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インディーの祭典「センス・オブ・ワンダーナイト2020」!世界中から集まった371作の中から個性的過ぎる8作のプレゼンテーション
2020年9月26日 01:28
東京ゲームショウの夜を彩る恒例のイベント「センス・オブ・ワンダー ナイト 2020(SOWN2020)」も、今年は完全オンラインで秋葉原のスタジオから放送された。このイベントは、誰もがはっとするような感覚、つまり「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームのアイデアを発掘することを目指して、インディーゲームの開発者に作品紹介やプレゼンテーションの機会を提供するというもの。今年で13回目を迎える。
今年は全世界から371作品の応募があり、その中から80作品が選ばれた。オンライン開催ということで、今までに応募がなかったような国や、ゲーム産業がないと思われているような国からも応募があり、最終的に日本から2作品、インドネシア、ポーランド、デンマーク、ペルー、スイス、カナダからそれぞれ1作品の8作品がファイナリストに選ばれた。このうち日本の2チームだけが会場からプレゼンを行ない、残りの作品はそれぞれの国からのプレゼンとなった。
毎年会場でゲームの評価に使われているピコピコハンマーを今年は使えないため、音の代わりに「ピコピコ」というコメントを残すというルールで行われた。審査員は同人サークル「神奈川電子技術研究所」の北山功氏、NPO法人オキュフェスの高橋建滋氏、TSUKUMOの執行役員で営業企画部長の駒形一憲氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平氏、東北学院大学の小林信重氏、GametapasファウンダーのJuan Gril氏、Videogame Ninja: TrusigaのRamon Nafria氏に、司会も務めるゲームジャーナリストの新清士氏を含めた8名。
視聴者が選ぶ「Grand Audience Award」は、視聴者のピコピコという書き込みを、新氏がアイボールセンサー(目)で判断して決定し、インドネシアのゲームスタジオToge Productionsが開発しているドット絵で描かれた2D横スクロールアドベンチャー「A Space for the Unbound」が選ばれた。各受賞作品は以下の通り。「Grand Audience Award」には賞金3000USDが、「Best Game Design Award」などの各部門賞には500USDが贈られた。
Best Experimental Game Award
タイトル:「Infini」
開発:Barnaque(カナダ)
Best Technological Game Award
タイトル:「Nimbatus - The Space Drone Constructor」
開発:Stray Fawn Studio(スイス)
Best Game Design Award
タイトル: 「ElecHead」
開発:生高橋(日本)
Best Arts Award
タイトル:「A Space for the Unbound」
開発:Toge Productions(インドネシア)
Best Presentation Awars
「カニノケンカ -Fight Crab-」
開発:カラッパゲームス(日本)
Grand Audience Award
タイトル:「A Space for the Unbound」
開発:Toge Productions(インドネシア)
サイケデリックな世界がクセになる「Infini」
カナダのBarnaqueによる、サイケデリックアドベンチャー。画面を見ただけでは一見何が起こっているのかわかりにくいほど難解でメッセージ性の高いゲームだ。ゲーム開始時、プレーヤーキャラクターは頭を下に向けて座り込んだようなポーズのまま、下に向かって落ちていく。
空間には壁があり、ぶつかると即死するので、左右に動かしてぶつからないように移動していく。ズームアウトとズームインで画面を大きくしたり小さくしたりすることで、行けなかった場所に行けるようになったりする。
このキャラクターは「希望」を擬人化した姿で、無限の世界であるInfiniを旅して、死やテクノロジーなど様々な概念を擬人化したキャラクターと出会いながら、世界の希望を探していく。
ストーリーは対話を元に進んでいくが、時系列で進んでいくわけではなく、ストーリーを組み立てていくこと自体がパズルになっている。動画を見ただけでも何が起きているのか理解するのは難しい。日本語は非対応だが、Steamにリリースされているので、興味を持った方はそちらでサイケデリックな世界を体験してみてはどうだろう。
「一目で好きになってしまいました。キャラクターといい画面と言い、いったい何が起こっているんだと。パズルとしては非常にシンプルで、頭と指を使わなくてはいけない。この作者が一体何を考えてこのタイトルを作られたのか、ぜひプレゼンを聞いてみたいと思っていました。今日、非常に奥深いコンセプトやストーリーがあると聞くことができて良かったです」(吉田修平氏)
Steamの「Infini」ページ
カニであるためにカニを極める「カニノケンカ -Fight Crab-」
日本のカラッパゲームスが開発しているカニバトルアクション。Nintendo SwitchとSteamでリリースされている。その名前の通り様々な種類のカニがツメや武器を手にバトルを繰り広げる対戦ゲーム。作者の大貫真史氏は、過去10年ほどずっと海産物のゲームを作っているそうだが、今作を作る時にキャラクターがカニである必然性を出すために、作者がカニの形に似ていると断言するJoy-Conにカニのはさみを連動させている。
ルールもカニに寄せて、ひっくり返ったあと3カウントで勝利する。カニは物理演算で動いているので、どんな風にひっくり返るかは毎回異なる。さらに、攻撃を受け続けるとひっくり返りやすくなるなど、ゲーム性も練られている。
武器もすべて物理シミュレーションで動くため、片手にジェットを持って高速回転しながら、反対側の手に掴んだ槍で攻撃したり、スクーターに乗って突撃しながら、鎖鎌を相手に絡ませてひっくり返したり、両手持ちの武器を縦横に振り回したりすることもできる。また一定時間すごい攻撃が可能になるハイパーモードで逆転を狙うこともできる。白羽取りや投擲武器もあり、カニと侮ることはできない多彩な戦い方ができる。現在は対戦大会も開催されており、かなりカニに近い人間も現われているということだ。
「大貫さんは2017年のセンスオブワンダーナイトでのAudience AwardとBest Technological Game Awardの二冠を取られている方で、戻ってきたという感じ。今回もシーフードがらみと言うことで、カニの喧嘩というコンセプトの面白さについ投票してしまったんですが、プレゼンを聞くと見た目だけではない面白い要素が詰まっていて、正直Nintendo Switch版を買うかSteam版を買うか迷っています」(高橋建滋氏)
Nintendo Switch版「カニノケンカ -Fight Crab-」のページ
Steamの「カニノケンカ -Fight Crab-」ページ
電気を通してパズルを解いていく「ElecHead」
日本の開発者生高橋氏による、電気を操って道を開くパズル&アドベンチャー。主人公は頭が漏電しているロボット。光がなくなった世界を舞台に、ロボットを操作して施設の奥を目指す。
ロボットは漏電しているため、床や壁などに触れるとそこに電気を通すことができる。電気を通すことで床を出現させたり、ヒントを得ることができるが、逆にプレーヤーの邪魔をするオブジェクトが活性化することもある。
ロボットは頭を切り離すことができ、身体は通電しないので、頭を切り離して電流が流れる危険な装置の上を歩いたり、頭を投げて床を出現したりと頭を上手く活用することで先に進むことができる。
「ファミコンでも動きそうだなという内容。しかも触るだけで動くというアイデアは今まで聞いたことがない。今まで衝突判定のプログラムを何回も書いてきたが、思いつかなかった。30何年も誰も思いつかなかったアイデアを掘り起こしてきたような感じがした。ゲームのアイデアはもう彫り尽くされているように言われることもあるが、みんなが置き忘れているアイデアがあるなと思った。スペックがなくても遊べるアイデアを過去に遡って自問自答した。私もこれを見習って画期的なアイデアを考えていきたい」(北山功氏)
「エレキヘッド」配信ページ
プログラミング教育もできるドローン作成ゲーム「Nimbatus - The Space Drone Constructor」
スイスのStray Fawn StudioがSteamにローンチしている、ドローンを作って様々なミッションをこなし、宇宙を探検するというアクションシミュレーションゲーム。様々な惑星や銀河を探検し、資源を探索したり競争や宇宙の秘密を解明するようなモードもある。
だが本作の魅力はなんといっても自由度の高いドローンの構築だ。単なる宇宙船ではなく、パックマンのようなLEDをアニメーションさせながら土を食べて進んでいくドローンや、ドローンの中でニゲームや格闘ゲームを遊べるものなど、アイデア次第で多様なドローンを組み立てることができる。
組み立てにはプログラミング学習の面もあり、教育用のツールとしても活用できる。ユニットのアイデアは常にコミュニティから寄せられており、電卓を作ったり、○×ゲームを作ったり、スケルトンの巨大ロボを作ったりと、ドローンで自己表現をすることができる。
「プログラミング教育で子どもたちがどういったことをすれば、興味を持ってハマるのかなと考えているが、このゲームを使ってプログラミングをしながらいろいろなものが作れるのであれば、楽しめるんじゃないかなと期待しています。グラフィックスも非常にきれいで目を引かれます。大人の私が見ても楽しそうなので、非常に期待しています」(駒形一憲氏)
Steamの「Nimbatus - The Space Drone Constructor」ページ
https://store.steampowered.com/app/383840/Nimbatus__The_Space_Drone_Constructor/
ゴミだらけの海から資源をかき集めてサバイバル「Trash Sailors」
ポーランドのfluckyMachineが開発している海洋冒険アクション。ゴミだらけの海を漂流するいかだに乗って、拾ったゴミをプロセスマシンで資源にして、エンジンや電気などを作り、船をカスタマイズしていく。船はダメージを受けると沈み始めてしまうので、障害物やサメ、ワニなどを避けながら進まなくてはならない。現在はビジュアル面も含めて全体をブラッシュアップしている段階。
本作は最大4人でのマルチプレイが可能で、狭い船の上を4人のキャラクターが落ちないように立ち回りつつ、分担して作業を行い生き残りを目指す。まだまだ開発中で、今後いろいろなモードも搭載することを検討しているそうだ。現在はSteamでデモ版をダウンロードすることができる。
「リソースやタスクの分配や取捨選択はゲームの一大ジャンルだと思っています。このゲームはその新しい切り口になると思っていて、非常に期待しています」(高橋建滋氏)
Steamの「Trash Sailors」デモ版ページ
https://store.steampowered.com/app/1132030/Trash_Sailors_Play_The_Demo/
宇宙船の中で繰り広げられる人狼型ADV「First Class Trouble」
デンマークのInvisible Wallsが開発している3Dアドベンチャーゲーム。レトロな豪華客船を思わせる宇宙船の中でAIが人間に敵として立ち向かってくる。生き残った乗客の中には2人のサイボーグ「パラソノイド」が混じっている。プレーヤーは豪華客船の暮らしを味わいながらも、死につながるトラブルを回避しつつ、ソーシャルスキルを使って2人のサイボーグを見つけ出さなくてはならない。
本作は2人のサイボーグと人間に分かれて騙し合う、マルチプレイの人狼型アドベンチャーゲーム。現在はアルファテストの段階で、まだリリース日は決まっていない。対応は現在のところは英語のみ。
「信じたり騙したりをみんなで楽しむタイプのゲームで、プレイしていても、実況してもすごく楽しいと感じました。いまは日本語版がありませんが、出してもらえれば日本でも大ヒットしそうだなと思いました」(小林信重氏)
Steamの「First Class Trouble」ページ
https://store.steampowered.com/app/953880/First_Class_Trouble/
ペルーの神話をモチーフにしたアートなパズル「Arrog」
ペルーのLeap Game Studios and Hermanos Magiaによる、神秘的なパズル・アドベンチャーゲーム。線画で描かれた繊細で色味を押さえたゲーム画面は、「Infini」に負けず劣らず個性的だ。
本作のテーマは「死」。死の意味を考えるという哲学的なテーマをパズルと組み合わせている。プレーヤーは死んでしまった男の夢の中に入って、彼を導いていく。
ゲームのアートを考えるうえでは、ペルーの神話をベースにしており、伝統的なひょうたん彫刻であるマテ・ブリラドに描かれた線画など民族的な要素をゲームに盛り込んでいる。ペルーでは欧米文化の影響が強いが、本作はペルー独自の思想や価値観を感じるゲームとなっている。
「今回のセンス・オブ・ワンダーナイトには世界中の開発者から応募があったが、特にこの作品はペルーの人がペルーの神話を元に考えていて、音楽が素晴らしい。アートと音楽とストーリーが、言葉ではなく映像で語られる。シンプルなパズルで誰でも最初から最後までプレイできる形で短い時間で堪能できる作品に仕上がっている。世界のいろいろな人がゲームを通じて自分たちの文化を世界に発信できる。それがゲームと言うメディアの成熟に繋がっているんだとすごく感動することができた」(吉田修平氏)
Steamの「Arrog」ページ
インドネシアのボーイミーツガール「A Space for the Unbound」
インドネシアのToge Productionsによる横スクロールタイプのアドベンチャーゲーム。90年代後半のインドネシアの小さな街を舞台にしたドット絵の横スクロールアドベンチャー。物語を書くのが好きな少年アトマと、超能力を持った少女ラヤの関係を描いたゲーム。
2人は将来を約束した中で、卒業を心待ちにしているが、卒業の日に世界は終わりを迎えてしまう。少年には魔法の本を使って人の心に入るという能力があり、その力を使って、問題を解決しながらストーリーを解決していく。
インドネシアのジェンキーという建築様式や、屋台、コンビニなどインドネシアの風景がゲームの風景として登場する。高校生たちの学校生活も、インドネシアのリアルな生活を再現している。開発にあたっては新海誠氏の映画や多くの洋画からインスピレーションを受けている。また日本の漫画からも影響を受けている。特に新海誠氏の影響は、画面からハッキリ感じることができる。
プレーヤーはアトマになって、街にいる人やものにインタラクトしながらストーリーを進めていく。途中街にいる猫をなでるのは、物語上非常に重要な意味を持っているそうだ。鮮やかな色使いのドット絵の風景は、異国だがどこか懐かしさを感じる。
英語版はSteam、PS4、Xbox One、Nintendo Switchで来年発売される。現在はプロローグバージョンをSteamでプレイすることができる。日本でのパブリッシャーも決定しており、日本語でも遊ぶことができそうだ。
「ピクセルアートのゲームが大好きです。作った本人が新海誠の名前をだしていたので、私も非常に大好きなので、グラフィックスの美しさに目を引かれた。ストーリーも、少年と超能力が使える少女ということで完全に王道なストーリーという感じもします。個人的にも発売が楽しみなゲームです」(駒形一憲氏)
「A Space for the Unbound」プロローグバージョン
https://store.steampowered.com/app/1201280/A_Space_For_The_Unbound__Prologue/