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Googleインスタントアプリでゲームプレイ導線を強化

アンドロイドゲームはこの冬大きく様変わりするか!?

3月19日~24日開催

会場:Moscone Center

Google Playゲームビジネス開発部門ディレクターのPurnima Kochikar氏

 GDC2018初日の19日(現地時間)より、GDCの一環として、Googleは例年通り開発者向けに「Google Developper Day」と題して複数のセッションを行なっていた。なかでも、Googleのセッションの冒頭を飾る基調講演では、Googleのゲームアプリに対する本年の取り組みを、先行テストに参加している有力コンテンツプロバイダの事例を通じて紹介した。

 本年の下半期には、どうやらAndroid デバイスでのゲープアプリのプレイの流れが、大きく様変わりしそうだ。開発者のみならず、Android デバイスを愛用するゲームプレーヤーに幅広く影響を与える変化であるため、ここでご紹介しておきたい。

アメリカ地域ゲームマーチャンダイザーのトップ、Mark Vela氏

 今回の基調講演で発表された最大の目玉は、Google Playストアへの「TRY NOW」(お試しプレイ)ボタンの追加にあると言っていい。なんだ、その程度かと侮ることなかれ、2016年5月の最初の発表以来、現在も行なわれている先行テストでは、本機能を有するゲームアプリのゲームリスト画面でのクリック率は、TRY NOWに対応していないゲームより、25%以上もクリック率が良く、お試しプレイしたプレーヤーの30%が実際にフル機能のアプリをインストールし、19%以上プレーヤーの獲得率が伸びるというから驚きだ。

 このTRY NOWに対応するために、開発サイドでは、フル版に加えて、インスタント版を用意しなければならない。これはGoogleから別途提供されるインスタントアプリ用のフレームワークを利用して開発するもので、ゲームプロジェクトのほとんどは共通のもので済ませることができるが、インスタント版とインストール版の双方をビルドしなければならない。

 インスタント版は、Google Playのモジュールとして実行される。フレームワークを利用し、一定のお作法にのっとったアプリにする必要があり、10MBのサイズ制限とバックグラウンド実行の禁止といった機能制限があるものの、ゲーム性やキャラクター性に差異がない埋もれてしまいやすいアプリにとって、マーケティング主導で、じゃあまあやってみましょうか、ということになりそうな話だ。

 現在も依然として、早期プログラムに登録して、Googleからの承認の連絡を待つしかなかったインスタント版開発へのアクセスが、時期は明確にされなかったものの、本年のうちに、すべての開発者に対して公開される。

【インスタントプレイ導線】
インスタントアプリのリードプロダクトマネージャー、Jonathan Karmel氏

 では、プレーヤーの立場からみて、この新しいインスタント版と従来からあるインストール版では、いったい何が違うと言うのだろうか。答えは、シンプルで、アプリのデバイスへのインストールがなされないこと、この一点に尽きる。

 実際問題、大して遊ぶかどうかわからないアプリを、Wi-Fi環境でダウンロードするのはいいとして、そのままストレージの肥やしになるのは嫌なものだ。モバイル環境しかない人にとっては、100MB近くあり、さらにアプリ起動後に独自の追加データをダウンロードするアプリが多いため、ダウンドード自体も敬遠するだろう。これらの要因から、心理的にダウンロード、そしてインストールにブレーキがかかり、楽しさが不確定なゲームはスルーされる傾向にあったと言えるだろう。

 インスタントアプリであれば、ストレージに死蔵されてしまうことはなく、アプリの初期サイズも10MB以内であることが保証されていることから、既存のインストール版より気軽にお試しプレイができそうだ。プレイした上で、そのゲームを気に入ったのなら、インストール版をダウンロードすればいいし、まだ分からないと思うなら、そのままインスタント版でお試しプレイを続ければいいのだから、以前よりずっと気が楽だ。

 話を開発者側に戻すと、インスタント版への対応は、従来のアプリサイズ4MB制限から10MBに拡張されたこと、実行後の追加データをプログレッシブダウンロードに逃がすことができるようになること、すべて自前でアプリを作るためのNDKのみならず、Unity、Cocosといったゲームエンジンのサポートが追加されたことは朗報だ。

 実際、Androidのゲームアプリの60%以上は、なんらかのゲームエンジンを利用して製作されていて、「Unityでできないんじゃ対応したくてもできないよ」、「今さらCocos抜きでどうやれと?」などと、マーケッターの懇願を跳ね除けていた開発者も、この機にインスタント対応せざるを得ない状況になるかもしれない。

【インスタントプレイ対応ゲーム】
Zombie Gunship Revenant AR
Bubble Witch 3
Panda Pop
Google Play インスタントのプロダクトマネージャー、Benjamin Frenkel氏

 一方で、多くのゲームアプリケーションでは、すでにプレーヤーの導入を促すために、巨大サイズの初期ダウンロードサイズとはせず、アプリが独自に起動後にデータを追加ダウンロードする仕様にしていることも多い。この意味においては、すでに自前でやってます、ということになり、インスタント版をも提供することに大したメリットはない。

 ただし、TRY NOWボタンがPlayストアに現われることで、あらかじめプレーヤーにプレイまでの時間を短縮する努力をしていますよ、と公明正大に伝えることはできる。今まではダウンロードしてみなければわからなかったわけだから、この記号がつくのはメリットになるだろう。このことに加え、先にも触れたように、インスタント版はストレージにインストールされないことから、プレーヤーに対して、お試しプレイしてもストレージを圧迫しませんよ、とインストール版だけでは実現できなかったメリットを訴求することができる。

 一方のデメリットは何かと言うと、逆が真で、せっかくプレーヤーがリーチしたのに、すぐにインストールさせてしまえないことに尽きる。Playストアの欲しい物リストにプレーヤー自身が登録してくれる期待はあるが、インスタント版が当たり前になったとき、果たして自己のゲームを気軽にお試ししてくれるかどうかは未知数だ。最悪のシナリオでは、1回お試ししただけでもういいや、となってしまい、それなら今までのようにインストールしてもらったほうがまだマシだ、ということにもなりかねない。

 こればかりは、コンテンツ力やゲームジャンル、フリクエンシーをどういった形でどの程度要求するデザインなのか、といった部分も大きく関わってくるため、ああでもないこうでもないと予測にすぎない議論をするより、実際にインスタント版を製作して効果測定をしてみるほうがいいだろう。

 インスタント版を提供する選択肢も、提供後やめてしまう選択肢も、最初から提供しない選択肢も、ゲームパブリッシャー側にあるわけだが、多くのゲーム提供社にとって、やらない選択肢はないだろうから、今冬から来年の年明けぐらいまでには、少なくとも提供割合的には、インスタント版提供ゲームが過半数になると予想する。その後どうなるかは別の話で、反動が起こるのか、そのまま隆盛を極めるのかは予想がつかない。

【インスタント導入で変化する画面】
インスタント版をすでに提供しているパートナー各社

 最後にGoogleのメリットは何か。Googleはゲームに対するプレイ料金の回収で大きな収益を上げているわけだから、いかなるゲームでもお試しプレイされ、首尾よくインストールされ、そしてしっかりお金を使ってくれる可能性が高まるなら、損になることは一切ない。

 長く実施してきたテストにおいて、セキュリティ上の問題や、ゲーム提供社からの要求は、おおむね集約して、その結果としての今回のアップデートだろうから、本施策に自信を持っていると考えられる。

 その他のフィーチャーとして伝えられた広告や、ソーシャルとの連携は今さらだし、なによりGoogleが自前でゲームに強いソーシャルメディアを持っているわけでもなんでもないから、まったくもってピンとこない。むしろインスタント版には、他の自社コンテンツへの誘導も含めて、アプリ内への広告の禁止、外部へのメッセージングの禁止をして、没入阻害要因なしとしたほうが、良いのではないかと思う。ますはインスタント版にリーチしたプレーヤーに、そのゲームを気に入ってもらうこと。話はそれからだ、という気がする。

 すでに気に入ってのめり込んでいるプレーヤー、すなはちインストール版に移行したプレーヤーには、ある程度広告を配信しても許容されるだろうし、友達に積極的に伝道してもらうためのソーシャル連携も、プレ-ヤーの利害と一致するだろう。

 もっとも、オンラインサービスである以上、Googleによって継続的に効果測定が行なわれ、より効果を持つように変更されていくのが常だから、これで半永久的にインスタント版の仕様が固まったわけではない。まずは、幅広いコンテンツへの導入を期待しながら、今後1年くらいのAndroidゲーム市場の変化に注目していきたい。

【開発環境の変化】