【特別企画】

クリエイターの視点から見たプレイステーション 5の全体像

発売時期、AMDベースのアーキテクチャ、そしてPS4との互換性。ようやく見えてきた次世代機像

4月16日発表(米国時間)

 4月16日(日本時間の4月17日)、プレイステーション 4とPlayStation Vitaのリードアーキテクトとしても知られるゲームクリエイター、マーク・サーニー氏は、米メディアWiredのインタビューに応じ、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、「SIE」)の次世代ゲームコンソールについて言及した。同記事は、すでにWiredの日本語版にも翻訳が掲載されている。

 本稿では、クリエイターの視点から同インタビューの内容を紹介するとともに、ゲーマーとゲーム開発者の誰もが待ち望む次世代ハード(名称には言及されていないが、おそらくはプレイステーション 5)について、筆者独自の視点から予測していきたい。

CES2019のAMDキーノートでのゲームデモ

 マーク・サーニー氏のインタビューから分かることは、大きくわけて次の3つだ。ひとつ目は、PS5のリリースは2019年ではなく、2020年以降になるということだ。2019年内の発売を思わせる情報も飛び交っていたが、どうやらその線はなくなったようだ。

 ふたつ目は、ハードウェア性能に関することで、AMDの7nmプロセスルールで製造されるZen 2アーキテクチャのCPUと、リアルタイムレイトレーシング(以下「RT」)をサポートするNaviアーキテクチャの次世代GPUが採用される。RTベースの立体音響もサポートされ、またSSDも搭載される。

 AMDの現世代Vegaアーキテクチャの次の世代のGPUということで期待が膨らむが、Naviアーキテクチャについて、実は7nmプロセスルールで製造されるということ以外、AMDからはめぼしい情報が出ていない。AMDによるRTへの取り組みは、NVIDIAの後塵を拝していることから、はたしてそれがNaviのリリースに合わせて投入されるものなのか、またNaviのウリとして位置づけされているものなのかはわからない。RT性能についてもまったくの未知数だが、立体音響とともに期待が持てる。SSDに関しては、価格が大幅に低下していることもあり、何らかの形で採用されるとみていいだろう。

 3つ目は、PS4に対する互換性が保たれるということだ。アーキテクチャの大幅な変更が行われたPS2とPS3の間での世代交代では、互換性維持のため、初期のPS3ではPS2を内蔵しているも同然の状態でコスト高になってしまった。また、同様に大幅なアーキテクチャ変更でPS3、PS4間でも互換性が失われることになってしまったが、ほとんどx86互換のPCとアーキテクチャ的な違いがなくなったPS4の延長線上にあるPS5では、互換性が保たれるようだ。

 残念ながら価格についての言及はなかったが、サーニー氏の発言は以前から国内外の多くのメディアでなされてきた予測とおおむね一致している。発言通りのスペックが過去のプレイステーションフランチャイズのローンチ価格、4万円程度で実現するとなると、かなり魅力的なハードだと言えるだろう。

CES2019で第3世代「Ryzen」チップを掲げるLisa Su氏

 ソニーブランドのプロダクトには、常に新鮮な驚きが求められる。そこでマーク・サーニー氏のインタビューの情報に基づいて、もう少し踏み込んだところで「プレイステーション 5」がいったいどんなハードになるか予測してみたい。

 まず、ハードウェアの中心部分は、AMDの7nmプロセスルールのx86互換APUで間違いないだろう。このあたりは、PS4世代からPCアーキテクチャのいいとこどりができている部分で、十分に枯れたアーキテクチャを採用することでコンソールに求められるコストダウンが実現できる。

 Ryzen以降のAMDのCPUは好調が続いており、PS5もこの恩恵を少なからず受けることになるだろう。CPU、GPUともに、すでに7nmプロセスへの移行を進めているAMDなら、同一ダイにCPUコア、GPUコア、RTコア等をプロセスすることも、マルチダイで構成されるAPUパッケージにダイ単位でCPUダイとGPUダイを含めることもできるし、ゲームコンソールにちょうど良いバランスのカスタムAPUが実現できそうだ。

 さらに欲をいうなら、ダイを積層してHBM2に相当するVRAMまでをも同一パッケージに含めることができれば、PS2世代のような特徴的なAPUが実現できるだろう。ただ、大容量のVRAMとなると難しいかもしれない。

 RTに関しては、NVIDIAのRTXの現状から考えると、そこまで大きな期待は禁物だ。ただし、マルチプラットフォームでRTを積極活用したゲームを開発しているスタジオにとっては、プラットフォーム間での差異を最小化できるため歓迎されるだろう。

【Playstation 5を占うAMD製品】
CES2019で公開された2019年のAMD製品からPS5の性能が見えてくる

 次に、ハードウェア全体感としては、拡張性とコストダウンの両方の意味で、PS5を構成する各ユニットを大胆にオプション化する可能性が考えられる。タワー型のPCはともかく、NUCや手のひらサイズの小型PCなどでは、光学メディアを内蔵しないのが一般的だ。

 Blu-rayディスクドライブを搭載しなければ小型化はかなり容易であるはずだから、これは十分に考えられる選択肢だ。マーク・サーニー氏は引き続き光学ドライブをサポートする、としていたが、時代の変化に伴ってダウンロード販売や、ストリーミングゲーム、VODによる映像コンテンツの視聴が主流になりつつある現在、光学メディアを標準搭載するメリットはあまりない。仮にオプションにしてもUSB経由で接続可能なら十分だ。

 SSDの採用については、ゲーム体験を向上させるのに非常に有用だ。光学メディアが採用されるようになってから、ゲームのローディング時間は大幅に低下した。HDDが搭載されるようになり、ストリームローディングを駆使することで随分と改善されてはいるが、ROMカセットの時代と比較して、待ち時間が長くなっている事実に変わりはない。

 ただし、大容量のSSDとなるとまだまだ高価であるため、この部分については、ハイブリッドSSDやその類似技術が採用される可能性もあるだろう。USB-CやリムーバブルなSATA HDDスロットが搭載されるなら、内蔵SSDの容量が少なくても許容できる。

 オプション化が進むとすると、本体サイズの小型化も進むだろう。ソニーのデバイスといえば、ウォークマンの昔から小型で高性能というイメージがある。PS4から、また一歩進んで、かつてのVAIOやXPERIA、BRAVIAに期待されるようなスタイリッシュな外観で差別化を図るかもしれない。

GDC2019のSIEブース。PS5で4KやHDRへの対応は進化するのか

 さらにモダンな進化といえば、ディスプレイ出力のワイヤレス化が考えられる。PS5本体をAmazon FireTV Stickほどの大きさにして、テレビのHDMI端子に挿しておけるほど小型軽量にするというのは、さすがに現実的ではないだろうが、超小型のビデオレシーバーをテレビに接続して、本体はフリーアドレスとすることには、一定のニーズがあると考えられる。すでにゲームストリーミングやWIFIでディスプレイ出力を飛ばす機器も存在することから、遅延を最小化しながらディスプレイをワイヤレス化するのは、それほど難しいことではないだろう。

 まだまだ未知数な部分が大きいPS5だが、次世代のコンソールとしては、順当な進化を遂げたものになると考えられる。PS2ではDVDプレイヤー、PS3ではBlu-rayプレイヤーとしての活用が、リリース直後の普及を牽引したことからも、ゲーム機としての性能より、ゲームだけではない、新しいリビングルームでの活用シーンの提案が訴求のもうひとつの柱となるだろう。

 今年SIEはE3への不参加が明らかになっていることから、近いうちに詳細な情報が発表されるとは考えにくいが、夏のGamesconや秋の東京ゲームショウ、あるいはSIE単独のイベント等で情報が公開される期待はある。好調が続くPS4への悪影響を避ける意味もあり情報公開のタイミングは慎重に判断されると思われるが、そこまで遠くない将来に何らかの情報が出てくるだろう。PS5には筆者の予想をいい意味で裏切る驚きを期待したい。