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「FF」吹奏楽コンサート「BRA★BRA FINAL FANTASY」が東京で開幕
「いつか帰るところ」リコーダー四重奏や「反乱軍のテーマ」吹奏楽アレンジに感動
2017年4月2日 23:30
スクウェア・エニックスとジャパン・シンフォニック・ウィンズは4月2日、「ファイナルファンタジー」シリーズの楽曲を吹奏楽だけで演奏するコンサート「BRA★BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra」を東京オペラシティ コンサートホールにて開催した。
本公演は、今年で3年目を迎える「BRA★BRA FF」の全国19カ所22公演の皮切りとなるもので、制作総指揮に作曲家植松伸夫氏、指揮は栗田博文氏、演奏はシエナ・ウィンド・オーケストラというお馴染みの構成で実施された。
様々なコンサートを手がける植松氏だが、「BRA★BRA FF」はブラスバンドをメインテーマに、学校教育でもお馴染みの吹奏楽風のアレンジで、「FF」サウンドを楽しむことができるコンサート。厳密には、ブラスバンド(金管楽器と打楽器主体の楽団)ではなく、フルートや、クラリネット、オーボエといった木管楽器も加えた“ウィンドオーケストラ”編成で演奏されている。演奏を手がけるシエナ・ウィンド・オーケストラでは、さらに弦楽器のコントラバスも加えて、野太い低音までカバーしており、純粋なブラスバンドより遙かに表現豊かな演奏が可能となっている。
ゲームミュージックコンサートとしての「BRA★BRA FF」の特徴は、2つある。1つは、植松伸夫氏が監修という立場ではなく、制作総指揮として企画、アレンジ、司会進行、そして演奏まで、コンサート全体にがっつり関わっていることで、演奏のみならず、植松氏お馴染みのコテコテのオヤジトークや、「FF」ファンにはたまらない「FF」サウンドこぼれ話、そして植松氏自身による生演奏まで、植松伸夫ワールドが存分に楽しめるところだ。実際、植松氏は全公演に出演し、トーク、MC、演奏を行なう。植松ファンはこの時点で行く価値ありまくりのコンサートとなっている。
もうひとつは、来場者参加型のコンサートになっていることだ。コンサートでは来場者は手拍子や拍手、“ブラボー”のかけ声あたりまでが関の山だが、「BRA★BRA FF」では、ボディパーカッション(体を叩いて音を出す)やリコーダーで客席から演奏に加わったり、フィナーレでは毎年恒例となっている希望する参加者全員が楽器持ち込みで壇上に上がり、一緒に「マンボdeチョコボ」を演奏するというユニークな試みが行なわれている。こうした他のコンサートにはない一体感が魅力で、3年連続で参加しているファンもかなりいるようだった。
来場者は、吹奏楽経験者が多いためか、女性が多かった。ひょっとすると半分を超えていたのでは? と思われるほどで、コンサートに参加するためにリコーダーやトランペットを持ち込んでいる人も目立った。植松氏の楽曲がここまで女性に親しまれているのは正直な所意外で、吹奏楽がテーマであることに加えて、植松氏のトークがおもしろいこともその理由として挙げられるかもしれない。
その植松氏は、オープニングでは前座として登場し、恒例となっている来場者への積極的な“ブラボー”アピールと、ブラボー係に立候補してくれた人へのブラボーバッジの授与を行ない、その後も数曲おきに、MCの山下まみ氏と登場し、直前で演奏された楽曲について感想と解説を加えた。
セットリストについては基本的に3月15日に発売されたサントラ第3弾「BRA★BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO 3」の収録曲を演奏する形となるが、特徴的なのは新曲が多いことだ。このため、ブラスバンド演奏に最適で、「FF」サウンドの主軸といっても過言ではないバトルサウンドはほとんどなく、植松氏自身が語るように「地味な曲」が多い。これは植松氏自身が、バラエティ豊かになるように前回とは異なる曲を選んでいることと、ユーザー自身が新曲の演奏を求めているためだという。
今回のセットリストは以下の通り。アンコールは前述した来場者参加型の「マンボdeチョコボ」ともう1曲。もう1曲は、過去の「BRA★BRA FF」でも吹奏楽アレンジされ、フルオーケストラやロックバンドなど各種アレンジでも定番の名曲のひとつだ。
【第1部】
1、FINAL FANTASY Vメインテーマ(FINAL FANTASY V)
2、ティナのテーマ(FINAL FANTASY VI)
3、Ami(FINAL FANTASY VIII)
4、モーグリのテーマ(FINAL FANTASY V)
ボディーパーカッション「ラテンdeモーグリ」
ボディーパーカッション:東佳樹(打楽器奏者)
5、FINAL FANTASYメインテーマ(FINAL FANTASY)
リコーダーで奏でるFFメインテーマ
6、いつか帰るところ(FINAL FANTASY IX)
7、クレイジーモーターサイクル(FINAL FANTASY VII)
8、反乱軍のテーマ(FINAL FANTASY II)
【第2部】
9、Force Your Way(FINAL FANTASY VIII)
10、グルグ火山(FINAL FANTASY IX)
アンケート「あなたにとって30歳の頃の自分は?」
BGM、街角の子供達(FINAL FANTASY VI)~花火に消された言葉(FINAL FANTASY VIII)
11、親愛なる友へ(FINAL FANTASY V)
12、水の巫女エリア(FINAL FANTASY III)
13、Vamo'alla Flamenco(FINAL FANTASY IX)
14、エアリスのテーマ(FINAL FANTASY VII)
15、片翼の天使(FINAL FANTASY VII)
第1部は、“これぞ開幕”とばかりにファンファーレが鳴り響く、アップテンポのブラスバンドアレンジの「FINAL FANTASY Vメインテーマ」を皮切りに、「FF」コンサートではあまり聞くことができないが、忘れがたい名曲である「ティナのテーマ」、「Ami」と続いた。
モーグリのテーマでは、打楽器奏者の東佳樹氏が、関西弁混じりの怪しげなメキシコ人として登場し、ボディーパーカッションのやり方を来場者に向けてレクチャーし、みんなで演奏した。ボディーパーカッションでは、手だけでなく、胸や膝まで使って、まさに全身で演奏するのだが、転調するところでついていけなくなり、ラストは東氏の独壇場となる感じがおもしろい。
続く「FAINAL FANTASYメインテーマ」では、待ってましたとばかりにリコーダーを取り出す人が相次ぎ、まず初めにシエナ・ウィンド・オーケストラが1コーラス演奏した後、栗田氏が客席に向き直りタクトを振ると、あのメインテーマの主旋律を客席のリコーダーだけが演奏し、シエナ・ウィンド・オーケストラが伴奏するという、「BRA★BRA FF」ならではの展開に。植松氏によれば、地方公演ではリコーダーで演奏してくれる人が少ないこともあるというが、今回は30人近くがリコーダーを持ち込み、しっかりとした演奏となった。
圧巻だったのは、その次に演奏された「いつか帰るところ」。「FFIX」のタイトル画面で流れるリコーダー曲だが、今回は特別編成でリコーダー四重奏+αで演奏された。これは植松氏の希望と言うことで、1コーラスこそ原曲に忠実に演奏されたものの、次からは複数の打楽器が混じり、即興風の転調も混じり、リコーダーの音色の美しさが堪能できる曲となっていた。
演奏後に植松氏はリコーダー好きならではのエピソードを明かした。植松氏は、友人とルネサンス時代のリコーダー曲を演奏しているというが、ソプラノ/アルトのリコーダーはなり手がいたものの、バスリコーダーは誰も持っておらず、やむを得ず植松氏がバスリコーダーを担当しているという。植松氏は、演奏するのは楽しく、上手く演奏するのは難しいが、和音を合わせるだけで仲良くなれる気がするという。この植松氏の生涯、演奏者として現役を貫く姿勢もファンを集める要因になっていると思われる。
そして第1部最後に演奏された「反乱軍のテーマ」は個人的にもっとも印象に残った。「反乱軍のテーマ」は、植松氏らしい強いメロディラインを持つ「FF」屈指の勇壮な曲で、筆者を含む当時のプレーヤーにとって“反乱”というキーワードと対でイメージされる名曲だ。約30年前の1988年に「FFII」の楽曲としてファミリーコンピューター向けに公開されてから、無数のアレンジと、アレンジをベースとしたコンサート演奏が行なわれてきたが、やはりブラスバンドアレンジが抜群に良い。
原曲はわずか30秒ほどの短い曲だが、トランペットやトロンボーンが威風堂々と主旋律を担い、スネアドラムやシンバルら打楽器が軍隊の行進のようにリズミカルに伴奏し、間奏をクラリネットやフルートが支えつつ、決戦の時とばかりにクライマックスを全体で盛大に演奏されると、涙腺総崩れでもはやなすすべ無しという感じで素晴らしい演奏だった。
休憩を挟んで行なわれた第2部は、各楽器の持ち味を活かした演奏が多くなり、小編成での演奏も行なわれるなど、引き続きかなり楽しめた。曲毎に編成を変えたたため、待ち時間が発生し、コンサートとしてのテンポが悪くなってしまったのが残念だが、試み自体は非常におもしろいため、ぜひ継続してもらいたいところだ。
第2部幕開けの「FFVIII」バトルテーマ「Force Your Way」は、サックスら木管楽器をメインにしたアダルトなアレンジで、原曲の魅力に改めて気づかされる演奏だった。
「親愛なる友へ」は、原曲はギター調のシンプルなメロディラインが特徴的な曲だが、今回はビッグバンド編成でスウィングジャズっぽいアレンジで演奏され、原型をほぼ留めないほど豪華なジャズサウンドに生まれ変わっていた。ソロパートではサックスが前に出たり、座っていた奏者が全員立ち上がるなど演出にも小技が効いており、鑑賞する楽しさがあった。植松氏によれば、このビッグバンドアレンジは、松田洋祐氏(スクウェア・エニックス代表取締役社長)の発案ということで、松田氏は今回のコンサートにもお忍びで参加するなど、ジャズファンであることが明らかになった。
続く「水の巫女エリア」は、透明感のある神秘的な音色が印象的な名曲だが、フルートをはじめ、様々な楽器が入れ替わり立ち替わり主旋律を演奏し、原曲通りの美しい演奏に仕上がっていた。あまりにも透明感のある演奏に聞き惚れてしまい、ブラボーの出るタイミングが遅れてしまったほどだ。
「Vamo'alla Flamenco」は、サックスのセクシーな音色を主旋律に、カスタネットら打楽器が支えるというスタイルで、途中から打楽器奏者の東氏によるボディパーカッションも加わり、元気いっぱいの曲となった。「エアリスのテーマ」は、フルートを主旋律にハープを効果的に使った静かな幕開けから、徐々に音色を増やし、後半はあたかもエンディングテーマのような壮大な曲に昇華していた。エアリスファンはぜひこのアレンジは聞いて貰いたい。
第2部最後は、植松氏が「なぜかCDには絶対収録されない」という“セフィロスのテーマ”こと「片翼の天使」。複雑な曲調の長い前奏からサビの部分、間奏、締めくくりに到るまで、これ以上は豪華にできないのではなないかと思われるほど完璧な演奏で、全体としてやはり植松氏が直接手がけるコンサートの演奏はひと味違うという印象を受けた。
アンコールでは、楽器持ち込みの来場者と一緒になって「マンボdeチョコボ」が演奏された。ステージは楽器を手にした奏者たちがギッシリ埋まり、みんなで楽しそうに演奏。植松氏も昨年、「BRA★BRA FF」の影響を受けて購入したというサックスで飛び入り参加し、山下さんもフルートで加わり、全員が奏者という見ているだけで愉快なフィナーレとなった。
「BRA★BRA FF」は、全国19箇所で合計22公演、台湾も含めると23公演を行なう予定となっている。公式サイトを確認の上、コンサートに足を運んでみてはいかがだろうか。なお、昼公演後にはメディア向けのインタビューも行なわれた。その模様は後ほどお伝えしたい。