変化を約束しているので、ここにいれば何か刺激がもらえるということで続けている方がたくさんいるのでしょう。

植田氏: 「スカッとゴルフ パンヤ」はソロプレイが中心で、他のゲームに比べるとカジュアルですが、意外と初期から残ってくれているユーザはいてゲームを支えてくれています。しかし時間があれば強くなるというタイプのゲームではないので、最近入ってきた人にもなじみやすく、いい循環ができていると思います。

渥美氏: サービスを開始したころからプレイしてくれているお客様はそれなりにいますが、新規のユーザーも定常的に入ってきています。低価格で始められるスターターチケットを出したり、新規のユーザーがコミュニティを作りやすいよう強制的に参加する「スクールチャット」というチャットを用意したりした結果、新規でスタートするユーザーさんの数は維持されています。それと、1回ゲームをやめて、再び戻ってくる帰参の方が、アップデートに関わらず一定数いるのが、運営の会員数などから見て取れます。

――ソーシャルゲームについてどう思いますか?

植田氏: うちのスタッフにもオンラインゲームをやっている裏で、ブラウザゲームやソーシャルゲームで遊んでいる人がいます。本命はオンラインゲームだけど、その合間に遊べるということで、上手い形で共存ができるのではないかと思います。

萩原氏: オンラインゲームはとてもニッチなコンテンツで、敷居が高く手を出しにくいです。ソーシャルゲームやモバイルがその敷居を下げてくれるのではないかと期待しています。ソーシャルゲームから、ブラウザゲーム、そしてオンラインゲームへと来てくれればいいなと思います。

――2010年、ブラウザゲームはどうなると思いますか?

渥美氏: ブラウザを利用した簡便で敷居の低いゲームは遊ぶ側の視点から見ると魅力的でしょう。実際私も今1本はまっています。先日SNSに対するアンケートをとったのですが、よく利用するという人は2割程度でした。この2割という数字を多いと受け止めるかどうかですが、オンラインゲームで遊ぶ層とはいい感じにすみわけができていくのではないでしょうか。

萩原氏: 日本ではPCはほぼノートパソコンで、スペックが足りないせいでMMORPGで遊べないという人も多いと思います。スペックがそれほど高くなくても遊べるブラウザゲームは、そういった状況には最適のゲームだと思います。まだ具体的にはいえませんが、今後に期待していただければと思います。

植田氏: いまはネットブックが増えてきて、OSも今後どうなるかわかりません。ブラウザゲームは中国産のゲームが多いです。グローバルに日本市場を狙っているのが、韓国、中国、台湾ですが、この傾向は今年かなり顕著になっていくのではないでしょうか。


 現在、BOTやアカウントハック、ゲーム依存症など、オンラインゲームを取り巻く環境には様々な問題がある。それらの問題をまったく論じることなくMMORPGの魅力だけを語るというディスカッションのテーマは、少々現状にあっていないという印象を受けた。オンラインゲームが魅力のあるゲームコンテンツであることは誰しも認めるところだが、より多くの人にその魅力を正しく伝えるためには業界全体が現状を認識し、変えていく努力をしなければならない。業界にもそういった動きはあるが、残念ながら、ユーザーに伝わる形での広報活動が不足している。短い時間の中で語るには重いテーマかもしれないが、ぜひこういった機会に、問題に取り組む業界の姿勢を表明して欲しいと思った。


Copyright (c) 2010 mixi Inc. (c)OGC2010/sionic4029

(2010年 2月 17日)

[Reported by 石井聡]