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中野サガット率いる「チーム中野」奮戦せり! 「CEO 2018」参戦レポート

オオヌキ選手が見事2冠を獲得。「SF」シリーズのレジェンド達は如何に戦ったか!

【CEO 2018 FIGHTING GAMES CHAMPIONSHIPS】

6月28日〜7月1日開催

 米国フロリダ州デイトナ・ビーチにおいて、6月28日〜7月1日に「ストリートファイター」シリーズのeスポーツ大会「CEO 2018 FIGHTING GAMES CHAMPIONSHIPS」が行なわれた。

 この大会にチームで参戦した一団がいる。ゼクサス eスポーツ事業部事業部責任者、中野貴博氏率いる「チーム中野」のメンバーたちだ。

 中野氏は、中野サガットの名前で、1993年に開催されたカプコンオフィシャルの「ストリートファイター2ターボ」の全国大会優勝者。彼をリーダーに、加藤義文(Foo助)、大貫晋也(オオヌキ)という合計3名の「ストリートファイター」シリーズのレジェンドプレーヤーでチームを結成し、CEO2018に参戦した。いずれも過去に名声をあげたレジェンドばかりだが、チーム中野として活動するのはこれが初めてだ。

 結果はというと、「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」において、決勝のdamdai選手との激闘を繰り広げたオオヌキ選手が優勝し、また、中野サガット選手が4位、Foo助選手が7位タイを獲得し、3名全員がファイナル(TOP8)に残り、全員入賞を果たす。また、オオヌキ選手が「STREET FIGHTER III 3RD STRIKE」(以下 3rd)において、圧倒的な強さを見せて優勝し、同大会で「ストリートファイター」シリーズ2冠を達成した。

 今回筆者はチーム中野の技術スタッフとして大会に同行し、選手達の活動を間近で見守ることができた。ゼクサス及び中野貴博氏が、どのような経緯を経てこの結果を成し得たのかをお伝えしたい。

【チーム中野】
左から筆者、中野サガット選手、オオヌキ選手、Foo助選手

【参加選手の略歴】
中野貴博(中野サガット):1993年に開催されたカプコンオフィシャルの「ストリートファイター2ターボ」の全国大会優勝者。決勝大会は国技館で行なわれ、決勝大会の参加人数は6,000名を超え、「ストリートファイター」シリーズのeスポーツの起源とも言われる。

加藤義文(Foo助):ゲーメスト杯、「スーパーストリートファイターII X」の全国大会優勝者。「ストリートファイターII」コミュニティー創成期に活躍したプレーヤーであり、ヨガストライクバッカーズの総帥。多くの「ストリートファイター」関連の書籍に携わり、現在はゲーム関係を中心としたライターである。

大貫晋也(オオヌキ):現在でも多くのゲームイベントで活躍中のプロゲーマー。ゲーメスト杯「ストリートファイターZERO2」の全国大会を14歳で制する。その後、「闘劇08」では、「ハイパーストリートファイターII」で優勝。「EVO2008」では「SUPER STREET FIGHTER IIX」で優勝するなど、「ストリートファイター」シリーズに止まらず、多種の対戦格闘ゲームで結果を残してきた。

「ストリートファイター」シリーズを集めたeスポーツ大会「CEO 2018」

 CEO(Community Effort Orlando)とは、2010年にスタートしたフロリダ州オーランドで開催される対戦格闘ゲームイベント。2014年からカプコン主催の「Capcom Pro Tour(CPT)」のメジャー大会の1つとなっている。競技種目とエントリー人数は以下の通り。

【CEO 2018競技種目一覧】
Super Smash Bros. for Wii U (679)
Super Smash Bros. for Wii U Doubles (125)
DRAGON BALL FighterZ (663)
Street Fighter V: Arcade Edition (568)
Super Smash Bros. Melee (440)
Super Smash Bros. Melee Doubles (86)
TEKKEN 7 (356)
Injustice 2 (160)
Guilty Gear Xrd REV 2 (159)
UNIST (112)
DDR Extreme Pro (111)
Super Street Fighter II Turbo (95)
Marvel vs. Capcom: Infinite (93)
Street Fighter III 3rd Strike (91)
Killer Instinct (83)
Pump It Up Prime 2 (47)
The King of Fighters XIV (45)
Capcom vs. SNK 2 (44)
Fighting EX Layer Side Tournament (42)

 見ての通り、「ストリートファイターV」以外にも無数の格闘ゲームがラインナップされており、かつて中野氏が優勝したスト2のシリーズタイトルも含まれることから、最初にeスポーツの選手として参加するイベントとして、これほど最適なイベントは無いと考え、スケジュール的に急ではあったが、参戦を決定したようだ。

実はトラブル続きだった「チーム中野」。アトランタ空港で足止めを食らい、車でフロリダへ

 今回、チーム初参加にして結果を残すことができた「チーム中野」だが、実は大会に参加するまでに様々なトラブルに見舞われた。実はあと少しで参加すら危ぶまれる事態だったのだ。

左からオオヌキ選手、Foo助選手、中野サガット選手

 当初の予定では、成田空港を6月28日に出発し、アトランタ空港を経由して、会場最寄りのデイトナ・ビーチ空港までたどり着く計画で、CEO開催前日の6月28日に現地入りする予定となっていた。ところが、実際にフロリダ州デイトナビーチに到着したのは6月29日深夜になってしまったのだ。

 最初のトラブルは、飛行機の乗り継ぎに失敗したことだ。成田空港からアトランタ空港までの約12時間のフライトは非常に順調だった。機内で時差ボケ対策も兼ねた時間つぶしに、Foo助選手がアナログカードゲームの「ドミニオン」を準備していた。彼らは「ドミニオン」に興じながら機内を快適に過ごした。

機内で「ドミニオン」に興じるレジェンド3人。この後、起こる事件を彼らはまだ知らない。

 アトランタ空港に到着すると、入国審査に時間が掛かり、チーム中野の一行は2時間近く待たされ、その後、我々が搭乗予定の便も大幅遅延。搭乗口前で待っていると、出発予定時刻に近づく度に、出発時刻が20分ずつ繰り延べされることが繰り返された。そのまま数時間待たされ、出発時刻が深夜0時をまたぐところで、搭乗予定便の出発時刻が突然翌日の朝7:00に変更となった。このことを知った中野サガット選手は顔が青ざめた。

 現状把握と今後のことを空港職員へ問い合わせを行なったが、円滑な意思疎通が取れず時間だけが過ぎて行き、深夜2時を過ぎたところで、空港内で一泊することを決意。しかしながら横になるスペースとしてソファーを確保できたのは2人分ほど。空港内とはいえ外国ということもあり、防犯の意味も考え、交代で仮眠を取り、出発の時間までは5時間もあることから、起きている面々は再び「ドミニオン」をプレイして時間をつぶすことにした。

飛行機の遅延が決定したところで、空港内の飲食店が閉店する前に食事を確保する。
本ミッション中2回目のドミニオン。筆者は初プレイ。

 空港内で夜を明かし、出発時刻近くになって再び搭乗ゲートに向かうと、出発予定の便がなんと「欠航」になっている。欠航となったことで、他の便の空席待ちの状態となるが、オーランドは米国人が週末を過ごすことで知られる有名な観光地だ。今から空席を確保することが不可能に近い。

 デイトナ・ビーチ空港行きの便は午前中に2便ほどあったため、一応、抽選に参加したが、結果的に2便とも抽選に漏れてしまい、チーム中野一行は空路での移動を諦め、タクシーでアトランタ空港からデイトナ・ビーチ空港まで8時間かけて移動することを決定。デイトナ・ビーチ空港で荷物を確保し、ホテルにチェックインすることができたのは、6月30日の午前2時頃であった。

 日本を出発してから、シャワーにも入れず、ベットで横になることもできなかった面々であったが、翌日のことも考えて、5時まで練習をし、仮眠を取ることにした。長時間の移動と、寝床を確保できなかったことは、全員の体力に大きく影響していた。翌日からスタートした予選ラウンドの行方が心配されたが、チーム中野はトラブルの影響を感じさせない快進撃を見せたのだ。

【急遽車で移動へ】

チーム中野、「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」予選プールを順調に勝ち進む

 さて、無事CEO2018に参戦が叶ったチーム中野だが、エントリーの内容はメンバーによってバラバラだった。

 中野サガット選手は「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」と「ストリートファイターV AE」の2種目、Foo助選手は「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」のみ、オオヌキ選手は「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」、「ドラゴンボールファイターズ」、「STREET FIGHTER III 3RD STRIKE」の3種目にエントリーした。

野試合で調整する。中野サガット選手

 チーム中野として唯一全員が出場する「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」は、当時彼らが伝説を作ったシリーズタイトルであり、勝ちたいタイトル。目標は全員のファイナル(ベスト8)出場だ。

 「SUPER STREET FIGHTER II TURBO」予選プール初日はCEO2018のDay2に開催され、8つの予選プールとTop24→Top8までが行なわれた。3人は午前中に行なわれた予選プールに参戦した。

TwitchにてLIVE配信された予選プール

 CEO 2018では、各種目でライブ配信が行なわれていたが、全試合を配信することはできないため、運営の判断で視聴者が観たいであろうプレーヤーの試合を、配信台に呼びこんで行なっていた。今回、日本から来た3人の「スト2」レジェンドを配信台に誘導するというのは必然だったのだろう。

 中野サガット選手は、予選プール初戦でリングネームである「中野サガット」を意識してかSサガットを使用。Sサガットは、グランドタイガーショットを多用して場を支配する立ち回りがセオリーであるが、初戦のリュウ使い相手には、アケコンの感触を確かめるように多様なムーブを見せていた。

 ヒヤリとさせられたのは、2戦目のバルログ戦である。中野サガット選手は春麗を使用し、開始から盤石の立ち回りで2セット連取するも、相手がバルセロナアタックを有効に使用し始め、逆に2セットを奪われ追い上げられてしまう。最終セットはバルログ使いが、春麗の鶴脚落の処理を誤り、中野サガット選手が勝利した。

【中野サガット選手】

 一方のFoo助選手は、前夜の練習中に「昇龍(昇龍拳)が出ない。マシンガンコンボが安定しない。ヤバい」としきりにつぶやいていたが、大会当日の予選プールでも同様のようで、対空のジャックナイフマキシマムや、めくりからのコンボや連携のつなぎをミスすることが多く、何度も首を傾げたり、苦笑いを浮かべていた。しかし、試合運びとしては非常に冷静で、相手の動きが良く見えており、相手の行動を咎めるように技を置き、その中で、自分の動きを確かめるように立ち回る余裕を感じられる対戦で勝ち上がった。

【Foo助選手】

 オオヌキ選手は、予選ラウンドから無類の強さを見せた。午前中に3rdの予選プールを通過し気持ちができ上がっていたのかもしれない。気功拳を主軸にした連携、スーパーコンボゲージが溜まってからの千裂脚プレッシャー、相手の起き上がりに上り鷹爪脚で踏みつけなどなど、「スト2」の春麗が行なえる魅力的内技の数々を繰り出し、対戦相手を圧倒してみせた。

 予選プール中の試合ではミスも幾度か見られたが、致命的な場面を生むようなミスはなく、危なげない試合運びで勝ち進んでいた。前日までに遭遇した様々なトラブルで疲労困憊、睡眠不足であったはずだが、結果を残せる強さに筆者は驚いていた。

【オオヌキ選手】

Top24→Top8。アメリカの強豪達がいよいよチーム中野に牙を向ける

 Day2夕方になり、ファイナルに進むTOP8を決めるトーナメントに入った。中野サガット選手の相手はディージェイ使いのAfro Legends氏。Foo助選手の相手は、Sリュウ使いのdamdai選手。実はこの2人のプレーヤーは、渡航前、日本のプレーヤー達の間でも話に上がっていた海外の強豪だった。中野サガット選手が関西の「スト2」プレーヤーに聞いていた情報が「Afro Legendsとdamdaiは本当に強いから気を付けた方がいい」とのことだった。

 実際に彼らは強かった。中野サガット選手もFoo助選手も負けてLosersに落とされた。2人が負けてチーム中野に戦慄が走る。Afro Legends選手もdamdai選手もキャラクターの動きにまだ余裕が見られる。間合い管理や置き技の選択の良さなど、強い「スト2」プレーヤーの特徴が随所に見られた。両名は「彼らの強さは本物だ。3先で倒すには相当厳しい」と感心していた。

 その後、中野サガット選手とFoo助選手は、気持ちの切り替えができたようで、Losersを共に勝ち上がりTOP8に残ることができた。そうした中、オオヌキ選手は、チーム中野で唯一WinnersトーナメントでTOP8入りを果たす。

 「1人だけでもファイナル進出に送り込みたい」という思いがチーム内にあっただけに、結果的には3人ともファイナルに進出したことは、「大変満足のいく結果が残せた」と、中野サガット選手は満足そうに語っていた。

※1 3先:1バトルを1セットと見なし、3セット先取制の進行

チーム中野としては、TOP8に3人残って、当初の予定のファイナル進出を決め喜びを隠せない

戦いが続くオオヌキ選手。圧倒的強さで「3rd」のチャンピオンに輝く

 オオヌキ選手は、先述したように今回3タイトルにエントリーしていた。「ドラゴンボールファイターズ」は、29日の予選プールに間に合わず不戦敗という結果に終わってしまったが、残る「3rd」は、闘劇でも優勝経験もあるオオヌキ選手にとっても思い入れのあるタイトルだ。

 我々がオオヌキ選手の「3rd」の試合を観戦して驚いたのが、やり込みから生まれた圧倒的な強さである。海外勢の動きも決して悪いものではないことは、「3rd」に精通していない筆者であってもわかったが、オオヌキ選手の春麗の動きは、彼らの動きを遙かに上回るものであった。強い差し技、不用意な技に対する大ダメージ確反(確定反撃)、ヒット確認からのスーパーアーツ。対戦中に見せる数々の対策に、筆者は見惚れてしまっていた。危なげなくWinnersから上がったオオヌキ選手は、グランドファイナルも3縦し、優勝を勝ち取った。

優勝の喜びをTwitterで報告するオオヌキ選手

オオヌキ選手「3rd」優勝の祝勝会は翌日の「スト2」の作戦会議へと変わる。

 会場からホテルへ戻る途中のレストランでは、オオヌキ選手の「3rd」チャンピオン及びチーム中野3人の「スト2」ファイナル進出のお祝いを兼ねたプチ祝勝会を行なっていた。

 祝勝会の始めは勝利の喜びに満ちた会話で盛り上がっていたが、徐々に明日行なわれる「スト2」の作戦会議に変わっていった。ファイナルに残っているプレーヤーは皆強かったが、XリュウのTOMO選手とSリュウのdamdai選手とディージェイ使いのAfro Legends選手の話題が1番多く見られた。その中でもdamdai選手に関しては、波動撃ちの上手さと、リバーサル昇龍の精度の高さが驚異的であると皆が語っていた。

 Foo助選手と中野サガット選手は、ファイナルの初戦で対戦することが決定していたが、Foo助選手はそのことには気にも留めていないのか、今日の対戦や日頃の対戦から感じていることを踏まえて、中野サガット選手に色々アドバイスを送っていた。

【プチ祝勝会】
3rdチャンプのオオヌキ選手を祝う。プチ祝勝会。初めてまともな食事にありつけるチーム中野

Top8を楽しむ中野サガット選手とFoo助選手。2人の戦いは歓声に包まれる

 早朝練習を終え、大会会場に訪れた筆者は、大会会場内を見て驚いた。中央にプロレスの会場の様にリングが設けてあり、対戦者はここでプレイするように机や椅子、モニターなどが設営されていた。入場口と思われる場所に背後には大きなスクリーンがあり、花道はレッドカーペット。運営スタッフも大幅に増えて本格的なショーが始まることに胸が躍るのがわかった。

【ファイナルで激突する2人のレジェンド】
対戦が楽しそうなレジェンド2人

 Top8の第1試合は「Afro Legends vs damdai」。前日の食事会で話題の中心だった2人である。この対戦を観戦中にオオヌキ選手が「決勝にはリュウが上がってきてほしい」とつぶやいた。筆者がリュウが上がってきてほしい理由について質問をすると「Sリュウはわからない部分もあるけど、Xリュウと根本的な対策は同じなはずだから、戦いやすいのは間違いなくリュウ」と語った。なるほど、確かに自信のある組み合わせに近いキャラが残ってほしいのは当然だといえる。しかし前日のSリュウの動きを考えると筆者レベルでは厳しい戦いを強いられるようが気がしてならなかった。結果はAfro Legends選手が3タテでdamdai選手を下し勝ち上がる。

 3試合目は「ZEXUS Foosuke vs ZEXSUS NakanoSagat」。入場曲に「魔法少女まどか☆マギカ」を採用し、振付付きでレッドカーペットを歩き、試合前からアクセル全開のFoo助選手。対する中野サガット選手の入場曲は、映画版「ストリートファイターII」のテーマソング。1993年の国技館大会優勝者に贈られたジャケットを羽織り、記念大会に花を添えようと頑張っている。2人が入場を終え、チーム中野として2人がファイナルトーナメントで配信に同時に映し出される光景をみて、中野サガット選手がCEO2018の出場を決めてからの日々の練習や奮闘を思い出すと、筆者の目頭が熱くなった。

【Foo助選手入場】

 キャラクター選択画面が会場に映しだされるが、なかなかキャラを選択しない2人。リング場を見るとお互いに「早くキャラを選択しろ!」とお互いにアピール合戦。先ほど込み上げていた感情が吹き飛び、思わず吹き出してしまった。会場内の観客も気付いたようで笑い声が上がる。時間制限ギリギリのタイミングで、中野サガット選手がSサガット選択。それに合わせてFoo助選手が「被せキャラ ダルシム」にカーソルを合わせるも最終的にディージェイを選んだ。「スト2」コミュニティー内ではサガット不利の周知の組み合わせを見せる演出に笑いが盛り込まれていた。

 対戦は一進一退の攻防を繰り広げたが、Foo助選手がグランドタイガーショットをスーパーコンボで2度抜けて1セット目を取る。勝利リザルト画面中にFoo助選手は席を立ちあがり場内の観客に右手を大きく振ってセット取得をアピールした。中野サガット選手は、立ち上がったFoo助選手の腰にツッコミを入れてアピールを阻止。会場からも笑い声が上がり盛り上がっていく。

 2セット目は中野サガット選手が春麗を選択。盤石な立ち回りで危なげなく1ラウンドを取ると、ラウンドを失ったFoo助選手が、またもや行動を起こす。ラウンド間でありながら、プロレスで見られる「首切りポーズ」を中野サガット選手に行なう。これには不意を突かれた中野サガット選手が驚きの表情で笑顔を見せ、会場にも笑いが起こる。

 2ラウンド目も中野サガット選手がしっかり取り1セット取り返す。中野サガット選手がお返しとばかりに首切りポーズ。その後お互いに爆笑をして次戦に進む。会場の観客達も彼らのやり取りに歓声を上げ楽しんでいた。筆者自身も「楽しそうだな。私もあの場所で同じように楽しみたかった。2人がうらやましい」と感じた。

 その後の2戦はFoo助選手がケンとディージェイを投入するも中野サガット選手からセットを奪うことができず、中野サガット選手の勝利となった。Foo助選手のアドリブから始まったお互いのアピール合戦は、大会会場を温かい空気に変えて盛り上げた。

 その後、ルーザーを勝ち上がった中野サガット選手はオオヌキ選手が倒したIFM TechnicalMonkey氏と対戦し、2:2でもつれたが最終セットを取って勝利し、次戦がAfro LegendsによってLosersに落とされたdamdai選手と対戦することになる。

 damdai選手を警戒していた中野サガット選手は初めから春麗を選択し全力で挑むことにしたようだ。実際にdamdai選手は強かった。昨日見た印象よりもさらに強くなった印象を受けた。春麗を画面端に追いつめてからの波動連打、甘い飛び込みは、高精度のリバーサル昇龍or振り向き昇龍で迎撃。返し辛い鶴脚落も昇龍で追撃。気功拳には飛び込み強キック波動で画面押しをやってくる。リングサイドで見ていたFoo助選手も「起き攻めダメだって! 効かないって!」と大きな声でアドバイスを送っていた。damdai選手のSリュウは、中野サガット選手の春麗に何もさせず試合を決めてしまった。

 残るオオヌキ選手は、Afro Legends選手に1セット取られたのものの、そのまま3セット取り返して、Winnersファイナルを制した。

 Losersファイナルでは、初戦で行なわれた「Afro Legends vs damdai」がLoseresファイナルで再び行なわれた。先ほどの戦いから何か修正できたのかdamdai選手が連続でセットをとる。あとが無くなったAfro Legends選手が1セット取り返したものの、最後はdamdai選手のSリュウの的確な波動に苦しめられてdamdai選手の勝利となった。

 グランドファイナルは「Onuki vs damdai」。オオヌキ選手が望んだリュウVS春麗対決。先ほどオオヌキ選手が戦い方が分かっていると言ってくれた組み合わせとなったが、「リュウに勝ち上がってもらいたい」と言ったオオヌキ選手にはもう1つの思いが込められていた。筆者につぶやいてくれたもう1つの思いとは「『ストリートファイター』シリーズは主人公のリュウと春麗が強いことが大事だよね」である。オオヌキ選手は、優勝が懸かった大事な1戦を前に、勝つか負けるかということよりも、ゲームである「スト2」を本当に楽しんでいるんだと感じたつぶやきだった。

 渡航前から、「スト2」も「3rd」も準備を積み重ねてきたと自負していたオオヌキ選手。会場に到着するまでに気力も体力も、トラブルによって削られている状態で、満身創痍であっただろう。そんな状態であっても最高のパフォーマンスを維持し、グランドファイナルまでたどり着いた彼を精神力に感服していた。

激闘のOnuki vs damdai。会場内が日米対決の空気に変わり大歓声の応援合戦となる。

 グランドファイナル「Onuki vs damdai」戦は、中野サガット選手の春麗を完封したdamdai選手に期待を寄せるアメリカ勢と、ファイナル出場の半分を占めた日本勢の思いが会場の雰囲気を作り出し、日米対決の様相を呈していた。

 まず、何が起こったわからなかったのはオオヌキ応援団だ。オオヌキ選手は、damdai選手から1セットも奪うことができず3タテされLosersに落ちてしまう。damdai選手の猛攻でストレート勝ちした勢いを受け俄然盛り上がるdamdai応援団。

 最終戦となった3先。まず先制したのはdamdai選手。前のセットの勢いのままに1セット得る。次戦は、オオヌキ選手の春麗の行動がdamdai選手のリュウに噛み合いだし、2ラウンド目はパーフェクトで1セット取り、次のセットも立て続けにもぎ取り2:1となって、オオヌキ選手が優勝にリーチをかける。

 4セット目。後がないdamdai選手。冷静に試合を運び、1ラウンドを得る。その後、オオヌキ選手が直ぐにラウンドを取り返し、優勝まで後1ラウンドというところまで、damdai選手を追い詰める。迎えた第3ラウンド。お互い読み合いのところから、オオヌキ選手が立て続けに投げを2回通した後、百列をガードさせ、体力を3分の1まで削った。後がないdamdai選手だったが、冷静に細かい読み合いを制して劣勢をひっくり返して最終セットまでもつれ込んだ。

 最終セット。1ラウンド目から体力のシーソーゲーム。食らい投げ、ガー不空中竜巻、相打ちファイヤー波動、相打ち強K対空、歩き千裂脚、中足差し替えし……。まさに「スト2」の魅力が凝縮された攻防が繰り広げられ、タッチの差でオオヌキ選手がラウンドを取り、優勝に再びリーチをかけた。2ラウンド目も再び繰り広げられる「スト2」バトル。1ラウンドと同じくシーソーゲームとなる中、オオヌキ選手が、リュウの目の前で鶴脚落を不用意に出してしまう。そこをdamdai選手が見逃さず超反応で昇龍拳で対空し、ラウンドを取り返す。

 お互い優勝をかけた最終戦が始まった。会場内は応援合戦が最高潮にヒートアップ。技が当たるたびに歓声と悲鳴が交錯する。最後のラウンドまで続く体力のシーソーゲームの中、オオヌキ選手が削りを見越した千裂脚を出した際にdamdai選手は瞬時に反応してバックジャンプ強Kを当て、そのまま飛び込み強Kを繰り出し、オオヌキ選手に対空相打ちを取らせる。damdai選手のリュウの体力は6分の1、オオヌキ選手の春麗の体力は数ドットとなった。相打ちになって降りてくるdamdaiリュウの着地位置に、オオヌキ春麗がすかさず間合いを詰めるが、何もしない。その行動につられて着地リバーサル昇龍を出してしまうdamdai選手。リュウの昇龍に春麗の中足を刺した後、百裂脚の先端をヒットさせ、オオヌキ選手の大逆転勝利となった。

 会場から沸き起こる大歓声の中で、オオヌキ選手は、喜びの表情と、何かを噛み締めたような笑みを浮かべながら、右手拳を高々と上げて優勝の喜びを表現した。壇上に並ぶチーム中野のレジェンド3人。そしてリングサイドから送る仲間からの祝福の声援。チーム中野は大きな困難を乗り越えたことで、大きな感動を共に味わうことができた。

【勝利を喜ぶオオヌキ選手】

【健闘をたたえ合うチーム中野】

中野貴博氏から見た。今回のCEO2018参戦

 最後に、中野サガット選手に今回の大会参加について感想を聞いたところ、下記の回答を頂いた。

「eスポーツの大規模な大会に実際に参加したことでeスポーツの楽しみ方というのを肌で感じることができたことは大きな収穫でした。eスポーツをWEBで観戦することも十分に楽しいですが、実際に現地に赴いて参加することで、参加者同士のコミュニケーションであったり、大会を会場で見知った選手を応援するというような、二次的な楽しみ方も非常に重要であることを実感でき、今後の事業部の運営にも大きな影響を与えると思います。

ビーチで喜びを表現する。チーム中野

 大会全体を振り返っても本当に楽しい時間でした。ファイティングゲームのコミュニティーを、ここまで盛り上げたきたアメリカのゲーマー達に、感謝の言葉を送りたい。一方で、参加者としてチームという形で参戦する場合、事業としての責任なども加わると、今回のようなトラブルに見舞われた際に、選手もスタッフも大きなストレスがかかることが大きな問題になることを認識できました。特に海外の大会になると、起きたトラブルに対して、リカバリーなどの対処が非常に難しく、これからチーム運営を行なう上で、しっかり準備しなければならないことも多くあることを学ぶことができました。

 今回のチーム中野プロジェクトは、大成功だったと思います。はじめはCEOの参加は、中野1人か、または2人程の少人数で視察程度の予定でしたが、Foo助選手とオオヌキ選手が参加することで、「スト2」部門の大会は非常に盛り上がったし、自分自身も高揚感に満ちた状態で参加することができたので、このような良い結果が生まれたように思います。今回のトラブルも含めてチームの運営に対して、チームメンバー各々の活躍があったからこそ成功を収めることができたと確信があります。チーム力の大切さ痛感させられた大会でした。次回の大会参加も、チームを組んで参加できるよう、準備を整えようと思います」。

James Chen氏とJebailey氏両名との記念撮影

eスポーツの経験から対戦格闘ゲームコミュニティのすばらしさを再認識

 筆者は今回初めてeスポーツの世界大会をチーム中野として参加し、たくさんの経験を積むことができたことに感謝している。

 今回の大会に「チーム中野」として参加したことで、チームの選手達との一体感を感じることができた。ただの知り合いで一緒に参加するということではなく、チームとして動くことで、応援や練習はもとより、手荷物の管理や写真撮影など、細かい部分の連携を取ることができ、選手1人1人の負担が軽減できている実感もあった。そういった協力体制で試合に挑むため、勝利の喜びを共に分かち合えたということも大きい。チーム参加は、個人種目であったとしても、eスポーツ競技に挑戦する選手にとって力となる重要な要素の1つであると思う。

 また、LIVEの配信の重要性についても再認識させられた。CEOの配信アーカイブを見直して感じたのは、チーム中野や日本人の選手達に対して、LIVE配信の視聴者から多く応援者の声があったことを知った。日本から挑戦する選手達に向けてチャット欄で温かい声援が送る日本の視聴者が何人も見受けられた。筆者のような無名の選手であってもLIVEで声援を送ってくれる「スト2」仲間がいることを再確認でき、自分の対戦動画を見直すつもりがチャット欄に釘付けになり目頭が熱くなった。LIVE配信は会場の熱気を伝え、視聴者から選手へ応援の気持ちを伝える最高の手段の1つであると改めて感じさせられた。

 最後に、大会全体で感じたことは、大会運営者や対戦相手も含めて筆者に関わったすべての人たちが、非常にフレンドリーだったことだ。問題が起きたときにも親身になって対応してくれたり、大会で敗戦した後にもフリースペースで野試合に誘って頂くなど、多くの喜びを与えてもらった。筆者の拙い英会話にも嫌な顔1つせず対戦について語り合う経験ができたことは、非情に新鮮だった。彼らの積極的な交流姿勢は、ゲームをより楽しいアイテムにしてくれた。筆者は恥ずかしがり屋な部分があり、人に話しかけることが苦手なタイプだが、自分が関わる対戦格闘ゲームのコミュニティーを広くしたいのであれば、今回交流できた海外のプレーヤー達にならって積極的な行動に出る努力が必要だと分かった。

 CEOの参加は筆者にとって非常に大きな経験であった。対戦格闘ゲームのコミュニティーは、非常に素晴らしいものに成長していたことが喜ばしかった。CEOのような大きなイベントを運営してくれる各国のゲーマー達に感謝し、彼らがこれからも楽しいイベントを成功させることを願っている。また、チーム中野のスタッフとして関われたことを、本当に感謝したい。筆者も、今後、対戦格闘ゲームコミュニティーの発展に、微力ではあるが何かしら貢献できることを探してみようと思う。