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【特別企画】ゲームミュージックを使った演奏会でもっとゲーム音楽を楽しもう!
どうすれば個人でコンサートを開けるのか? JASRACに直接聞いてみた
2018年3月8日 12:00
ゲームカルチャーが熟成し、日本ではポピュラーな存在になっているゲームミュージックコンサート。近年ではゲーム専門のオーケストラも誕生し、自分が好きだったゲーム音楽をコンサートホールで気軽に楽しめるようになってきた。ゲームミュージックを主体にするバンドも増えてきており、プロアマ問わず、関東、関西を中心に大きな盛り上がりを見せている。
ゲーム音楽の演奏会、コンサート情報のポータルサイト[2083WEB]
http://www.2083.jp/concert/
筆者は地方在住で自営業を営んでいるが、学生時代の吹奏楽の仲間と一緒にゲーム音楽を使った演奏会を、自分達で開催出来ないかと考えるようになってきた。
しかしながら、ほぼすべてのゲームミュージックは、著作権の保護期間に含まれ、ゲームメーカーが権利を保持している。複数社に権利がまたがっていたり、死蔵されていたりなど、権利関係が複雑なこともあり、実際に公演を行うとなると、筆者のように、どのような手順で行うのか、何から調べていいのも分からない方もいるのではないだろうか。
そこで筆者は「JASRACに楽曲利用料を払って、演奏会を開けばいいのでは?」と考えた。一般の演奏者がJASRACに交渉するというのはあまり聞いたことがないし、敷居が高い行為だが、JASRACは、多くの楽曲の著作権を管理しているJASRACの管理楽曲を使用することで、一般人でも、演奏会が開けるのではないかと考えた。
今回はJASRACに対して直接取材を行ない、一般演奏者がもっと気軽に演奏会が開催するための方法論を確立することができればと考えている。なお、今回、JASRACへの取材の中で、楽曲利用申請に関しては、様々な分類が必要があることはわかったが、今回は「ゲームミュージック演奏会」だけに絞って説明する。
まずは知りたい。1回の公演会ごとのJASRAC管理楽曲の利用料
演奏会を開きたい演奏者たちにとって1番知りたいのは、いくら掛かるのかということだろう。これはJASRACの規定によって明確に定められている。
演奏会における楽曲利用料は、下記の計算式となる。
【JASRAC管理楽曲の利用料】
(1)公演1回ごとの使用料総入場料算定基準額(入場料×定員数×80%)×5%+消費税相当額
(2)1曲1回5分までの使用料
総入場料算定基準額(入場料×定員数×80%)×0.5%+消費税相当額
※演奏楽曲数分加算。
※楽曲の演奏時間に対し、5分を1曲(単位)として、5分毎に曲数が加算される。
(例)演奏時間6分30秒の楽曲は、2曲と換算する。
上記(1)か(2)のいずれか少ない額
楽曲利用申請の手順等は後述するが、楽曲利用料に直接関係する項目は、
・入場料
・定員数
・楽曲数
である。演奏会の演目が10曲を超えてくる公演になると『(1)の公演1回ごとの使用料』が少ない額になることが多い。JASRACからのアドバイスでは、楽曲利用料の概算見積りは、担当地区の支部へ電話でも受けられるとのこと。
実際に演奏会のプログラムを組んで楽曲利用料の概算
計算式だけではピンとこない人も多いと思われるため、具体例を挙げてみたい。まず、一般的なコンサートホールの規模と、ゲームミュージックコンサートのセットリストから、平均的なプログラムを組んでみる。
◇公演会場定員【200名】※座席数
◇チケット料【1,000円】※平均
◇公演時間【100分】
◇使用楽曲(楽譜、音源)
【吹奏楽によるドラゴンクエストI 50分48秒 (CD番号:KICC-6337)】
楽譜:http://www.gakufu.co.jp/products/suisougaku/DQ/DQ1/
音源:http://www.gakufu.co.jp/products/cd/KICC-6337/
・演奏曲目
「ドラゴンクエストI」より
1. 序曲(4分)
2. ラダトーム城(3分40秒)
3. フィナーレ(2分30秒)
「ドラゴンクエストII」より
4. 遥かなる旅路〜広野を行く〜果てしなき世界(6分)
5. 恐怖の地下洞〜魔の塔(3分50秒)
6. 聖なるほこら(1分40秒)
7. この道わが旅(4分20秒)
「ドラゴンクエストIII」より
8. 世界をまわる(街〜ジパング〜ピラミッド〜村)(7分10秒)
9. 冒険の旅(3分20秒)
10. 海を越えて(3分)
11. おおぞらをとぶ(2分50秒)
12. 戦闘のテーマ〜アレフガルドにて〜勇者の挑戦(6分)
13. そして伝説へ(3分10秒)
上記のプログラムから、楽曲利用料に必要な「入場料」、「定員数」、「楽曲数」を抽出する。
定員数=200名 ※チケット販売数ではなく座席数。
入場料=1,000円 ※平均値
楽曲数=16曲
※演奏楽曲数は13楽曲だが、JASRACの計算方法で、5分以上10分未満の楽曲は2曲分に相当するため、4,8,12曲目の3楽曲を「2曲」とカウントする。
上記の値を元に(1)と(2)の式に当てはめて計算すると、概算は下記の通りになる。
(1)公演1回ごとの使用料 = 8,000円 +税
計算式 (1,000円×200名×80%)×5% +税
(2)1曲1回5分までの使用料= 12,800円 +税
計算式 {(1,000円×200名×80%)×0.5%}×16曲 +税
(1)、(2)の内、少ない額を支払う為、概算は(1)8,000円+税で、1公演につき8,640円となる。
有名なドラゴンクエストの楽曲を使ったコンサートの楽曲使用料はこのような結果となった。上記の結果で楽曲利用料のイメージをつかむことはできるのではないだろうか。正式な金額は楽曲利用申請後にJASRACから送られてくるようだ。
申請についての重要な点と、申請時のタイムスケジュール
楽曲利用金額のイメージがつかめたところで、実際のJASRACへの申請手続きについて解説しよう。
まず、「誰が申請し、誰が利用料を支払うのか」という点については、「イベント主催者」が行なうことが望ましい。楽団ではなく主催側が行なう理由は、複数の楽団が集まる演奏会もあるのも理由の1つだが、JASRACがまず確認する連絡先が「イベント主催者」であるためだ。
次に申請時のタイムスケジュールだが、JASRACからの回答を元に、大きく2つの手順に分類できることがわかった。
(A)手続きの一番少ない申請手順
(B)小回りの利く申請手順
申請者は(A)、(B)共にまずは以下の手順を踏むことになる。
(1) 担当支部へ概算の問い合わせ。
(演奏会の会場、入場料、定員数、楽曲数の情報が必要)
(2) JASRACのWEBサイトから下記のフォーマットをダウンロードし記入する。
「申込書類のダウンロード」:http://www.jasrac.or.jp/info/download.html
演奏利用申込書:http://www.jasrac.or.jp/info/dl/b_01.pdf
演奏利用明細書:http://www.jasrac.or.jp/info/dl/b_03.pdf
(3) 記入した2種類の書類をJASRACの担当支部へ郵送かFAXで提出する。
(4) JASRACより届いた請求書を元に利用料を支払う。
重要なのは、演奏会会場の所在地によって担当する支部が決まるということ。申請者の居住地ではないので注意が必要だ。JASRAC支部一覧はJASRACのWEBサイトに掲載されている。ちなみに東京支部は、飲食店でのカラオケ利用等の手続きを専門としているということで、東京のほか、千葉、茨城、山梨で開催されるコンサートの手続きを、一括して東京イベント・コンサート(EC)支部が担当する。
JASRAC支部一覧:http://www.jasrac.or.jp/profile/outline/branch.html
気をつける必要があるのは(3)の申請タイミングで、提出する種類の内の演奏利用申込書は、演奏当日の5日前までに提出が必要である。ここさえ守れば、申請で大きな問題が起こることはない。ちなみに主催者が申請を出して、請求書が送付されるまで2週間程の期間がある。
そしてここから、「(A)手続きの一番少ない申請手順」と「(B)小回りの利く申請手順」に枝分かれする。「(A)手続きの一番少ない申請手順」は、演奏会の演目はアンコールを含む演奏曲をしっかりと決めて演奏利用申込書と演奏利用明細書を提出する。「(B)小回りの利く申請手順」は、演奏利用申込書と演奏のみ事前に提出し、演奏利用明細書は、コンサートの開催後に提出する方法だ。演奏利用明細書は、開催日から5日後までに提出すればよい為、演奏会のプログラムが直前に変わる可能性があるならば、こちらの方がよいだろう。
以上の申請を行ない、規定の利用料を支払うことで、通常の管理楽曲商用利用の演奏会は、問題なく開催できる。
ちなみに、少しタイプの異なる演奏会である「野外などの座席がない演奏会」の楽曲利用金額の算出方法も存在する。
算出方法の基本計算式は上記と同じものを使うが、座席数は「見込み集客数」となる。企画書を起こす際に、「演奏会を見に来る予測人数」を決めるが、その数が上記計算式の定員数となる。
円滑にゲームミュージック演奏会を開くために
JASRACへの取材中に何度も言われたことが、「まずは支部へ問合せを」ということだ。申請前にJASRACへ問い合わせることで、以下の内容を知ることができる。
(1)申請手順の再確認
(2)管理楽曲使用料の概算
(3)演奏会会場における、登録楽曲利用申請の必要、不必要。
(4)申請楽曲が、演奏するにあたってJASRAC以外の管理の可能性。
まず(3)が重要で、商用利用であっても、登録楽曲利用申請が不要の場合がある。具体的に言うと、ライブハウスのように包括契約をあらかじめJASRACと契約を結んでいる施設での登録楽曲を利用する場合である。
施設毎の契約となるため、問い合わせてみなければわからないが、多くのライブハウスは、JASRACと包括契約を結んでおり、そのような施設では登録楽曲利用申請無しで演奏会を開くことができる。
ライブハウス以外にも、大型の商業施設などでも、包括契約を結んでいることがある。演奏会の主催者は、施設やJASRACへ問い合わせることをお勧めする。
さらに、(4)が重要になるのだが、ゲーム音楽の中には、JASRACが権利を預かっていない楽曲が多数あるとのことで、権利状況についてもJASRACに問い合わせをしたときに教えてもらえるとのこと。また、利用申請する楽曲が、JASRACの申請だけでは演奏できない場合がある。各支部に相談する場合にも重要なことになると思われるので、気を付けて頂きたい。
いかがだっただろうか。取材によって、筆者自身、学生時代に吹奏楽の演奏などで思い入れのある「ドラゴンクエスト」の楽曲を利用したコンサートが、比較的現実感のある利用料で開催できることを知った時、胸が高鳴った。
今回の記事に関して、JASRACへの申請で演奏会を開くという限定的なものではあるが、個人でも現実的な範囲にあることを感じられたのは収穫だった。ただし、ゲームミュージックの楽曲は、メーカーまたは、別の楽曲管理会社等が管理している場合も多く、希望する楽曲で演奏会を開催するという部分では、さらなる調査の必要性を感じた。機会があったら追跡調査を行ない、レポートしたいと考えている。
ゲームミュージックには様々な名曲がある。これから「ゲームミュージックを中心とした演奏会」が、もっと世の中に広がることを期待したい。
読者の皆様よりご指摘があった点について、いくつかの修正を加えました。ご指摘ありがとうございました。(編集部、2018年3月11日)